AUXILIA

N2です。早いもんですね、もうゲムマの季節になってまいりました。

新作の発売が3月23、24日のBGBEに間に合ったので、このタイミングで発表します。

今回はちょっと趣向を変えて、エイジオブシリーズでもトリテでもありません。

「三国タイフーン」といいます。

2024GMSpring_Format

タイトルからお分かりかと思いますが、ずっとやりたかった三国志テーマです。

詳しい内容はまた書くとして、まずはルールブックを公開します。

こちらからDLできます。

2ページ目はほぼルールとカードの補足なので、文量じたいはそんなにありません。

ドラフトで獲得した7枚の武将を駆使して3回生き残りバトルを行なう、スピーディなカードゲームです。

原作(三国志演義)再現がいたるところに入っています。もちろん知らなくても遊べます。

じつは二次創作ゲームって作るの初めてなんですが、楽しいですね。

この記事はBoardGame Design Advent Calendar 2023 の第日目の記事として書かれたものです。


今回のアドべントカレンダーの企画でご覧になられる方もいらっしゃるかと思いますので、最初に軽く自己紹介をします。

わたくしN2【えぬつー】は、Suthern Cross Games【サザンクロスゲームズ】というサークルで、もうかれこれ12年ほどゲーム制作やディベロップの仕事をしている者です。

全般的にリソース(資源)管理ともなうゲームが多いですが、トリックテイクやライトなカードゲームもデザイン/デザイン協力していますさいきんの作品でいうなら、『エイジオブムーン』『パワーシャーク(グループSNE)『トリックレイダース』『エイジオブウィル』などはなかなか好評をいただいているように思いますまた、秋のゲムマでは新作『ゴーストキッズフルハウス』と『トリックラナウェイ』を発売します。詳しくはこのブログを見てください。

さて、さっそく本題にはいりましょう。

「ゲームデザインはどこまで小手先で走り切れるか?」

いきなり結論だけ言います(なぜなら結論は重要ではないので)

「どこまででも!!!」

……まあなんとなく分かっていましたよね。こんなお題を掲げておいて、「いや、ゲームというのはメインエンジンこそが肝要だ。枝葉末節にとらわれていてはいけない!」とか仏頂面で言い始めるわけがありませんからね。


“神は細部にやどり給う”なんて手垢のついた箴言がありますが、ボードゲームほどこの言葉のありがたみを感じる創作も少ないかもしれません。なんならボドゲでは説明書の「細則」欄に書かれるような小手先のルールひとつが本文以上の輝きをみせることなどザラだからです。


ではこの小さなルール、小さなメカニクスはどうやって磨けばよいのでしょう?それはもう「数をそろえて吟味する」という方法にしくはないと思います。あちこちのテストプレイ会に顔をだしていると、まれにバチピタなサブメカニクスをいっぱつで連れてくるデザイナーがいますが、その人だっておうちではああでもないこうでもない、とひとりウンウン悩んでいるハズなのです。そうであって欲しい。


極論をいうと、ご自分で一から十まで用意できるひとはいいんです。今回の話題は、「面白いルールができた。テーマもいい感じだ。でも、なにか少し物たりないような気がするんだよな……」という方のために、リュ〇ジおにいさんではないですが、味の素になるような使いでのある調味料を数十種類ほど簡潔に紹介していこうというものです。


「味の素」という表現は、先月ボドゲ製作者のゆおさん(@you_7)が、Xでつぶやいていた文言を拝借しました。その際に実例として挙げられた「ゲムマ4週間前からの強制発想法」という2018年の投稿(ならびに2021年の追加投稿)がまあまあ使えるので、こいつをテキストとして補足、肉づけしていく形でやっていきましょう。なお「ゲムマ4週間前からの強制発想法」の投稿者はわたくしN2ですから、遠慮なく過去の自分がつくった画像を流用していきますよ!

