喘息とサルコイドーシスの南北地域差を考えるブログ

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本ブログは、第一話で紹介した自著論文の解説です。
言いたいことを言いきった後なのでかなり久々ですが、更新します。

英語で論文を書いたはいいけど、 ほとんど引用されずに埋もれてしまうという場合も世の中ままあるし、 数年以上経ってから注目される場合もあります。グーグル・スカラーで時々チェックしていると、引用されたかどうかわかります。便利な時代になりました。

実は、この自著論文ですが、既に3回、他の論文に引用されています。

Ostrovskyi MM, et al. Regional Age-Related, Gender, and Geo-Industrial Aspects of the Prevalence and Clinical Course of Sarcoidosis in Patients from Ivano-Frankivsk Region. Galician Medical Journal. 2015; 22(2).

では、本文中の考察の中で、「サルコイドーシスは北国に多いことはよく知られている」という論拠として、他の引用文献と一緒に引用されています。なので、自著の肝のところ(なぜ北国に多いか)は引用されていないといえるでしょう。次に、

Gavrysyuk VK, et al. Incidence of sarcoidosis in southern and northern regions of Ukaine in 2011. Ukr. Pulmonol. J. 2013; 3: 41–45.

は、 ロシア語の論文ですが、英語の要約を読むと、ウクライナの南部よりも北部の方がサルコイドーシスの有病率が高かったという調査のようです。本文中にどのように引用されているかは、ロシア語が読めないのでわかりませんが、多分、1つ目の論文と同じで肝のところは引用されていないでしょう。

が、しかし、

Dumas O, et al. Epidemiology of Sarcoidosis in a Prospective Cohort Study of U.S. Women.Ann Am Thorac Soc. 2015 Oct 26. [Epub ahead of print]

は、「米国看護師の追跡調査では、サルコイドーシスは黒人に多く、米国北東部で多かった」という内容ですが、その考察の中で、「サルコイドーシスの原因は不明で、田舎に多いという報告もあったが、我々の調査では米国北東部はむしろ都会だから合致しない。他の仮説として、免疫形成期に寒冷地でウイルス疾患に罹ることが関与すると提示されたがまだ憶測的である。」と記載され、ここの最後のところで自著論文が引用されています。

ようやく肝が引用されました。 千里の道も一歩からです。なお、上述の3つの論文のうち、最後の1つだけがPubMedで見られる(Medlineに登録されている)論文で、価値が高いといえます。

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本ブログで再三、述べているように、衛生仮説はここ約50年のTh2疾患の増加を説明する有力な説として登場しました。

:ここ数十年で、型アレルギー疾患(喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎、アナフィラキシー、じんま疹、食物アレルギーなど)が世界的に増えている。これらのどの疾患も世界のどの地域でも5倍(~10倍)くらい増えている。


型アレルギー疾患の発症メカニズムとしてTh2サイトカインが関わる(サイトカイン=体液中での局所伝達物質)。


Th1サイトカインとTh2サイトカインは相互に抑制する。


というような現象が知られているときに、1989年の
Strachanの報告(本ブログの第27話で紹介)により、


:兄や姉がいる子の方が、いない子よりも長じてから型アレルギー疾患になりにくい。


という事実が報告され、その解釈として、


:兄や姉からもらった病原体により、乳幼児期にウイルス等の感染症に罹っていると、ウイルス等と戦うTh1サイトカインが優位になり、するとにより、Th2サイトカインが抑制され、そのために長じてから型アレルギー疾患になりにくくなるのではないか。


と唱えられ、また、それを敷衍して、


:ここ数十年で世界的に環境が衛生的になり、免疫形成期の乳幼児期に病原体と戦わなくなったことで、Th2優位の体質の人が増えて、型アレルギー疾患が増加したのだ。


という解釈が衛生仮説として登場し、1990年代の学会を賑わしました。これに因んで、特に私が注目するのは、本ブログの第28話でも紹介したように、


三種混合ワクチン接種が広まり、ワクチンで病原体に対処してしまって、病原体ときちんと戦わなくなったため、(きちんと戦っていたらほどよくTh1優位になるはずが)Th2優位の体質の人が増えた。


という説です。
ところが、衛生仮説に便乗して、


:寄生虫や化膿菌などのTh2サイトカインで戦うべき病原体が世の中から減ったため、Th2サイトカインが持て余してTh2疾患が増えた。


などといった、本来の衛生仮説とは逆の説(というより、衛生仮説とは逆の事象を、衛生仮説と逆の理論で説明することで、(-)×(-)=(+)のようにアラ不思議、衛生仮説っぽい説明になった)が、衛生仮説の名を借りて登場してしまい、この説()が疫学的調査で否定されると、2000年代には衛生仮説そのものまで否定されたりするようになりました。その大きな根拠として持ち出されたのが、

型アレルギーのようなTh2疾患のみならず、Th1疾患だってここ数十年で世界で増えているではないか。だからを唱えるのはおかしい。


であり、アンチ衛生仮説派(以下、アンチ)が優勢になり、前回(第41話)話したように権威ある教科書でもアンチの意見が採用されている状況です。だから、「Th1疾患は実は増えていない」という事実を指摘すれば、アンチを否定することが出来るわけです。それが今回の主眼です。


