不倫相手の上司秋山に、「今回は見送って、きちんとしてから子どもを作ろう」と促され、やむなく堕胎した希和子は、その2か月後秋山の妻恵津子の妊娠を知らされ、別れる決意をする。しかし、秋山は執拗に交際を迫り、2人の関係は妻の知るところとなる。秋山の思わせぶりな態度と、妻の心ない言葉に次第に追い詰められていく希和子。

 数か月後のある朝、希和子は秋山夫婦の家の前に立っていた。そして妻が毎朝夫を駅まで送る約20分間、施錠しないことを知った希和子は、家に上がりこみ赤ん坊をさがす。最初は一目見るだけのつもりだった希和子だが、いつしか子どもを抱きかかえ、駅とは反対の方向に走り出していた…(市図)

 「愛人の子を盗み、逃走する話」ということで、学校向きじゃないし、読んだら凹みそうだし…と気になりながら、読めずにいたのですが、青子さんに「さわやかなラスト」と背中を押され、一気読みです(青子さん、ありがとう

 犯罪と知りつつ、盗んだ赤ちゃんに「薫」と名づけ、逃亡を繰り返しながらも愛情をかけて育んでいく主人公の希和子。その危うさと、娘と2人で懸命に生きようとする姿に胸が痛くなりました。希和子のしたことは、許されることではないけれど、彼女は紛れもなく「母」だったのだと思いました。

 物語は前半は希和子の立場から、後半は薫の立場から綴られていきます。見つかって終わり…と思い込んでいたので、薫のその後は確かに衝撃的でしたが、そうであっても仕方ないという思いもあります。

 ラストもラストの一文もよかったです。希和子がつかまるときに発した一言が何度読んでも、切ないです。(友達には★4)