マスタード革命

柴田瞳の短歌ブログ

キャラブロ閉鎖に伴い引っ越してきました。

直感は当たる

菜の花のなかを歩いてくる男直感的にやばいとわかる

寝返りを打って目覚めた枕辺になぜか修正液なぜか箸

壁紙を変えたんだった忘れてた朝のスマホに犀のどアップ

戻らない欠損のこと考える<準>チョコレート菓子食べながら

アレッポの石鹸職人、逃げて逃げて山奥で石鹸をつくって

ありがとう事務能力の高いひと火星で暮らすときもよろしく

突き上げた腕をなかなか下ろせないドラムロールが鳴りやまなくて

体内の約2gは亜鉛なの。あなた亜鉛が足りてないわね。


「かばん」2015年8月号

授乳婦は日の出を何度見たか

右向きにこわばるからだ立て直し次の夜泣きに備えて眠る

液晶が港のようだ行けもせぬイベント告知に「いいね!」しながら

華美じゃないほうが嬉しい授乳婦のライフハックとしてのケープは

きりきりと我が子を背に吊り上げて体力よりも必要なもの
※背=せな

ねえ、爪を、切らせてよ、ねえ、切らせてよ、爪切らせてよ、切らせてよ、爪

子に乳を含ませたまま朦朧と朝の光を額に受ける

もしかして左利きかと惑うとき慈しみとは限りなくエゴ

華やかな飲み会にもう縁はなく娘とかたく抱きあって寝る


「かばん」2015年7月号

臨界密度

いとしい、と声に出す今このときも僕らを突き抜けるニュートリノ

ホーキング・パラドックスを解き明かし微笑むひとに熱いスープを

次々に完全数が現れて物理学者が見た清い朝

薄い胸重ねあわせてわたしたち臨界密度で釣りあっている

(聞こえます)50光年先の地に鉄の雲から降る鉄の雨

何度でも生まれなおしてこの星へ落ちてあなたに抱きとめられる

ほろほろと膝にパン屑こぼしつつ考えている地球のあだ名

タイタンで海が沸騰しているわ きみの軌道を駆け抜けなさい


「かばん」2015年6月号

淋しい種族

清潔な絶望がある日曜の空に高々子を抱きあげる

西向きの窓辺に義母の買い溜めた三ツ矢サイダー輝くばかり

院長先生の水槽昨日よりヒトデが少し移動している

苦労して思考の隅に追いやった鮮やかすぎる夏の風景

しどけなく出窓の枠に寄りかかり隣家の引越しを眺めてる

人生の終わりに食べるパンケーキほどのかたさのソファありますか

ナツメ球替えてほしくてきみのいるはずの空間に呼びかける

飛び立ったあとの枝葉が揺れていてヒヨドリ、きみも淋しい種族



「かばん」2015年5月号

時代の都合

「犯人は女性と見られ…」如才なく振る舞うことの哀しみに朝

容疑者のSNSのアイコンが自家中毒の街に拡がる

「犯人は白のドルマンスリーブに緑のスリッポンで逃走…」

容疑者のクラッチバッグから落ちるスパンコールは人魚の鱗

サンダルを脱いで夢中で逃げるとき溶接工と目が合っている

「先程のニュースに一部訂正が(中略)ラグランスリーブでした」

容疑者は姉の上司の隣人の従兄弟の後輩の同居人

美しいひとが盗んだものたちをうっとり想う一日がある


「かばん」2015年4月号

制作会議

美意識のことを持ちだす食卓に豆板醤は分離してゆく

出社前ひしめく朝のコンビニでつかみ取るように買うLIPTON

自己憐憫の培養液にいつまでも浸ってたんだ 友の死なども

上京後最初に住んだ町の名と添い遂げるこの預金通帳

隙のない化粧で友は現れて畑に投資しないかと言う

外回りの上司の帰社に顔を上げ湿った声を放つ後輩

疲れたね西洋梨の剥きかたを思案しているときの顔だね

襟元に風は涼しく陣営を整えて行く制作会議


「かばん」2015年3月号

バードコール

籐椅子が定位置になる ほかほかのむつきを捨てるため立ち上がる

冬うらら蜜柑は熟れてヒヨドリがメジロがシジュウカラがついばむ

さえずりと地鳴きは違う藪のなかひたすら地味なあれがウグイス

窓際で蜜柑に爪を立てながらあなたを産んだひとと語らう

右手ごとポケットにしまいこんでいたバードコールは湿りを帯びて

控えめに身を沈めれば湯の中を義父の白髪の漂いきたり

嫌いではないこの暮らし日暮れには力をこめて雨戸を閉める

埼玉で授かった子が東京に産まれ神奈川の野に育つ


「かばん」2015年2月号

鯨飲

連れ去ってもらわなくてもよくなって車を持たない暮らしを選ぶ

いちじくを手ばやく片す 男ってドライフルーツあまり食べない

ごみ捨てを厭わぬひとよ足音に目覚めてきみの朝に追いつく

鯨飲を許された日に水はけの悪い心をようやく詫びる

ぼんやりと髪にオイルをなじませて触れられることばかり想うよ

生きてれば名字の変わることもある ふいにわたしに宿る運命

湯の中に短い髪を掬いつつ慈しむべしどの習慣も



「短歌研究」2014年2月号

朝へのリンク

傘の花ひらきはじめる参道を俯瞰していた朝へのリンク

カリフォルニア種抜きプルーン黙々と食べればきみは奇異の目で見る


「かばん」2005年1月号


土嚢

中華まん全品10円引きセール僕らを小市民にしてゆく
 
弟と同じ名前のバッターの打率三割三分三厘
 
尽くしてよ朝は6時に起こしてよわたしのためにひじきを煮てよ
 
いただいてまたいただいて自分では買わなくなってゆくもの、紅茶
 
無表情で我をかすめて歩み去るWOW!と描かれたTシャツのひと
 
理想とは違う未来を生き抜いてうんと笑ってくださいどうか
 
帰ったら砂肝どんぶり食べたいね特急の中いじる御守り
 
雨粒を睫毛に溜めてまだ土嚢積んでいますかあの川べりで


「かばん」2014年12月号
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