陽だまりの図書館

November 2018

4


 下町の小さなフレンチ・レストラン『ビストロ・パ・マル』にやってくるお客さんの不可解な行動を強面で繊細な料理をつくる三舟シェフが、さらりと解きあかす料理はおいしく、人間関係はほろ苦い?『ビストロ・パ・マル』シリーズの第3弾。 (市図)235P

 知らないうちに第3弾が出ていてびっくり!え〜っ、読む読むってことで……

 今回は表題作プラス7編の計8編。どれも、極上の料理がもれなくついてくるので、1話1話楽しめました。知らない用語がたくさん出てくるので、調べながら、いろいろ想像するのも楽しい。

 主人公のギャルソン、高築くんは相変わらずなので、シェフの表情に「何?何?何なの?」と焦りながら、なるほどそういうことか……のくり返し。どれが好きかと聞かれたら、そこは父娘の物語か、悲恋からの……といったところでしょうか。
 にしてもシェフ、少し丸くなったんじゃ?

 とりあえず、ごちそうさまでした。

4


 ある日牧師の前に見知らぬ小娘が現れ、息を引き取りかけている気の毒な老婆のもとに来てほしいと。小娘は老婆の召使で、主の急変に牧師を告げに来たのだった。しかし、牧師が駆け付けると老婆はすでに息を引き取っていた。
 残された近所の者と葬儀の手はずを整えた牧師だったが、部屋の片隅にボロをまとった少女がうずくまっているのを目にする。少女は死んだ老婆の唯一の家族だったが、目が見えず、老婆が耳が不自由だったため、言葉も教えられていなかった。牧師は、残された少女を見ているうちに、これは神が自分を試すために遣わしたものだという思いに捕らわれ、少女を連れ帰ることにする。

 しかし、乳飲み子他4人の子どもを抱えた妻アメリーは、牧師の勝手な振る舞いに気分を害し、少女を連れ帰った牧師をよしとしない。以来、夫婦の間はぎくしゃくとしたものになるが、牧師は少女を人間らしくするために、心血を注ぐのだった。 (学図)134P

 先日、この作品に関する講演を聞く機会があり、興味をもって読んでみました。なんと!『狭き門』以来のジッドです。

 そうなったら、そうなるよね〜という悲劇ですが、講演者の先生のおしゃるようなキリスト教的な視点、あるいはジッド自身の体験などを鑑みると、より深く読めそうです。

 そういえば、ひとつの作品を様々な観点から考えて読むような読書を最近していないなぁ。せめて、感想ぐらいは残しておかなくては!

5


 第二次世界大戦後のドイツ。総統は自殺し、ソヴィエト連邦、アメリカ合衆国、イギリス、フランスの4国の統治下にあったベルリンが舞台。
 敗戦の混乱の中、アウグステ・ニッケルは、アメリカ軍の慰安用兵員食堂のウェイトレスとして逞しく生き抜いていた。彼女を大切に育ててくれた両親、やさしき隣人、妹のようにかわいがっていたイーダを亡くし、未来の見えない混とんとした街で、たった一つのなぐさめは英語で書かれた1冊の黄色い本だけ。

 しかし、そんな彼女のもとに突然荒々しくやってきたアメリカ兵2人。連行される先が警察署、しかもソヴィエトと聞き、抵抗するアウグステだったが、ジープはやがてソ連の管理区域へ。
 アメリカ兵に置き去りにされた彼女の前に現れたのは、KNVDのドブリギン大尉と名乗る男性。彼はアウグステにある人物の遺体を確認してほしいと言い、処置台へ案内する。

 アウグステが目にしたのは、両親を亡くした彼女をかくまってくれた恩人ともいえるローレンツ夫妻の夫、クリストフの変わり果てた姿だった。毒殺されたと告げるドブリギン大尉が明らかに自分を疑っていることを感じながらも、もう一人の容疑者である夫妻の甥エーリヒを探し出すことを引き受けたアウグステは、得体のしれない元俳優カフカとともに、彼が住むというバーベルスベルクを目指すことに…。(学図)475P

