AUXILIA

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ゲムマ春が近づいてきましたね。

5月13、14日です。サザンクロスゲームズは両日とも出展しますよ。
今回の新作は2本立て。エイジオブウィルの拡張セットと、
「下げ競り」&「建築(タスク管理)」が組み合わさったスピーディなSFゲーム、「エイジオブムーン」です。

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近未来。人類初の月面都市が舞台です。

プレイヤーは巨大コングロマリットとして、様々な公共プロジェクトに参画しながら月開発を進めます。

ただし、この世界の仕事にはひとつの“ルール”が存在します。それは…

「労働者は企業と公共事業をセットで働かねばならない」こと! プレイヤーは労働者キューブをまず手元の事業カードから取って…
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中央の公共事業にある同じ仕事に配置してあげます。 これで元のカードから1個タスクが減りましたね。これをゼロにする=労働者をなくしたとき、その計画は完成します。
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さて、中央にはこんな感じで公共事業が並んでいます。みんなが置いた労働者でどんどん埋まってきてますね。
FuKIHwPakAAO3VU プレイヤーはいい感じに育ってきたカードを「引き取る」ことで、自社の事業にしてしまうことができます。いわゆる“払い下げ”です。

引き取られた事業は、さっきまでの進捗をそのまま引き継ぐかたちでプレイヤーのものになります。 ということは、引き取り前にたくさん埋まってる↓↓↓カードはあと赤と緑の仕事だけなので…
FuKKZlCaIAADlfY 引き取り後は完成までの残りタスクが少ない状態からスタートです。
FuKKZl0agAIEY6H つまり自社のことばかり考えて公共事業に派遣しすぎてしまうと、

隣りのプレイヤーに“完成間近のプロジェクト”を献上することになってしまいます。 カードの価値を見極め、リターンの高い事業を手に入れて、月世界最優良の企業を目指してください!

FuKMebpacAEDJVE エイジオブムーンは「ク05」にてイベント価格3000円で新発売です!



ルールブックはこちら
です。

事前のご予約フォームは↓↓↓です。

サザンクロスゲームズ&芸無工房ご予約フォーム

ずいぶん暖かくなってきましたね。N2です。

さて、ご好評をいただいております「エイジオブウィル」に、拡張セットが登場します。

「エイジオブウィル拡張 ‐インフ城の反乱‐」です。

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ルールはこちらに置いておきます。


基本セットの紹介はこちらから


前作でようやく引退できると思った王さま。しかし反乱の兆しをうけて退位は延期、

軍勢をひきいて討伐に向かうことになりました。

しょうじき気乗りしない王さまは、揺れる鞍上でもずっと建築のことばかり考えています。

「都の大聖堂が気にかかる…わしが死ぬまでにちゃんと出来上がるんだろうな…

そうだ、インフの砦の近くにちいさな離宮を造って、そこから指揮をとるとしよう、

この戦、どうやらひと月ふた月では終わりそうにないからな…」


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カードは基本セットと同じ32枚。一緒にまぜて遊びます。

山札が倍に増えたので、5人でも問題なくプレイできるようになりました。

さて、新要素として「軍団」アイコンが追加されました。

普段はどうということのないシンボルなのですが、建物の効果によって

巨大な得点を生んだり、装飾アイコンの代わりになったり…

さまざまなメリット(ときにデメリットも)をもたらします。

基本と合わせて60枚を超えるカードの組み合わせによって、さらに多彩な展開が楽しめることでしょう!

