「双頭の鷲」は616ページに及ぶ長編ですが、細かい時間区切ってやっと読了ですわ。
100年戦争初期に活躍し、イングランドからフランス領土を取り返した英雄ベルトラン・デュ・ゲクランのお話です。
傭兵隊長からフランスの大元帥まで駆け上がった実在の人物を題材とした小説ですが、日本じゃ馴染みゼロですよね。
粗暴なガキ大将がそのまま大人になったような性格で豪快。でも40過ぎても童貞でした。
ある理由から、容姿にコンプレックスをもっていたからです。
理屈なんかではなく、恐るべき直観で戦争に勝ちまくる無敗の将軍となります。
新人がこの時代をテーマに選び、時代小説を書こうとすれば「日本人に馴染みないし無理」といわれるのではないでしょうか。
専門の学者で直木賞受賞作家であるからこそ、色々な意味で書けた本ではないかと思うのです。
そして、「100年戦争ってなに?」というレベルの知識でも十分に楽しめます。
基本は、ガキ大将のような主人公の成り上がり物語なのです。
歴史的背景の知識は知っていれば、より楽しめるでしょうがゼロでもOKでしょう。
主人公の人物造形は、家族内、特に母親との関係から始まり、兄弟との対立と和解。
絶大な信頼でつながっていた主君。フランスシャルル5世との関係も、実は彼の生い立ちが大きく関わっていたりと縦横無尽に伏線が張られています。
読書を好み学者肌で探究心の強いシャルル5世のと関係。
ベルトラン・デュ・ゲクランと女との関係。
ライバルとなるイングランドの「戦の天才」グライ―との友情と戦い。
戦闘、政治変革、男女の恋、信頼、友情、勝利――
友情、努力、勝利どころではない、エンタメのあらゆる要素がビッチリ詰まっている大作です。
本当に面白いと思います。
Web小説を書く人にも参考になるのではないかと思うのです。
文体が独特で、会話文と地の文が混ざり合い、地の文の中に自然に会話が挟み込まれている文体なのです。
普通であれば「」で会話に分離するよなと思って、考えてみるのですが、そうするより、流れがスムーズで読みやすくなる。
ただ、生半可にマネをして、どうになるようなものではなく、その文章センスが必要だとは思います。
会話文と地の文の割合とかに悩む声を聞きますが、こんな方法もあるんだよってことなのです。
基本三人称なのですが、そのような手法を使うことで、その場その場の登場人物の心理を読者に近づけ、感情移入させやすくするという効果が狙えるかなと思います。
アマチュアのド素人が使うと、「書き方を知らないんじゃね」というような文章になりかねないので、注意が必要です。
手を抜いた描写の登場人物がいないのですよ。登場人物全てが物語の中で「生きている」という感じがします。
人は文章でここまでの物語を書ける。精進してできるのか、才能なのか分かりませんが、一読して絶対に損はないエンタメだと思います。