商標弁理士のここは登録査定でお願いします!

商標一筋、実務経験15年目の中堅弁理士が「使える審決・判決」を実務目線でピックアップ。いざ意見書を書く際に自分自身が使いやすいように体系化していきます。

2016年12月

この秋、大人気のテレビドラマがありましたね。「私、失敗しないので」が決め台詞の。

さて、特許業界でも事務所さんのホームページを見ていると、「私、失敗しなので」ばりの登録率を謳っているところがチラホラあります。さすがに、100%とは言いませんが、90%台後半のかなり素敵な勝率です。



この数字、皆さんはどう思いますか?



もちろん、数字は嘘ではないと思います。

しかし、特許業界、特に商標の世界に限っていえば、成功率100%も夢ではありません。



その方法は至って簡単です。


怪しい商標は出願しないこと。ただそれだけです。出願しない以上、失敗もありません。そういえば、あのドラマでもどっかのライバル病院が取っていた戦略ですね。


調査を受けて、少しでも怪しい先願があれば「登録困難」にして、より安全な商標をお勧めする。ただこれだけで、登録率はグンとアップします。


でも、それでお客様は喜ぶでしょうか?


愛着のあるネーミングの場合、多少のリスクはあってもチャレンジしたいと仰るお客様も実際は多いもの。そういう場合、具体的なリスクを認識した上でチャレンジするのであれば、たとえ登録に至らなくてもお客様には感謝されます。

識別性に疑問がある場合など、むしろ3条拒絶を狙って出願する場合すらありますし。


そう考えると、この業界、「登録率が高い=失敗しない」ではないことがお分かりいただけると思います。


本当に大事なことは登録率といった数字ではなく、正確なリスク予測と丁寧な説明にあると思います。


この2点がしっかりしていれば、結果の如何にかかわらず、お客様は満足してくれるはずです。


ここは、「私、失敗しないので」ではなくて、「私、しっかり説明するので」が求められる世界なのです。

 

【ここに注目!】
「SPC」の文字からなる標章は、ローマ字3字からなるものであり、本件使用商品において、それ自体が自他商品の識別標識として機能を有しないものであるという事情はないものであり、また、「SPC」の文字が商品の種別や型番を表す記号、符号の一部に使用されているものであると理解されることがあっても、そのことをもって,「SPC」の文字部分を自他商品の識別標識としての機能を果たす部分と認識することを否定することにはならない。


【実務への応用】
基本的に欧文字3文字以上には識別力が認められます。
本件は、そのような3文字商標でありながら、商標権者自らが「SPC-100」のように型番として使っていた点が問題となりました。

請求人側は、使用方法を見る限り型番としての使用であって、自他商品識別機能を果たす使い方ではないと主張しました。

しかし、合議体は一部に型番として使用されていると理解されるところがあっても、そのこと自体で識別標識としての機能は否定されないと判断しました。

不使用にあっては、使用態様にかかわらず商標の本質的な識別力を重視するということでしょう。

【適用条文】
50条


【ここに注目!】
「モゾモゾ体操」の文字より、「手足や体を緩慢に動かす運動」程の意味合いを想起し得るとしても、その体操の内容が明確であるとはいえず、直ちにその指定役務の質を直接的、かつ、具体的に表示するものと認識させるとはいい難い

【実務への応用】
内容が不明確であるので特定の質等を直接的、かつ、具体的に表示しないとする審決です。

どの程度まで「不明確」で、どのくらいから「明確」となるのか、それこそ不明確といわざるを得ませんが実際の事例を集めることで推測するより方法はないように思います。

もっとも「モゾモゾ体操をやってみろ」と言われても具体的どんな体操かは分かりませんから、判断としては妥当なものと思います。 

【適用条文】
3条1項3号


最初のご挨拶でもお伝えしたように、当初、このブログは調査や意見書作成時に役立つ審決を体系化することが目的の、言ってみればデータベース的役割を期待してスタートしました。

したがって、このブログの想定読者は、何と「筆者自身」!というおよそブログとは言えないコンセプトだったのです。

しかし、実際にブログを開設して1か月、少しずつではありますがアクセスいただく機会が徐々に増える傾向にあり、しかも、審決ピックアップよりエッセイ的な記事に注目が集まる傾向に接し、少し考え方が変わってきました。

