本棚と本と の巻

 私は、自分の持っている本をわが家のあちこちに置いている。
 そうしないと収まらないのだ。

 まず、机とパソコンがある2階の8畳。
 西側の壁が床から天井まで全面作り付けの本棚になっている。
 この部屋と本棚、というか現在のわが家ができたのは40年ほど前。
 最初、本棚には本だけが収まっていて余裕があった。
 ところが、ジャズのCDが同居するようになり、やがて多くの本を押しのけた。
 本棚に入りきれない本は処分すればいいのだろうが、少なくとも私の脳ミソに何らかの刺激を与えた本なのだから何となくそうできなかった。
 取りあえず床のあちこちに積んだり、寝室にしている隣の部屋の枕元に積んだりしていたが、段々目に余る状態になって、これはやむを得ないと2階の廊下へ本棚とカラーボックスを置きそれらの本を移動させた。
 しかし、あっという間に限界が来た。また別のどこかへやるしかない。
 そんな時、偶然にもトイレと風呂のリフォームをしなければならない事態になった。
 工事を引き受けた叔父貴へ、これ幸いとばかりに追加で本棚を作ってくれと頼んだ。
 設置場所としてトイレを指定したが、建築業の叔父は不思議そうな顔をしなかった。
 わが家のトイレは、それまで大と小に部屋が別れ、更にその手前に台形の小さな部屋のようなものがあった。その三部屋を一部屋に作り替え、便器も大小兼用のシャワートイレだけにする計画だったので何とも広すぎるトイレになるのだった。
 本棚は幅が90センチ、各段の高さが30センチ、それが5段になっている。
 普通のハードカバーだと1段に40冊から50冊は並べられる。
 そこへ2階からあふれ出た雑誌も文庫本もハードカバーもドヤドヤとやってきたが、1〜2年持ちこたえた。
 ところが、本は引き続き旺盛に増殖を続けてまたまた置き場所がなくなる。
 そこで目をつけたのが車庫。
 農家だったわが家の車庫は割と広い。退職した日の次の日から数日をかけ、汗まみれ埃まみれになって整理し何とか確保したのが軽トラック1台分ほどのスペース。
 そこへ小さなテーブルと事務用イスを持ち込み、壁際と、テーブルの前後にりんご箱を並べて積み上げた。すると、何やら書斎風の妖しげな空間が出現。
 りんご箱は、鉋がかけられていない、製材しただけの杉や松の板でできている粗末な木箱だが、中にりんごをいっぱい入れて持ち上げても壊れるようなことはない。
 体裁をそれほど気にしなければ重ねるだけで立派な本棚になる。
 家から飛び出た本たちが待ちかねたようにそこへやって来た。
 で、現在はどうかというと、りんご箱の本棚は既に満杯。
 車庫のわずかな空きスペースに段ボール箱がいくつか置かれ、本棚からはみ出た本が中で静かに眠っている。

 私の読んだり見たりする本は、というか持っている本は分野がまちまちで自分ながら嫌になるほどまとまりがない。
 小説があるかと思えばエッセイや川柳の機関誌があったり、雑誌があるかと思えば画集が、詩集があるかと思えば写真集や歌集や句集があったりで、よく言えば自由奔放、普通に言えばめちゃくちゃ。
 ところで、私の場合、読んでしまった本を後日読み返すということがほとんどない。
 読まなければならない本が常に何冊か待機しているし、読み終わった本の置き方にルールがないのでどこにどの本があるかなんて誰にも分からないのだ。
 お目当ての本をうまく探し出せたことなんか一度もありゃしない。探すだけ無駄というもの。
 したがって、わが蔵書のほとんどは有り体に申し上げれば邪魔物である。どこかへ寄付したり売り払ってしまっても大して困らない。却ってすっきりするだろう。
 ではあるが、インターネット検索しても探し出せない、どれかの本のどこかのほんの1〜2行を必要とするときが来ないとも限らない。
 それと、自分のものになった本はやはりかわいい。
 そんなわけで、処分出来ずに手に入れた本は全て残している。
 実は、本を残すもう少し違う無様な理由もあるのだが、取りあえずこういうことにしておく。
 そして、私の体はいつあの世へ召されても不思議がないほどあちこち壊れているのだが、死ぬまでにはもう少し時間があるようで、生きている間は本を読むつもりだからこれからも本は増え続ける。
 残りの人生、いろいろ悩みがあるが本の置き場所と処分は抜き差しならない問題である。

 さて、私の蔵書がどれほどまとまりがないか、ここでその実態を具体的に見てもらおう。
 と言っても、全てを挙げることはできっこないので、トイレにある本棚、それも2段分だけを列挙する。
なぜトイレの本棚の、しかもある部分だけかというと、ほかのところにある本棚より本棚の前が広く写真を撮ったり記録するのに都合がよいから。それと、5段全部を記録するのは労力と資源の無駄遣いであり、何より面倒くさいからにほかならない。
 と、ここで問題発生。
 本棚に並んでいる本を見ると、その所有者の頭の中がどうなっているか分かってしまうと言うやつが私の周りに何人もいることを思い出した。
 やつらに言わせれば、自分の本棚にどんな本が並んでいるか公開するなんて、自身のお寒い脳の中身をあられもなく公衆の面前にさらけ出すいとも恥ずべき行為だ、ということになる。
 それはまずい。
 できれば避けたい。
 ではあるが、蔵書のほんの一部をバラすだけじゃないか、とも思う。
 ことここに至ったからにはやむを得ない。後は血となれ肉となれ!
 それでは、本の背に印刷されている書名・著者名・発行元を真ん中の棚の右端から左へ順に挙げて行く。

