2009年02月

2009年02月28日

Sの男たち しんこう−03

−是非、よろこんで。よろしくお願いします。

ごく簡単なやり取りを続けたが、出張が重なり都合が合わずにいて、初メールから一ヶ月半経ってようやく顔合わせの約束にこぎつけた。

電話をすることはなかったので、メールのやり取りでの一ヶ月半。メールの文章から、相手のことをあれこれと思い描いていた。さっぱりとした、でも僕のことを気遣ってくれる文面。メールで教えてくれた風貌。心の中で想像が膨らんでいく。

桜の季節。ついに対面を果たす日がやってきた。

仕事を終え、地下鉄に飛び乗る。ドキドキしているのは走ったからだけではない。顔を知らぬ人との待ち合わせなんて何年ぶりだろう。期待と緊張のドキドキが多分に混ざっている。B駅に電車が近づくにつれ、なんだか顔が火照ってきた。今までのメールのやり取りを読み返しながら、B駅到着を待った。

改札を出ながら携帯を見ると、約束の時間よりも10分近く早い。待ち合わせ場所が近づいてくると、週明けの夜にしてはたくさんの人待ちふうで混雑していた。

もう来ているだろうか。ちゃんと見つけられるだろうか。電話をかけてみた。

「もしもし。Zです。こんにちは」
「あ、Tです。こんにちは」
はじめて声を聞く。落ち付いた感じの声だ。
「あ、はじめまして。よろしくお願いします」
「こちらこそ」
「僕、もう着いちゃったんですけど。どちらにいらっしゃいますか?」
「俺ももう着いてるから」
「えっと…」
「階段上がったら左の方にいるよ」
「今、階段上がりきるところなんですけど…、あ」
「え?」
「紺のブレザーなんですよね?」
「おう」
「あ、わかりました。見つけました」
「ん、どこだ?」
「すぐ、んー左前の方です」
「おっ」
電話から聞こえる声と、なまの声が重なった。

素敵な感じの人だ。会えてよかったと思った。飯を食いに行こう、そう言って歩きだした彼の後ろに、足取り軽くついた。

なんだろう、このワクワク ドキドキは。

2008年4月某日。僕の人生に彼が登場したことで、この日からの日常はそれまでとは少しずつ変わっていくことになる。

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2009年02月27日

ハッテン場の男 映画館−14

「そうだ。歯たてるなよ。舌の上にのせるんだ。どうだ」

―これが他人のチンポ? ちょっとしょっぱいし、ヌルヌルする。

「頭動かしてみろ。…そうだ。舌全体で包むようにして。おぉ、…気持ちいいよ」

これ以上どうしたらいいのか分からなかった。

―はやく時間よ過ぎてくれ…。

余計なことを考えずにしゃぶり続けた。漏れだした唾液と先走りで口の周りがドロドロになり、顎の関節がしびれてきた。

「どうだ? はじめてのチンポの味は」
口を離す。
「…」
「すぐ慣れるよ。そのうち欲しくて欲しくてたまんなくなるさ」
「…」
「そんな顔するなよ」
「…」
「どれ、俺がもっと気持ちよくさせてやるから」

自分が咥えたことによって、されるフェラチオが実感として感じられるようになった。チンポの先がとろけるような、蜂蜜に浸かっているような、チンポだけが体から離れて異次元空間に迷い込んでいるような。とにかく、今までに経験したことのない気持ちよさを感じ始めた。

彼は僕のを咥えながら、手で玉を揉み、竿を扱きもしてくる。次第に上り詰めてきた。

「気持ちいいか?」
咥えたまま聞いてくる。
「ウ、ウン」
咥えられたまま答えた。
「おいしいよ…」
「…」
なんて答えればいいのか分からない。
「男に咥えられるの初めてなんだろ?」
「はい」
「スゲェうまいよ。俺もギンギンだよ。ほら」
右手が彼の股間のほうへ引っ張られる。
「あ…」
「なっ。あぁー。俺とのこと忘れんなよ。初めてなんだから」

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2009年02月26日

ハッテン場の男 映画館−13

彼の頭がへそのあたり降りて行ったかと思うと、チンポが不思議な感触に包まれた。

―え!? フェラチオ? 何か、変な感じ…。どうしたらいいんだろう。このままでいいの?

