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2016年08月19日

2016年ディベート甲子園高校準決勝(1)について

「並みの大学生ディベーターを軽く蹴散らせそう」
と、ジャッジルームで噂された両チームの試合を、ようやく見ることができました。
今年のディベート甲子園高校準決勝第一試合、鎌倉学園高校vs筑波大学附属駒場高校です。
まだごらんになっていない方は、こちらからどうぞ。

言いたいことはかなりの程度、主審講評で述べられています。が、私の感じたところをそのまま、書いていきます。

1.思想の一貫性
まず、両チームの議論の特徴として、根底にある思想が立論から第二反駁まで一貫している、ということが挙げられます。これは大変良いことだと思います。

肯定側では、「国民が自ら決めることが重要である」という価値観を提示しています。これはメリットの重要性としては今シーズンよく聞かれた議論です。しかしながら、この試合ではそれにとどまりません。デメリットに対する反駁でも、特に出された事例に対して一貫して、「その事例では、国民(住民)はずっとそう考えてきた」「今でもそれでよいと考えている」ということを主張しています。そうだとすれば、肯定側の価値観に乗って考える限り、デメリット(少なくとも、そこで挙げられた実例)は、さほど深刻な問題ではない、あるいはむしろ、あるべき姿になっているのだからそれでよいのだ、ということになります。あるいは何度も主張されたように、「官僚や政治家が正しいと思っているということが、必ずしも正しいとは言えない」ということから、デメリットの固有性を削りに行くという戦略も、この思想にマッチしています。どういう世界を目指したいのかが、大変わかりやすいです。
 
否定側からは、「今の有権者に限らず、国民の利益のために国は動くべきだ」という価値観が示されています。その価値観からすれば、国民投票は受け入れられない、という主張です。なぜなら、試合中に示されたように、民意は間違えることがあるし、あるいは国民には情報を収集して判断するほどの時間がないから、ということになります。そこで、官僚を中心とした現在の政策決定プロセスの中で、専門的な知見や様々な立場に配慮したうえで、政策決定が行われるべきである、と主張しているわけです。こちらもまた、デメリットで論じている議論と、メリットに対する反論との間に一貫して、どういう政策決定があるべきと考えているのか、筋が通っているように思います。

このような戦略の一貫性を生む背景として、一つには、ディベートに対する深い理解があるように思います。少しディベートに慣れてきた選手にありがちな誤解として、ディベートを単純にエビデンスをぶつけ合うだけのゲームと捉えてしまうということがあります。ミクロの論点で見たとき、互いのエビデンスのぶつけ合いが生じることは事実ですし、時にそれが全体の勝敗を分けることもあります。しかし、そういったミクロレベルのぶつけ合いは、あくまで全体のストーリーの中に位置づけられて初めて意味を持ちます。だから、論点ごとの作戦だけを考えるのではなく、こうやって全体としてどういう状況を望ましいと考え、どんな社会を作ろうとしているのか、という一貫した思想のある議論は、真に強いディベーターにとって必須のものだと言えるでしょう。


2.この試合を決着させてほしかった論点と、決着させた(であろう)論点
さて、この試合を聞いていて、実は最も決着させてほしかった論点は、最後まで決着がつかなかった論点だったと思っています。そして、主審講評を聞く限り、そこが投票の割れる一因だったのではないかと思います。

一言で言えば、「どっちのストーリーに乗ったらいいの?」ということです。
肯定側と否定側は、それぞれ違う世界を目指しています。そしてそれぞれ、「自分たちの主張する政策をとれば、自分たちの目指す世界に近づけるよ」という立証には、ある程度成功しているように思います。この段階で、どちらに対しても投票しうる、という状況になっているのです。だとすると、「どちらの世界を目指すべきか?」というところで、投票したいと私は考えます。

ただ、今季論題でこの決着をつけることは極めて難しかったでしょう。民意の反映とそれによる弊害をどう比較するのか、それは誰が判断するのか、という議論はまさに、人類が数千年にわたって議論してなお、決着をみない問題だからです。難しいのはよくわかります。けれども、だからこそ、この論点で明確に勝つことができれば、気持ちよくそのチームに投票できたのではないか、と考えるところです。