 
私たちはみんな、走って、走って、息が切れ心臓が止まるまで走って、戦争を駆け抜けた。

 深緑野分さんの新刊!しかも心惹かれるタイトル。ということで、期待に胸をふくらませながら読みました。

 物語の舞台は敗戦から2か月のベルリン。戦勝国に支配され、誰もが行く先もわからない不安の中で生きることに精一杯の時代。よく考えたら、ホロコーストに向かうまでや、収容所での話はよく読むけれど、その後の話については全く無知である自分に気づきました。解放されて、助かってハイ終わりでないことは考えるまでもないし、迫害されたのがユダヤ人や障害をもった人々などの差別を受けた人々だけでなく、同じドイツ人の中にも、ヒトラーの政策をよしとせず犠牲者となったことについても知識としてはあったつもりだけれども、アウグステの目を通してよりリアルに「その日」のベルリンを知ることができました。
 生き抜くために、誰もが人に言えない秘密をもち、決して本心を明かせない、そんな世界で力強く生きていく人々。

 叔父の死を知らせるためにエーリヒを探し出そうとするアウグステに、それ以外の「何か」があると感じながらも、彼女を阻む出来事や行く先に見え隠れする「ドブリギン大尉」の影にも怯えつつの忙しい読書。逸る気持ちを抑えながら、じわじわページをめくり読み進めると、待っていたのは…。

 細切れ読書ながら、どうなるのかと息をつめてページをめくる読書。堪能しました。
 
 

 

4


 「ねえ、放課後、暇だったりする?」と突然声をかけられ、たじろぐ高梨慎也。何しろ相手は、同じクラスとはいえクラス委員長、成績優秀、高2にして演劇部部長で学校のアイドル的存在である雨宮楓だ。親友の拓海にどういうことだ!と詰め寄られても、まったく心当たりのない慎也は当惑するばかり。 
 昼休みも挙動不審ぶりを拓海に指摘され、うろたえる慎也の目の前で、突然人の形をしたものが落下。慌てて窓に駆け寄ると、そこには女生徒が倒れて、こともあろうか、それは慎也に声をかけてきた楓その人だった。
 何も悩みがなかったかのように見えた楓がなぜ亡くなったのか?事故?それとも事件なのか?様々な憶測が飛び交う中、楓が薬物中毒だったのではという噂まで。
 彼女の残した一言が気になり、釈然としない慎也のもとに、刑事となった従兄葛城公彦が現れ、真相究明に手を貸してほしいと乞う。まずは、背景を知ろうと、演劇部への入部を決めた慎也だったが……(学図)320P

 軽めの学園ミステリと聞き、読んでみました。

 学校のアイドル的存在の美少女が謎の転落死。従兄の刑事に頼まれた少年が事件の真相を追う……って、この「ありそうで、まずない」プロットはどうよ!と半ばツッコミながら読み進めたものの、教師の言動とか、演劇部の活動そのものはなかなかリアルで、途中は演劇に取り組む少年少女の物語かと錯覚するところでした。
 後半にかけて、ぐっとおもしろくなり、それで?それで?と気になる展開。

 読後は、どうかなぁ〜というのはあるけど、なかなか楽しめました。
 

4


 小学5年生の下野(かばた)蓮司は、病院のベッドで目を覚ます。野球の試合中、バッターの打った球をグローブで受け止めようとした瞬間までは、なんとなく記憶にあるものの、その後の記憶がない。なぜか、後頭部に強い痛みがあり、頭には包帯がまかれているようだ。
 そんな蓮司のもとに様子を見に来た看護師に現状を伝えようとするが、なぜか噛み合わない。しかも、身体に感じる違和感の正体を探るべく、部屋の鏡を見た蓮司は、そこに大人の姿をした自分を見つけ驚愕する。
 昨夜、公園のベンチで何者かに襲撃されたと言われても、11歳で野球をしていたという記憶しかない蓮司。医者は、意識が混濁しているせいではないかというのだが……
 やがて見覚えのない女性が病室に現れ、彼の名を呼ぶ。混乱の中、誘われるままに病室を抜け出した蓮司だったが……(自)237P

 中田永一の新作と聞き、ワクワクして読みました。逸る気持ちを抑えながらの一気読み。ちょっともったいなかったかなぁ。

 物語は、後頭部を強打したことで、意識だけ20年、過去と未来を移動した少年の物語。過去の世界でとある少女を救った少年が、大人になって少女と再会し、彼女に起きた出来事の真相を探るため、また過去に向かうというもの。
 いったいどこから始まったのかとか、追究していくと混乱してしまうのだけど、過去と未来、さまざまなディテールがきれいにリンクしていて、実に気持ちのいい展開。このあたり、さすが!!というしかありません。

 そう言えば、ロバート・F・ヤングも未読でした。ビブリア古書堂も途中で止まっているし、こんなのが多いなぁ。

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