S・マクナミー, K・J・ガーゲン「ナラティヴ・セラピー―社会構成主義の実践」

「メンタルヘルスの専門職の大部分はこうしたモダニズムの文脈から生まれたものであり、(中略)こうした背景が、<クライエントの物語>に対するセラピストの態度を形成する。クライエントの物語は、結局のところ、日々の取るに足らない戯言でできており、気まぐれ、喩え話、希望的観測、歪められた記憶などに満ちている。これに対し、科学的物語は専門家の保証書付きである。したがって、治療の過程で、クライエントのストーリーは専門家のストーリーへと徐々にではあっても必ず置き換えられなければならない。クライエントのストーリーは、それ自体独立した事実の反映なのではない。質問と応答を通じて、描写と説明は新たな枠組みで捉え直され、セラピストによる承認と嫌疑を経て、クラエントの物語は破壊されるかあるいは取り込まれる。」(p.188-189)

 これは、メンタルヘルスの世界だけではない。学校の教師、コンサルタント、カウンセラー、災害支援、会社の経営者・上司・指導者、軍隊、その他あらゆる場面で見られる構造である。

 おそらく優秀で、職業意識に真摯かつ誠実である人ほど、このような問題提起に立ち止まることであろう。

 「すべては誰々ために」「目線を合わせて」・・・沢山の言葉が尽くされているが、はたしてどうだろうか?

 ポストモダンの潮流は、単に近代の合理主義・実証主義・還元主義を根底からひっくり返しただけではなく、実践性も大きなものとなってきたといえるであろう。
 
 幸い、自分史の取り組みでは、執筆やリテラシーの指導に留まり、学ぶ人の人生や人格にまで踏み込むことはない。ただし、コミュニティが形成されれば、誰もが、嫌でもコミットしてゆくことになるだろう。

 そこで、ナラティヴ・アプローチの知見の助けを期待しているのである。

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自分史講座の日程が決まる

 ようやく、自分史講座の具体的な段取りがついてきた。講座の内容とプログラム、日程(6/14、6/28、7/12、8/2)、会場(多摩市関戸公民館)、多摩市の市民企画講座として申請、と言うところまで来たので、あと一息。

 大きなポイントは2つ。

1.テーマを絞り、過去の自分と現在の自分の時間経過を認識しながら執筆トレーニングする。

 今回、作家つまりプロの文筆家による個別指導を行う。と言っても、細かく添削はしない。なぜなら、自分のことを自分で執筆する、という精神の自立を促すものだからである(原稿用紙の使い方や、一般的な執筆知識は適宜指導する)

 過去の出来事を羅列的に書くのではなく、常に過去と今の自分を振り返りながら執筆をして行く。

 これは、「未だ語られていない物語」とか「オルタナティブストーリー」という独特な言葉を使う「ナラティブ・アプローチ」にもつながる話である。

 自分史講座では、エッセイ教室のような進行となるが、主催者とししては、そこにナラティブという行為が眼前で実践されていることを重視してゆく。

2.自分史執筆サークルを運営し、コミュニティにまで高めてゆく。

 文章教室やエッセイ教室などでは、同好の士がサークルを作って執筆のモチベーションを維持するケースが多いが、自分史では、それに加えて「他人の自分史への関わり」という要素も取り入れる。

 一方、執筆当事者ではないが、執筆者の家族や友人として執筆活動に関与することも盛り込むつもりである。

 一般的な構造は、執筆者本人の執筆行為に家族や知人が関わり、その関わりを執筆仲間が観察、あるいは関与するというものである。

 あるいは、執筆者と執筆仲間のやり取りを、家族や知人が見守るという形もある。

 いずれも、トム・アンデルセンが開発した「リフテクティング・プロセス」の手法が活用できるに違いない。

 以上2つのアプローチは、ナラティブ・アプローチの専門家に相談しながら、学術的なバックボーンを根底に据えることができるであろうし、プライバシー保護の問題を解決することによって、従来カウンセリング等の現場で研究されてきた、ナラティブやリフテクティング・プロセスを中心とするコラボレイティブアプローチの貴重な研究対象となり得るものである。従って、執筆指導という極めて文化的実践活動を進めがら、学術的に貴重なケースにもなり得るという、大きな意義が認められるものである。

2については、様々なITスキルやネットワークサービスを活用することになるだろう。この分野についても、新たなフロンティアを見つけることができるかもしれない。

自分史講座準備始動

 昨日、自分史講座の立ち上げについて、大きな前進となった。

 関係者は自分一人ではないので詳細は書けないが、

1.出版編集のプロに加えて、執筆のプロ、デザイナーの参画がほぼ確実となった。

2.(当初、自分個人としては「初歩的なITスキルがある」を前提にしていたが)まったくPCなどを使えない人も講座の対象にする。

3.概略の流れとしては「エッセイ講座」に近いが、講座の出口には「自分史出版による成果物」にこだわる。

4.「最初で最後、一代記を書き上げる」ではなく、テーマを複数持って自分史を数冊作り、その集大成が自分史である、というとらえ方をする

というところである。デザイナーの参画は、さし当りは、装幀や挿絵等のリクエストに答えていくというところではあるが、それよりも、「作品や自分で描いた絵などの扱いについてアドバイスできる」というところが強みになってくるはずである。

 4番目の「複数の自分史を作る」というのは、何も受講生を引っ張るというものではなく、いわゆるナラティブアプローチにいう「語り直し」「未だ語られていない物語を発見する」という視野を踏まえたものである(ただし、これは自分一人の思いで、メンバー全員に共有化されているわけではない)

 加えて、ナラティブ・アプローチと親和性の高いセラピーやカウンセリングの世界で確立しつつある「コラボレイティブ・アプローチ」「リフレクティブ・アプローチ」を「自分史コミュニティ」に展開するイメージも、昨日、メンバー間で自然に話題となった。

 目先、イベントとして成功させなければ関係者に申し訳ないが、コミュニティとか、「自分執筆に寄り添うシステム」も、研究成果を踏まえつつ実現していきたいと考えている。まずは前者が最優先である。
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