今回の試合では、肯定側の「国民主権だから民意を反映すべき」という考えと、否定側の「民意は誤りうるのだから、必ずしもその通りにすべきではない」という考えとの間で、対立が生じています。そしてこの論点で、より深い論拠をもってどちらかを支持することは、どちらのチームも成功していません。結果、どちらのストーリーに乗るかで投票が割れている、ということになるのだと思います。

ただ、この試合展開で投票が割れる場合、肯定側に投票するジャッジの方が多い、というのもわかります。主審講評でも言われている通り、肯定側第一反駁で、官僚という一部の専門家の意見によって政策を決めることが、かえって失政につながっているという議論があるためです。この論点で、否定側から「それを踏まえても一般国民と"官僚&政治家"の判断では、一般に後者が信頼性が高いと言える」というには、やや説明が不足していたように思います。その結果、「みんなの利益のためにいい政治をする」という否定側の主張は、「現状維持でもそうできていない」という形で、ストーリーに瑕がついている状態になります。そして、どちらも同じように間違える、という前提になるのであれば、「被害を受けるのは一般国民なのだから、自分たちで決めさせよう」という肯定側のストーリーの方が乗りやすいでしょう。

どちらのストーリーも、致命傷というほどのものを負っているわけではないと思います。だからこそ、どちらに乗るかとなったとき、より大きな傷を生むミクロの議論が、重要になってくるのです。


3.私の投票
と、書いておきながら、私はおそらくジャッジだったら否定側に投票したでしょう。

主審講評で言われた多数派の見解と最も大きく違うのは、メリットの解決性に対する評価だと思います。
特に解決性1に対する反駁で、否定側から出された「結局同じような意見の人同士で議論して、より極端な意見を持つようになってしまう」という議論を、肯定側は否定していません。肯定側の反駁でも主審講評でも、ここを別のデメリットにつながる議論とみて、その深刻性が示されていないと評価されています。けれども、私はそれだけではないと思っています。
そもそも、このメリット(Aの部分)で肯定側は、「今は政治家がその信念(のふりをしたもの)を国民に押し付けている。それをプラン後は、多様な意見をくみ取って調整する必要のある国民投票で決めることになるのだから、コンセンサスの得られるものになるはずだ」と主張しています。しかし、同じような意見の人とばかり議論し、意見を先鋭化するという状況は、このストーリーに大きく反しています。この状況では、調整と妥協によってコンセンサスの得られるものが成立するのではなく、合意の得られない中で多数意見が可決されていくでしょう。そう解釈する限り、解決性1はほぼ切れています。

また、解決性2で言われた「政治家が説明するようになる」という議論も、結局それを国民が受容することができる、というところで「情報をもらってもそれを熟慮する時間がない」という反駁で大きく削られています。そうすると、ここを大きく評価することも難しいでしょう。

ということで、メリットに対する否定側第一反駁の反論がかなり効いていて、メリットがあまり残らないという評価です。

対して、デメリットをどう評価するかですが、ここは結局、官僚の判断と国民の判断とのどちらをどの程度信用するか、という問題になります。
まず、官僚の判断について。ここで肯定側から提示された議論は、確かに官僚が誤りうることを示しています。ただ、その誤りというのは、専門家でも意見が割れるような問題、あるいは、賛否両方に専門的な見解のありうる問題では、偏った判断をする可能性があるということを述べているにとどまります。この点、このような問題を、一般国民だったら正しく判断できるという立証がなされたとは思いません。また、一般国民には情報を十分に熟慮する時間がないというのであれば、専門知識のないフラットな見方というのはさほど有効ではないように思います。
他方、一般国民について。否定側の言う「一般国民が目先の利益に流される」という議論と、肯定側の言う「情報が不足していると判断したら現状維持」という議論は、別に対立していないと思います。肯定側の議論はあくまで情報が不足していると判断した状況について述べているだけで、得られた情報から自分に利益があると感じた国民は、きっと法案に賛成するのでしょう。となると、より大所高所からの見方を欠いた判断がなされる可能性は幾分あるように思います。

こう考えると、メリットのストーリーよりもデメリットのストーリーの方に共感するところです。したがって、否定側に投票する、という判断になります。ただ、否定側第一反駁で単発されたあと第二反駁で十分再構成されていない反駁で、解決性をここまで削るジャッジは少数派でしょうね…。

本当は個別論点にももっと踏み込みたいし、ほかにも賞賛すべき点・改善してほしい点はありますが、今日のところはここまで。





nagasakiwestai at 01:25│Comments(0)TrackBack(0)

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