陽だまりの図書館

カテゴリ:ナ行の作家 > 西加奈子

 小さい頃から、お兄ちゃんたちのお下がりばかり着て、いつもずぼんばかり履いていた私。いつもうんとお洒落しているおばあちゃんには不評だったけれど。そんな私がおばあちゃんの入院を機にスカートを履き始めて……。(『燃やす』ほか7編)

 女の子とおじさんモノ(?)が多めの短編集。女の子と学校の焼却炉で働くおじさんとの交流を描いた『燃やす』のほか、いちごを育てている歳の離れた親戚のおじさんとの日々を綴った『いちご』、そして女の子と品のいいおじいちゃんがそれぞれの役割をこなす『孫係』など、西さんらしい物語の数々もさることながらそれぞれの物語のタイトルの挿画がとても素敵。

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 キクりんこと、小学5年生の喜久子の母は、同じ名前の菊子。陽気で明るくみんなの人気者。誰もがかわいいと言うキクりんとは対象的に、ずんぐりむっくりの体型から皆に肉子ちゃんと呼ばれ、数字を見れば何でも語呂合わせ、漢字の覚え方についての独特な感性を持つ母が大好きでちょっと恥ずかしい。
 人の良さから男に騙され続け母と、たどり着いた北の町で、温かい人々に囲まれながらたくましく生きる娘の物語。

 のっけから、肉子ちゃんがハンパなくて、声を上げて笑ってしまいました。忘れていた子どもの頃のモヤモヤした気持ちを懐かしく思い出す。切なく温かく、元気が出る物語。個人的にはペンギンの鳴き声がツボでした。

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 父の海外赴任先テヘランで生まれ、大阪、そしてカイロで小学生時代を過ごした歩。マイノリティーであることを求め、常に自分に注目を集めたがる姉貴子、おしゃれに余念がなく他人を思いやる余裕のない母、そして穏やかでストイックな父。見知らぬ土地での恵まれた生活は家族を幸福に包んだかのように見えたが、やがて一通の手紙をきっかけに、家族はもろくも壊れゆくのだった。(学図)上:375P 下:358P

 時間を見つけながら2日に渡って読了しました。

 主人公歩が生まれたときから始まり、30いくつになるまでの物語。歩を取り巻く人々は、とにもかくにもクセのある人物ばかりで、これでもかというくらい彼を揺さぶります。当然、驚いたり、ときに同情したりしながら読み進めていったのですが……

 自分を取り巻く世界が「世界」だった頃、同性に憧れる少年時代、自意識過剰な思春期、そして……。全く違う人生を歩む「歩」ではあるけれど、いつしか目が離せなくなっている自分に気づきました。

 ネタバレになるので、詳しくは書けないけれども、他人事と感じていたものが急に矛先を変えてきたとき、不覚にもうろたえてしまいました。

 「しかるべきときに、しかるべき人に会う」という言葉をふと思い出しました。物語もまた、そうなのかもしれませんね。西加奈子さんに心から感謝です。この物語に「今」会えて本当によかった。

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 とある目的のために、単身ニューヨークを訪れた29歳の葉太。初めての海外旅行、『地球の歩き方』を丸暗記して臨んだ葉太だったが、滞在初日セントラルパークで読書にふけっているうち盗難に遭い、無一文になってしまう。
 しかし、人一倍自意識過剰な葉太は、大声をあげることも、誰かに助けを求めることすらできない。さらには、パスポート紛失を大使館に届けることもできないまま、マンハッタンを彷徨い歩くこととなるのだが……。(市図)194P

 TVで紹介されて、春に予約した本がようやく届きました。(最近こんなのが多い)ということで、すでになぜ読みたいと思ったのかさえ忘れている有様なのですが……

 ニューヨークで無一文になっても、自意識が強すぎるあまり、心はどん底ながらも、明るくふるまってしまう「葉太」のイタイ感じが、なんとも言えなくて、かつての自分と久しぶりに向き合ったような、懐かしく、気恥ずかしい気持ちになりました。

 「羞恥心」とか「自意識」とかのせめぎ合いは誰もがくぐるモノなのかもしれませんね。はたして、葉太は無事帰国できるのか?はたまた、葉太の旅の真の目的とは?

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