日本建築学会北陸支部WebマガジンAH!に寄稿させていただきました。こちらには、雑誌社より転載許可していただいた2019年の空撮の写真もありますので、こちらを先にご覧ください。


下記、WebマガジンAH!の原稿ですが、当時の様子を伝えるネット記事とともにご覧いただけます。



  20146

20153月の北陸新幹線開業まで1年を切った頃、上越妙高駅前には140m超のツインタワー計画が立ち上がっていた。私も平原匡さんから、コンテナを使った屋台村をつくる相談をいただき、検討を始めていた。平原さんは、大学、大学院で建築を学び、株式会社北信越地域資源研究所を起業。地域活性化コンサルタントとして走り出していた。

・北陸新幹線上越妙高駅西口に超高層マンションと商業施設構想 2014年4月17日 (木)

図1

 図1 コンセプトスケッチ 20146


最初のコンセプトスケッチの段階から、小規模事業者が集まる横丁のような場と、雁木(屋根付き通路)があり雪に埋もれる空間を思い描いていた。

 

  扇形敷地


 平原さんから、西口と東口のどちらが良いかと相談を受けた。街づくりの主となるのは東口であるが、妙高への眺望に恵まれた西口の方が、この地を訪れる人にとって印象深いであろうという意見で一致した。地権者団体より、桜並木の遊歩道に隣接する扇形の敷地を勧められた。形状が悪いから最後まで利用者は見つからないだろう(結果的に周辺の計画は進まず、フルサットがトップランナーになってしまうのだが)。若い人が新しいことに挑戦するにはちょうど良かった。

 扇形の敷地も、隙間をあけながらコンテナを並べれば問題ない。隣接する桜並木の遊歩道からつながるオープンスペースにコンテナが点在し、アクティビティが表出するイメージを思い描いた。


  写真1

 写真1 FURUSATTOフルサット)敷地


 

  雁木 = 開放された私有地


平原さんより、誰でも利用できて、テイクアウト商品を食べる事もできる屋根付きのスペースが欲しいという要望を頂いた。そうした特別な場所を作るのではなく、屋根付き通路として計画していた雁木の幅を広げることを提案した。私有地としての性格を持ちながら開放されている雁木空間に親しんできた上越市民にふさわしい、コモンスペースに進化した雁木空間を思い描いていた。


写真2

写真
2 左:お賽銭箱のある神社の雁木(上越市高田)/ 右:フルサット雁木空間

 

  見切り発車

 

201411月、平原さんは、20153月の新幹線開業を目指して、10店舗程度のテナントが入る商業施
設フルサットをいち早くオープンすると発表する。しかし、テナント募集は進まず、開業前にオープンさせることはできなかったが、それがまたニュースとなりフルサットの知名度は上がっていく(後に、この地では、延期、計画変更は当たり前になってしまうのだが)。

2015年2月空撮動画

・上越妙高駅西口に「フルサット」 コンテナ活用した商業施設 2014年11月28日 (金)
・上越妙高駅前に食の複合商業施設がオープン テナント出店者を募集 2015年2月9日 (月)
・【北陸新幹線きょう延伸開業】進まぬ上越妙高駅前開発 傍観の市、見えぬ方向性 新潟 2015.3.14 産経ニュース
・上越妙高駅前に鯉のぼり泳ぐ 青空の下 土地も広々 2015年5月5日 (火)

 

  コンテナ登場

 

20153月の新幹線開業後も、周辺の開発は進まなかった。平原さんは、将来的に移設してフルサット本体に組み込む前提で、一台のコンテナを仮置きする決断をする。何もない原っぱに、白いコンテナが一つ置かれるシーンは、進まない開発の中での挑戦として象徴的にメディアに取り上げられた。

仮置きしたコンテナを拠点として、テントによるイベントを催しながら出店者募集を続けた。テナントとして入るのはハードルが高いが、イベントで場所ができると、出店してみようという人たちがいる。新しい街ができても、こうした人たちの居場所がなかった。この人たちの居場所を創ることができる建築が必要なのではないか。グランドオープンなどせずに、このまま拡張していければ良いのではないか。そんな思いが強くなっていった。実際に、コンテナが置かれたことで、フルサットが完成したと勘違いする人たちもいた。


写真3

・北陸新幹線上越妙高駅前に昔ながらの「はさがけ」 2週間限定の不思議な風景 2015年8月29日 (土)


 

  最小敷地500㎡の壁

 

 各テナントが独立店舗感覚で、自由に窓を設計できるのがフルサットの特徴である。外のオープンスペースを活かした店舗設計をすることで、この場所ならではの個性が生まれて、大きな箱の中に複数のテナントが入る商業施設と差別化できると考えていた。しかし、テナントが見つかってから建物本体の設計をする必要があるため、建物本体と、その内部のテナント設計を分けて進める商業施設と比べて設計に時間がかかる。さらに、この地の地区計画には、最小敷地500㎡の壁があり、いくつかのテナントが集まった規模にならないと先に進めない。これらが原因で、先に出店を決意したテナントを待たせすぎて逃がしてしまう事もあった。しかし、こんな時間をかけるやり方ができるのは、周りの開発が進まないこの地の個性で強みでもあるのだった。

・フルサットに上越信金と日本公庫が協調融資へ 上越妙高駅前開発 2015年11月12日 (木)
・フルサット4月本格オープンへ コンテナ屋台はクラウドファンディングで 2016年2月10日 (水)
・新たに5つのコンテナ設置 上越妙高駅西口のフルサット来月オープン 2016年3月4日 (金)



  (仮)グランドオープン

 

 じっくりと進めていくつもりであったのだが、いくつかのテナントが集まるとグランドオープンという要望が強くなっていった。テナントが決まらず、計画途中で投げ出されたコンテナや、テナント内部と関係のないオープンスペースを含みながら、20166月グランドオープンをむかえた。

設計者の思い描いた計画は未完成である。しかし、建築物として未完であるほど、コンテナとしての属性が際立つ。計画意図の弱いオープンスペースは、コンテナのある原っぱのようで、子供たちが駆け巡った。隅々まで計画されて店舗になったコンテナ商業施設にはない魅力を持つことになった。そして、グランドオープンと同時にリノベーションと増設がスタートした。


 写真4

  写真4 フルサットの風景

フルサットオープン2016動画
コンテナ立ち飲みご当地ソウル動画
雁木で流しそうめん動画

・「フルサット」がオープン 上越妙高駅前に初の商業施設 ラーメン店や居酒屋 2016年6月17日 (金)
・フルサットに新店舗! クレープと軽食の店オープン 2016年8月2日 (火)
・飲食など43店舗が大集合 上越妙高駅開業2周年で18、19日にフルサット市 with PLAY MARCHE 2017年3月16日 (木)
・上越妙高駅西口のフルサットにから揚げ店 地場産食材使用の「酉かつ」 2017年6月3日 (土)
・割った竹で “本格” 流しそうめん 8月毎週日曜開催 上越妙高駅のフルサット内「ご当地ソウル」 2017年7月30日 (日)
・雪室熟成の茶葉プリン専門店 フルサットに「雪の香テラス」7月22日オープン 2017年7月20日 (木)
・洋食店が10月中旬にオープン 上越妙高駅西口フルサットに8店舗目 2017年9月5日 (火)
・上越妙高駅フルサットに東京のIT企業クラスメソッドがオフィス開設 2018年5月15日 (火)


ナカノデザイン一級建築士事務所(新潟・上越市)