クレンペラーとフィルハーモニア管によるブラームス。オットー・クレンペラーは、1881年、ドイツ生まれの指揮者。マーラーに推薦されたことからドイツ国内の歌劇場で活躍が始まったが、第2次世界大戦を避けて渡米した。
ヨーロッパから難を逃れた指揮者達、ワルターやトスカニーニ、ライナー、オーマンディらが活躍する中で、クレンペラーは自身の健康問題や女好きから来るトラブルが原因で十分実力を発揮することができなかった。
戦後ヨーロッパに戻ってから、ウォルター・レッグの目に留まり、フィルハーモニア管弦楽団と録音する機会を得たことで復活を果たし、巨匠として扱われるようになった。
私はクレンペラーについて、マーラーの「大地の歌」の名盤があるくらいで、そんなに知っていたわけではないが、なんとなく「エンペラー(皇帝)」と思わせる名前や巨匠としての評判から、凄い人なんだろうくらいに思っていた。
しかし、晩年になっても奇行は治らず、あちこちでトラブルを起こしていた。派手な服装をした女性たちをコンサートに呼んで「オットーちゃ―ん!」と黄色い声をあげさせたりして顰蹙を買ったことなど何度もあったそうだが、他の指揮者と違って、クレンペラーは自身の女好きを隠そうともしなかったことから、次第に周囲が慣れてしまったそうだ。
またクレンペラーは自身がフィルハーモニア管との録音で評価されたにもかかわらず、レコード録音を全く信用してなかったらしい。テープのつぎはぎを「ペテン」と呼び、「録り直しをするなら最初からやり直さないと一貫性が損なわれる」と言ってスタッフを困らせたそうだ。
「ホルン奏者がちょっとばかり唇に唾がついて音が多少滑ったとしても、大した問題ではない。スタジオで録音するよりは、演奏会の演奏をそのまま録音する方がずっとましだ」こう思っていた指揮者はたくさんいただろうが、それが技術的に達成されるまでには、まだ何十年もの月日が必要だった。
ブラームス「交響曲第2番」第1楽章
50年以上も前の録音なので仕方ないが、弦が引っ込み気味で遠くで鳴っているように聴こえる。音色は鋭く、ささくれ立ってないので、埋没してしまうほどではないが、もう少し前に出て欲しい。けっこうテンポを揺らし、フレーズによって速くしたり遅くしたりしている。
盛り上がる所はアクセルを踏んでスピードアップし、静かなところではぐっとブレーキを踏んで押しとどまる。濃厚な表情付けが特徴的で、少々わざとらしい気もするが、面白さは群を抜いている。現代の演奏のような、静かな所で立ち止まり、由の奥深くに没入するような感じは全くなかった。
第2楽章
即物的と言えるかもしれないが、フレーズごとの歌には力がこもっており、抒情的な味わいもしっかり感じられる。歌い方やバランスでどのフレーズを前に出そうかとする所や、フレーズを速く歌うかじっくり歌うかの選択が思いつきでやっているように聴こえるが、演奏が充実しているので、そうじゃないと思わせてくれるのだ。
第3,4楽章
クレンペラーって「剛直」ってイメージを持っていたが、実際聴いてみると結構色彩感豊かで、多彩な表現を駆使して、面白い演奏をしていることが分かった。
ヨハネス・ブラームス
①交響曲第2番二長調op.73
録音時期:1956年10月(ステレオ)
②アルト・ラプソディop.53
クリスタ・ルートヴィヒ(メゾ・ソプラノ)
フィルハーモニア合唱団(男声合唱)(合唱指揮:ヴィルヘルム・ピッツ)
録音時期:1962年3月(ステレオ)
指揮:オットー・クレンペラー
管弦楽:フィルハーモニア管弦楽団