「遠い記憶の男」

2009年02月07日

遠い記憶の男 小2−04

f92485ee.JPG―僕は見てはいけないものを見ている。

追い打ちをかけるようにパンツを放り投げると、女の子たちがSくんから一斉に離れた。指示を出していた子がなにやら一言Sくんに言っている。

  「誰にも言うなよ。」

多分そんな言葉をかけたのだと思う。

その瞬間、Sくんと目が合った。僕は瞬きもせずにSくんを見返していた。Sくんは僕を睨みつけると、声を押し殺して泣きだした。

道場ではまだ、すり足での打ち合い練習をしている。つまりまだ稽古が始まって4−5分しか経っていないのだ。しかし随分と長い時間に感じていた。

僕は、Sくんに近づくことができなかった。もちろん、パンツを取りに行ってやることも、声をかけることも。

そしてそのままその場を離れ、家に帰った。

テレビを見ていても、ご飯を食べていても、布団に入っても、その光景が忘れられなかった。次の日も。その次の日も。何度も何度も思い出していた。

+*+*+

あの時、黙って続きを見てみたい、と思ったことの恐ろしさに気付くのは、ずっと先になってからだった。男子校で同級生を好きになり、それが何なのか分からずに悩み続けた時期があった。ようやく自分が同性愛であることを認識した時、あの時道場で身を隠しながら「続きを見たい」と思った意味も理解できたのだ。

そして当時のことを振り返り気づいたことがある。自分の中では、何度も“あの”光景を思い出したと記憶していた。しかし実際は、自分もそんな目にあってみたいと思い、Sくんの姿を自分に置き換えた光景を繰り返し思い起こしていたのではないのか。すでにあの頃から、いじめられたいと思う不思議な自分自身が存在していたのでは…。

いずれにせよ、その後の小学校生活で自分の興味が向くのは男だけだった。同級生・部活の先輩・先生・近所のおぢさん。僕の記憶に残る小学時代の親しい“顔”はそのほとんどが男だ。

―服の下にはどんな身体があるのだろう。
―頭に近づいたらどんな臭いがするのだろう。
―背中にだきついたらどのくらい暖かいのだろう。
―腕や足を触ったらどんな感触なのだろう。
―アソコはどうなっているのだろう。

そんなことを考えながら日常の中で行われる彼らとのスキンシップは、僕にとってまだまだ無邪気で嬉しい時間だった。

<「遠い記憶の男 小2」おわり>

n3103 at 09:20|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2009年02月06日

遠い記憶の男 小2−03

7829fe5b.JPG番長格らしき女の子が、自分の隣に立っている子に話しかける。その子は、竹刀の先でSくんの袴を器用にまくりあげる。

細い足と白のパンツが目に飛び込んできた。

目を反らすことができない。

まくりあげられた袴の裾はそのまま竹刀でマットに押し付けられ、周りにいる女子にも踏みつけられている。Sくんの足を手で押さえていた子が、今度は足にまたがり、その手をパンツにのばした。

「▲$@#!」

Sくんがなにやら叫んだが、僕のところですら聞き取れない。

簡単にパンツは脱がされた。

初めて見る自分以外のちんちんだ。いや、銭湯や、幼稚園の着かえで見たことはあった。本来出されるべきところではない場所でちんちんを見るのが初めてなのだ。しかも本人の意思に反してちんちんが晒されている。

何かが体の中を走った。そんな気がした。

女の子たちは何やらはしゃぎながら、Sくんのちんちんを手で触ったり、竹刀で突っついたりしている。Sくんは手足を抑えつけられたまま、もがいている。

―ヒトのちんちんてそんなに簡単に触れるものなのだろうか。きたないとは思わないのだろうか。とても不思議だ。

健全に汗を流す大人たちと、男の子を剥いてそのちんちんをいじる女の子たち。変哲もない跳び箱を境に、同じ屋根の下、あらゆる意味で正反対の二つが同時に存在している。全ての人の中にある裏と表。そんなことをイメージした。