彼は、僕の乳首を摘まみながら咥えている。ブズブズ、チャプチャプ。彼の口の中でチンポが唾だらけになっていく。

―これがフォラチオか。チンポを口にいれるなんて、本当にこんなことあるんだ。

僕は彼の揺れる頭を、しばらくの間しげしげと見下ろしていた。とても冷静に。与えられている刺激が、どこか他人事のようにも感じられるほど。

「俺のも舐めてよ」

口を離した彼は、運転席に座りなおし、ズボンを下ろした。

「早く」
「…えッ?」
「ほら早く。今俺がやったみたいにするんだよ」
「…」

身体が動かない。

「何してんだよ。自分だけが気持ちいいってのは、ないよな?」

―マズイ。やらなきゃ。で、でも…。

「ほら、やってみろよ」

左手で頭を掴まれ、強引に彼の股間に引き寄せられた。鼻と頬と目のあたりにチンポが擦りつけられた。

「あァァ」
「口開けろよ。ホラ、…ホラ」

―ついにチンポ咥えるのか…。

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2009年02月25日

ハッテン場の男 映画館−12

彼が僕の方を向く。おもむろに近づいてきた。思わず、ドア側に身体をよけた。が、背中に手を回され、そのままシートが倒された。

―え!? やられちゃう…の? この人に?

顔が近づいてくる。 
―逃げられない。

唇が触れる。 
―覚悟を決めるしか…。

舌が入ってくる。 
―何か生ぬるくて、煙草臭い。これが初キスか…。

舌が動いている。 
―やっぱりやだな、こんなの。でもいつかは…。

僕が抵抗しないと判断したのだろうか、彼の動きが大胆になった。左手で僕の肩を寄せたまま、右手でシャツのボタンをはずす。シャツが脱がされ、Tシャツも脱がされた。知らない人の前で、こんなに至近距離で服を脱ぐのは初めてだ。

乳首を舐められた。 
―あ、くすぐったい。

乳首を軽く噛まれた。 
―痛ッ。男同士でも乳首刺激するんだ。

僕は抱き返すことも、彼のどこか一部に触れることも出来なかった。カチャカチャ。ベルトがはずされようとしている。

―ついにきたか。いいのかな、このままで。今さら引き返せないよな。

チャックをおろされ、ジーンズのウェストの部分に手がかかる。僕は脱がせやすいように腰を浮かせた。ジーンズと一緒にパンツもおろされる。全裸で助手席に座っているのが、とても不思議だった。

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2009年02月24日

ハッテン場の男 映画館−11

「あの、本当にいいです」
「そうか? 一杯ごちそうするよ」
「いやぁ、ごめんなさい」
「遠慮するなって。まだいろいろ聞きたいことあるんじゃないの? コッチのこと」

しばらく押し問答が続いた後、ようやくあきらめてくれた。

―助かった…。

「京王だったら西口でいいか?」
「すいません。ありがとうございます」
「あんなに、怖がらなくてもよかったのに」
「いやそう言う訳じゃないですけど、ホントに…(売春はムリです)」

車が新宿のガードをくぐる。

「もう駅の近くだったんですね?」
「え? 今の2丁目だよ」
「えっ?」
「分んなかった? 来たこと、…ないか」
「はい」
「知ってはいるよね」
「え、はい」
「そうか。なら、そうと言ってくれればいいのに。それであんなに嫌がったんだ。思い切って来ればよかったのに」
「すいません」

車は駅に近づきそうで近づかない。高層ビルの谷間を走っている。すると前方に何もない空間が見えてきた。ビルで囲まれている空間だ。どうやら公園のようだ。車は公園の中のさらに細い道に入っていく。彼の顔を覗き込んだ。

「ちょっと、休もうか。なんだか少し疲れたな」

そう言って、路駐の列の最後尾に車を停めた。

―アレ、まずいかも。

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2009年02月23日

ハッテン場の男 映画館−10

「え、なに…」
「うーん、おじさんとホテル行ってお金もらう仕事。売り専って言うの」
「そんな身体売るなんて!」
「みんなやってるよ。ちょっとした小遣い稼ぎ、小遣い稼ぎ」
「無理ですよ…(売春なんて)」
「きっともてるよ。まだまだいろいろと知らなそうだし。肌きれいだし。可愛がられると思うな。なんなら紹介しようか?」
「え!? そんな気ないですよ」
「ハハハ、冗談だよ冗談冗談」

田舎では少なくとも僕の周りに売春に関わる子はいなかった。今、自分がその話題の近くにいることがちょっと恐ろしい気もした。

東京で車に乗せてもらうのは初めてである。まだ免許も持っていない。0時近いというのに車は多く、街は明るい。歩いている人もたくさんいる。僕ははとバスに乗る観光客のように、ついキョロキョロとしてしまう。彼は、何か大きな建物が見えるたび説明をしてくれた。

「まだ、時間大丈夫だよね」
「え、えぇ、あ、でも、あんまりもう…」
「ちょっと飲んでいかないか?」
「いや、いいですよ」
「心配するなよ。変なことしないって」
「本当に、新宿に着いたらもう帰ります」
「せっかくだし。知ってるお店あるから行こうよ」

程なく、車がビル(*1)の裏手に止まった。ここがどこだかは分からないが、ネオンが怪しく輝く細い路地がこっちにも向こうにも続いている。

「あそこのお店なんだけど」
「え? どこですか?」
「その茶色いビルの地下。階段見えてるでしょ。行ってみない?」
「いや、本当にいいです」

僕は、その地下へ続く階段の上に出ている看板を見て驚いたのだ。
看板に書かれていた<69>という店の名前を見逃さなかった。絶対変な店だ。入ったら身体を売らせられるかも…。

