2008年11月28日

年下の男−01

tpe1aテレビを見ている。いや、眺めている。ヴァラエティ番組だ。眺めていると言いなおしたのは、その全てを理解するほどの語学力は持ち合わせていないからだ。古い型のテレビ画面はさっきからずっと紫がかっている。テレビがいけないのか、アンテナがいけないのかは分からないが、ここはお前の国ではないのだ、と主張するような紫にも感じる。

ソファから少し腰を浮かせ、小さなテーブルの上のビールに手を伸ばす。

9月初旬の夜とはいえ、外の気温は昼間とそう変わらない。エアコンは音ばかり大きくて、効いているのかいないのか。昼間の空気がまだ居座っているようだ。シャワーを浴びた後はパンツを穿いただけのままだ。Tシャツは着ていない。

ふた口飲んで姿勢を元に戻すと、自分の汗で濡れていたソファの妙な冷たさを背中に感じた。脂汗なのか、緊張の汗なのか、興奮の汗なのか、なんなのか。健全な汗でないことだけは確かだ。

10畳ほどの部屋のあちこちに目を遣る。

靴棚には剥き出しのまま、革靴やスニーカーが無造作に置いてある。(後でちょっと匂いを嗅いでみよう。)タンスの中にはかなり多くのラフなシャツに混ざって、さっき僕が脱いだシャツもかかっている。明日の朝に渡そうと思っているプレゼントのポロシャツがかけられるであろうタンスでもある。ワンドア式の小さな冷蔵庫の容積はコーラとアイスと霜でほとんどが占められている。冷蔵庫の上には紫のテレビ。もちろん本体の色が紫なのではない。冷蔵庫の脇には箱買いのコーラが積み重ねられている。そして灰色の事務机とパソコン。僕が今座っているソファとは反対側の壁に並んでいるものたちだ。

ソファの右側にベッド。真っ白なシーツではないが、タオルケットと共にきちんと皺なく整えられている。何を思いながら皺を伸ばしたのか。あるいは日ごろからの習慣か。枕に染みついている若い匂いは、当然、既に記憶に残した。

左側には本棚。普通の本に交じって、日本が誇る(?)G誌が一冊、一番下の段に並んでいるのが見える。昨年末頃に発行されたその号には、この部屋の主の写真が載っている。もちろん僕たちが知り合ったのは、もっと前のことだが。

こうやってもう何度も見まわしている。初めて見るものばかりなのに、僕が彼を知る前からここにあったはずのこれらのものが懐かしく感じ、そんな自分に苦笑いする。そしてまた、字幕を頼りにテレビの画面を眺めだす。

タレントたちの笑い声は先程からは自分には届いていない。僕の耳は、この部屋の主が入っている浴室に専ら傾いているからだ。時おり聞こえてくる鼻歌。ご機嫌なようなメロディに安心する。そしてまたビールに手を伸ばす。

このビールの旨さは格別だ。これを飲むまでに13カ月もかかったのだから。

n3103 at 13:06│Comments(0)TrackBack(0) 「年下の男」 

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