可哀そう、とか、助けなきゃ。こんな言葉は頭にはもう浮かばなかった。

女の子たちは更に羽織を脱がせた。触ったら折れそうなくらい細く白い身体が現れる。その身体をさらに竹刀で小突き続け、ちんちんをいじり続ける。

他の人に触られるなんてことは考えてもみなかったことだ。親ではない、友達でもない、同じ学校の高学年の女にだ。しかも、無理やり。

―これは何なのだろう。なぜSくんが選ばれたのだろう。Sくんは何を感じているのだろう。

頭が混乱してきた。

殴る蹴るということはないようだ。怪我をすることもないだろう。しかし、本人にしてみれば…。今にも泣きだしそうだ。

n3103 at 09:10|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2009年02月05日

遠い記憶の男 小2−02

9f3285e0.JPG道場では、夜の部の稽古が始まりつつあった。社会人を中心とした30人位の生徒だ。先生の視線はその生徒たちに向けられ、周りで着替えをしている我々には届いていない。

親子で通っている者もおり、夜の部が始まっても子供たちが親を待つために残っていたりもする。それに紛れて僕たちが残っていてもだれも気にしない。

道場の隅をゆっくり歩き、やっとの思いで跳び箱までたどり着く。

「黙とう始め」

稽古が始まった。

「やめ。 礼。 防具付け」

竹刀の音が鳴り響き、掛け声がこだまする。普通の話し声程度なら、もう誰にも届かない。

跳び箱の裏を覗くと、案外近くに彼女たちが集まっていたので身が竦んだ。それでも身を屈めながらSくんの姿を探す。

彼は、女の子たちに丸くとり囲まれ、中央に座らされていた。怒られているのだろうか。明かに、“かごめかごめ”ではない。何か問い詰められているようにも見える。でもSくんが、彼女たちのだれかにいたずらをしたり、物を隠したりするようなことはないはずだ。

一人の女の子が何やら合図をする。すると、残りの子がSくんを押し倒し、マットに抑えつけた。

―え!? けんか? いじめ!! どうしよう!!! 助けるべきだよね。友達だもん。

しかし声が出ない。そして何故か、

―止めたくない。
   続きが見たい。
     周りの大人たちに気付かせたくない。
       それに止めに入って仕返しされたら怖いし…

こんなことをとっさに思ってしまった。

Sくんは右腕、左腕、両足をそれぞれ違う女の子に抑えられている。小学2年の中でも小柄なSくんと、剣道を続ける高学年生や中学生とでは、体格にはそれこそ大人と子供程の差がある。Sくんは抵抗することも声を出すこともできずに、目をつぶって怯えている。

n3103 at 10:14|PermalinkComments(0)TrackBack(0)

2009年02月04日

遠い記憶の男 小2−01

9a90fa3b.JPG夕方5時になると、もうだいぶ日が傾く季節。いつものように道場に向かい、いつものように着替えた。

小学校に入ってすぐ剣道の道場に通い始め、1年半が過ぎていた。部活ではない。名前は忘れてしまったが、近隣も町からも、中学生や高校生、社会人が集まってくる、活気ある道場だった。

2万人ほどの小さな町。山がちの土地で、町の東側の斜面に道場はあった。商店街の途中から道場に向かう坂道は、小学生には急坂で、防具と竹刀をかついで上るのは辛かった記憶がある。

汗が染み込んだ防具独特の革の匂い。上級生や中高生と一緒の着替え。彼らの笑い声。身体。下着。汗。今となって思えば、親の意思で始めた割に長く続いた理由が思い当たる。

道場には、同級生もいた。Aくんと、Sくん。Aくんは道場近くに住む鍵っ子。人生で初めて飲んだインスタントコーヒーは、親が留守中のAくんの家で彼が入れてくれたものだ。Sくんは商店街の中でも大きな店、呉服屋の息子だった。学校では特に仲が良かった訳ではないが、ほぼ最年少の僕らは、小さい魚が群れるかのように、道場では一緒にいた。

そしてその日も、いつものように練習が終わった。

+*+*+

着替えをしながら、Aくんたちの姿を探していると、Sくんの周りに5−6年生や中学生の女子が集まっている。

―珍しいなぁ…。

僕たちが、そのグループと接触を持つことはないに等しい。

すると、その集団が、Sくんを真中に、ちょっと人目を気にしながら移動を始めた。

心臓が高鳴る。何かが行われようとしている。足が自然と女の子たちを追う。

道場は学校の体育館の半分くらいだ。奥の壁側にはマットや平均台が道場の雰囲気とは不似合いに置かれ、それらを隠すように飛び箱が5−6セット置かれている。

Sくんは跳び箱の向こう側へと女子に背中を押させるように進んでいった。

―行っちゃいけない、
   いや行け、
―ダメだ、
   いいから行くんだ。

小さな葛藤に足がすくむ。

n3103 at 09:34|PermalinkComments(0)TrackBack(0)