(*1 今にして思えば、ビックスビルの裏)

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2009年02月21日

Sの男たち しんこう−02

Yくんと始めて知り合った頃、かれこれ10年近く前から時々、会話の中に登場する人がいた。名前を記憶することはなかったが、Yくんとの関係性や、その人と僕との間に共通する知り合いがいたので、その存在は頭の片隅に残っていた。

そして、一年半ほど前。

「ZのことTさんに話したら、会ってみたいって」
「Tさんって?」
「=地名=の」
「あーあぁ。そうなんだ。何だっ、て?」
「いや、何となくZの話題になって、そしたら会ってみたいって」
「ふーん」
「いい人だよ」
「うん、いいよ。会いたいって言ってもらえてるんなら」
「アドレス教えていいって言ってるから、メールしてみよ」
「うん」

僕はこうして受け身的にアドレスを知った。しかし、すぐにはメールできなかった。どことなく後ろめたさがあったからだ。Yくんは、僕のことはよく知ってくれている人だ。タチネコ、どんな人がタイプなのか、タイプでないのかを含めてだ。その彼が、絶対いいと思うよ、と紹介してくれたのである。発展しそうな予感を感じない訳にはいかない。

そうするうちにタイミングを逃してしまったと感じていた。

しばらく経ったある日、Yくんと再び飯を食うことになった。Yくんは、メールが来ないことをTさんが気にしていると教えてくれた。そして、僕の気持ちを察していたのか、Tさんには、僕に付き合っている人がいること、Tさんと僕の間には共通の友人がいることなども伝えておいたので、あまり気兼ねなくメールしていいんじゃないかな、と言ってくれたのだ。

まだ見ぬ人にメールする、何年ぶりかのドキドキを感じながら、送信ボタンを押した。ほどなく返事が返ってきた。

―はじめまして。Zといいます。Yくんから紹介を受けました。前からアドレスは聞いていたのですが、メールできずにいてすいませんでした。

―――こんにちは。メールありがとう。Tといいます。メールはもう来ないのかと思っていましたよ。

―すいません。なんとなくタイミングを失ってしまって。よろしくお願いします。今、○○歳で、××に住んでいます。

―――こちらこそよろしくお願いします。自分は○○歳で、××に住んでいます。よかったら一度会いませんか?

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2009年02月20日

ハッテン場の男 映画館−09

新宿に着くまでに、彼からいろんな話を聞いた。都内にはハッテン場と呼ばれるそんな映画館が他にもあること。映画館だけでなく、夜の公園、さらには駅やデパートの便所なら一日中ハッテン場になっているとこなど。そこでは会ってすぐにセックスが始まる場合もあると聞いた時には軽くカルチャーショックを感じた。そして新宿にあるその手の便所の場所も詳しく教えてくれた。

「やったこともないんだよね」
「何を、ですか」
「男とセックス」
「ないです」
「キスも?」
「…ないです」
「そうかぁ。さっきキミの初キス奪っちゃえばよかったかな」
「え!?」
「冗談冗談。でも、やってみたいでしょ」
「そりゃ、興味はありますけどぉ」
「…どこかゆっくりできるところに行ってみないか」
「…」
「怖くないって。いずれ経験するんだし」
「…いや、あの、今日は帰ります…」
「…そうか。分かった」
「すいません…」
「なぁ、男のチンポ、自分のケツに入れたいと思う?」
「わかんないです。やったことないから」
「自分のチンポを相手に入れたいとは?」
「う、うーーん」
「でも、男とやってみたいとは思うんだ。男とやるってそういうことだぜ」
「…はい」
「そっか。まったく経験なし…か。…どんな人が好きなの? 年が上とか、同じくらいとか、芸能人でいうととか」
「うーーん、年は上がいいです」
「どのくらい?」
「40くらいまでかな」
「おっ、結構上だね。…へぇそうなんだ。年上に抱きしめられたい?」
「はい。スーツの人にされてみたい、かな」
「甘えたいんだ?」
「甘えるっていうか…、あ、うん、でもそうですね」
「年上に責められたいってことだよね」
「…はい」
「そういうのはネコっていうのね。逆がタチ。あ、そうだよ! キミ、…売り専に入ったら稼げると思うよ」

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2009年02月19日

ハッテン場の男 映画館−08

白のセダン。新車とはお世辞にも言えない車内は、余計なものがなく殺風景だ。タバコの匂いと芳香剤の臭いがまざって、酔いそうな感じの臭いが漂っている。後ろの座席には、どこかのスーパーの買い物かごが二つ重ねられ、大量のタオルが詰め込まれている。その脇には、黒っぽいジャンパーが無造作に置かれていた。

