aamall

2014年03月31日

国際司法裁判所判決に関する私的解説

本日、調査捕鯨に関連する国際司法裁判所の判決が出ました。
とはいえ、そもそも国際司法裁判所の位置づけ自体がわかりにくいものです。まして、その判決をきちんと理解するためには、背景に色々な知識が必要です。おそらく、判決を誤解した議論も、インターネット上では相当な数展開されることと思います。

そこで、ひとまず僕なりに、今回の判決のサマリー(http://www.icj-cij.org/docket/files/148/18162.pdf)について解説をしておきたいと思います。
ただし、僕自身は国際法についてはせいぜい「講義は受けたことがあるし、教科書は読んだことがある」程度の知見しか持ちませんし、さらに言えば英語力にも若干の不安があります。そもそも、僕はこのblogに関してはあくまで匿名(という建前)で書いています。ですので、これをそのまま試合で引用しないでほしい、とだけ予め忠告しておきたいと思います。おそらく近いうちに、関連する分野に詳しい学者やジャーナリストが、この判決についての解説や見解を発表するでしょうから、そちらを利用して議論してほしいと思います。

なお、国際捕鯨取締条約の和訳は外務省のもの(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-S39(1)-0001_1.pdf)を用いていますが、判決のサマリーは私訳です。


まず、前提として。

現在、IWC(国際捕鯨委員会)に加盟している国は、ミンククジラ等、IWCの決議で指定された種類の鯨を、経済活動目的で捕ってはいけないということになっています。これは、国際捕鯨取締条約の中で、この委員会が、捕ってはいけない鯨の種類や、その禁止の期間、場所などを決めることができるとされている(第五条)ことを根拠にしています。

ただし、この条約は同時に、それぞれの国の政府が「適当と認める数の制限及びその他の条件に従って」「科学的研究のために」「鯨を捕獲し、殺し、及び処理すること」を認めてもよい、としています(第八条)。この規定を根拠にして、日本政府は科学的研究のための調査捕鯨を行わせているわけです。

さて、今回の訴訟の対象になっているのは、JARPA供並萋鶸南極海鯨類捕獲調査)と呼ばれる、財団法人 日本鯨類研究所の捕鯨プランです。これは1987年から2005年にかけて行われたJARPA(南極海鯨類捕獲調査)の調査結果を元に、「鯨類を含む南極海生態系のモニタリングを行って、適切な鯨類資源管理の構築に必要な科学的情報を提供するため、致死的および非致死的手法の双方を含む総合的な調査として」実施する、とされています。
(出典:日本鯨類研究所「第二期南極海鯨類捕獲調査(JARPAII)の第一次調査の出港について」

この計画の目的は本当に科学的研究なのか、という点が、今回の裁判で主に争われています。


では、長々とした前置きはこれくらいにして、判決の内容を見ていきます。

まず、I Jurisdiction of the Courtの部分は、日本政府が「国際司法裁判所に、この問題を議論する資格はない」と主張したことに対して、「いや、国際司法裁判所にその資格はある」と応答した部分です。本題はその後。

II 国際捕鯨取締条約第八条第一項の解釈

ここでは、今回の裁判で最も重要な問題が、国際捕鯨取締条約第八条第一項の「科学的研究のために(for purposes of science research)」とはどういう意味か、ということだと指摘されています。そして、今回の裁判では「科学的研究」とは何か、という点はあまり議論になっておらず、問題はどういう条件を満たせば「科学的研究のために」行われている捕鯨であると言えるか、という点だとされます。

そして、この点について次のように述べています。

In order to ascertain, in particular, whether a programme’s use of lethal methods is “for purposes of” scientific research, the Court considers whether the elements of such a programme’s design and implementation are reasonable in relation to its stated research objectives. As shown by the arguments of the Parties, these elements may include: decisions regarding the use of lethal methods; the scale of the programme’s use of lethal sampling; the methodology used to select sample sizes; a comparison of the target sample sizes and the actual take; the time frame associated with a programme; the programme’s scientific output; and the degree to which a programme co-ordinates its activities with related research projects.