イベント頒価1500円になります。が!基本セットと同時購入していただけると500円オマケします。

5月13、14日に開催される「ゲームマーケット2023春」で販売します。どうぞよろしくお願いします。

事前のご予約フォームは↓↓↓です。ご予約いただけると持ち込みの計画が立てやすくなります。

サザンクロスゲームズ&芸無工房ご予約フォーム

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この記事はBoardGame Design Advent Calendar 2022 の第1日目の記事として書かれたものです。


今回のアドべントカレンダーの企画でご覧になられる方もいらっしゃるかと思いますので、最初に軽く自己紹介をいたします。


わたくしN2は、Suthern Cross Games【サザンクロスゲームズ】というサークルで、もうかれこれ10年ほどゲーム制作やディベロップに携わりながら口に糊している者です。


大小40作ほどリリースしてきたなかでは、リソースマネジメント(資源管理)を伴うゲームが多いです。あまり代表作とか言うのも恥ずかしいですが、『エイジオブクラフト』『エイジオブサモナー』『エイジオブタイラント』『薬草ひとついかがですか?』『エイジオブジャーニー』あたりがそれでしょう。最新作は『トリックレイダース』と『エイジオブウィル』です。詳しくはこのブログを見てください。


…筆者のことはもういいです。今回のお題は「葦」ですから、皆さんもこれからは葦について考えることに集中してください。



◆葦とともに生きる

突然ですが、皆さんはアグリコラの「葦」という資源についてどのような意見をお持ちでしょうか?

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え?特にないって??


いやいやいやいやいや。。ゲームデザインに関心がありながら、「葦」に対しては一家言もないようではいけませんよ。アグリコラを遊ぶ際にも、葦への深い理解があるとないとでは勝率にもかかわってきますし、デザイナーならなおのこと、この混迷の時代、我々ひとりひとりの葦に対する視点=「葦観」がつねに試されているといっても過言ではないのです!


「葦観」の欠如にお悩みのかたは、ぜひ以降の論考を読んでもらって、あらためて「葦」をじっくりと見つめ直し、向き合ってください。かならずご自分なりの意見が醸成されてくるものと思いますし、その経験はこれから貴方がリソースマネジメントゲームをデザインする上で、かならず力になってくれることでしょう。



◆アグリコラとは?

そもそもさっきから葦、葦、とうわ言のように呟いてるのはなんなんだ?というかた、どうやら貴方は『アグリコラ』というボードゲームをご存知ないようですね?
…それは素晴らしい!!はっきり言ってアグリコラは面白すぎます。ハマってしまったら最後、ただの時間泥棒と化し、人生がなかば支配されます。筆者はこの10年で対面で800戦以上は遊んでいるので、準備を含めて1ゲーム100分と仮定してもざっと1300時間ほど溶けてしまった計算になります。正直やらないに越したことはありません!


それでも興味のあるかた向けに、ざっと解説します。まあこの記事を読んでいる紳士淑女の98%はプレイ済みかと思いますので、読み飛ばしていただいて結構です。


『アグリコラ』は2007年にLookout Gamesから発売された、ウヴェ・ローゼンベルクによるワーカープレイスメントゲームです(※2016年にリバイズドエディションが発売されているが、ここでは特段区別しない)。近世初期の農民になって小麦を植え、牛や羊を飼いながら豊かな農場の開拓を目指しましょう。

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【プレイ中の風景(最終盤)。ワカプレで資源や得点源を奪い合う】


ゲーム全体のおおまかな流れは、

「多額の資源を払って屋敷を広げる」

→「増床した屋敷に住むかたちでワーカーを増やす」

→「増えたワーカーも総動員で食糧(減点回避/通貨)、畑(農作物を増やす)、柵(家畜を殖やす)、改築(純粋得点)などの得点行動を取る」

の3ステップから成るのですが、そこに10枚の大進歩(中央にあり、早取り競争にさらされる食糧基盤/得点カード)300枚以上のやんちゃな効果を持つ個人カードが投入されます。これらの組み合わせにより、遊ぶたびに激しく展開が変わる多様性が魅力です。この種のゲームの例にもれず、プレイヤーを飽きさせないよう拡張カードも多数リリースされています。