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とはいえいずれも急ぎ足で作った内容のため、いくぶん精査を怠っていた箇所もあります。またこの5年ほどのリサーチも反映したうえで、候補の見直しをおこないたいと考えています。なにぶん小さいだけあって挙げようと思えばズラズラと無数に出てくるわけで、べつに辞書をつくろうというのではないのですから、美味しい部分だけ32パターンほどに集約することにしましょう。


さあここからいろんな小メカニクスの説明と用法を語っていくのですが、留意していただきたい点が3つほどあります。


①一枚目の画像でも書いていますが、これはあくまで“サブ”メカニクスであり調味料の概説なのです。メインの料理はあなた自身で用意してください。もちろんここにある小さなメカニクスを2~4つほど継ぎ合わせて面白いゲームをつくることだって出来るしそのために特化した技法もあるのですが、そいつはまた別のお話し。また上記の理由により、ワーカープレイスメントだのエリアマジョリティだのといった“大きな”メカニクスの話しもいたしません。

②用語は一部N2が勝手に呼んでいるだけのものもあります。そのためできるだけ平易な表現で説明しなおしています。ジャーゴン化はあらかじめ「あるある」的な知識、小ネタを共有しているチームでは最高に伝わりやすいのですが、そうではない以上できるかぎり避けたいと考えたからです。(ならなぜ元画像では書いてるの?とつっこまれそうですが、もとはあくまで「強制発想法のボドゲ版がほしい」というゆおさんへの個人的なリプライとして送っただけだったのです)

③今回あらたに「コンポーネント」という切り口を与えました。つまりそのメカニクスを機能させるにはカード、ボード、チップ(コインふくむ)、コマ等のいずれを主体的に使用することになりそうかを書いています。現今の物価高をかんがみるとき、コンポーネントの制限に苦しめられるデザイナーが多くなることは疑いようもありません。そのため、まずは手持ちの部材がゆるす範囲で実現できそうなメカニズムを掘っていくという、ある種“辞書の逆びき”的なやり方も有効になってくるのではないかと思います。

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1.残った手札で~
:複数枚の手札を順々に切ってゆき、さいごに残った1枚で勝負する方式。序盤は選択肢にゆとりがあるため気軽にプレイしやすく、煮詰まってきた終盤は選択肢が極めて少ないので長考を誘発しにくい。「斯くして我は独裁者に成れり」を例に挙げておくが、「5本のきゅうり」も仲間の範疇か。そのままでは手札改善の余地がないため、手札がかたよると事故展開になることも。もちろん事故さえも笑い飛ばせるくらいのテンポの良さ(≒1ディールの短さ)があれば問題はない。

コンポーネント:カード

2.~デュエル:「セブンワンダー・デュエル」「カヴェルナ洞窟対決」「ブロックスデュオ」など、人気作品のサシ化は枚挙にいとまがない。元がすでに面白い以上、ある程度の成功が約束されているからだろう。しかしここでは企業の論理でなく同人ゲームの「味の素」として考えねばならない。すでに4人でテストしているものをあえてプレイ人数を半減させるのはどんなときだろうか?たとえば濃厚すぎるインタラクションをもつゲームは近年ウケが良いとは言えないので、2人戦に特化して一気に諸問題の解決をはかるという手はある。ただせっかく2人までダウンサイジングしたなら、ソロルールも整備してパッケージに「1~2人」と書いたほうが間口はひろがる。

コンポーネント:自由

3.手札コスト制:サンファン方式の呼称をあらためる(より説明的なほうが初読者にやさしいと判断した)。手札をX枚捨てることで、Xコストを発生させる、シンプルな仮想リソース表現。「レースフォーザギャラクシー」「テラフォーミングマーズ:アレス」など、なぜか名作のカードゲーム化のさいに採用されることが多い。じつに堅牢なつくりなので、自由にアレンジを加えることもたやすい。たとえば「赤カードを捨てれば赤資源が1個、青カードを捨てれば青資源が~」という具合に資源の代替を完全に務めることさえ可能である。これに限らず「複数の機能をひとつに集約」というのはコンポーネントの制限を受けやすい同人ゲームの向こうずねを逆手にとったやり方なので、どんどん推進していきたい。

コンポーネント:カード

4.擬似ロンデル2018年の投稿で特に説明が足りなかったもの。「古代」等のいわゆる正調ロンデルではないものの、「ロココの仕立て屋」や「コンコルディア」のように“捨てられていく手札”や“一方通行のアクション”などさまざまな仕掛けで同一行動を連打できないようにしている制限装置。当然どこかでまた打てるようになるべきで、回収アクションやラウンド終わり、はたまた他人とのからみなどでふたたび利用可能になる。これに限らず制限系のメカニクスは、その内容よりむしろ制限からの開放のされ方にデザイナーの美学が現れるとおもう。