もしかすると、当ブログをご覧になる方の中には商標実務をバリバリこなしている方より、これから商標の実務を勉強したいという方もそれなりにいらっしゃるのかもしれません。

というわけで、あくまで審決ピックアップをメインにしつつ、商標実務の基本をお伝えする「商標イロハ」のカテゴリーを新設しました。

ここでは、私が今までの実務で積み上げてきたノウハウ的な要素を分かりやすくお伝えしていきたいと思います。

このカテゴリー記事は、お客様から商標の相談を受けて困っている同業者の方、企業で商標を担当している方、様々な方を想定していますので、実際、何かお困りのこと、知りたいことがあればお気軽にご質問ください。ここでできる範囲で回答していきたいと思います。 

先日、お客様と出願の打ち合わせをしていたときのことです。

こちらのお客様は最近まで別の事務所をお使いでしたが、事情があって私共とのお取引が始まったお客様です。

そのお客様、どういう訳か出願商標を二段書きにして欲しいと強くご希望されます。

曰く「二段書きの方が権利範囲が広くなるから」とのこと。 


二段書きとはもちろん、欧文字や漢字の商標の上にその読み仮名を平仮名や片仮名で併記した態様の商標のことです。

確かに、一見、欧文字「ABC」の他に片仮名「エービーシー」も一緒に権利化されるわけですから一粒で二度美味しい的な感はあります。


しかし、実はこれ、正反対です。 

はっきり言って、二段書きは場合によっては権利範囲を縮小する方向に作用します。


どういうことでしょうか。

それは特許庁が読み仮名としての片仮名文字・平仮名文字について認めている効果を考えるとよく分かります。

今まで紹介した審決にもありますが、基本的に特許庁は欧文字に併記された片仮名・平仮名を「読み仮名」として認識します。その上で、読み仮名が振られており、かつ、その読み仮名が欧文字部分の読み仮名として不自然でないときは、その読み仮名をもって当該商標の自然的称呼と認定します。

つまり、「ABC」の上に「エービーシー」の片仮名が振られているときは、その称呼は「エービーシー」であって、「アーベーセー」の称呼は生じないとされます。

このことは実はプラスにもマイナスにも作用します。

例えば審査過程において「アーベーセー」という称呼が生じる先願が登録されているとします。

この場合、欧文字「ABC」だけでは、指定商品によっては「エービーシー」の称呼だけではなく、「アーベーセー」の称呼が認定されるおそれがあります。

その結果、「アーベーセー」という称呼が共通するとして拒絶理由が通知されるかもしれません。

一方、「エービーシー」の振り仮名が振られていれば、その称呼は「エービーシー」に限定される可能性が高く、「アーベーセー」とは称呼非類似となります。

したがって、この場合は読み仮名がプラスに作用します。

しかし、一方で、「アーベーセー」の称呼が生じる先願が不存在の場合はどうでしょう。

「ABC」だけで登録を得た場合は、この商標からは「エービーシー」の称呼が生じると同時に「アーベーセー」の称呼も生じ得ます。

したがって、第三者が「アーベーセー」という称呼の後願を出願した場合、特許庁は「ABC」から生じる称呼「アーベーセー」と類似するとして、この第三者の後願を排除してくれるかもしれません。

しかし、「ABC」に「エービーシー」を振った二段書きで登録した場合は、「アーベーセー」の称呼は生じませんから、第三者のアーベーセー商標はそのまま登録されるでしょう。

つまり、この場合は読み仮名を振ったせいで自ら後願排除効を狭めてしまったことになります。これはいうまでもなくマイナス効果です。

その他、読み仮名の重要な効果として結合商標の一体性を高める効果もありますが、その話はまた後日。


何れにせよ、このように、二段書き商標はプラスの面もマイナスの面も合わせ持ったものですから、決して「権利範囲が広くなる」ようなものではありません。

寧ろ私が二段書き商標をお勧めする場合は、読み仮名がないと正確な称呼の認定が期待できないような外国語商標はもちろんですが、それ以外では、調査の結果、かなりきわどい先願商標が存在しており、その抵触をかわすための苦肉の策として用いることがほとんどです。


今回のお客様にもこうした点を説明させて頂いたところ、今後は二段書きはケースバイケースで考えるということになりました。

このように、商標出願において二段書き商標がお得というのは合っていそうで間違った考え方なのです。
 

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