ただし、一手一手のアクション自体は素にして簡潔であり、ワーカーの排他性も厳格です(お金やワーカーの上乗せなどで後入りできたりしない)。同種のジャンルではもう古典といって差し支えない作品ながら、近年のフリーアクション過多なゲーマーズゲームが氾濫する中にあっても、いまだ輝きを失っていないのはこのためでしょう。

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【ゲーム終了直前の個人ボード。最初はほぼ何もないが、得点源を保持するために発展させる必要がある】

◆資源間距離と資源マップ

では、ここから少々専門的な話に入っていきます。アグリコラには四種類の建築資材が登場します。すなわち、木、レンガ、石、そして葦です。


※小麦や野菜、羊に猪など他にも資源と呼ぶべきものはあるのですが、建築行動に付随して消費しないのでここでは関知しません。(また「資源とは何であるか?」という大前提的な問いも、本論では重要ではないので割愛する)


・木は「屋敷の増築」と「柵の建設」という避けては通れない行動に必須であり、どんな展開になっても全員が奪い合う資源です。

・レンガは食糧基盤を整えるために重要であり、また改築や(場合によって)二回目の増築などに用います。

・石はというと、改築、そして高得点カードを出すためのコストとして、もっぱら得点源として見られます。


じゃあ葦は?これが、困ったことにひと言で言い表せません。「増改築にちょろちょろっといるかな?でも結構大事だよ」みたいな説明のされ方をよく見ます。普通に遊ぶぶんにはそれで問題ありませんが、いちデザイナーの目線からはもっと大切で、もっとくせ者で、「資源という表現の豊かさ、面白さ」が詰まった存在に見えています。


突っ込んだ話しをするには、まずはツールが必要です。(複数の)資源について語るときの手法として、まず「資源間距離」という考え方を提示しておきたいと思います。

(※勝手に筆者が唱えている用語で、ゲームデザイン界隈の人口に膾炙しているわけではない)


資源間距離とは何か?それは、「各資源がどのくらい結びついているか」です。これを平面的な図――ここでは「資源マップ」と呼ぶことにします――に落とし込むことにより、ゲーム内での資源の役割を視覚的に理解できます。またリソースマネジメントゲームをデザインする際には、資源マップは用意する資源の設計図になる訳です。


われわれもアグリコラの資源間距離を図面化してみましょう。


しかし結びつきをどうやって客観的に評価すれば良いのでしょう?評価軸はいくつかあってゲームごとに変えるべきなのですが、ここでは以下の視座から見ていきたいと思います。


「普遍的な局面で同時に運用される資源はどれとどれか」


※気を付けたいのは、評価すべきは「価値」そのものではないこと。例えばプエルトリコの煙草は砂糖より価値が1ランク高いという事実は動かしようがないですが、それはあくまで上下の階層(ヒエラルキー)であって、両資源の平面的距離間とはあつかいが異なるものです(直接に関係しないだけであって、たとえば生産施設の値段などから相棒になりやすい資源/疎遠な資源はある)



◆結節点(ハブ)としての葦

「普遍的」と書いたのは、おおよそどのセッションにおいても発生する/考慮されうる、ということです。


一例をあげるならば、個人が持つカードに「離れのトイレ」というものがあり、コストは「木とレンガ」ですが、300枚以上あるカードのほんの1枚にすぎず、特定のセッションに登場する可能性は低確率です。これは普遍的とはいえず、評価の俎上にのせるべきではないでしょう。


いっぽう10枚の「大進歩」カードはどのセッションでも中央に存在し、チャンスと資源さえあればだれでも取ることができ、戦略の根幹をした支えしているものです。これは普遍性がじゅうぶんにあると判断できるため、そのコスト・ディストリビューション(配分)はしっかりと吟味すべきでしょう。


「同時に運用される」とは、ようは「2種類以上の資源が一緒くたに支払われる」という状態を指します。一緒に消費するためには同じタイミングで所持していなければならず、そういう局面が多い資源の組み合わせは、「結びつきが強い」と言えるでしょう。