コンポーネント:カード

5.不人気は1金乗せ:「プエルトリコ」において、だれも選ばなかった役職に1金を置くアレである。後述する流動ダッチオークションは、ようはこの動きを銀行ではなくプレイヤーの資産でやらせているので本質的には姉妹のようなもの。「1金チャリン」などと書いてはいるが、見せかたによってはじつはコインを乗せる必要すらなく、「サンクトペテルブルグ」のようにカードを一段下げるだけでも表現可能なのだ。これも強度が高いのでかたちを変えながら広く使われ、消えることはないだろう。

コンポーネント:チップ、カード

6.手札1枚の~:「キングダムビルダー」を代表例にしたい。なぜならあのゲームは手札が3枚もあるともう脳内は大混乱だろうから。テンポというのは極めて大切であって、いつまでもプレイヤーをグズグズ考えこませているくらいなら、選択肢を1個にしぼったほうがはるかにマシ。「カルカソンヌ」もそうだが、このやり方はマップを構築してゆくゲームとの相性がよい。世界や陣地の表面積がひろがることで択が無数に発散する危険性を緩和してくれる。ただし、運の比重が高まるのも事実なので、試行回数(≒手番数)はある程度確保してあげること。

コンポーネント:カード、ボード

7.オート大喜利:あまり補足することがなく、書いたとおりで過不足なく説明できている。代表としては「酒魅人」を挙げておく。少々手続きの多いゲームだが、出来上がる名前の面白さが煩雑性を上回っていると感じたし、時間がかかるのも酒造りの雰囲気とあっている。一見弱点のようにみえる部分も大喜利やフレーバーで逆転可能だという好例。むしろ複雑なゲームほど、ユーモアを忘れてはいけないのだろうと再認識させられる。

コンポーネント:タイル、カード

階段状スート構成:これは今回の候補からは外すことにする。5年前は気安く書いてしまったが、「カード構成の偏差」というのはゲーム全体に及ぼす影響が妙に大きい割にその検証がむずかしく、とくに全カードが30枚以下のミニマルなゲームでは、すでに決まっているスート配列を下手にいじるとかえってヤケドをする可能性が高い(ということをこの5年で痛感した)。“小手先”の範疇にあるか怪しいし、なんならカード・ディストリビューションの話題だけでひと記事書けるくらいヤヤコシイので、ここで補足するにはまるで紙幅がたりない。今後の課題とさせてほしい。

8.ネイバーホールデム:~ホールデムを改める。もともとは中央にある資源やらカードやらを全員の共用とする方法をさして使っていたが、どうも良い例が少なく、「共通の得点目標」にまで範囲をひろげると今度は多すぎて雑になる。そこで近年増えてきた“自分の左右にカードやタイルを置いて隣接プレイヤーとのみ共有する”方式をネイバー(近所)ホールデムと仮に呼んでとりあげたい。「カンカンカミング」「羊と花畑」「ふたつの街の物語」などがそれである。比較的新しく、まだまだ開拓の余地があると思う。

コンポーネント:カード、タイル

9.イニシアチブトラック:旧称フェルトトラック。より進んだ者の手番順が若くなる。「ブルゴーニュ」「リアルト」「ドラゴンイヤー」など彼の作品の常連メカニクスで、いずれのゲームでも強烈な存在感をはなっている。というのも、手番が早いことの恩恵がすさまじいからだ。つまりこのトラックを実装するいじょう、手番格差は激しいほうが面白い。いっぽうで追いつけなくなったプレイヤーはあっさり沈んでしまうので救済策を用意することも必要だ。大いなる矛盾ではあるのだが、あまりにトラックを絶対化しすぎるとトラック上での追いかけっこでゲームが終始してしまう。構造じたいは単純だが、意外とケアや微調整が難しい部類にはいるだろう。

コンポーネント:コマ、ボード

10.ブッ壊れ初期能力:とりあえず全キャラやってみたい!というリプレイ欲刺激装置。「マルコポーロの足あと」というのはヘンな作品で、一見むちゃくちゃな8人の特殊能力が、結果的にはそこそこいい勝負をしてしまう。開発の早い段階から能力の大筋もいっしょに考えていたんだろうが、それにしても気の遠くなるようなテストの賜物だといえるだろう。同人では回数をこなせるようなテスト環境の構築が大切になってくるが、それでもバランス取りはたいへんだ。多少勝率に差が出ても許してもらえるようなフレーバーや雰囲気を用意しておいたほうが無難ではある。

