あらすじ
売れない芸人徳永は、師として仰ぐべき先輩神谷に出会った。そのお笑い哲学に心酔しつつ別の道を歩む徳永。二人の運命は。


感想
ネタバレあり

 以前又吉がテレビで「殺戮にいたる病」を紹介していたのを思い出したのと一応売れる前から知っていた芸人さんってこととあと話題性で購入。

 純文学は普段読まないからこの小説のストーリーや文章表現がどうかと問われたら全くもってわからないわけで。
 そもそも自分の好みのジャンルじゃないだけにハードルが下がっていたから意外と読み易かったというのが素直な感想。

 ストーリーは特に大きい出来事もなくのらりくらりと進むのは大方予想通りで、最後に一山娯楽シーンはあったものの、また日常生活に話が戻ったと思えば、唐突に終わる感じも純文学っぽく思えた。

 神谷が最後に死ぬんだろうなーと思ってたら死ななくてよかった。
 主要人物を死なせるという安易に娯楽に走らないあたり好感が持てる。というか又吉の性格の良さみたいなものを感じた。
 また、神谷のお笑い哲学は全くもって空っぽで神谷はただのどうしようもない人間だと悟った徳永が書きためた伝記を破くみたいな、三島由紀夫の「金閣寺」みたいなオチ、もっとわかりやすく言えば思春期の女子が憧れの人と付き合って人間味を知って理想と現実のギャップに嘆いて自分は恋に恋してたんだと気づくみたいなそういうオチかと思っていたら全然異なった。

 ほぼ徳永と神谷2人に焦点を絞っているだけに会話の中の微妙なニュアンスや、徳永の繊細な心の揺れが本書の魅力であり、ストーリー展開の起伏がほとんどなく娯楽要素が薄いことからも普段本を読まない人が話題性だけで買った人には辛いんじゃないかな。
 また芸人の生活というものが一般社会ではかなりかけ離れた世界の話だからこそ共感を得づらい部分もあると思う。

 気になったのはネットの悪口に対する反論。
 ダウンタウンの松本や品川庄司の品川も自分に対する批判を作品内に盛り込んでいたけど意外にも本書にも盛り込まれていた。
 自分の訴えたいこと伝えたいことを作品内の登場人物に言わせるのはまぁそういうものだと思うんだけど、やっぱり皆自分に対する批評って気にするもんなんだなーと思った。
 スパークス解散のヤフーコメント欄が異常にリアル。いや僕もヤフコメは嫌いだけど。

 割と東京NSC卒業している芸人には詳しい僕は又吉を初めて認識した日を覚えている。
2009年の暮れにノンスタイルの劇場ライブが当時ネットで生配信されていて、ピースや平成ノブシコブシが出ていた。そのときはほとんど印象に残っておらず「なんでこの2人は組んだんだろう」とさえ思うほどピースの2人はあまり息があってるコンビには見えなかった。
 でも今思えばそれがピースの良さだったりもしたんだろう。
そのあと観たキングオブコントやM-1における又吉の作るネタは正直自分の好みじゃないんだけど一本グランプリの大喜利回答は好きだし、バラエティ番組で観る又吉は割と好きだ。

 本書は芸人に対する尊敬、漫才に対する情熱が異常なほど伝わる。
 言いたいことはほぼそれだった。

 読んでる最中、又吉と同世代か後輩にあたる芸人のことがずっと頭によぎってたな。
 アームストロング、LLR、ライス、パンサー、ジャンポケ、ジューシーズ、エリートヤンキー、ラフコントロール、井下好井、グランジ、ミルククラウン、囲碁将棋、ロシアンモンキーとか好きだったわー。

 売れた芸人、売れずにくすぶってる芸人、解散した芸芸人さまざま。
アームストロングはコントが凄く好きで、特にコンビニの面接のコントが全芸人の中で一番好きで、いつのまにか解散して、それがショックで、そしたら安村が一発当たって、少し複雑な気分になっていたら今度は不倫がばれてバッシングされてとか色々すぎて感情がよくわからなくなった。
 ライスがキングオブコント優勝したときは死ぬ程嬉しかったなー。

 徳永と神谷が結局売れることなく話が終わるあたり、本書は先に挙げた売れずにくすぶってる芸人や一発あたってそのあと売れなくなった芸人に対するレクイエムのようなものの気がする。

 女性がほとんど出て来ないのはよかった。これが村上春樹だったら女は芸の肥やしと言わんばかりにセックスシーンが随所にあっただろう。

★★★(3点)
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