陽だまりの図書館

August 2009

4
鷺と雪
鷺と雪
クチコミを見る

 高等科最高学年となった英子、同級生には次々と縁談が持ち上がる年に。ある日兄と出かけた銀座で、英子は思いがけない話を聞く。英子の友人桐原侯爵の道子の義理の叔父にあたる滝沢子爵が、浅草の暗黒街をルンペンの身なりで歩いていたというのだ。
 
 道子に頼まれ、運転手ベッキーさんの案内で、叔父が住むという小石川を訪れた3人。しかし、そこに叔父の姿はなく、道子が叔母に事情を聞くと叔父は「神隠し」にあったのだと打ち明けられたのだという。腑に落ちない英子は桐原の写真をもとに、浅草を訪れるが…(借)

 お嬢様英子とお抱え運転手ベッキーさんのシリーズ第3作、直木賞受賞作です。『不在の父』『獅子と地下鉄』『鷺と雪』の3話からなるこの作品ですが、シリーズ最終巻とあって、名残惜しくページがめくれず、2話まで読んで、他の本で気晴らしをしたりしていました。

 それというのも時代は戦争の足音が忍び寄る昭和11年。もう前2作までのようにお嬢様英子と博識で用心棒のようにカッコいい女性運転手ベッキーさんの活躍を楽しむというように進まないことはわかっていたからです。

 そして表題作『鷺と雪』…やはりと思う男性との再会、そしてベッキーさんが以前口にした『漢書』の一節、なんとなく予想できたもののラストは全くの予想外でした。北村さんが目指したゴールがここだったとは…しばらく呆然としたのは言うまでもありません。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夏のお休みも十日まで。放蕩者がお金を使い尽くすように、たちまち過ぎてしまった。休暇の終わりに後何日と指を折るのは、お財布に残った紙幣の数を、《もう二枚、ああ最後の一枚》と勘定するようなものかもしれない。…中略…さて、夏休みをいかに有効に過ごしたかというと、これといって特筆すべきこともない。ただ、本なら何冊か読んだ。

 『鷺と雪』の冒頭です。自分のこの休みそのものだったから、笑ってしまいました。夏休みもあと1日、すでに2学期に向けて動き出しています。夏休みの終わりによい読書ができてよかった。Y先生貸してくださってありがとうございました。2学期もしっかり働きます。

3
“文学少女”見習いの、初戀。 (ファミ通文庫)
“文学少女”見習いの、初戀。 (ファミ通文庫)
クチコミを見る

 遠子先輩が卒業し、3年生、たった一人の文芸部員となった心葉(このは)。しかし、その心葉を入学前に見かけて、ひそかな恋心を抱いていた少女がいた。
 少女の名は日坂菜乃。読書とは全く無縁の菜乃だったが、本好きと偽り、文芸部に強引に入部する。積極的な菜乃の思いに圧倒されながらも、彼女を受け入れようとしない心葉。一方で菜乃は、ライバル遠子先輩に打ち勝つため、自ら“文学少女”を目指す。

 ある日、心葉に読みが浅いと言われたことに憤慨した菜乃は図書館へ。そこで美しい女性「なごむ」と出会う。大人っぽいなごむに、たちまち憧れてしまう菜乃。この世で一番確かな愛の形は共に死ぬことというなごむのことばに、揺れながらも彼女の恋を応援しようとする。
 しかし、突然連絡を取れなくなった菜乃が心配して、なごむの学校を訪れると、松本和(なごむ)は男性で、しかも女生徒と心中し、今は亡き人だと聞かされ…(学図)

 “文学少女”シリーズの外伝です。心葉の前に現れる少女、文学少女のラストを読んだ以上、こいつ(こいつ呼ばわり)はゼッタイ阻止せねばと美羽やななせじゃなくてもそう思うのですが…
 後半は野村さんらしい、痛い感じのミステリ仕立てでどんどん引き込まれていきます。ボールド体のモノローグの正体は、はたして誰なのか…このあたりうまいですね〜。

 シリーズはもう少し続きそうです。菜乃ちゃんは、う〜んという感じですが、心葉くんの成長をもう少し見てみますか(えっ、エピソード集2が出たって?)