コンポーネント:カード、(個人)ボード

11.パス付随型ボーナス:いぜんは“パス特典”としていた。これは「20世紀」などにあるような、先にパスしたプレイヤーからタイルを取っていく≒後までねばるほど選択肢や実入りが減るというものを想定していたが、近年はむしろ「テラミスティカ」「ガイアプロジェクト」「レスアルカナ」などに代表される、ねばってねばってパス順をコントロールして欲しいボーナスタイルが落ちてくるのを待つゲームが増えてきたため、こちらを包摂する呼称に変更した。つまり「早く抜けるべきか?」から「誰のあとに抜けるべきか?」への変化だ。従来のパス特典のように先手番有利を強調する力が働かず、なかなか濃厚なインタラクションもある。これもあまり注目されていないがかなり掘り下げ甲斐のあるギミックだ。しょうじきもう少し語りたい気もするが、あまり一項目が長くてもいけないので先をいそぐ。

コンポーネント:カード、タイル

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12.足切り
:「サムライ」「カラテトマト」など、一定の条件を満たしていないプレイヤーを、勝利判定の土俵そのものからエリミネーションしてしまう装置。ゲーム途中にこれをおこなうと「脱落系」と呼ばれることが多い。使い古された機構ではあるが、他のメカニクスにはあまり出せない強い緊張感をプレイヤーに与えることができる。ただしプレイヤーからしてみれば楽しい得点計算の直前にゲームからドロップさせられる以上、そのあとの勝者決めの手順がだらだらと長ければ疎外感を味わってしまう。「残酷な時間ははげしく、そしてみじかく」これが基本だ。

コンポーネント:自由

13.ランダムセットアップ:これもいちばん書きたいことをすでに書いている。ランダム準備の総本山というべき「ドミニオン」「カタン」でさえそれぞれ推奨の初期セットアップ法がちゃんと用意されている。それほどまでに偶然というのはひどい偏りをもたらしてしまうものなのだ。何度も遊んでもらう前提の企業のゲームでコレなのだから、ましてや同人ゲームで初回からランダム配置にしくじると、プレイヤーはもうそのゲームを遊んでくれなくなる。かならず推奨セットを表記しよう。リプレイ性の担保はその後でいい。

コンポーネント:カード、タイル、チップ

直接攻撃:実例は多いためいちいち書かない。今回候補から下げようか真剣になやみ……やっぱり下げることにした。足切りと同等程度の緊迫感を手軽に出せる魅力はあるが、昨今“攻撃”というアクションそのものが忌避される傾向にあるためだ。攻撃/交渉/競りの3つは、ゲーム内で生じた不均衡をプレイヤーたちに自力救済させる装置なのだが、あまりに投げっぱなしなものは嫌われるし、だいいち強者が攻撃できないわけではないので、たとえば「スルージエイジス」のように格差がひろがる可能性すらある。もう“ヘイトコントロールのうまいやつが勝つ”ゲームというのは古いのかも知れない。逆にヘイトを伴わない攻撃をさらっと自然に組みこめるようになれば素晴らしいのだが、それはある種の職人芸であってもう小手先とは言えない技術だろう。

コンポーネント:自由

14.持ち越し制限:一定以上の資源を持ったまま手番を終えたり、あるいはラウンド終了をむかえると超過分を失ってしまう。なぜこんな制限が必要かといえば、“しゃがむ”つまり後の先をとった方が有利なゲームでは、プレイヤーはわざわざ積極的な行動をしなくなるためだ。いわば強制的にゲームを前にすすめようとする機構である。たとえば「ハンザ」をプレイしてみれば、このメカニクスがいかに強い展開推進力をもっているかがわかるだろう。いっぽう資源のため込みがなくなることでコンポーネントの節約につながるという利点もある。

コンポーネント:チップ、タイル、カード

~構築:ヤメ。ヤメヤメ。これはゲームのメインエンジンとして思案すべきメカニクスであって、付け焼刃的に論ずるものではない。デッキ構築、ダイス構築、ダイス“目”構築、ロンデル構築、バッグ構築……いろいろ出たが、どれも味付けレベルではなく主要メカニクスといっていいだろう。唯一(?)「グレートウェスタントレイル」のロンデル構築だけはぜんたいの半分くらいの容量だが、あのゲームとてロンデル的な部分を後づけしたわけではないからね。

