November 15, 2010

大森望 - 不思議の扉 ~時をかける恋~

その本の表紙にはこんな言葉が記されています。

「The Door into Wonder」

タイトルにもある不思議の扉という意味で、我々の暮らす現実世界では到底改名できないまか不思議な現象の起こりうる世界への扉の事・・・ひいては、僕らの心に潜む、叶わない願いへの扉でしょう。

この本は「大森望」さんという方が編集したオムニバス形式の短編集で、全てが「時間」という絶対基準を基軸にした「移りゆく心」の物語。

全部で6名の作家さんが作品を寄せていて、どれもが基本的には時をかける話、もしくは時に悲しみと後悔をのせる切ない話。

1話目の「美亜へ贈る真珠」は「梶尾真治」という方が書かれた短編で、一風変わった近未来的な話でした。
僕に取っては少々無機質すぎるくせがありましたし、ちょっと淡泊だなぁと感じました。
確かに長い時間をかけて抱え続けた「気持ち」は強いものであると感じましたが、それでも何故か、どこか空虚で虚しいです。
救いの形が虚しいからでしょうか、それとも、登場人物のあまりの思考回路のサバサバとした部分がなじめなかったからでしょうか・・・

2話目の「エアハート嬢の到着」はご存じ「恩田陸」さんの作品。
僕は個人的にこの方が好きではないのです・・・何故かと言えば、あからさまにこれでもかと言わんばかりの恋物語、青春物語にどこか嫌悪感を感じてしまう部分があり、それが生理的に少しうけつけない部分があったからです。
この話も、舞台がイギリスということで微妙かな、と思って読み始めたのですが、それが意外と良かったです!
なんだか、時の残酷さというものを感じましたね。
でも、それ以上にその時の回廊を彷徨う人々の想いの強さを言葉で表したような物語、僕は結構好きでした。

3話目の「Calling You」は結構有名らしい「乙一」さん。
もはや今となっては新しい感じもしない携帯電話をキーアイテムとして使用したこの話、たしかに切なかったです。
話全体の感覚としては好きなのですが、いかんせん短編ということもあり、展開が急すぎるのと、ご都合主義、そして少し強引すぎる部分が目についたせいか、それほど心を掴まれることはありませんでした。
ですが、映画とかにしやすそうなストーリィだなぁって感じで、好きな人はすごく好きなんじゃないでしょうか。

折り返しの4話目は「眠り姫」、「貴子潤一郎」氏の知的な作品。
これまでの夢見心地な作品とは違って、現実味がどことなく漂っていてヒリヒリする緊張感があります。
きっとこれは姫が持つ儚さと、どうしようもできないでいる主人公、そして彼らを取り巻く後悔、そんなものが醸し出しているのでしょう。
意外とお気に入りです、この話。
人間味が溢れている気がしますしね。

5話目は打って変わって古典とでも言うべき「浦島さん」で「太宰治」氏です。
これは有名な浦島太郎へのオマージュとでも言える作品で、彼らの御伽草子がニヒルに、そしてユーモラスに現実主義で描かれています。
もしかしたら、意外とこんな風だったのかも知れませんね、真相なんてものは。
誰にもわからないからこそ、想像の余地はあるわけですが。
でも、僕はこうゆう皮肉った話はそれほど肌に合わないみたいです・・・

そして最終話は「机の中のラブ・レター」。
これは「ジャック・フィニィ」という方が書かれた作品で、イルマーレの原作となった話らしいです。
簡単に言えばタイムスリップものなんですが、最後のメッセージには心と瞼の裏が熱くなりました。
まさしく「時をかける恋」ですよね、これ。
不可思議で理解不能な状況下におかれてもなお、見えない相手の透明な気持ちを愛する、そんなこと、今の僕らに出来るかと言えば、表面的にですら難しいんじゃないでしょうか。


これを全て読み終えて感じた事は、「時」というものは不思議な力をもっているんだなぁ、ということ。

何かを変える力。

傷を癒す力。

誰かを殺す力。

そんな絶対的な力の前に僕たちは無力なのですが、それでも時折その向け穴を見つけ、そこに見えなかった希望や限りない絶望の端を見いだす・・・
この作品ではそれが「恋」という形で端的に表されてはいますが、やっぱしタイム・パラドクスやタイム・リワインド系の話は素晴らしいですね。

ある人の気持ちや行動を、時代を越えて後の世界に残すことはきっとかなり困難で、それこそ膨大な労力が必要でしょう。
ですがきっと、それは、誰に知られない事もあるかもしれないけれど、ひっそりと、それでいて力強く時の影に潜んで残されているんだなぁ、そう感じずにいられませんでした。

僕がいなくなれば、きっと僕の考えた事や何をしたかなんてことはすぐに消えてしまうでしょう。
でも、僕が、ある時に、どんな気持ちだったか、何を感じていたか、そういったことは確実にあったわけだし、それこそ消えないんでしょうね。

とても哲学的で難しいですが笑

暇つぶしにはもってこいの本でした。



my_twilight_city at 00:49│Comments(0)TrackBack(0)文学レビュー 

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