4
“文学少女”と恋する挿話集 1 (ファミ通文庫)
“文学少女”と恋する挿話集 1 (ファミ通文庫)
クチコミを見る

 柔道一筋、人呼んで「炎の闘牛」牛島が、恋したのは文芸部の天野遠子。ライバルと思っていた文芸部の後輩心葉に、気持ちを見透かされ、アタック方法を伝授されるが…
『“文学少女”と恋する牛魔王(ミノタウロス)』ほか書下ろしを含む全10編の豪華短編集(学図)
 
 久しぶりの文学少女。今回も『更級日記』から『蟹工船』まで幅広いジャンルの物語についてとうとうと語る遠子せんぱいにうっとりです。
 また、姫倉麻貴や流人、一詩と美羽などが主人公の物語もあってファンの心をくすぐる作品になっていて、予約続出の予感です。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 とりあえず、目を通して、次は“文学少女”の見習い編です。新学期に開館したらまず返ってこないので、ちょっと読ませてもらっております。職権乱用というやつです。

4
永遠に生きるために
永遠に生きるために
クチコミを見る
 小児急性リンパ芽球性白血病と診断された11歳のサム。二度の再発、抗がん治療も効果なく在宅治療をしているサムの楽しみは、週に3度の自宅での「学校」。先生は、楽しい授業を次々に思いつくミセス・ウィリス。生徒はサムと小児がんでやんちゃなフェリックス。

 ある日、サムはウィリス先生の提案で自分のことについて本を書くことに。自分の病気のこと、家族や妹エラのこと、そして死ぬまでにやってみたい8つのことについて…(学図)

 子どもが亡くなる話は、物語でも本当はあまり読みたくはない。けれど、最初に開いたページのメッセージを読んで、読むことにしました。
 主人公のサムは、何度も入退院をくり返し、自分の命が長くないことを知っている少年です。父親は、息子が重い病気だという現実を受け入れることができず、相談できない母親は自らを責めたり、悩んだり…
 
 サムが取り乱したり、苦しんだりせず、自分を取り巻く様々な疑問に取り組む姿や、フェリックスと数々の大冒険をしていく姿に救われました。静かな勇気のいっぱいつまった本でした。

4
百瀬、こっちを向いて。
百瀬、こっちを向いて。
クチコミを見る
 幼なじみだけど、女子に大人気のルックスをもつバスケット部のキャプテン宮崎先輩。男子の誰もが一目でファンになる美しく聡明な神林先輩。2人は誰もがうらやむ学校の最高のカップルだ。
 一方ノボルはクラスでも目立たない存在。同じようにクラスになじめない田辺と平穏な毎日を送っていたが…

 ある日、ノボルは宮崎先輩が見知らぬ女の子と歩いているのを見かける。噂が神林先輩に伝わることを恐れた宮崎先輩は、なんとその女の子とノボルがつき合っていることにしてほしいと頼み込んだ。かくして、平凡な僕に突然挑戦的な目をした「百瀬」と名乗る形ばかりのカワイイ彼女ができたのだが…(学図)

 表題作のほかに『なみうちぎわ』『キャベツ畑に彼の声』『小梅が通る』の3作が入っています。いずれも、初々しい恋愛作品。誰もがほほえましく、楽しく読める物語ばかり。
 重すぎず、軽すぎず…これって、簡単なようで意外と難しいですよね。シンプル過ぎる装丁にも作者の余裕を感じます。

 作家はあの「乙一」さんだとも噂されている中田永一さん。確かに読みやすいし、うまいし、気持ちよくコロコロ編まされて、手のひらに転がされているような読書がなんとも心地いいです。

このページのトップヘ