まず、本ブログ第29話で述べたように、でアンチがTh1疾患の代表として挙げた1型糖尿病は、抗体を産生する疾患なので、Th2サイトカインの影響下にあるため、Th1疾患とは言えないと思います。Th1疾患の代表は、型アレルギー疾患、特に肉芽腫を形成する疾患であり、サルコイドーシスです。


:サルコイドーシスはここ数十年で増えても減ってもいない(横ばいである)。


という事実が知られており、が正しいとなると、により、サルコイドーシスは減っていないといけないはずですが、

CTなど画像診断の進歩により、無症状のサルコイドーシスの発見率が増加した。

・現代は人の動きが激しく、父祖の地よりも寒冷地で暮らす人も増えたため、そうした人がサルコイドーシス罹患率を増加させている。

という事象が推定されるため、


:同条件下ならサルコイドーシスはここ数十年で減っている可能性が高い。


と指摘しておきます。ところで、問題はCrohn病です。「Crohn病は肉芽腫を形成する疾患であり、間違いなくTh1疾患である。そのCrohn病は、ここ数十年で増えているではないか」とアンチ側から言われると、私もギャフンとなるところですが、下記サイトによると、


https://www.jimro.co.jp/ibd/01kiso/2.htm


Crohn病のみならず、潰瘍性大腸炎もここ数十年、世界でどんどん増えている。


というグラフがあります。腸管の炎症性疾患として、Th1疾患のCrohn病は、Th2疾患の潰瘍性大腸炎と対比して論じるべきでしょう。また、


https://www.jimro.co.jp/ibd/08world/us/us_data.htm


によると、Crohn病や潰瘍性大腸炎の原因は不明ですが、どうやら食生活が影響するらしい。ここ数十年で加工食品の増加など食生活が変化したことがこれら病気の増加に関わっているようだとのことです。だから、Crohn病の増加はTh1/2反応もさることながら、それ以外の要因の変化の影響も加味しないといけません。


まとめると、一見、Th1疾患もここ数十年で増えているようだけれども、

・抗体を産生する疾患は真のTh1疾患とはいえない。

・無症状でも病気認定される疾患に関しては、診断法の進歩を考慮しないといけない。

・呼吸器疾患では人の動きの増加を考慮しないといけない(父祖の地仮説・風邪引き仮説参照)。

・同じ臓器のTh2疾患と対比して述べるべき。

Crohn病の増加は食生活の変化が関わるため別扱いにすべき。

ということから、Th1疾患は「Th2疾患がここ数十年でどれもこれもガンガン増えた」という事実に匹敵するほど明らかに増えているとは言えないと思います。

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今、ちまたでは小保方論文の真偽に関して、かまびすしい議論がなされています。実験論文なので、きちんと再現性のあるデータなのかどうかが肝になります。私も本業の研究では、毎回そうとうにナーバスになってデータを詰めています。でも一方で、本ブログで扱っているのは仮説なので、かなり気楽に書けます。本ブログの内容をもし将来、撤回するとしたら、「なぜサルコイドーシスが北に多く喘息が南に多いか」について、自説以上に説得力のある仮説が現れたときでしょう。現時点では、議論するに足りるまともな仮説すら存在していない状況です。

ところで、自説は衛生仮説に基づいており、この衛生仮説がまだ医学の学会で正しいと評価されていない点が弱点ではあります。そこで、ハリソン内科学の最新版での衛生仮説の扱いを紹介します。ハリソン内科学というのは、医学生・医師なら誰でも知っていますが、世界最高峰の権威ある内科学の教科書です。辞書といえば広辞苑、映画祭といえばカンヌ、博物館といえば大英博物館というくらい、内科学書といえばハリソンです。この1597ページ(Chapter 248 Asthmaの項目)より。
ハリソン内科学における衛生仮説訳してみます(カッコ内は私の補足)。

「兄や姉のいる子供には、(Ⅰ型)アレルギー体質や喘息がまれである」という観察結果は当初は、衛生的な環境で感染の機会が少ないことは喘息のリスクを高めることを示唆した。この「衛生仮説」は、小児期早期に感染が少ないと(免疫系は)生来のTh2よりのバランスを維持する一方、感染や内毒素に暴露させるとTh1よりのバランスへシフトすると提唱している。内毒素に暴露される機会が多い農場で育った子供は、(清潔な)酪農家で育った子供に比べて、将来に(Ⅰ型)アレルギー体質になりにくいという。腸の寄生虫感染があると喘息になりにくいかも知れない。衛生仮説にはそれを支持する疫学的データもそれなりにあるが、(1型)糖尿病のようなTh1優位による疾患が同時期に(ここ数十年で)増えていることを説明できない。

如何でしょう。衛生仮説は、話の枕的に紹介されていても、あっさり否定されていますね。これは本ブログの第29話(下記URL)

http://blog.livedoor.jp/musashinodaichi/archives/27402489.html

で述べたように、1型糖尿病と喘息を対比した論文がLancetという一流誌に載ってしまったために、アンチ衛生仮説派が優位になり、その議論のまま進んでしまっている状況なのでしょう。権威ある教科書や一流誌でも必ずしも正しい議論をしているわけではないという1例かと思います。いずれ何十年後にでも、ハリソン内科学で衛生仮説が肯定的に評価される時代が来ることを願います。

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