《新潟》FURUSATTOに取り組み、建築と偶有性について考えた
AH! vol.66 - 2019/4/22《from 新潟支所》中野 一敏/ナカノデザイン一級建築士事務所
雑誌「EGAO」より転載許可いただいた空撮写真もご覧いただけます。
ナカノデザイン一級建築士事務所(新潟・上越市)
上越妙高駅開業で東京と最短1時間46分で直結し、関西・北陸方面への移動時間も大幅に短縮される上越市。新幹線は経済効果を呼び込む千載一遇のチャンスだが、地域開発や企業誘致の方向性が見えてこない。関係者らは、自治体がグランドデザインを描き、リーダーシップを取るべきだと指摘する。
「新幹線駅ができると、規模も体力も異なる金沢や富山などと常に比べられるようになる」
上越市北陸新幹線建設促進まちづくり協議会副会長を務める石平春彦市議は、激しい都市間競争を見据え、早くから新幹線を生かしたまちづくりの必要性を唱えてきた。
市は平成23年に「新幹線まちづくり行動計画」を策定するなどしてきたが、いまだに具体的な戦略は進んでいない。
駅周辺では、約9万6千平方メートルが商業・業務用地として整備され、地権者が企業や店舗の誘致を進めている。だが、用地の約9割で開発事業者が決まっておらず、わずかに穴吹工務店(高松市)が10月完成に向け売り出す12階建てマンションやレンタカー店などの建物にとどまる。
昨年4月に浮上した駅前西口の開発構想も縮小の方向にある。
構想は、アジアの富裕層などを狙った40階建て高層分譲マンション2棟と商業施設を建設する。総事業費は約500億円。地権者有志が大手総合商社の三井物産を通じ、東京の商業コンサルタント「やまき」に構想作成を依頼した。
関係者によると、その後の市場調査で当初の構想に見合う需要が見込めないことが判明し、やまき側が2月、マンションの階数を「低層」にする修正案を地権者に説明した。
市は「地権者が民間」との理由で傍観の構えだ。
石平市議は「市長が先頭に立ってトップセールスを仕掛けなければ、進出機会を探る企業家の心に響かない」と指摘。市のブランド価値を高める文化施設やコンベンション施設など“シンボル”の整備策を練るよう提案する。県内企業からも「教育・研究機関を誘致するなどソフト面で知恵を絞っては」との声がある。
中心市街地の高田地区も不安を募らせる。
本町3、4、5丁目商店街振興組合連合会の大嶋喜久雄代表幹事は「観光のPRだけでは、眼も口も肥えた乗降客が周遊して商店街まで立ち寄らない。上越ならではの特色を出す工夫が必要だ」と話す。
22年開業の東北新幹線新青森駅(青森市)は中心市街地の青森駅から約4キロ。高田駅と上越妙高駅とほぼ同じ距離だ。田園に囲まれた新青森駅は中心市街地と競合しないよう急激な開発を抑制したため、集客施設誘致に苦戦している。
日本総合研究所(東京)地域経営戦略グループの日吉淳ディレクターは「新青森駅のまちづくりは反面教師になる」と指摘する。
その上で「まず自治体が地域の強みを見つけて市全体のグランドデザインを描き、高田・直江津地区と上越妙高駅周辺などの役割分担を明確にしハードとソフトの資源を重点配分すべきだ」と提言している。
日本建築学会北陸支部WebマガジンAH!に寄稿させていただきました。こちらには、雑誌社より転載許可していただいた2019年の空撮の写真もありますので、こちらを先にご覧ください。
下記、WebマガジンAH!の原稿ですが、当時の様子を伝えるネット記事とともにご覧いただけます。
□ 2014年6月
2015年3月の北陸新幹線開業まで1年を切った頃、上越妙高駅前には140m超のツインタワー計画が立ち上がっていた。私も平原匡さんから、コンテナを使った屋台村をつくる相談をいただき、検討を始めていた。平原さんは、大学、大学院で建築を学び、株式会社北信越地域資源研究所を起業。地域活性化コンサルタントとして走り出していた。
・北陸新幹線上越妙高駅西口に超高層マンションと商業施設構想 2014年4月17日 (木)
図1 コンセプトスケッチ 2014年6月
最初のコンセプトスケッチの段階から、小規模事業者が集まる横丁のような場と、雁木(屋根付き通路)があり雪に埋もれる空間を思い描いていた。
□ 扇形敷地
平原さんから、西口と東口のどちらが良いかと相談を受けた。街づくりの主となるのは東口であるが、妙高への眺望に恵まれた西口の方が、この地を訪れる人にとって印象深いであろうという意見で一致した。地権者団体より、桜並木の遊歩道に隣接する扇形の敷地を勧められた。形状が悪いから最後まで利用者は見つからないだろう(結果的に周辺の計画は進まず、フルサットがトップランナーになってしまうのだが)。若い人が新しいことに挑戦するにはちょうど良かった。
