陽だまりの図書館

カテゴリ: タ行の作家

 ぼっちを恐れ、学校では友人との会話に気を遣い過ぎて疲弊し、家では親の言う事為すことイライラしてばかりの中学2年生の光毅(こうき)。そんな光毅が夜の歩道橋で出会った1人の少年からあることを頼まれる。
 祖父が創設し、父が経営している学園の中等部で働く数学教師の原口。父、そして将来の経営者としての原口に擦り寄る教頭や距離を置く同僚たちを見返そうとやっきになるがいつも空回りばかり。
 生きづらさを抱える少年と教師の物語はやがて……。

 デビュー作、しかも書いたのが15歳だとか。まずはお手並み拝見とばかりに読んだけれど、そんなことを忘れてしまうくらい見事でした。もしかしたら、これは作者の経験したこと?と思い、心が痛んだ場面も。次作『八秒で跳べ』もぜひ読んでみたい。

水墨画をはじめて3年。メディアに取り上げられ、華々しく活躍する千瑛(ちあき)のように表立った活躍はないものの、水墨画家として着々と実力をつけてきた霜介(そうすけ)。しかし、卒業後の進路については定まらず、思い悩む日々。そんな中、兄弟子の西濱に代わり小学校で水墨画を教えることになった霜介は……。

『線は、僕を描く』の続編。今回も霜介をはじめ、創作にあたる人の苦悩や葛藤、厳しくも静謐な水墨画の世界をたっぷり味わうことができました。出会いも別れも、喜びも苦い経験もすべて自分を作っていくのだと改めて。揮毫会、一度自分の目で見てみたいものです。

 高校3年生の5月。放送部のもう1人の3年生の有紗から、部に馴染めない1年生のフォローを頼まれた知咲。後輩からはやさしい先輩と慕われる知咲だったが、実力も指導力も眩しいくらいの有紗に言いようのない劣等感を抱いていて……。(『白線で一歩』ほか4編+2)

 高校生の日常を切り取ったかのような短編集。眩しさよりも痛々しさを感じてしまう心情描写はお見事。会話のテンポのよさも気の置けなさも計算された隠れ蓑なのかも。実際の高校生はどう読むのか、とても興味深いので、ちょっとおすすめしてみよう。

 病気で妻を亡くし、家庭を顧みなかった自分を責めながら一人暮らしを続ける松田。新聞社を辞め、知り合いのつてで女性誌の記者として働き始めたものの、生きる意味が見出せない日々。そんな松田に編集長の井沢は仕事を持ちかける。それは下北沢の踏切に現れる幽霊について取材するというもので……

ずっと気になって読み始めた1冊。プロローグから、知らず知らず心を掴まれる。一つ一つの事実を積み重ね、真相に迫っていくのが、何とも言えず、息をするのも忘れるくらい。そうだ、『13階段』の高野さんだ!今回も読ませてくれました。

『ドールハウスの惨劇』遠坂八重(祥伝社)
鎌倉にある私立進学校冬汪高校に通う滝蓮司と容姿端麗、服装無頓着の卯月麗一。2人は、表向き「たこ糸研究会」の看板を掲げながら、生徒の悩み相談を請け負う“便利屋”として活動を続けていた。ある日、学校一の美少女藤宮美耶から、とある依頼を受ける。それがおぞましい事件の幕開けになるとも知らずに……。

青春ミステリの香りに惹かれ、ゆるゆると読み始めたのですが、中盤あたりから俄然おもしろくなって……。シリーズものの第一話という感じ。キャラが定まったこれからの方が楽しめそう。

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