―どんな人なんだろう。はやまったかな。知らない人についってっちゃぁ、…ダメだよなぁ。

「新宿でいいんだよね」
「あ、はい」
「大丈夫大丈夫。変なとこに連れ込んだりしないから」
「え、えぇ」
「初めてだったんだ」
「はい」
「驚いたろ。てっきりOKされたのかと思っちゃったから」
「え?」
「あ、そうか…。うーん…、何て言うかな、…個室に入るってことは、普通は、OKってことだぜ。二人っきりでやろう、っていう意思表示」
「え?えぇ」
「ま、いいけど」
「そうなんですね。すいません」
「ま、覚えておいて。客席とか壁際でやってるのも見ただろ」
「はい。ちょっとびっくりしました」
「あそこ、そういうところだから」
「僕、ただ映画が見たかったんですが」
「ビデオじゃなくて映画で?」
「あ、持ってないんです。デッキ。CDさえないんですよ」
「本当に? …東京に出てきたばっかりとか?」
「はい」
「そうかぁ…。」
「え?」
「いや、何でもない何でもない。もし、誰かに触られたり、モーションかけられたりしても、『すいません』って小声で言いながら、手をこうすれば、たいていやめると思うよ。映画見ていたいんなら今度はそうしなよ」
彼は、左手でゴメンナサイのポーズを作りながらそう言った。

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2009年02月17日

ハッテン場の男 映画館−07

IMGP2627「…はい」

便所の個室で会話をしたことなどない。確か中2の時、同級生と触りっこをするために一緒に入ったことはある。でも知らない人と共有する空間ではないはずだ。

―やっぱり逃げ出したほうがいい。

「…。どういうとこか知ってるよね?」
「え? どいうって…」
「エッ!? …どうりで。でも、コッチだよ、ね?」
「え?」
「え! 男 いけるんだろ?」
“コッチ”の意味を悟り、首をゆっくりと縦に振る。彼の眼が柔らかくなった。

「そっか、…びっくりしたろ。ごめんごめん」
「あ、いや、そんな…」
「悪かったね。もうこれ以上しないから」
「は、はい」
「…」
「…」
「…」
「…」
「…これからどうするの?」
「え? 今、…この後ってこと? …映画見たいけど。何だか…。やっぱりもう、…帰ろうかな」
「そっかぁ。驚かしちゃったね。そうだ、どっちの方に住んでるの? 電車? お詫びに俺車だから近くまで送ってあげるよ」
「そんな、大丈夫です」
「いいからいいから」
「うーーん」
「さ、おいでよ。な」
「電車で帰ります」

結局はなんとなく流れに乗ってしまい、彼の後について映画館を出た。相変わらず、トイレの入り口や廊下にはたむろっている人たちがいる。中には、彼に向けて何か目配せをしている者もいた。<こいつのこと連れて帰るんだ>そんな目配せだった。

僕は映画館のすぐ近くに路駐してあった車に乗り込んだ。

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2009年02月16日

ハッテン場の男 映画館−06

便客席を出て便所に向かう。なぜかドアのない便所の入口の周囲でもたばこを吸っている人たちがいる。目線を合わせないように中に入り、便器の前に立つ。廊下からは丸見えだ。チャックをおろそうとすると、脇に細身の男が一人入ってきて、すぐ脇に立った。明かに覗きこんでくる。

―!? やばい。多分やばい。絶対やばい。

そう感じて個室に逃げ込む。と同時に彼も入ってきてしまった。

―!!

カチャ。鍵を閉められる。

―!!!

なぜ個室に逃げ込んだのかは自分でも分からない。便所の入口の奴らも彼の仲間だと感じたのかもしれない。ならば映画館から出ることを真っ先に考えるべきではなかったのか。いや、心のどこかで何かを期待する自分はいなかったと言いきれるのか…。さっきのフェラチオの光景が一瞬思い浮かんだ。

自身の行動にも彼の行動にも唖然としている僕は、そのまま抱きつかれ、耳を舐められた。鳥肌が立ち体は硬直して動かない。彼はそのまま股間を触ってきた。ファスナーが下ろされ、パンツの上からチンポが触られる。

「だ、だめです」
ようやく声を振り絞る。
「え?」
「だめ…」
「え? OKしてくれたんじゃないの?」

首を横に振る。アメリカ映画で言うところの、「命が惜しかったら金出せ」的終末状況ではないか。あまりに怯えたひな鳥のように見えたのだろうか。

「…ひょっとして、こうゆうとこ、…初めて?」

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2009年02月14日

Sの男たち しんこう−01

5e479125.JPG浮気はいけない。ハッテン場に行くのはダメ。飲んだ勢いで隣に座っていたおぢさまとヤルのもダメ。

一方で、友達付き合いの延長線上に、自然に、セックスがあるのなら、それは構わないのではないか。そうも思っている。これは浮気ではないと。

その人と関わりその人を知る中で、大切に思え、愛おしく思え、例えば頭を抱き寄せ、例えば背中から抱き締め、腕をさすり、頬を寄せ、…その存在を確かめる。これはごく人間的な成り行きではないのだろうか。