15.タイムトラック:「テーベの東」「オリンポス」「グレンモア」…なんでも良いが、列の後ろから手番が回ってくるメカニクスだ。「連続手番して気持ちよくなりたい!」という人間心理をうまく利用している。ある意味90年代終わりに流行った“アクションポイント制”の変形と見ることもできるのだが、1アクション=1手番と分割化したことで、長考や差戻しなどのダレる要素を省くことに成功したと思う。ただしなかにはうまく機能しきっていない(刻んだ方がずっと強いのでみんな刻みまくる)ものあって、それは各アクションの価値が平準化しすぎていることが原因と考えられる。つまり1時間消費のアクションがきちんと3時間消費のアクションの1/3以下の効果になっていないのだ。するとみな1アクションを連打しはじめて(連続手番もやりやすいから)地味な展開になってしまう。ぎゃくにいえば“各アクションの価値計算”がデータとしてそろっているなら非常に有効なメカニクスだということ。

コンポーネント:コマ、ボード

16.両隣りと戦争:「世界の七不思議」「ペーパーテイルズ」などでおなじみのマジョリティ要素。「中央ボード上でわちゃわちゃやるゲーム」から「個人の箱庭世界を育てるゲーム」へのシフトが起こった結果、中央にあったパラメータやコマが各プレイヤーの前に存在することになった。こうなると全体でのマジョリティ争いは常に各人を平等ににらんでおかねばならず、目も脳もつかれる。なので両隣りとのみケンカしようという建付けに進化したのだ。とはいえやはりわかりやすいに越したことはないので、戦争に用いるアイコンは特に目立つ姿にデザインするのが望ましい。

コンポーネント:自由

17.食糧供給:雑に殴っときゃいい、とは書いたが、じつはたんなる食糧供給システムだけではワーカーの多いプレイヤーをいじめにくい。「アグリコラ」を例にとるならば、ワーカー2人より3人のほうが食いやすいのだ(1手が3飯以上の行動をとれる公算がおおきいため)。また、需要がふえれば世界から食糧が消える速度もあがる(≒1手の効率が落ちる)ため、ワーカーの少ないプレイヤーはさらに窮乏することになる。手数イコール正義をくずしたいなら、もっと累進性をあげてやるのがいいだろう。

コンポーネント:チップ

18.流動ダッチオークション:わかりやすくするため、“流動”の文字を加えた(この用法は10年ほど前にtarrasimaさんが使っておられたように記憶している)。「ショーマネージャー」に代表される、買うと後ろのカードが詰められて安くなっていくカードドラフト方式。「フィレンツェ」などのように、資源をカード上におくかたちで支払わせると、価格を書いたボードすらいらなくなる。手軽に実装できるため本当にたくさんのゲームに採用されているが、気を付けて欲しいのはお金や資源がじゃぶじゃぶだと値段が意味をなさず、カツカツでは後列部分が予告にしかならない。カード1枚の価値の幅を大きめにとって、ダイナミックに市場が動くようにするのがいいだろう。

コンポーネント:カード、チップ

19.初期目的カード:きわめて安易な手段ではあるが、初期に配るたった1~3枚程度のカードで“情報隠匿”“早い段階での指針”“勝ち筋や展開の多極化”などを比較的簡単に実現できる。とくに最後の“多極化”は重要で、ゲームスタート時、プレイヤーはだいたい似たり寄ったりの状態からはじまるため、戦略が正面からかぶりやすい。そうなったらただの先手有利ゲームになってしまう。「あいつは右にいったけど俺の目的カードは左だから左にいこう」と自然にプレイヤーの方針を分化させることができる。ただし、これも程度ものであって、あまりに初期目標の比重が大きすぎれば、プレイヤーは自由意志を否定されお使いをやらされているような気分になってしまうだろう。「チケットトゥライド」や「ストラスブール」のように、最初に自由に捨てさせてあげるのも良いだろう。

