つがること の巻

265674b3.jpg 全国的に見て「つがる」と言えば、「つがる」というリンゴの品種や、ストーブ列車が走る青森県「津軽」地方や、作詞・阿久悠、作曲・三木たかしで石川さゆりが熱唱する演歌「津軽海峡冬景色」の「津軽」を思い浮かべる人の数よりも、太宰治の小説「津軽」を思い出す人の方が多いのではないか。
 ところで、この文章のタイトルにある「つがる」だが、これはそれら「つがる」「津軽」とは違う。
 津軽弁の《つがる》である。
 標準語で言えば「違う」ということ。
 津軽の人達は「それ、つがる」「つがるじゃよ」などと今も普通に、しかも頻繁に使っている。

 何故こんなことを書き始めたかというと、実は、「ムーさんの独り言」に何を書けばいいか分からなくなり困惑の極みへ到達したからだ。
 高齢のためかボケのためか原因は不明だが、とにかく行き詰まった。
 で、とりあえずテキトーなことを書きつけたのである。
 ここから更にテキトーな何かを書きつけて、それをダラダラ繰り返し、それだけで今回は終わってしまえないかと思案した次第。
 実は、何日も前から、いやもっと前から「ムーさんを書かなければ…」「何を書けばいいんだ…」と悶々としてきた。
 どういう訳か、悶々とすればするほど混沌の世界へ迷い込んでもっともっとどうすればいいか分からなくなる。
 自分の無能さが今更に情けない。
 そんな状態が続いていた数日前、自家用車を運転中にある異変が起こった。
 北朝鮮がミサイルを発射したということではない。
 アラン・ブースの「津軽―失われゆく風景を探して」をふと思い出したのだ。
 そして、私もアランのように太宰の「津軽」をたどってみればどうかと思った。
 焼き直しの焼き直しになるが、それだと案外簡単にできそうだなどと「悶々」あるいは「混沌」というものが思わせたのだろうか。
 しかし、時間が足りないし、股関節が悪いため痛くてアランのように歩くこともできない。
 (アラン・ブースは、私の住んでいる蓬田村も歩いたんだっけ?読んだのがずっと昔なので何も思い出せない…。本がわが家のどこかにあるはずだが…。あ、関係ないか…)
 たとえ健常者のようにバリバリ歩けて競歩を軽くこなすことができたとしても、たとえ、地球と月を往復できるほど時間があったとしても、太宰やアランに比べるまでもなくノミの心臓ほどに小さく性能も大したことのない私の脳ミソでは「むさし流・津軽―たとえ股関節が悪くても」など逆立ちしたってどうしたって書けるわけがない。
(そんなことハナから分かってるだろう?ところで、「ノミの心臓」って、こんな場合に使うべき言葉じゃないぞよ…、……ま、いっか…)
 それでは、《つがる》何を書くべきか、である。
 ない…、何も思いつかない…。
 窮地に陥るといつもしゃしゃり出てくるのが、突如として数行前のカッコ書きに登場した私の中にいるもう一人のワタシ。
 こいつは川柳の句会や大会が近づくと私が眠っていても勝手に起き勝手に宿題の句を作っていたりする。
 そんなやつなのに、今回は調子が悪いのか文句をつけるだけで妙案も珍案も出してくれない。
 ここはやはり私の方で何とかしなければ、なのだ。

 締め切りが明後日の24時という2017年9月13日の朝、5時半に目が覚めた。
 夜中に私の中の別のワタシがいろいろ足掻くので、目覚めたばかりでも私の脳はくたびれている。
 ではあるが「ムーさんに何か書くことがないか」と健気に考え始める。
 しかーし、6時半になっても何も閃かない。
 結局、普段の生活に突入することにした。
 その方が、まかり間違って何か閃く可能性があるかもしれない(汗)
 トイレにも行きたくなったのでこの時とばかりに起き上がり、階下へ降りるべく痛む股関節をなだめなだめ階段へと向かう。
 廊下の突き当りでいつものように窓から外を見た。
 北側のその窓からは、わが家の農具庫がJR津軽線の向こうに小さく見えるのだ。
 今にも朽ちそうなその小屋が今日も無事に確認できた。
 そして、小屋の背景の晴れた空には虹が出ていた。
 そう言えば、屋根を打つ弱い雨の音をさっき聞いたような気がする。
 くっきりとして太い、左側へ緩くカーブして立ち上がる右半分ほどの虹だ。
 あ!と思った。
 脳の回線がボケでこんがらがったからか、はたまた「悶々」が祟ってショートしたからか
「虹はオスである」
というフレーズが線香花火のスパークよろしく、か細く不意に、いとも容易く私の頭の中で閃いた。
 雨上がりの空に弧を描く七色の光の帯を「虹」というのは誰もが知っている。
 しからば、その「虹」がオスであるということをご存じだろうか。
 この秘密でも何でもない一見くだらない情報は、川柳教室の資料作りのためパソコンで調べ物をしているとき偶然私の胸に飛び込んできた。
 広辞苑で「にじ」を引いたら次のように出ていたのだ。

 にじ【虹・霓】雨あがりなどに、太陽と反対側の空中に見える7色の円弧状の帯。大気中に浮遊している水滴に日光があたり光の分散を生じたもの。外側に赤、内側に紫色の見える主虹のほかに、その外側に離れて色の順を逆にする副虹が見える。のじ。ぬじ。