友達と食事に行くのがOKで、旅行に行くのもOK。楽しい時間を二人だけで共有するのもOK。でも肌を重ねるのはNG。そういう一線の引き方は僕にはおかしなことに思える。

食事がOKなら寝るのもOK。寝るのがNGなら食事もNG。この方がよほどすっきりする一線の引き方ではないだろうか。

浮気をされる側から見れば、これは随分と身勝手な考え方だと自覚している。だから付き合っている相手に持論を展開することはしない。友達とスルのが浮気ではなかったらいったいそれは何なの? そう聞かれたら、納得させる自信はないから。

だから自分自身の行動も、一般的な線の引き方に従ってきた。少なくとも付き合いだしてから5−6年は、持論に従って行動することはなかった。大切に感じる友達と二人で過ごすことがあってもセックスはしない。ハッテン場には行かない。行きずりでもしない。一般的な線の引き方をしてきた。

余談だが、僕とまったく逆の考えの奴もいる。ハッテン場などで行きずりの一発は浮気とはいわない。お互いを知っている者同士のセックスこそが浮気であると。いずれにしても、付き合っている相手以外とヤルためのこじつけなのだが。

僕には付き合っている相手にも明かしていない裏の部分がある。

縛られたい、吊るされたい、叩かれたい、垂らされたい、…調教されたい。そんな欲求があるという裏の一面だ。当初おとなしくしていたその部分が、数年前から次第にその存在を増してきた。まるで、体の中で別な自分が育っていくような感じだ。その成長を止めることは、自分に嘘をつくこと、否定することに等しく思えた。

僕は、みんなに内緒で、でも大切に、そのもう一人の自分を育てることにした。SMのハッテン場に通うようになってからのことは以前にも記した。そしてさらに、心を繋げられるSの人が欲しいと思うようになり、新たな悩みを抱えたのだ、とも書いた。

しかしこの書き方は、実は正確ではなかった。心も繋がりたいと思えるSの人と出会い新たな悩みを抱えたのだ、が正しい。

出会いとは、得ようとしなければ得られないが、期せずして得てしまうこともあるようだ。

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2009年02月13日

ハッテン場の男 映画館−05

二人のシルエットに焦点を合わせる。何か言葉を短く交わすと、しばらくしてその肩が微妙に揺れ出した。

―何してるんだろう。

足が自然と彼らの方に向いていた。静にゆっくりと数歩進んだあたりで、何気なく客席に座る別の男の方を見た。

―!! もう一人誰かいる?

目を凝らしてもう一度見る。一人で座っていると思っていた男の両足に挟まれるように、なんと別な男がしゃがんでいるではないか。しかも、座っている男のズボンは足もとまで落ちていて、もう一人がその股間に顔を寄せている。

―フェラチオ!? 映画館で? 他の人がいるのに!

これは映画どころではない事態だ。映画よりも凄いことがすぐそこで行われているのだから。もちろん他人がしているのを見るのは初めてだし、そんなことしたこともない。彼らは僕の存在に気づいてもお構いなしで続けている。椅子に座る男の手が床にしゃがむ男の頭に乗せられると、しゃがむ男の手が座る男の腰にまわされた。

―僕以外の人は気づいていないんだろうか? え!? じゃぁ、あの二人も?

そこから2列前の彼らに近づくと、スクリーンに照らされて顔がはっきりと分かる。先に椅子に座ったのは、メガネをかけた長髪の細顔。後から座った方は、ボサボサの髪でえらの張ったおやじ。お世辞にもキレイとか爽やかとは言えない二人だ。その二人が互いのモノを扱き合って、スクリーンよりさらに奥の方に焦点が合ってしまっている様子がはっきりと確認できた。

―どういうこと? 映画館じゃないの? ここ、誰でも入れる映画館だよね? 周りにたくさんの人がいることは分かっているのに、こんなこと出来るものなの?

混乱してきた。

―とりあえず一度出よう。ちょっと小便もしたいし…。

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2009年02月12日

ハッテン場の男 映画館−04

映2家についても、知らない人に股間を触られた恐怖、追いかけられた恐怖が込み上げてきて落ち着かない。酒屋でビールを買い込み、さっきの出来ことを忘れるために飲み続けた。一人暮らしを実感した夜だった。

―もうあそこに行くのはよそう。

しかし数日経つと、恐怖心よりも映画への好奇心がまさってきた。映画の中の二人はあの後どうなったのだろう。そればかりが気になる。映画館に入って10分と経たないうちに飛び出した僕は、キスや胸や股間をまさぐるシーンは見たものの、肝心の合体シーンは全く見ていなかったのだ。とにかく、続きを見てみたい。男同士のセックスが見てみたい。他人がイクところを見てみたい。

          ***

ちょうど一週間後の同じ時間、映画館の入口に立った。

―今度はちゃんと最後まで見よう。もちろん二本立ての二本ともだ。

入口を入ると、廊下には壁にもたれかかっている奴らがやはりいる。視線を合わせないようにして客席へ。この間は気づかなかったが、客席には3人ほどしか座っていないのに、壁側には20人位の人が立っている。

―何で座らないの? ひょっとして座っちゃいけないの?