コンポーネント:カード

20.掛け算得点:これも非常におおい。乱暴な言い方をするなら株系のゲームはすべて掛け算システムだ。プレイヤーは“掛ける数字”と“掛けられる数字”両方とも伸ばさねばならず、自然と同じ行動を繰り返さなくなる。気をつける必要があるのは、2つのパラメータのバランスや獲得難度が不均衡であれば、勝敗はいっぽうのパラメータだけで決してしまうことになる。たとえば「コンコルディア」は素晴らしいゲームだが、盤面は適当にやってもある程度伸びるのに対して、カードは積極的に買いに行かねばならない。そのため結局のところ「カードをより多く買えたもの」が勝ちやすい構造(もちろんデザイナーの想定の範囲内だろうが)になっていて、プレイヤーにそれを気づかせる動線がやや薄いように感じる。これは極めて出来のよいゲームゆえ許されるのであって、我々がデザインする場合は、プレイヤーにたいして「ここに掛け算の偏りがあるよ」と“目くばせ”くらいする必要はあるだろう。

コンポーネント:自由

21.シャハト算(三角数):1、3、6、10、15、21……「コロレット」でお馴染みのどんどん巨大化していく数値だ。5個めあたりからの伸びが極めて気持ちよく、プレイヤーに「特化」という指針を与えることになる。ただ難点もあり、まず数値が55を超えたあたりから体感の伸びが鈍化する。わざわざキリの良くない数字を用いている以上、快感を伴わなければ意味は薄いので、12段階以上あるパラメータに実装するときはすこし注意しよう。また「特化」とは「住み分け」にほかならず、終わってみると各プレイヤーが自分の担当パラメータを上げるだけのゲームだったね、という争いや刺激のない展開におちいるおそれもあり、こちらにも注意が必要。大きな累進性を利用して、上述の食糧供給と組みあわせるのも面白いだろう。

コンポーネント:自由

22.チャデク式:いくつか説明的な表現を考えてみたが、あまりしっくりくるものがないのでこの呼称のままにする。カードの上下左右にアイコンや効果が書いてあり個人ボードに上から差すか、右から差すか、などによって見えている部分の効果を適用するというもの。「イノベーション」「ラグランハ」、近年なら「リバイブ」もこの系統だろう。1枚のカードに情報を集約させるため同人ゲーム向きでもあるのだが、あまりに多くを詰め込みすぎると混乱のもとになるし、なにより見た目の“圧”がすごいので、ビギナーお断り感を醸してしまうのも問題点だ。アイコンを配置するのは2辺くらいにしておいて、「上にずらすか、下にずらすか」程度でも、じゅうぶんしっかりした選択肢として機能する。

コンポーネント:カード


ここから2021年に追加したものを吟味していくが、こちらはもともと文章が長いので、補足程度にとどめる。

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ウィンストンドラフト
:「雲海」「マメィ」など。“カード1枚の価値を低くする”とは、単にカードぜんたいの期待値を下げるということではない(それでは意味がない)。ハズレカードを積極的に入れたうえで、なかにキラキラの大当たりカードも仕込んであげる。こうすることでウィンストンドラフトの醍醐味である“宝さがし感”が強調されて、より奥深くを掘りたい!とプレイヤーに前のめりになってもらうことができるのだ。

(2023/12/06追記)☝上記の記事に対して、Xで「ウィンストンドラフトはルールの叙述コストが高く、サブメカニクスとして用いるのは難しいのではないか?」という意見を頂戴した。たしかにおっしゃるとおりで、どんなに良質なメカニクスでもルールブックで膨大な紙幅を食ってしまえば、脇役には回しづらい。じっさい例にあげた2作品ともウィンストンがゲームの主体を構成しているといえる。拙作「薬草ひとついかがですか?」はウィンストンだけのゲームではないと思いたいが、反論に自分のゲームを用いるのは学生時代に教授の著作を死ぬほど買わされた身としてはやりたくない。なのでこれはいったん候補から外すことにして、下記☟に新しくひとつ挿入させてもらった。

23.流動アクション強化:5つ前後のアクションカードを横1列にならべ、使ったものはパワーレベル1にダウン、空きを詰めるかたちで残りはパワー強化、というもの。「シヴィライゼーション:新たなる夜明け」で注目をあび、「アークノヴァ」で一躍メジャー入りを果たした、新しいアクション選択メカニクスだ。BGGではIncrease Value of Unchosen Resourcesと呼ばれているが、直訳して“非選択リソース増加”とするのも野暮ったいため、暫定的に上記のように訳した(ほかに良い呼称があれば教えてください)。擬似ロンデルから“使用済みアクションの回収”という概念をなくし、流動ダッチオークションに近い方法で自動強化されていくアクションを視覚化している。これから採用ゲームが増えていくだろうが、非常にキャッチ―なギミックだけに「ああ、アークノヴァのアレね」で流されてしまいかねないのがすこし怖い。
コンポーネント:カード