上記を勘案した結果、アグリコラでは3つの行動において「資源の混在支払い」が発生していると言えそうです。


A:増築

屋敷を建て増しして、ワーカー数を増やす条件をみたすための行動で、序盤の最重要課題です。

B:改築

よりグレードの高い屋敷にリノベーションして得点を稼ぎます。

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【写真A:増築と改築に必要な資源と順番の典型例。上から木で増築→改築→レンガで増築→改築(2回目)】


C:大進歩取得

中央に10枚あるカードのうち得点の高い6枚はみな、石+何らかの資源をコストにしています。

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【写真B:とくに左上の「井戸」は4点と高く、中盤の終わりまでにどうにかして手に入れたい】

このABCをもとに各資源の距離を捉え、簡便な図に起こしてみると、おおよそ以下のようになるはずです。
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【実際のゲーム設計で用いる資源マップは、ここに「役割による方向」という情報が加わることも多い(上図では→が通貨、↓が得点、←が機会を指しているが、本筋から外れるため詳述しない)】

大進歩での混在の多さからレンガと石の距離はやや近くに、逆に木とレンガの関係は疎遠になっていますが、注目すべきは葦の面白い位置取りでしょう。


増築と改築というふたつのアクションを通して、葦は他3つすべての資源と密接な関係を築いています。まして大切なのは、すべての増改築において必要なのは「何らかの資源+葦」であって、他の資源同士は別に必要とし合っていないということ。たとえば増築がひととおり済むまで、レンガにまるで触らなくとも構わないのです(実際、そういうプレイングも存在する)


木とレンガ、レンガと石、石と木との間に生じているどの距離よりも、各資源と葦との距離は近く、「濃い」関係性にあるのです。いやむしろ、葦という資源がなければ、ほか3つの資源の立ち位置は遠く、どこへ飛んでいくか分からないと言っても過言ではありません。


このような状態にあるモノを結節点(ハブ)と呼びます。「ハブ的資源であること」、これがアグリコラでの葦の第一の性格です。


作者ローゼンベルクの勇気には感服します。なぜなら、一種類の資源をこれほど強固なハブとして多用する胆力が、自分にはないのです。ハブであるということは超重要であるということであり、奪い合いに敗れることがゲーム全体の敗北に直結しかねないということです。現実のセッションでも、葦を上手く獲得できなかったために増員レースからずるずると脱落する者、終盤の葦1個を取る手が遅れたばかりに改築できないまま終わった者の無残な姿を無数に見、また自分もそのなかに加わることもありました。


凡百のデザイナー(もちろん私のその中に入ることを認めます)ならば、葦にリスクが集中することを恐れて、基本ルールのなかに増築コストの迂回路を用意してしまいそうです(代わりに大進歩の葦コストを増やしてバランスを保つ)。しかし結果からいえば、現状で大正解です。葦に絡まない増築ルートを組み込んでしまうと、序盤~中盤の資源獲得の動きが「なんでもアリ」になってしまいます。それはワーカー増加の間口をいたずらに広げることになり、ゲームを散漫なものにするでしょう。プレイヤーの視線がつねに「葦のゆくえ」に注がれることが、刺激と緊張感を生みだすことにつながっているのです。



◆フラットであることの難しさ

さて、ちょっとわき道に逸れます。ここまで読んできて、疑問が浮かんだ方はいないでしょうか。「こんな図なんかいらないゲームもあるんじゃない?」


その通り!世にはフラットな資源の関係性を採用しているゲームだってあるのです。「フラットである」ということは、各資源が等距離の位置にあり、均質な独立性を保ちながらみなと同じだけ結びついているという状態です。具体的には『ギズモ』や『魔法にかかったみたい』などがそうだといえるはずです。
「等距離の方が作るの簡単そう!バランスも崩れないし良いことだらけじゃん。みんなそうしちゃえばいいのに。」いえいえ、これは口で言うほど容易いことではありません。