迷った末、なるべく人の少ない壁側に立ってみることにした。スクリーンでは、安アパートで若い男二人がいちゃつくシーンが流れている。

扉が開いて一人の男が入ってきた。彼は壁の方を一通り見まわしながら席の中央に座る。しばらくするとオヤジが一人、彼の方を目指して歩きだし、その隣に腰をかけた。

―アレ? 先週の僕みたいだな。

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2009年02月11日

ハッテン場の男 映画館−03

階―こんなにガラガラなのに、何でわざわざ隣に…。

しかし、スクリーンではキスシーンが始まり隣の男を気にするどころではない。

―おおぉ! やってる! 

膝のあたりに何かが触れる感触があるが、スクリーンに釘付けの僕は何の反応もせずにいる。そのかすかな感触は小指へと移った。気のせいだろうか? 僕は腕を組んで映画を見続ける。すると今度はに明らかに手が太ももに置かれた。驚きで体が硬直する。しかもその手は次第に股間へと上がり、ついにチャックに手がかった。

―え!? 見ず知らずの人がいきなり股間を触ってくるなんて!

僕は、必死の思いで席を立ち、扉に向かう。振り向くと、その男がついてくる。

―なに? 何?

訳が分からなくなり、そのまま映画館を飛び出した。信号待ちをしていると、その男も映画館から出てきたのが見えた。目が合う。信号が変わるのを待たずに僕は小走りで駅を目指す。すると、男も同じペースで追いかけてくる。

―何が起こってるの?

僕は改札には向かわず、何故か、歩道橋へ向かう。それでもついてくる。

―何故追いかけてくるのだろう。つかまったら大変なことになるに違いない。

全力で歩道橋を渡り地下道の雑踏へと逃げ込んだ。

地下鉄に乗ってからも男の顔が頭にチラつき、まさか電車に乗り込んでないだろうなと、キョロキョロしてしまう。念には念を入れて、遠まわりもした。

―自分がなにかしたのだろうか…。

薔薇族映画である以上、客は当然全員がホモ。でもこのことと見ず知らずの他人に股間を触られることがどうしても結びつかない。いきなり触るのは、電車での痴漢(←男が女にする)と一緒で犯罪ではないのか。人に触れることはそんなに簡単なものなのか。やはりホモとはそういった意味でも普通とは違う感覚の持ち主なのか。それとも彼だけがおかしいのか。…はぁ。

なにがどうであれ、電車のドアガラスに映る自分は、世間的にはあの男と同じなのだ。そうと思うと落ち込んだ。同性愛に対して何の幻想を抱いていたわけではないが、裏切られたような残念なような気がした。

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2009年02月10日

ハッテン場の男 映画館−02

映1         ***

田舎出にとって<ぴあ>は東京を象徴する雑誌に思えた。毎週のように買い求めは、東京にはこんなにたくさん映画館がある、こんなにホールがある、こんなに芝居小屋がある。美術館がある。遊園地がある。その情報量の多さに、まさに腰を抜かしものだ。

同じころ、<薔薇族>が男のための雑誌であることを偶然知った。おすぎだかピーコだかが出演していた深夜番組で、そんな話題が出たのだ。紀伊国屋で売っているかな…。東京に出てきて間もない僕は、本と言ったら紀伊国屋 程度の知識しかなかった。

ある日、<ぴあ>のページをめくっていると、映画情報の欄に『薔薇族映画上映中』の小さな文字を見つけた。 アレ? ひょっとしてこれって!?

その週末の夜。僕は上野に向かった。賑やかな場所から離れて目的の映画館はあった。他にも2−3軒ポルノ映画館があり、人妻なんとかとか、痴漢なんとか、といったタイトルとともに、裸の女性の看板が立ち並んでいる。場末感が満ちていた。

何度か入口の前を往ったり来たり。知り合いに会うはずもないのに、誰も僕のことなど知らないのに。ようやく勇気をだして中に入った。実は、普通のポルノ映画館でさえ一度入ったことがあるだけだ。

―まだ、始まっていないのかな?

薄暗い廊下には、片側の壁にもたれかかるように、7−8人の男が立っていた。僕は彼らの視線を気にしながら奥に進み、客席への扉を開ける。

―なんだ、映画始まってるじゃん。なんで中に入らないのだろう…。

スクリーンでは、男が二人、バーで飲んでいるシーンが映っていた。おやじが若者の肩に手を回し、二人が見つめあう。マスターがおやじに目配せをしている。

僕の心臓は、周りの人にも聞こえそうなくらい高鳴っている。

―これが薔薇族映画かぁ! 