24.2段階~:「フォーセール」は2段階競りにあたる。乱暴にいえばリソースマネジメントのほとんどが2段階構造を持っている(資源の獲得→得た資源で得点の獲得)のであるが、ここでは「カードでカードを獲得する」「資源で資源を得る」「足切りに生き残ったものにさらに足切りを課す」など、1回めと2回めが同質にちかいのものを考えることにする。ここまで述べてきたサブメカニクスの多くは2段階化することが可能だ。従来の体験の目先を変える効果があると同時に、説明の手間をはぶくことにもなる(似たようなことを2回するわけだから)。ただし2回行わせるぶん何かの要素をかわりに抜いてやらないと、ゲームの総量が無用に重くなってしまうおそれがある。

コンポーネント:自由

25.減点方式:採用しているゲームが多いため例は省く。得点をチップなどで管理する場合、加点するいっぽうでは銀行が尽きてしまうし、ゲーム終了時の計算も煩雑だ。定期的に減点で得点チップを吸い上げることで、少ないコンポ―ネントで回せるようになる。このへんは持ち越し制限や食糧供給とおなじ。「たんにプラスがマイナスになって見方が変わっただけじゃないか?」という意見もあるだろうが、「加点を取りに行く」行為と「失点を押し付ける」行為とはけして対称ではなく、ときとして根本的に異なる考えかたをプレイヤーに強いる(そしてそれが心地よいストレスになる)こともある。そこに気づけば、減点もまた豊かな地下世界だということが分かってもらえると思う。

コンポーネント:自由

税金:プレイヤーの資産に制限をかけるメカニクスの紹介が多いため、税金はいったん候補から外すことにする。例えば“支払い後に”あるいは“ラウンドの特定のタイミングで”手持ちのお金を半分にする、というルールなどはプレイヤーの計画性をためす面白いメカニクスではあるのだが、既出の「持ち越し制限」や「食糧供給」のほうがデザイナーにもプレイヤーにも分かりやすい。

26.自分が邪魔!:配置した自分のコマ、自分の建物が邪魔になってリソースの拡大を止めてしまうジレンマ発生装置。「ビール侯爵」にしろ「ジューシィフルーツ」にしろ、ある分岐点からほんとに生産力がガタ落ちして心配になってくる。気をつけるべきなのは、ブレーキが利きすぎればゲーム全体がつよい縮小再生産におちいってしまうこと。うまく調整しないと誰もゴールテープを切れないまま終盤がダラダラとつづく羽目になる。

コンポーネント:(個人)ボード、タイル、チップ

27.勝手に~:イベントやbotだけではなく、例えば「グラスロード」の回転ギミックがよい例だが、このゲームでは一定の条件で資源が別のものに変換されてしまう厄介な常時能力をプレイヤー自身が抱えている。こういった「負の自動変換」と対峙するようなゲームがもっと世の中にあっても良いと思う。

コンポーネント:チップ、(個人)ボード


ここで終わってしまってもいいのだが、復習と補足ばかりでは味気ないので、あと5つほどサブメカニクスを追加しておこう。


28.ひとりロンデル:通常、ロンデルとは各プレイヤーのコマがひとつずつあり、それぞれ別々の場所を回っているものだが、「パッチワーク」「サンティアゴデキューバ」「ハンザ」などのコマはぜんたいで1個しかない。必然的に左隣りのプレイヤーの狙いを予測し、嫌がる位置でアクションを終えようとするだろう。コマを減らしてインタラクションは増える。いいことずくめではあるが、プレイヤーは結局自分の手番が来てみるまでコマの位置(≒アクションの選択肢)が確定しないわけで、長考を誘発する危険性をはらんでいる。またそれゆえアンコントローラブルな印象を実際以上に与えやすくなってしまう。これを避けるためには2人戦にしたり各アクションの代替性を高めたりして、ある程度事故らないよう、見通しの立つようケアしておく必要があるだろう。