例えば高名なゲームをあげると『世界の七不思議』は茶色の四資源と灰色三資源は異質な結びつきをしており(二世代目の黄色建物のコストから、木が茶色資源の、レンガが灰色資源の結節点になっている入れ子構造)、『宝石の煌めき』も、必要コストから求められる資源間のアライアンス(仲の良さ)が知られています。つまりこれらのゲームの資源は「カードコスト」という単一の役割にもかかわらず、歪な距離間にあるわけです。


なぜそうなるのか?これはまず資源の種類数に原因があります。乱暴にデザインしてもなんとか等しい距離を保てるのは、3種類までです(三角形の頂点を思い浮かべてください)。これが四角形、五角形になるにつれ、だんだん対岸とは疎遠になり始めます。
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もちろん概念上の資源の世界は平面(二次元)ではないため、5種6種でも努力次第で完璧に等質に組むことは可能なのですが、まあ、よした方が良いでしょう。そうまでして構築した均一な資源間距離の世界で、プレイヤーは何を指針に資源を集めてゆけばいいのでしょうか?「とっかかり」がないということは発見や興奮を生む要素を削っているのであり、プレイヤーからすればかえってゲームの印象がぼやけたものになってしまいます。


それがわかっているゆえに、多くのゲームでは「わざと」資源の関係に偏りをもたせているのです。

そのなかでもアグリコラの四種の資源は性格わけでも距離間でも、かなり歪な構造をしていると言えるでしょう。



◆変わってゆく面白さ

さて、資源のマッピングは終わりました。しかし今までの話しには寄って立つべき軸がひとつ欠けています。それは「時間」。つぎはゲームの経過によって変化する重要度についてのお話しです。


先ほどフラットな資源のつまらなさについて書きましたが、それは「変化」ということにも適用できます。資源に特徴がないということは、ゲーム中その資源が必要になる時期がどれも同じ(ランダムなめくり運などをのぞけば)ということです。現実世界のリソースと同様、需要がゲーム中ゆっくりと変化してゆき、しかもその曲線が資源ごとに大きく「ずれ」をきたしている状態は、プレイヤーに常に「いまここで得るべきか、あるいは後回しにして1ラウンド待つか」という考え甲斐のある選択を突きつけます。その好例を、われわれはアグリコラで見ることができます。


ここでもやはり視覚化を試みます。アグリコラのゲーム内時間を4つに区分してみましょう。そこに各時間帯での資源の需要を投げ込んで、グラフ化してみました。

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【序盤(1~2ステージ)、中盤(2~3ステージ)、中終盤(3~4ステージ)、最終盤(5~6ステージ)】

木が本当にいつでも大切であること、石が後半になって俄然有用性を増してくることがわかります。


しかしやはり面白いのはレンガと葦です。

レンガは食糧基盤を整えて1回目の改築を行なう中盤~終盤のはじめに重要性が増し、以降急速に人気がなくなります。


葦はというと、これは序盤最優先の資源なのですが、増築戦争がひと段落するころにはだんだん不要になり、中盤の終わりには邪魔もの扱いされてダボつきはじめます。このまま見向きもされないのかと思いきや、最終盤、あと1、2Rとなったときに、2回目の改築という大得点行動を見越して葦はふたたび輝きはじめるのです。


このジェットコースター的乱高下こそが葦の魅力であり、一旦不要になりかけた葦をめぐるプレイヤー間の押し引き(一手をさいて葦を取るのか、取るとしたらいつか、あるいは改築をあきらめるか)が、アグリコラという作品の醍醐味の一端を形作っているのです(よくカード効果ありきのゲームと言われるが、決してそうではない)