ガラガラの客席の前の方に進み、腰をおろす。

おやじ手を若者の股間に延ばしまさぐりながら何ごとか囁く。若者が小さく頷き目をつぶった。

―ついに男同士のキスシーンが見られる! 

徹子の部屋で沢田研二が話していた、映画『魔界転生』での男同士のキスシーン撮影話。一風堂が歌う『すみれセプテンバーラブ』の後ろに流れていた映像の中に男同士のキスシーンが含まれていた歌番組。こんなことに胸騒ぎを覚えていた小中学生のころをふと思い出す。

僕のチンポはいつの間にか熱く脈を打ち始めていた。と、隣の席に一人の客が座ってきた。

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2009年02月09日

ハッテン場の男 映画館−01

上<薔薇族>という雑誌があることは知っていた。そこには男の裸の写真が載っていることも。しかし、決定的に間違っていたのは、<薔薇族>はあくまで女性向けの雑誌であり、<女性自身>や<週刊女性>などと同じカテゴリーに位置すると思っていたことだ。

なぜこんな思い込みをしたかというと。

田舎にいる頃、KKベストセラーズから出されているワニブックスなんちゃらというミニ本のシリーズがはやっていた。内容はかなり際どい。所謂セックスネタの本が多かったように思う。

中高生がその手の本を買うのは、世間の狭い田舎町では勇気のいることだった。その点ワニブックスに関しては、下着姿の女が表紙で股を広げることはなかったので、通常の文庫本と同じ感覚で買うことができたのだ。まさに未成年の味方。

――どうしたらイキそうになるのを止めることができるか。
――授業中に女子としけこむならここが穴場。
――ビルの外階段でスルときの注意点。

本に書かれてあるそんな話題で、僕たちは大盛り上がりしていた。

ある本の中に、気になる項目を見つけた。

――嫌な女教師を黙らせるには… 
「<薔薇族>という雑誌がある。若い男の子の裸なども載っている。その雑誌を一冊買って、グラビアのページを広げ、教師の机に置いておくのだ。そうすれば、男に縁のなさそうなその嫌な女教師は赤面して黙ってしまうだろう。」

この時僕は、世のオヤジが女の裸を求めて<週刊実話>や<アサヒ芸能>を買う如く、世のオバサマが男の裸を求め<薔薇族>を買うのだと勘違いしてしまったのだ。

日本語ワードプロセッサーが開発されてまだ間もない、PCも携帯もネットもメールも何もない時代の田舎の高校生だ。高校3年の時には、既に自分は同性愛であると自覚していたが、それ以上のことは何もわからなかった。この勘違いは当然としかいいようがない。

その純な高校生が東京の大学に進学を果たす。

          ***

n3103 at 09:07|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 「ハッテン場の男」 

2009年02月07日

遠い記憶の男 小2−04

f92485ee.JPG―僕は見てはいけないものを見ている。

追い打ちをかけるようにパンツを放り投げると、女の子たちがSくんから一斉に離れた。指示を出していた子がなにやら一言Sくんに言っている。

  「誰にも言うなよ。」

多分そんな言葉をかけたのだと思う。

その瞬間、Sくんと目が合った。僕は瞬きもせずにSくんを見返していた。Sくんは僕を睨みつけると、声を押し殺して泣きだした。

道場ではまだ、すり足での打ち合い練習をしている。つまりまだ稽古が始まって4−5分しか経っていないのだ。しかし随分と長い時間に感じていた。

僕は、Sくんに近づくことができなかった。もちろん、パンツを取りに行ってやることも、声をかけることも。

そしてそのままその場を離れ、家に帰った。

テレビを見ていても、ご飯を食べていても、布団に入っても、その光景が忘れられなかった。次の日も。その次の日も。何度も何度も思い出していた。

+*+*+

あの時、黙って続きを見てみたい、と思ったことの恐ろしさに気付くのは、ずっと先になってからだった。男子校で同級生を好きになり、それが何なのか分からずに悩み続けた時期があった。ようやく自分が同性愛であることを認識した時、あの時道場で身を隠しながら「続きを見たい」と思った意味も理解できたのだ。

そして当時のことを振り返り気づいたことがある。自分の中では、何度も“あの”光景を思い出したと記憶していた。しかし実際は、自分もそんな目にあってみたいと思い、Sくんの姿を自分に置き換えた光景を繰り返し思い起こしていたのではないのか。すでにあの頃から、いじめられたいと思う不思議な自分自身が存在していたのでは…。

いずれにせよ、その後の小学校生活で自分の興味が向くのは男だけだった。同級生・部活の先輩・先生・近所のおぢさん。僕の記憶に残る小学時代の親しい“顔”はそのほとんどが男だ。