(私訳)特に、プログラムが致死的な方法を科学的研究「のために」使用しているのかを確かめるために、裁判所はそのプログラムの設計や実行の要素が、その調査の目的とされているものとの関係において合理的であるかどうかを考慮する。両当事国の議論によって示されたところによれば、これらの要素が含まれているようである:致死的方法の使用に関する決定;プログラムが致死的なサンプリングを使用する規模;サンプル数を選択する際に使用される方法論;目標サンプル数と実際の捕獲数との比較;プログラムが認められる期間の制限;プログラムの科学的アウトプット;プログラムが他の研究プロジェクトとどの程度協働しているか。


あるプログラムが本当に科学的研究を目的にしているかどうかを判定するのは難しい問題です。そこで、今回の判決では、両当事国(つまり日本とオーストラリア)の議論の中でどういう判断基準が主張されたかを見たところ、

・致死的方法の使用に関する決定(これが「使用するかどうか」という意味なのか、「決定がどのような手続きでなされたか」という意味なのかは、僕の英語力の不足のためにわかりません)
・サンプリングの規模
・その規模の決定方法
・計画と実際の捕獲数の差
・プログラムの期間
・科学的な研究結果
・他の研究プロジェクトとの協働

の7点が重要な判断要素であるようだ、としています。

III JARPAIIへの第8条第1項の適用

その上で、判決は、このうちいくつかの要素について、JARPAIIには問題があると指摘しています。

例えば、

Examining Japan’s decisions regarding the use of lethal methods, the Court finds no evidence of any studies of the feasibility or practicability of non-lethal methods, either in setting the JARPA II sample sizes or in later years in which the programme has maintained the same sample size targets. The Court also finds no evidence that Japan examined whether it would be feasible to combine a smaller lethal take and an increase in non-lethal sampling as a means to achieve JARPA II’s research objectives.

(私訳)致死的方法の使用に関する日本の決定について審理すると、裁判所はJARPAIIのサンプル数を設定する段階でも、プログラムが同じだけのサンプル数を目標とし続けるという後年においても、非致死的方法の実行可能性や実現可能性について何らの調査を行ったという証拠も見出すことができない。また、裁判所は、日本がより少ない数の致死的調査を非致死的調査の増加と組み合わせることが、JARPAIIの研究目的を達成するための手段として実行可能であるかどうかを検討したという証拠を見出すこともできない。


と述べて、プログラムのサンプル数の決定にあたって本当にそれが科学的な研究に必要かどうかが分析されたとは、(少なくともこの裁判で提出された証拠からは)言えないと判断しています。

また、この後の部分では、

The Court notes that there are three additional aspects of JARPA II which cast further doubt on its characterization as a programme for purposes of scientific research: the open-ended time frame of the programme, its limited scientific output to date, and the lack of co-operation between JARPA II and other domestic and international research programmes in the Antarctic Ocean.

(私訳)裁判所は、科学的研究のためのプログラムであるという位置づけについて更なる疑いを投げかける3つの追加的な側面がJARPAIIにはあると言及する。すなわち、プログラムの期間的制約がなされていないこと、科学的成果の公表日程が限られていること(?)、そしてJARPAIIと他の南極海における国内外の研究プログラムとの協働が欠けていることである。


と述べ、期間や結果、協働の観点でも、JARPAIIは科学的研究のためのプログラムとは言い難いと判断しているようです。

これらを踏まえ、判決は以下のように述べています。

Taken as a whole, the Court considers that JARPA II involves activities that can broadly be characterized as scientific research, but that “the evidence does not establish that the programme’s design and implementation are reasonable in relation to achieving its stated objectives”. The Court concludes that the special permits granted by Japan for the killing, taking and treating of whales in connection with JARPA II are not “for purposes of scientific research” pursuant to Article VIII, paragraph 1, of the Convention.

(私訳)以上を勘案すると、裁判所は、JARPAIIは広い意味で科学的研究と位置付けられ得る活動を含んではいるものの、「プログラムの設計と実効がその主張されている目的を達成することとの関係で合理的であるという証明はなされていない」。裁判所は、JARPAIIに関連して日本の発行した鯨の殺害、捕獲及び処理に関する特別許可は、国際捕鯨取締条約第8条第1項に言う「科学的研究のための」ものではないと結論する」


そのため、次のように結論付けています。

The Court therefore concludes that Japan has violated: (i) the moratorium on commercial whaling in each of the years during which it has set catch limits above zero for minke whales, fin whales and humpback whales under JARPA II; (ii) the factory ship moratorium in each of the seasons during which fin whales were taken, killed and treated underJARPA II; and (iii) the prohibition of commercial whaling in the Southern Ocean Sanctuary in each of the seasons during which fin whales have been taken under JARPA II.

