先日取材を受けた雑誌プレジデントの最新号に載っていた、セブン&アイ・ホールディングス会長兼CEOの鈴木敏文氏の対談のなかに「いつ辞めてもいい」という覚悟で仕事をしてきたというくだりがあって、思わず膝をうった。

たしかに、悩んでいる人たちは、たいてい何かを失いたくないと、自分ではコントロールできない他人や環境に執着している。

たとえば、仕事。仕事の悩みのトップ3は仕事の質や量、人間関係だけど、環境改善のためにやれるだけのことはやって最終的にどうしても折り合わなければ「いつやめてもいい」と腹がくくれていると、不必要ながまんをせず、建設的に話し合って問題を解決しようという気持ちになれるもの。もし、会社の方針や社風がどうしても気に入らないとなれば、潔く自分に合う環境を探しに出て行くこともできる。

しかし、そうした覚悟がないと、「上司や同僚に嫌われたくない」「評価を下げられたくない」「クビになりたくない」などと保身に走り、たとえ不当な扱いを受けていても泣き寝入りし、心身不調に陥りがちになる。また、社長批判をくり返しながら、やる気もなく、やっかいな社員になってしまう可能性もある。

プライベートでは、ストレスになる関係なら無理につきあわなくてもいいのだけれど、自分から離れることができない人は悩みが深い。

相手が恋人や配偶者の場合、まず関係改善のための努力をしてみて、それでもダメだったら離れることもしかたないという覚悟がもてる人は、結果的にうまくいくことが多い。結婚したからといって、それだけで自動的に永遠の幸せが保証されるなんてありえない。人間関係は生ものなので、絶えず変化し、それに合わせた微調整の努力が欠かせない。いい関係ではそうした努力が習慣化されている。

幸せは今の積み重ねであって、約束しても将来が保証されるわけではない。そして、「これが永遠に続くわけではない」「いつか何かの事情で終わるかもしれない」「努力しても自分がハッピーでいられなくなったら、やめるしかない」という覚悟があってこそ、今の幸せがかけがえのない貴重なものとして感じられ、自然にまわりに感謝できるのだ。

将来何が起きるかなんて誰にもわからない。どうにもならないときに、それにしがみついて自分を苦しめるより、今までの幸せとやるだけやったことを大事にして上手に手放せると軽やかに生きられる。そのためにも、「いつやめてもいい」という心意気で目の前のものごとに集中して誠意を尽くすことが大事だと思う。