―服の下にはどんな身体があるのだろう。
―頭に近づいたらどんな臭いがするのだろう。
―背中にだきついたらどのくらい暖かいのだろう。
―腕や足を触ったらどんな感触なのだろう。
―アソコはどうなっているのだろう。

そんなことを考えながら日常の中で行われる彼らとのスキンシップは、僕にとってまだまだ無邪気で嬉しい時間だった。

<「遠い記憶の男 小2」おわり>

n3103 at 09:20|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 「遠い記憶の男」 

2009年02月06日

遠い記憶の男 小2−03

7829fe5b.JPG番長格らしき女の子が、自分の隣に立っている子に話しかける。その子は、竹刀の先でSくんの袴を器用にまくりあげる。

細い足と白のパンツが目に飛び込んできた。

目を反らすことができない。

まくりあげられた袴の裾はそのまま竹刀でマットに押し付けられ、周りにいる女子にも踏みつけられている。Sくんの足を手で押さえていた子が、今度は足にまたがり、その手をパンツにのばした。

「▲$@#!」

Sくんがなにやら叫んだが、僕のところですら聞き取れない。

簡単にパンツは脱がされた。

初めて見る自分以外のちんちんだ。いや、銭湯や、幼稚園の着かえで見たことはあった。本来出されるべきところではない場所でちんちんを見るのが初めてなのだ。しかも本人の意思に反してちんちんが晒されている。

何かが体の中を走った。そんな気がした。

女の子たちは何やらはしゃぎながら、Sくんのちんちんを手で触ったり、竹刀で突っついたりしている。Sくんは手足を抑えつけられたまま、もがいている。

―ヒトのちんちんてそんなに簡単に触れるものなのだろうか。きたないとは思わないのだろうか。とても不思議だ。

健全に汗を流す大人たちと、男の子を剥いてそのちんちんをいじる女の子たち。変哲もない跳び箱を境に、同じ屋根の下、あらゆる意味で正反対の二つが同時に存在している。全ての人の中にある裏と表。そんなことをイメージした。

可哀そう、とか、助けなきゃ。こんな言葉は頭にはもう浮かばなかった。

女の子たちは更に羽織を脱がせた。触ったら折れそうなくらい細く白い身体が現れる。その身体をさらに竹刀で小突き続け、ちんちんをいじり続ける。

他の人に触られるなんてことは考えてもみなかったことだ。親ではない、友達でもない、同じ学校の高学年の女にだ。しかも、無理やり。

―これは何なのだろう。なぜSくんが選ばれたのだろう。Sくんは何を感じているのだろう。

頭が混乱してきた。

殴る蹴るということはないようだ。怪我をすることもないだろう。しかし、本人にしてみれば…。今にも泣きだしそうだ。

n3103 at 09:10|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 「遠い記憶の男」 

2009年02月05日

遠い記憶の男 小2−02

9f3285e0.JPG道場では、夜の部の稽古が始まりつつあった。社会人を中心とした30人位の生徒だ。先生の視線はその生徒たちに向けられ、周りで着替えをしている我々には届いていない。

親子で通っている者もおり、夜の部が始まっても子供たちが親を待つために残っていたりもする。それに紛れて僕たちが残っていてもだれも気にしない。

道場の隅をゆっくり歩き、やっとの思いで跳び箱までたどり着く。

「黙とう始め」

稽古が始まった。

「やめ。 礼。 防具付け」

竹刀の音が鳴り響き、掛け声がこだまする。普通の話し声程度なら、もう誰にも届かない。

跳び箱の裏を覗くと、案外近くに彼女たちが集まっていたので身が竦んだ。それでも身を屈めながらSくんの姿を探す。

彼は、女の子たちに丸くとり囲まれ、中央に座らされていた。怒られているのだろうか。明かに、“かごめかごめ”ではない。何か問い詰められているようにも見える。でもSくんが、彼女たちのだれかにいたずらをしたり、物を隠したりするようなことはないはずだ。

一人の女の子が何やら合図をする。すると、残りの子がSくんを押し倒し、マットに抑えつけた。

―え!? けんか? いじめ!! どうしよう!!! 助けるべきだよね。友達だもん。

しかし声が出ない。そして何故か、

―止めたくない。
   続きが見たい。
     周りの大人たちに気付かせたくない。
       それに止めに入って仕返しされたら怖いし…

こんなことをとっさに思ってしまった。

Sくんは右腕、左腕、両足をそれぞれ違う女の子に抑えられている。小学2年の中でも小柄なSくんと、剣道を続ける高学年生や中学生とでは、体格にはそれこそ大人と子供程の差がある。Sくんは抵抗することも声を出すこともできずに、目をつぶって怯えている。

n3103 at 10:14|PermalinkComments(0)TrackBack(0) 「遠い記憶の男」