生禿の学生時代に、「ニューロ・コンピュータ」という構想がありました。主流となるノイマン型コンピュータではなく、人間の神経細胞(ニューロン)のネットワークをモデルとするコンピュータを開発しようという試みです。この機械は、自律学習し自主判断し、成長していくよう設計されるというものでした。それ自体は実現しませんでしたが、ノイマン型コンピュータでニューロンのネットワークをエミュレートするソフト「ニューロネット」が開発されます。当時のニューロネットは、回帰分析や判別分析の分析力に劣り、なおかつ、ニューロネットの原理からして「何が何だか解らない」というものでしたから、まともな分析屋は取り合いませんでした。

 生禿は学生時代に、マーケッターとして「地球上の全ての人々が王様の生活をする」世界を目指そうと決めました。その為には「王様の時間と空間に、サーバントが隷属しなければ、王様にとっての最高の生活を支援できない」という構造を変革し、王様一人の時間と空間への隷属からサーバントを解き放ち、かつ、王様の生活を支えるサービスの提供は「ネットワーク」を介しての「サーブ」によって実現する。そして、全世界の人々の最高の知恵と技術を、モノとプログラムに転化し、モノは物流デポを通じて、プログラムはネットワーク上のサーバーを通じて提供するという、全ての人々が最高の生活の技能を持ちより提供し合う“Co-Operation”システムを構想しました。その論文は今も残っていますが、当時は誰もそんな話を理解してくれませんでした。

 それでも生禿は、ネットワークとコンピュータの未来を、人間の想像力を信じていました。そして、生禿の夢の十分の一にも満たない部分かも知れませんが、あと十年ぐらいすれば、それが少しは実現できそうな時代になりました。その為には、コグニティブ・システム(まだ人工知能とは言えないのでこう呼びます)の機械学習が不可欠なのです。学習するエージェントがネットワーク上で走り回り、一人一人のニーズを充足することが必要です。

 何はともあれ、50年ほど前の「お伽噺」が、数十年の時を経て復活しました。とっても古い話で。大昔の話です。学生時代に最先端の科学と革新の思想を学んだ人間にとって、社会人になってから全く新しい知見が出て来る筈はありません。あるとすれば、それは学生時代に勉強不足だったということです。と言う訳で、今の生禿は「昔懐かしい最先端の技術」を再び学び直している訳です。と言っても、現在に実装された技術で、実際にどこまでできるかを確認するだけですが。

 さて、生禿はマーケッターですから、「お買物コンシェルジュ」を取り上げてみましょう。最近の人工知能の本をざっと読んだ感じでは、自律学習で勝手に機械が賢くなってサービスしてくれることはなく、人間が機械を賢くする必要があることが分りました。しかも、現在のマシンやネットワークのパワーでは、それなりの工夫が必要であること、つまり、システムを構築する側の人間に職人芸が必要だということです。それは、1)現場の見識と技芸、2)数理の知見と思考、3)プログラム技術、4)それらを総合した洞察と手練から構成されます。

 例えば、以下のような働きをするチャットボット(エージェント)なら、最先端の技術を用いなくても作れそうです。
1)機械感知による状況把握
 → ニーズ形成の可能時機を検出する
2)(前提となる)ラポールを作る、私の事を知っている/偶然を装った丁度の質問
 → お客様を肯定し、「信用」して貰う
3)お客様の状況を判断する何気ない質問
 → ニーズを引き出せる範囲と深度を推定する
4)ニーズを捕捉する最短の(質問-応答)スクリプト
このような手順で会話し、個別にアドバイスを行うエージェントなら作れそうです。助言内容の妥当性は、システムの技術ではなく、チャット(会話)の基となる知識庫とその内容をどう作り込むかで何とかなりそうです。

 もう少しコグニティブ・システム(人工知能)らしいものを開発するには、自律学習の仕組みが必要になります。自律学習には、物事の基本の見方・考え方の手本となる、教師データ(教材)が必要です。教材の見本を集めるのは人間です。「最初に何を教えるか」というより「何を教えないか」。つまり、「どの順番で教えるか」(学習課程)の組み立て方に、人間の知恵が求められるのです。まさに“初めが肝心”で、それにより学習対象の枠組み(ものの見方と考え方の基本)が作られるからです。

 ニューロネットは、それ自体は何が何だか分らないものです。その複雑な系に最初に基本の振舞いを決定する単純な軸を与えることがその系のあり方を決めます。ニューロネットのディープラーニングによる分類学習では、上述のような教材です。そして、もう一つは、強化学習における「報酬(評価軸-得点)」の設定です。

 自動解析と言われたデータマイニングでも、初期値の設定を人間が行うことで精度と効率が大幅に向上した。と言うより、マイニングの成否は、初期値の設定の巧拙に起因するといっても過言ではありません。

 お客様に買物の助言するエージェントでは、お客様の効用の最大化を目標とする強化学習が中心になります。アウトドアライフを例にとれば、以下のような評価軸を設定し、適切な事例を収集して知識庫に収納することが、成否を決めるでしょう。
 ・安全か危険か
 ・楽しいかつまらないか
 ・安いか高いか
 ・思い出に残るか残らないか
 ・身体の充実感はあるかないか
 ・家族一緒に気持ち良く過ごせるか
 ・美味しいか不味いか
 ・疲れるか疲れないか
 ・景色が良いか悪いか
 ・非日常の興奮があるかないか
 ・遠いか近いか
 ・泊まりか日帰りか
 ・移動は自動車か電車か

 な〜んて云う、上っ面の考え方では、役に立つ買物コンシュルジュは作れないでしょう。どうすれば作れるかって・・・。それは秘密です。