コンポーネント:コマ、タイル

29.トコロテン~:押し出しギミック、と言い換えてもいい。「ホームステッダーズ」「アメンラー」「ランカスター」は押し出し競りゲーム、「狩猟の時代」は押し出しワカプレとでもいうべきもの。押していった結果、先住コマは違う効果に変わったり、べつの場所に飛んだり、あるいは持ち主のもとへ逃げ帰ったり。いずれにせよ無機質なキューブやミープルが他者の行為によってどかされたり弾きとばされたりする姿は人間的で、ただそれだけですでに面白いと言える。メカニクス重視をうたわれるゲーマーズゲームに採用されることが多いが、あんがい“ごっこ遊び”に通じる原初的な感情を満足させる機能もあるのではないだろうか。

コンポーネント:コマ、ボード

30.マストフォロー~:トリックテイキングからの輸入メカニクス。「キーフラワー」は同じ色のミープルしか競りに参加できず、「アサラ」は同じ買い付け人しかアクションがうてない。いずれもその場所に最初に置かれたカラーに従う(=マストフォロー)ため、先手番がたいへん有利にはたらく。こういうタイプでは、次ラウンドの手番もゲーム内で取りにいかせる構造にしたほうが良いだろう。単純にワーカーや資産を沢山もっているプレイヤーも締め出しを食らうとひどい目にあう可能性があるため、早取りが激化してゲーム全体が引き締まる効果が期待できる。いっぽうで目を配るべき箇所が増え、ゲーマー寄りの作品になってしまうのは致し方ない。

コンポーネント:自由

31.手番指名:規則ただしく時計回りに手番がうごくのではなく、例えば「星の王子様」ではロチェスタードラフトの次の手番プレイヤーを現手番プレイヤーが指名する。「オアシス」や「新世界」「マメじゃないよ」ではより高価値の提示を行なったプレイヤーに“手番権”がうつる。風変わりなギミックのように見えるかも知れないが、考えかたとしてはむしろ古い部類で、プレイヤー間で手番順を調整することによりバランスをとってもらおうという方法だ。交渉やどつき合いをさせるよりははるかにスマートなので、これからもしばしば採用されることになるはずだ。手番があっち行ったりこっち来たりするので、手番にやることはカードやタイルを得る、コマを一個置く、くらいの単純作業にしておかないと混乱してしまうことに注意。

コンポーネント:カード、タイル

32.おなじ数字は一度しか数えない:「ゼロ」「なつのたからもの」「ラマ」。 おわかりだろうか、クニツィアがたいへん得意としている計算法だ。9を3枚もっていても9点!たいへん分かりやすく、計算も楽。もちろん加点にも減点にも使える。ただしこれだけではインパクトに欠けるのも事実。上述したゲームも、「5枚そろえたらそもそも数えなくなる」「3枚そろえたら10点」「9失点よりもいっそ10失点のほうがいい」など、さらにひとひねり加えてみせている。まさに小手先メカニクスのラストを飾るにふさわしい、それだけでは機能しにくいが汎用性は高いパーツだと言えるだろう。

コンポーネント:カード



……以上、32のアイデアを総覧、概説してきました。あらためてすべてを一枚の画像に収めたものを公開しておきます。タイトルは【小メカニクス集32】とでもしようかと思いましたが、これがすべてではない(あぶれたものの価値が低いわけでもない)ので、あまり大層にせずもとのネーミングを残したうえでさらに2週間のゆとりを設けました。
もちろん文責はN2にありますが、画像の著作権じたいは放棄しますので、皆さまご自由に利用ください。

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12月9、10日に開催の ゲームマーケット2023秋 にサザンクロスゲームズも出展します! 
 今回の新作は、ゴーストキッズフルハウスと、「勝てば勝つほど弱くなる」生き残り系トリックテイキングゲーム、トリックラナウェイです。

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ドラゴンさんを怒らせてしまったのでみんなで逃げましょう!
いちばん遅いひとは炎の息🔥に焼かれ、負傷してしまいます。
ではいちばん遠くまで逃げたひとは??ちょっと嫌な“呪い”をもらうことになるのです……

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呪いは2種類。「逃げ足=カードランクがおそくなる呪い」と「ダメージが増える呪い」です。どっちもジワジワ効いてきます。

あなたは無事生きてダンジョンから脱出できるでしょうか?
……まあさきに2人くらいドラゴンの胃袋に収まってくれたらいいんですけどね。。
(※写真は開発中のもの)

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カード72枚、キューブ15個いり。
ゲムマ頒価2000円になります。

どうぞよろしくお願いします。

ルールブックはこちらからご覧になれます。
トリテの専門用語をできるだけ減らした詳しいルールはこちらです。

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