陽だまりの図書館

緑の美しい季節になりました。新しい本をたくさん準備して待っています。

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 軍医として参戦し、銃撃によって肩を痛めイギリスに戻ってきた「私」。知る人のないロンドンで、手頃な住まいを探していると、病院の化学実験室で研究をしている男が同居人を欲しがっていることを知る。男の研究に取り組む姿と軽妙な語り口に好感を持った「私」は、ベイカー街221番地Bの下宿で、共に暮らすことを決めるが……。

 誰もが知っている「ベイカー街221番地B」。戦争から負傷して帰国したワトスンと名探偵シャーロック・ホームズの出会いと、初めての事件。町外れの空き家でアメリカ人の遺体が発見され、血痕が遺されたものの、負傷された形跡はなく、物取りでもない。犯人は誰?そしてなぜ殺されたのか。現場に残された血文字の意味は?
 
 事件の影に隠されていた壮大で悲しい物語。『緋色の研究』そんな物語だったとは!

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 ニューヨークで暮らす木坂理生那(りおな)が、9歳の息子をアイスホッケークラブに送り、クリーニング店で衣類を受け取り家に戻ると、そこには14歳の娘礼那の姿はなく、一通の手紙が。
 そこには、理生那の家から大学に通うことになった兄の娘逸佳と旅に出ること、家でではないから心配しないように、電話もするし、手紙も書く。旅が終われば帰るからと書かれていた。

 「私たちアメリカを見なきゃ」そう言って、14歳と17歳の従姉妹が2人きりでアメリカを縦横する旅へ。そこで彼女たちを待っていたものは……。

 まずこの厚さ。江國さんが私を裏切った例(ためし)はないので、これだけ浸れると思うとそれだけでワクワクしてくる。物語は従姉妹同士の旅そのもの。旅に出かける前の高揚感、不安と期待がぐっちゃぐちゃになる感じ。小さな出会いや別れ、ちょっとしたカルチャーショックや、トラブルや思いがけない幸運などがこれでもかと詰まっていて、行ったこともないのに、本当に旅をしているような気持ちにさせられました。
 残された2つの家族の在り方も実にリアルで、微妙な気持ちのズレや捉え方の違いが浮き彫りになったときの男女の言動や心情が痛いくらい。
 
 「旅」そのものが物語なので、読者を選びそうな気もするけれど、できれば終わらないでと願うくらい楽しい時間を過ごせて満足です。

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 亡くなった母親の元夫である統理とマンションで暮らす10歳の百音(ももね)。両親がいないこと、「なさぬ仲」であるらしい統理との暮らし、口さがない世間は勝手なことを口にするけれども、子ども扱いされず、きちんと向き合って話してくれる統理との日々を、百音はけっこう気に入っている。

 5階建てマンションの最上階にある庭園と神社。統理が宮司を務める「縁切りさん」と呼ばれる神社には、今日も様々なものと縁を切りたい人々が訪れる。統理、百音、そして2人を取り巻く人々の物語。

 体の隅々までさわやかな風が吹き抜けるような、読後感が「今」の季節にぴったりの物語でした。登場人物は訳あり、というかむしろ「ありあり」なんだけど、みな痛みを抱えながら、でも、抗うでなく、押しつぶされるでもなく、自然体に受け入れて淡々と過ごしていて……。そのことが「読んでいる人」も丸ごと受け止めてもらえるような、そんな心地よさがある読書体験でした。
 「失うことや持っていないことで得られるものがある」なんて、やさしい、そして力強いメッセージだろう。

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 親友フランツがベルリンで謎の死を遂げ、その妻カオルから「相談したいことがあるから、直接会って話したい」という旨のメールを受け取った早瀬孝夫。しかし、孝夫がベルリンに向かうと、そこにカオルの姿はなく、突然母に取り残された9歳の娘カサネが心細げに彼を待っていた。
 ほどなく、孝夫に1本の電話が。それは、カオルと引き換えに、フランツが生前所持していた絵をよこせというものだった。それはルネッサンス期の巨匠が遺した幻の絵画。
 親友のため、そして親友の遺した家族のために、捜索に乗り出した孝夫だったが……。

 現在と過去、幻の絵画を探す孝夫の物語と、ボッティチェッリをめぐる物語が織りなすアートミステリー。原田マハさんの『楽園のカンヴァス』や『暗幕のゲルニカ』を連想しましたが、前半はどうにも読みづらく苦戦。16世紀のイタリアや第二次世界大戦終了時のドイツなど、世界史に詳しければ、もっと状況がつかみやすいのにと思うところがあって残念だけれども、絵画をめぐる物語はとてもドラマチックで魅力的。映像化されたら絶対見てみたいと思わせる内容でした。

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一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫)
ジョージ・オーウェル
早川書房
2009-07-18



 1984年4月、ビッグ・ブラザー率いる政党が支配する社会で、真理省記録局に勤務するウィンストン・スミス。彼の仕事は、いわゆる歴史の改ざんで、党の都合の悪い事実をことごとく書き換えていくというものだった。
 行動はすべて「テレスクリーン」と呼ばれるモニターで監視される日々に、いつしか疑問を抱くようになるウィンストン。仕事中に目にした1枚の写真が、頭から離れられなくなっていく。
 そんな中、彼の目の前に見え隠れする女性の姿が……。最初は自分を落とし入れるために送られてきた「思考警察」の一派かと疑ったものの、傍若無人で大胆なジュリアに惹かれていくウィンストン。ジュリアとの秘密の逢瀬を繰り返しながら、反政府地下活動へ惹かれるようになり……。


 イギリスでの「読んだふり本」1位だというこの作品をちゃんと読んでみようと手にした。
 歴史は改竄され、政府に疑問を持つ者はいつしか消えていく社会。言論は統制され、すべてを受け入れていく人々。そんな中、人間らしく生きようと希望を抱いた主人公の行く先は……。
 1949年に発表された作品だけれども、徹底された監視社会、最近の情勢など見ていると、現代社会と全く乖離しているとも言い難くて、空恐ろしささえ感じる。

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 自由奔放で、思いのままに生きる母と、その母を愛して止まない父。そんな両親の愛情を一身に受けて育った小学生の更紗は、たとえ浮世離れしていると陰口をたたかれても、変な家の子と呼ばれても、ちっとも気にしなかった。
 しかし、そんな幸せは長く続かず、更紗は、大切な両親を突然失ってしまう。そして、母の姉に引き取られた更紗の生活は一変してしまい……。

 幼くして、「ひとりぼっち」になった小学生の更紗と、一人暮らしの大学生文(ふみ)との、出会いとその後の物語。TLで読了ツイートがたくさん流れていたけど、恋愛ものはちょっと……と敬遠していた作品。

 自分とはむしろ真逆の世界で暮らしている更紗なのに、共感して、身につまされてしまい、息をするのも忘れるくらい前のめりで読んでしまいました。こんなに苦しくて苦しくてたまらず、でも読まずにはいられない、なんとも難儀な読書でしたが、本当に読んでよかった。
 本屋大賞だから、映像化されるんだろうけど、この読後感を大切に胸に抱いていたいです。

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