 恥ずかしい話だが、「にじ」に「霓」という字もあるなんて全く知らなかった。
 寝耳に水である。ということで次に「霓」を漢字として調べる。

 にじを竜の類と考え、雄を「虹」、雌を「霓」という。

と書いてあるではないか。
 何だとお?雄が「虹」で雌が「霓」だとお?頭が痛くなるぞお…、だった。
 調べている内に【虹霓】という言葉があることも分かった。

 こう‐げい【虹霓・虹●】[楚辞 哀時命]虹(にじ)。古くは竜の一種と考え、雄を虹、雌を霓・●といった。(広辞苑)
 (※「●」は虫偏に「兒」を書きます。私のワープロソフトでは打ち込めない字です。)

 漢字という人類のとてつもない財産を築き上げた昔の中国の人達は、空に架かる虹を生き物だと思って見ていた。
 しかも、想像上の動物である竜の一種だなんて思っていたのだから何ともダイナミックで、且つ微笑ましい人達である。
 虹をつかまえた人間はそれまでもこれまでもどこにもいないのだから、あれは竜だと言ってもどこにも不都合が生じない。
 たまに二重の虹を見ることがあるが、くっきりした方をオス、薄い方をメスと考えていたようだ。
 オス、メスそれぞれに漢字を創作し、メスの方は2つも字を作った。いやはやである。
 あれ?「虹」も「●」も虫偏だ。
 昔の中国の皆さ〜ん!竜は虫の仲間ですか〜。
 と呼びかけたが誰も答えてくれない。そこで、またしても広辞苑のお世話になる。

 りゅう【竜】(慣用音。漢音はリョウ)〜杼上の動物。たつ。㋐〔仏〕インド神話で、蛇を神格化した人面蛇身の半神。大海や地底に住し、雲雨を自在に支配する力を持つとされる。仏教では古くから仏伝に現れ、また仏法守護の天竜八部衆の一つとされた。㋑中国で、神霊視される鱗虫の長。鳳(ほう)・麟(りん)・亀(き)とともに四瑞の一つ。よく雲を起こし雨を呼ぶという。竹取物語「はやても―の吹かする也」㋒ドラゴンのこと。(↓きイ肋蔑)

 ,㋑の「鱗虫」が分からないので、もう一度広辞苑のお世話になる。

 りん‐ちゅう【鱗虫】うろこのある虫。へびなどの称。

 なるほど…、竜は虫だった。しかも鱗虫の長だ。
 新村出さんありがとうございました。ネットサーフィンならぬ「広辞苑サーフィン」、楽しかったです。

 こんなオバカなこと、世界中のどれだけの人が覚えているだろう。
 覚えていたってもちろん何のタメにもならない変なことなのだから覚える必要は全くないが、この種のことは私が覚えているだけでも他にいくつかある。
 「鳳凰」を広辞苑で調べれば次のように出ている。

 ほう‐おう【鳳凰】古来中国で、麒麟(きりん)・亀・竜と共に四瑞として尊ばれた想像上の瑞鳥。形は前は麒麟、後は鹿、頸は蛇、尾は魚、背は亀、頷(あご)は燕、嘴は鶏に似、五色絢爛(けんらん)、声は五音にあたり、梧桐に宿り、竹実を食い、醴泉(れいせん)を飲むといい、聖徳の天子の兆として現れると伝え、雄を鳳、雌を凰という。鳳鳥。

 この説明の中にある「麒麟」だってそうだ。

 き‐りん【麒麟】 (雄を「麒」、雌を「麟」という)中国で聖人の出る前に現れると称する想像上の動物。形は鹿に似て大きく、尾は牛に、蹄は馬に似、背毛は五彩で毛は黄色。頭上に肉に包まれた角がある。生草を踏まず生物を食わないという。一角獣。(広辞苑・↓は省略)

 更に「くじら」もそうである。

 げい‐げい【鯨鯢】(古くはケイゲイ)〕困じらと雌くじら。(広辞苑・△肋蔑)

 同じ種のオスとメスによって字が《つがる》のはもっとありそうだ。
 漢字はやはり難しい、日本語もやたらに難しい。
 でも、楽しくないこともない。
 お!テキトーなことを書きつないでいたら結構な長さになったぞ。
 ああ?んん?
 もっと《つがる》ことを書くはずだった。



 2017年9月15日、つまりこの原稿を書いている本日、北朝鮮は午前6時57分ごろ弾道ミサイル1発を太平洋に向けて発射した。
 ミサイルは北海道上空を通過し、襟裳岬東方の太平洋上に落下。
 発射直後、村にサイレンが鳴り響いて何事かと思った。
 サイレンが鳴り終わる前にテレビ各局が報道を開始。村の防災無線放送もミサイル発射の情報を伝えるとともに避難を呼びかけた。
 しかし、わが家は誰もどうすることもできなかった。
 北朝鮮のミサイルが日本列島を越えたのは、8月29日以来6回目である。
 本文と何の関係もなく蛇足だが書き足しておく。


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 *本文と画像は互いに関係ありません。


Posted by musan8 at 2017年09月15日 17:47│Comments(0)