2008年07月30日

「食後高血糖」に関する記事を読む上で注意したいこと

夏雲とSL最近、ある講演会に参加しました。講演会終了後の情報交換会会場で、私は著名な先生と30〜40分間、お話しをする機会を持ちました。

テーマは、世間で一般的な定説とされていながら、専門家の間でも意見が分かれている、以下の2つのテーマでした。

1)SU剤は本当にβ細胞を疲弊させるのか?
2)食後高血糖の意義



1)SU剤は本当にβ細胞を疲弊させるのか?
この点について、結論を言えば、まだ「SU剤がβ細胞を疲弊させるという明確なエビデンスは存在しない」ということです。はっきりしていることは「高血糖がβ細胞を疲弊させる」という事実だけです。以上のような内容の講演を、ある著名な先生からお聞きしたので、この点に関する教授のお考えをお聞きしたいと思いました。教授は「もちろん、それは正しい。A1c > 8%の高血糖状態ではSU剤は効果を発揮することができない。そんな状況でSU剤を長期間使用するからβ細胞が疲弊を起こす。でもSU剤には責任はないよ」というものでした。
私も大量のSU剤を服用しているコントロール不良な初診患者さんにはついつい「この薬はあなたの膵臓に負担をかけて、その寿命を短くするので減らしましょう!」と提案するのですが、その理由は、1つには「食事療法が適切に行われずに大量のSU剤が処方されていること」、もうひとつは「A1c > 8%で高容量のSU剤が処方されても効果が期待できない」からです。

2)食後高血糖の意義
食後高血糖の意義についても話題になりました。この中で、皆さんにお伝えしたいことがひとつあります。私が、「A1c 5%前後の痩せたIGT(予備軍)の方でも食後血糖値が200mg/dl前後になる方が多く、こうした人たちの中にはひどく食後高血糖を心配している方がいます。こうした不安を払拭する明確なエビデンスがないので、その必要性のない、多くの予備軍の方が糖質制限食という極端なダイエットに走っているようです。先生はこうしたことを、どうお考えでしょうか?」とお尋ねしました。

先生は「君、A1c 5%前後で食後血糖値が200を超えるはずがないだろう。それはブドウ糖負荷試験(OGTT)の結果だろう?!あれは君も知っているとおり、吐き気や下痢を催してしまうくらい、高濃度のブドウ糖を飲ませる検査だ。あんなことは日常生活では絶対ないよ」と答えられました。私には、「だからOGTT1時間値で200以上を示したからといって、日常生活で食後血糖値が200以上になることはない」という意味に聞こえました。

私は思うのですが、おそらくこの国の糖尿病の権威と言われる先生方は、A1c5%前後の痩せた予備軍の人たちを診察する機会に恵まれていないのではないでしょうか?
だから、「彼らの中に食後血糖値>200mg/dlになる人たちがいる」ということをあまりご存じないのではないでしょうか?そのような軽症の予備軍の人々が大学や研究機関を訪れることはなく、また大病院での診察は時間的な制約から、私のように「患者さんの食事記録と血糖測定記録」を日常的に照合するような診察は行われていないのではないだろうか?と想像しました。

つまり、皆さんを悩ませている「食後高血糖の恐怖」を煽るようなネット上の記述は、実はこうした事実を知らない、多くの人々によって書かれているのではないだろうか?ということです。

私は東京衛生病院で妊娠糖尿病と診断された多くの患者さんのフォローアップをしている関係で、日常的にA1c 5〜6%で食後高血糖と格闘している人々を診ています。今週もA1c 4.7%の30代女性の食事記録と血糖記録を拝見しましたが、外食ではときどき200mg/dl前後を呈していました。

このような痩せた予備軍の実態をよく知る医師が書く「食後血糖値の意味」と、すでに心臓や脳の血管に合併症を起こしてしまった患者さんばかりを毎日診療している医師が書く「食後高血糖の意味」とは自ずと異なってくるはずだ
ということです。つまり、すでに心血管合併症を呈している患者ばかり診ている医師は「食後高血糖の危険性」を強調する方向に向かうのではないでしょうか?

よろしいでしょうか?
このことは大変重要な気づきではないか?と私は考えました。
皆さんはこのような現実を踏まえた上で、「食後高血糖」に関するネット情報を読んでいただきたいと思います。

皆さんの体験をぜひお聞きしてみたいものですね。
A1c 5%前後で食後血糖値>200mg/dlになるものでしょうか? 

*ご意見・ご感想はなるべく「Diabetes Cafe」でお話ししていただけると助かります。

my_voyage at 22:42│Comments(3)TrackBack(0)セルフケア・サポート 

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この記事へのコメント

1. Posted by なっくん   2010年01月30日 00:13
精神科医をしている者です。
A1Cが5前後で食後に200以上の高血糖をきたす人は、おそらくその後に血糖が急降下して低血糖になる「機能性低血糖症」ではないかと思います。
血糖急降下による交感神経過緊張で、不安やイライラなどの精神症状を呈する方が精神科の患者さんでとても多いです。専門のクリニックに5時間の糖負荷試験を依頼するとそのようなパターンの結果になります。
(機能性低血糖の人は負荷後4時間くらいで血糖値が最低になるケースが多いようです。2時間ではわかりません)
高血糖と低血糖が繰り返されるので平均すると一見正常なA1cになると思われます。
砂糖など精製された炭水化物の過剰摂取が一因といわれている「現代病」です。
2. Posted by 管理人   2010年01月30日 10:40
なっくん先生

精神科のドクターにお読みいただいていると知って、大変驚いています。有り難うございます。
改めて自分が書いた過去の文章を読み直してみて、そこに押しつけがましい自己主張が感じられ、少々気分がブルーになりました。

多分ちょうどこの頃、Diabetes Cafeのフォーラムで、毎日頻回の血糖測定を繰り返しながら食後高血糖と葛藤している、A1c5.0〜5.3%の痩せた予備軍の人たちの書き込みに対応していまして、食後高血糖の恐怖を煽る専門家の言説に腹を立てていたからだろうと思います。

先生の貴重なご提案、有り難うございました。私も比較的最近、その「機能性低血糖症」という病態を知り、1月27日付けのブログでその病態に関する、ある研究結果を紹介させていただいたところです。〜続く〜
3. Posted by 管理人   2010年01月30日 10:44
機能性低血糖症という病気で悩んでいる方がかなりいるということは、糖尿病専門医の間ではあまり認知されていないと思います。おそらく精神科や婦人科、一般内科などにかかっておられるためかもしれませんね。よろしければ、このブログもご一読いただけたら幸いです。
→http://blog.livedoor.jp/my_voyage/archives/51459383.html#more

ただ、ここで紹介した患者さん達は「機能性低血糖症」ではありません。典型的な、非肥満、境界型耐糖能障害の人たちの現実です。最近はβ細胞研究が急速に進歩してきましたので、その分子遺伝学的なメカニズムも少しずつ解明されつつあります。つまり、糖尿病の遺伝的素因を有する、こうした人々は糖尿病を発症する、ずっと前から「グルコースに対するインスリン分泌、特に第1相の低下」が観察されています。こうした人たちの病態の位置づけが曖昧なまま、食後高血糖の危険性ばかりが強調されている現実を、私は憂えております。
今後ともご指導の程、よろしくお願いします。

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