また、変化を楽しませるためには、逆接的ではありますが「各セッションを横断して変わらない点」も大切です。上に戻って写真Aをもういちど見て欲しいのですが、葦は特別なことをしない限り、ゲーム中6個しか必要ありません。しかし「強い最終形」とされる石の家4軒を形成する(=勝利に近づく)には、かならず6個は必要なのです。つまり極論すればアグリコラは「13ラウンドの途中までに葦を6つそろえるゲーム」なのです。他の資源や家畜、小麦や野菜にここまでハッキリとした宿題のような数値は用意されていません。
需要が移り変わってゆくなかで、セッションごとに必要個数さえもコロコロ変動するようでは、やはりとっかかりがありません。「最初から計算がきく部分がある」というのは思考の安息地になる訳です。



◆キミは複雑性をおそれるか?~豊かさを目指す~

そろそろまとめに入りましょうか。


本論ではアグリコラの葦を通して、均一ではない複数の資源の有り様を概観してきました。


①葦は他の3種の資源すべてと距離が近く、ハブ的位置を占めていること

②資源の種類を増やせば均等な距離は損なわれやすいが、かえって多様な距離感を作るチャンスであること

③上記の関係性と共存させながら「資源ごとに特徴ある需要の変化パターン」を用意できること


そしてこういった葦(を含む資源総体)の有り様が、ゲームの面白さに直結していることを説明したつもりです。

(…これは小言なのですが、まさにこの「葦」的なものこそ、近年のローゼンベルクが見失いつつある部分ではないかと思っていますが、長くなるうえネガティブな内容なのでここでは語りません)


言うまでもないことですが、「アグリコラの葦ってすごいよ」という主張をぶちたい訳ではありません。


有名ゲームの資源ひとつをとっても、これほど豊かな世界が広がっているのです。

私たちはついついゲームメカニクスという「大きな塔」にのみ光を当ててしまいがちです。その中にひそむ資源ひとつひとつは「小さな柱」かも知れません。しかし柱がなければ建物は立ちませんし、変化に乏しい平板な柱は、見る人をすぐに飽きさせるでしょう。


「さりとて資源の種類を軽率に増やせば、無駄に複雑性があがるだけではないか?」という意見もあるでしょう。しかし私が言いたいのは、まさに「勇気をもって複雑性をあげよ」ということなのです。


アグリコラは、世に出た2007年には(その面白さが多くのひとを惹きつけたいっぽうで)相当に複雑、いや一部煩雑なゲームとして認識されていた面もあったと思います。しかし近年発売された中・重量級ゲーマーズゲームの複雑さは、それはもうアグリコラの比ではありません。15年の歳月のなかで、ゲーマーはより複雑なものに楽しさを感じて選び取っていったのだと思います。


「シンプルなもの」「削ぎ取ったもの」「ミニマルなもの」これらはデザイナー受けは良いですが、それだけが優れたゲームではありません。いままで解説してきた葦と他資源との屈折した関係性は、シンプルさ、フラットさを愛するひとからは強すぎるアクと感じられるでしょうが、「美しいゲーム」ではなく「豊かなゲーム」をつくるうえで必要な野趣だと思ってください。

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【アグリコラの資源は本当に歪。供給量からして全然違う。さあ、あなたはこのラウンドに葦を取れるだろうか?】

本論は、一部私の主張や意見もあるものの、ひとつのゲームに焦点をあて特定の資源について「こういうデザインもあるよ」と提示してゆくという、なかば実例集の形をとることになりました。先ほども書きましたが、華やかなメカニクス談義のかげに隠れて、具体的な資源の実例研究が足りていないと感じたからです。


ゲーム制作の現場にあっては全くの独創ということはまずなく、結局のところ豊かなインプットのなかからしか良質なアウトプットは期待できません。

あらためて多くのゲームから多彩な資源の状態、関係性を学びなおし、自作に積極的に取り入れていくことができれば、(ひょっとするとアグリコラを超えるような)長く愛されるリソースマネジメントゲームを作ることができると私は思っています。






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