2014年08月17日

桜澤「8月17日(今日)は笑太の誕生日」

ここ数日、彼は体調を崩して眠る時間が増えた。

一週間に1、2度、車いす無しで少しだけ散歩に出られる様に
なった矢先だったから

まだ連れ出すべきでは無かったんだと激しく後悔した。


「ご飯、食べられそう…?」


ベッドの上に横たわる、血の気のない陶器の様な彼の手に触れた。

いつもより冷たい……


「ん……いい……」


長いまつげを伏せたまま、彼は小さく答えた。


「…わかった」


ダイニングに戻るとテーブルの上に既に並べていた食器を

片付け始めた。


今日は彼の誕生日。


この日の為に独学で勉強したフレンチのフルコースはまた

別の日に振る舞うとしよう。

以前誕生日に何か欲しいものはあるかと聞いたら

何もいらないと言われたから、

週末に始めての小旅行を提案しようと思っていた。

それもやめよう……


「……桜澤……」


隣室からの小さな声に慌てて彼の元に戻った。


「どうした?」

「……ごめんな……食べられなくて……」

「いいよ、気にしないでゆっくり休んで」


彼がうっすら微笑んで、優しい目で見つめる

「お前が練習してたの知ってる……分厚いフレンチのレシピが

 ここ数ヶ月で随分増えてたし…」

「笑太……」

「旅行のパンフレットも…」


「ああ……何でもお見通しだね」

俺が肩をすくめると、彼はまた小さく笑った


「何もいらないって言ったのに…」

「何かしたいんだよ……君の為に……」

「十分だよ。俺を今ここに生かしてる。毎日世話を焼いて……

 お前が居なければきっと俺はとっくに…」

「頼むから……そんなこと言わないで……」


彼の冷たい手を両手で握りしめ、懇願する様に跪いた

彼をこんな体にしたのは俺"達"なんだから……


「責めてるんじゃない、感謝してるんだ。それに本当に何もいらないんだ…」

細い指先が、小さく自分の手を握り返した


「ただ、お前が側にいてくれるだけで……」


「嫌がられても、ずっと側にいる…」


わかってると彼は笑って、また眠りについた

彼の寝息が聞こえても、握った手を離さなかった


「笑太……お誕生日おめでとう…」


生まれてきてくれてありがとう。

俺はこの命を、一生かけて守ってみせる。

最後の一瞬まで……


END



naked_apes at 19:54│Comments(0)TrackBack(0) official works 

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