(私訳)裁判所はそれゆえ、日本は(1)ミンククジラ、ナガスクジラ及びザトウクジラの捕獲数を期間中の各年ゼロに制限した商業捕鯨モラトリアムにJARPAIIによって、(2)期間中の各季における工船モラトリアムについて、JARPAIIによるナガスクジラの捕獲、殺害及び処理によって、(3)期間中各季における南極海聖域における商業捕鯨の禁止にJARPAIIの下でのナガスクジラの捕獲によって、違反していると結論する。


表現は難しくなっていますが、要するに、JARPAIIの捕鯨は、条約で認められている「科学的研究のための」ものではないから、ルール違反だ、ということです。


これに加えて、裁判所はこうも述べています。

The Court observes that JARPA II is an ongoing programme. Under these circumstances, measures that go beyond declaratory relief are warranted. The Court therefore orders that Japan revoke any extant authorization, permit or licence to kill, take or treat whales in relation to JARPA II, and refrain from granting any further permits under Article VIII, paragraph 1, of the Convention, in pursuance of that programme. The Court sees no need to order the additional remedy requested by Australia, which would require Japan to refrain from authorizing or implementing any special permit whaling which is not for purposes of scientific research within the meaning of Article VIII, since that obligation already applies to all States parties.

(私訳)裁判所は、JARPAIIは現在進行中のプログラムであると認識している。このような状況においては、法令は宣言による気晴らしを超えるものであることが正当である。裁判所はそれゆえ、日本に、JARPAIIに関連して現存するあらゆる鯨の殺害、捕獲若しくは処理に関する承認、許可若しくは免許を取消し、そのプログラムの遂行において、国際捕鯨取締条約第8条第1項の下でこれ以上何らの許可を与えることもしないよう求める。裁判所は、日本に第8条に定められた科学的研究の目的以外でいかなる捕鯨の特別許可や実施をも行わないよう日本に求めるという、オーストラリアの要求したさらなる矯正策を採る必要はないと考える。なぜならその義務は、すでに全ての加盟国に課されているからである。


要するに、日本政府が今認めている、南極海での捕鯨は、条約に言うところの調査捕鯨とは言えないから、それは止めさせてくださいね、と裁判所は要請しているのです。


大まかにまとめると、今回の判決は、「JARPAIIは、その決定にあたって、本当に(そんなに多く、しかも長期にわたって定期的に)鯨を殺さなければその調査目的を達成できないか、他の調査結果を利用したり、非致死的方法を用いたりすることでその数を減らすことができないか、といった点をきちんと分析していないから、本当に科学的調査を目的にしていたとは言い難いので、やめなさい」と言っているわけです。ですから、この判決は「致死的方法による調査捕鯨自体を止めるべき」と言っている訳ではなく、その手続きに問題があることを指摘していると理解すべきでしょう。そのことが、最後にJARPAIIに関連する範囲を超える部分についてのオーストラリア側の主張を認めなかった点にあらわれていると考えられます。


……と、まあ、僕がサマリーを読んだ限りではこんな風に考えました。繰り返しますが、今後、よりこの分野に詳しい人が、この判決の解説や、それを踏まえての日本政府の採るべき政策についての見解を発表すると思います。ぜひ、そういった議論をこそ、試合の中で引用して、議論してほしいと思います。

少なくとも、そういう判決ですので、例えば「こんな判決もでてしまったし、論題が変更されるんじゃないか」とまでは考えなくてもいいと思いますよ。それよりも、この判決が出たことを踏まえて、どう議論するかを考えてみてください。

nagasakiwestai at 22:34│Comments(0)TrackBack(0)

トラックバックURL

この記事にコメントする

名前:
URL:
  情報を記憶: 評価: 顔   
 
 
 
記事検索
カテゴリ別アーカイブ
楽天市場