・大和屋竺ダイナマイト傑作選「荒野のダッチワイフ」
・「自然のことのは」ネイチャー・プロ編集室 幻冬舎
・「幕末暗殺」黒鉄ヒロシ PHP
・「チャペックの本棚」ヨゼフ・チャペックの装丁デザイン PIE BOOKS
・「味こごと歳時記」高橋治 角川書店
・「北の家族」時田則雄 家の光協会
・NHK「夢用絵の具」心を染めた色の物語 中村結美 夢用絵の具プロジェクト 駿台曜曜社
・「藤原悪魔」藤原新也 文藝春秋
・新宿中村屋「相馬黒光」宇佐美承 集英社
・「部長の大晩年」城山三郎 朝日新聞社
・「天下御免」高橋喜平、延清、克彦、太田祖電ら一族 日貿出版社
・「男が変わる帽子術」出石尚三 講談社
・「僕のヒコーキ雲」日記1994−1997 辻仁成 集英社
・「マティス 色彩の交響楽」グザヴィエ・ジラール著 高階秀爾監修 創元社
・「青空の指きり」恩田皓 河出書房新社
・句集「蛍」ねむらぬことば 西条真紀 手帖社
・「短歌という爆弾」 今すぐ歌人になりたいあなたのために 穂村弘 小学館
・ボリス・ヴィアン全集6「心臓抜き」滝田文彦 早川書房
・「高柳重信」夏石番矢編・著 蝸牛俳句文庫13
・「自然手帳 上」平凡社ライブラリー
・「ローマングラス」松永伍一著 二重作曄 写真 
・百分の一科事典「サクラ」スタジオ・ニッポニカ 右手に「知識」左手に「勇気」 小学館文庫
・「花迷宮」久世光彦 新潮文庫
・「知恵ある人は山奥に住む」高橋義夫 集英社文庫
・「骨壺の話」水上勉 集英社文庫
・「さくら路(みち)」宮島康彦 集英社文庫
・浅田次郎「活動写真の女」双葉文庫
・「永井荷風の昭和」半藤一利 文春文庫
・「俳優のノート」山崎努
・「撮影現場」リウ・ミセキ KKベストセラーズ
・「語りかける花」志村ふくみ
・随筆集「雪舞い」立原正秋 世界文化社

 次はその下の棚、これも右端から順に。

・戦後50周年記念写真展「土門拳の日本」1995
・「野花を生ける」しろうとの茶花 秦秀雄 神無書房
・「おしゃれなテーブルセッティング」ベリ・ウルフマン著 フタガワアキコ編 PARCO出版
・松田正平画文集「風の吹くまま」理屈抜きの絵 待望の初出版 求龍堂
・森の休日3「調べて楽しむ葉っぱ博物館」写真 亀田龍吉 文 多田多恵子 山と渓谷社
・「毎日書道講座9 篆刻」毎日新聞社
・墨「篆刻の鑑賞と実践」芸術新聞社
・「鳴海要陶芸展図録」
・「書道講座6篆刻」西川寧編 二玄社
・「ご縁あって」俊めいがたり 心の中に花が咲くように。 渡辺俊明 春陽堂
・「北の中世 津軽・北海道」監修…網野善彦+石井進+福田豊彦 編…菊池徹夫+福田豊彦 平凡社
・「茶懐石」辻留 辻嘉一 婦人画報社
・「A HORSE」黒鉄ヒロシ 競馬手帳社
・「古田織部」桃山の茶碗に前衛を見た 勅使河原宏 NHK出版
・「清張 古代史記」松本清張 日本放送出版協会
・「死ぬまでの僅かな時間」井沢元彦 双葉社
・「空の名前」写真・文 高橋健司 光琳社出版
・「守宮薄緑」花村萬月 新潮社
・「昏睡のパラダイス」加藤治郎
・「風姿抄」白洲正子 世界文化社
・「北のまほろば」街道をゆく四十一 司馬遼太郎 朝日新聞社
・平岡正明「オン・エア/耳の快楽」 毎日新聞社
・「平成幸福音頭(へいせいしあわせおんど)」藤原新也 文藝春秋
・「質問」田中未知 アスペクト
・「開高先生と、オーパ!旅の特別料理」谷口博之 集英社
・わたし歳時記「花なら桜」阿木燿子 青春出版
・「芭蕉の道ひとり旅」イギリス女性のおくのほそ道 レズリー・ダウナー 高瀬素子訳
・「MILS マイルス・デイビス自叙伝´◆廛泪ぅ襯后Ε妊ぅ咼后.インシー・トループ著 JIG

 持っている本のほとんどは読んだつもりだが、どんな内容であるか今も覚えているのはこの中に何冊もない。読んだ端から忘れていくのが私だ。
 買った記憶さえないものもある。
 ともかく、この本棚の本から推測される以前の私の脳内は、何とも奇っ怪で、ヤタラにごちゃごちゃしている。
 ん?、今の私の頭はどうかって?
 がらんどうさ、本ト。


※この原稿は、同人誌「文ノ楽」のために書かれたものです。
P916166602本棚

Posted by musan8 at 2019年12月11日 13:00│Comments(0)