2010年10月

2010年10月20日 15:54

☆1960年5月3日のオープンから続演11年目に入っている「ファンタスティックス」を、初めて観に行った。同行者は「ジューク・ボックス」誌編集長の青木啓氏。グリニッチ・ヴィレッジのサリヴァン・ストリート・プレイハウスは、アパートの地下室を思わせる小さな所で、客席も100人入れるかどうかといった感じだ。

このアングラ風ミュージカルは、劇中のナンバー「Try To Remember」がハリー・ベラフォンテのレコードなどで、あまりにも有名である。書いたトム・ジョーンズ (作詞と脚本) とハーヴィ・シュミット (作曲) は、この作品によって認められ、ブロードウェイ・ミュージカル「110 IN THE SHADE」(1963)、出演者たった二人の「I DO! I DO! 結婚物語」(1966) に繋がった。

話は若者マットが隣家の娘ルイザと恋仲で、両方の父親も子供達の結婚を願っている。だが、親が口を出すとまとまる話もこじれるかもしれない。そこで、父親たちは不仲を装い、二人を結婚させるために色々と策略をめぐらす・・・。

エドムンド・ロスタンの劇「レ・ロマネスク」を原作にミュージカル化、制作: ロア・ノート、演出: ワード・ベイカー。ナレーター役のエル・ガヨ (マイケル・ターテル) 、少女ルイザ (キャロリン・ミグニーニ)、青年マット(マイケル・グレン・スミス) 、マットの父ハックルビー (チャールス・ウェルク)、 ルイザの父ベロミー (ジョン・J・マーティン)、他に老役者ヘンリーと死に役専門のモーティマー、そして沈黙の男ミュート等総勢8人で舞台を盛り上げる。オーケストラ・ピットは無く、伴奏は舞台上のピアノとハープの二人だけ。舞台装置らしいものも殆ど無い。ミュートが壁になったり、役者達に帽子等の小道具を渡したり、パントマイムで情景描写をしたりする。ロビーも無いので、インターミッションには、客は外に出て一服している。それはそれなりの雰囲気がある。

ミュージカル・ナンバーは「Try To Remember」の他にも、「Much More」「Never Say No (ノーは言わない!)」「It Depends On What You Pay (誘拐の歌)」「Plant A Radish (野菜を植えよう)」「Round And Round (回れ、回れ)」等、いずれも素晴らしい。男女の恋の歌も良いし、主役のエル・ガヨの「誘拐の歌」はラテンの匂いたっぷりでエル・ガヨの魅力が溢れ、「子供は思うようには育たない、その点、野菜は裏切らない、大根を植えれば大根が育つし、ニンジンを植えれば間違いなくニンジンが育つ、だから野菜を植えようと父親二人が歌うのは、親の本音がよく出ていてユーモラス。他にも老優ヘンリー (ロン・プラザー) と死に役専門のモーティマー (ビル・マッキンタイア) の笑わせるシーンも程よいアクセントだし、ミュート (レス・シェンケル) のパントマイムによる演技も中々の見もの。ハープとピアノ演奏だけのシンプルな舞台とはいえ、見応えがあり、すがすがしい感動を与えてくれる。オン・ブロードウェイの劇場とそれほど変わらない入場料を払った客が、満足して帰って行く様子に、ニューヨークに行ったら「ファンタスティックス」と、観光名物化しているのも当然と思った。

観客動員数ではブロードウェイのヒット作に及ばないが、10年5ヶ月目で4,300数十回というロングランは凄い。記録は今後どこまで伸びるのだろうか。
(1970.09.06.)

サリヴァン・ストリート・プレイハウス 1





























サリヴァン・ストリート・プレイハウス 2











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プロフィール
【川上博 プロフィール】
本名: 本田悦久 (ほんだ・よしひさ)。中央大学法科卒。元ビクター・エンタテインメント(株)理事。洋楽部、国際部、海外関係会社担当。川上博の筆名で、1960年代より新聞、雑誌等に執筆。1965年から14年間、NHK-FMコンサート「ミュージカルへの招待」解説出演。著書「ミュージカル、なるほど おもしろ読本」ほか。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会員、日本映画ペンクラブ会員、昭和音楽大学非常勤講師。英国 「Musical Stages」誌のコラム“Japan Through the Hondas' Eyes”、ドイツ 「Musicals」、韓国「The Musical」等に執筆。