起終点駅(ターミナル)起終点駅(ターミナル)
著者:桜木 紫乃
小学館(2012-04-16)
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オススメ!
生きて行きさえすれば、いいことがある。
「かたちないもの」笹野真理子が函館の神父・角田吾朗から「竹原基樹の納骨式に出席してほしい」という手紙を受け取ったのは、先月のことだった。十年前、国内最大手の化粧品会社華清堂で幹部を約束されていた竹原は、突然会社を辞め、東京を引き払った。当時深い仲だった真理子には、何の説明もなかった。竹原は、自分が亡くなったあとのために戸籍謄本を、三ヶ月ごとに取り直しながら暮らしていたという
「海鳥の行方」道報新聞釧路支社の新人記者・山岸里和は、釧路西港の防波堤で石崎という男と知り合う。石崎は六十歳の一人暮らし、現在失業中だという。「西港防波堤で釣り人転落死」の一報が入ったのは、九月初めのことだった。亡くなったのは和田博嗣、六十歳。住んでいたアパートのちゃぶ台には、里和の名刺が置かれていた。
「起終点駅」鷲田完治は釧路で弁護士をしている。かつて妻と息子がいたが、息子が5歳の時に離婚している。今、椎名敦子という覚醒剤所持のため逮捕された女性の案件を受け持っていた。判決が下された後、敦子は鷲田の元へやってきて頼みごとをする。しかし鷲田は断った。敦子の強いまなざしを見て、彼は同じような目をしていた女性を思い出す。篠田冴子という女性で、かつて一緒に暮らしていた女性だった。
「スクラップ・ロード」飯島久彦はここ最近ずっと午前4時に目が覚める。飯島は大手の銀行に勤めていたが心労のため退職。無職の状態だった。仕事が決まらない中、飯島は廃品を集めている人物の中に見知った顔があることに気づく。それは、飯島が中学生の時、農家という仕事も妻も息子も捨てた父親だった。
「たたかいにやぶれて咲けよ」里和は中田ミツという歌人の取材を行っていた。しかし、ミツが亡くなったと聞く。里和はミツと関わりのあった人達に会いに行った。ミツの姪からはミツの恋愛についてを聴き、また姪からミツが5年間共に過ごした男性がいることを聞く。血縁関係があるわけでもないのにミツから土地を譲り受けた近藤悟という男だった。
「潮風の家」久保田千鶴子は30年ぶりに故郷の天塩へやってきた。ずっと帰ってこなかったのは「強盗殺人犯の姉」というレッテルから逃げ出すためだ。両親を失い、親同然によくしてくれたたみ子に会い、30年という月日をかみしめる。

桜木さんの作品は「ラブレス」を読んでからは新刊が出ると読むようになりました。
どの作品も一筋縄ではいかなくて、主人公たちの境遇は決していいものではなくて生きている事に必死だったりもがいていたり苦しんでいたり、読んでいてとてもつらくなる時もあるのだけど、それでも最後にはほんの少しでも光が射しているように感じるのです。その一筋の光を感じたくて読み続けているのかもしれません。
今回の作品もまさにそうで、読んでいて辛い部分がたくさんありました。恋愛についてだったり、仕事についてだったり、家族についてだったり。何かしらの「欠落」した部分をみんな抱えていて、それでもがいているのだけど、人と出会い関わっていくことで考え方が変わったり少し前向きになったりして最後にはほんの少し光が見えてきます。
最後にほんの少しだけ微笑むことが出来るような。
「海鳥の行方」と「たたかいにやぶれて咲けよ」に出てくる里和はあこがれの新聞記者になったけど、上司のセクハラ、パワハラに悩み苦しみ、でも自分を失わずに闘っている姿は、痛々しくてそれでも必死で逞しく感じました。
「潮風の家」も本人が悪いわけではないのにレッテルを張られ、そんな中でも必死で生きてきた女性の姿が私は美しく感じました。自分がたくさん傷ついて必死で生きてきたから、人にやさしい言葉をかけることが出来るのかなと思ったりして。
強盗殺人事件の起きた場所っていうのが悲しいけど、天塩は私も行ったことがあります。道北だから少し寒いけどのどかで素敵なところです。
本当に、生きてさえいればいいことがあるんだと思わせてくれた作品でした。

〈小学館 2012.4〉H24.5.1読了