扇形の敷地も、隙間をあけながらコンテナを並べれば問題ない。隣接する桜並木の遊歩道からつながるオープンスペースにコンテナが点在し、アクティビティが表出するイメージを思い描いた。
写真1 FURUSATTO(フルサット)敷地
□ 雁木 = 開放された私有地
平原さんより、誰でも利用できて、テイクアウト商品を食べる事もできる屋根付きのスペースが欲しいという要望を頂いた。そうした特別な場所を作るのではなく、屋根付き通路として計画していた雁木の幅を広げることを提案した。私有地としての性格を持ちながら開放されている雁木空間に親しんできた上越市民にふさわしい、コモンスペースに進化した雁木空間を思い描いていた。
写真2 左:お賽銭箱のある神社の雁木(上越市高田)/ 右:フルサット雁木空間
□ 見切り発車
2014年11月、平原さんは、2015年3月の新幹線開業を目指して、10店舗程度のテナントが入る商業施
設フルサットをいち早くオープンすると発表する。しかし、テナント募集は進まず、開業前にオープンさせることはできなかったが、それがまたニュースとなりフルサットの知名度は上がっていく(後に、この地では、延期、計画変更は当たり前になってしまうのだが)。
〈2015年2月空撮動画〉
・上越妙高駅西口に「フルサット」 コンテナ活用した商業施設 2014年11月28日 (金)
・上越妙高駅前に食の複合商業施設がオープン テナント出店者を募集 2015年2月9日 (月)
・【北陸新幹線きょう延伸開業】進まぬ上越妙高駅前開発 傍観の市、見えぬ方向性 新潟 2015.3.14 産経ニュース
・上越妙高駅前に鯉のぼり泳ぐ 青空の下 土地も広々 2015年5月5日 (火)
□ コンテナ登場
2015年3月の新幹線開業後も、周辺の開発は進まなかった。平原さんは、将来的に移設してフルサット本体に組み込む前提で、一台のコンテナを仮置きする決断をする。何もない原っぱに、白いコンテナが一つ置かれるシーンは、進まない開発の中での挑戦として象徴的にメディアに取り上げられた。
仮置きしたコンテナを拠点として、テントによるイベントを催しながら出店者募集を続けた。テナントとして入るのはハードルが高いが、イベントで場所ができると、出店してみようという人たちがいる。新しい街ができても、こうした人たちの居場所がなかった。この人たちの居場所を創ることができる建築が必要なのではないか。グランドオープンなどせずに、このまま拡張していければ良いのではないか。そんな思いが強くなっていった。実際に、コンテナが置かれたことで、フルサットが完成したと勘違いする人たちもいた。
□ 最小敷地500㎡の壁
各テナントが独立店舗感覚で、自由に窓を設計できるのがフルサットの特徴である。外のオープンスペースを活かした店舗設計をすることで、この場所ならではの個性が生まれて、大きな箱の中に複数のテナントが入る商業施設と差別化できると考えていた。しかし、テナントが見つかってから建物本体の設計をする必要があるため、建物本体と、その内部のテナント設計を分けて進める商業施設と比べて設計に時間がかかる。さらに、この地の地区計画には、最小敷地500㎡の壁があり、いくつかのテナントが集まった規模にならないと先に進めない。これらが原因で、先に出店を決意したテナントを待たせすぎて逃がしてしまう事もあった。しかし、こんな時間をかけるやり方ができるのは、周りの開発が進まないこの地の個性で強みでもあるのだった。
・フルサットに上越信金と日本公庫が協調融資へ 上越妙高駅前開発 2015年11月12日 (木)
・フルサット4月本格オープンへ コンテナ屋台はクラウドファンディングで 2016年2月10日 (水)
・新たに5つのコンテナ設置 上越妙高駅西口のフルサット来月オープン 2016年3月4日 (金)
□ (仮)グランドオープン
じっくりと進めていくつもりであったのだが、いくつかのテナントが集まるとグランドオープンという要望が強くなっていった。テナントが決まらず、計画途中で投げ出されたコンテナや、テナント内部と関係のないオープンスペースを含みながら、2016年6月グランドオープンをむかえた。
設計者の思い描いた計画は未完成である。しかし、建築物として未完であるほど、コンテナとしての属性が際立つ。計画意図の弱いオープンスペースは、コンテナのある原っぱのようで、子供たちが駆け巡った。隅々まで計画されて店舗になったコンテナ商業施設にはない魅力を持つことになった。そして、グランドオープンと同時にリノベーションと増設がスタートした。