「新しいリハビリテーション − 人間復権への挑戦」 大川弥生 2004年 講談社現代新書

 新しいリハビリテーションを概観する2冊目。今度は講談社現代新書です。科学物では講談社の肩を持つ生禿ではありました。


 「リハビリテーションは、本来は『権利の回復』の意味でした」。

 「患者さんは、こういう人生にしたい、という意思を持ち、表明して下さい」。「リハビリテーションでは、『意欲が大事だ』といわれます。挑戦する具体目標を実現するためなら、リハビリテーションは辛くはありません」。著者は、目的をもった行為をすることの大切さを訴えています。

 「大切なのは、リハビリテーションの目標、患者さんの人生の具体像を詳細に描くことです。そして、それを実現するための個別計画を立てます」。「生活のあり方は患者さんによって違うのですから、リハビリテーションはオーダーメイドなものです」。

 「将来歩けるようになる方には、立ってする訓練をすぐに行う。洗面・更衣・炊事でも、立ってするのと座ってするのとでは違います」。

 「リハビリテーションを始める前から、退院後の人生について考え、目標を決めます」。「諦めることなく、積極的に生きていくことが誰にとっても必要なことです」。「リハビリテーションは、新しい生活・人生を作り出すものです」。そして、「リハビリテーションチームが、目標を共通認識とする必要がああります」。「患者さんの時間は貴重です。手探りでやるリハビリテーションでは、効果はあがりません。リハビリテーションの目標と方針をはっきり決めうことが大事なのです」。

 「末期癌の患者さんでも活動向上訓練をすれば、効果はあります」。「この方が起き上がることも寝返りもできなかったのは、癌が背骨と肋骨にも転移しているため、そこを動かすと痛みが起きることと、体力が衰えていて、起き上がる力がなかったからです」。リハビリテーションによって、「体への負荷が少なくなるような生活行為ができるようになります」。「病気の治療とリハビリテーションを結びつけると効果があります。多くの病気では、体を動かすと病気に影響を与えます」。

 「『歩く』活動も、訓練室と実生活の場とでは違います。生活の場の環境は、狭い、人が通る、細かい動きが必要だ、など違いがあります。ですから、居室棟での歩行訓練が必要です」。「トイレや洗面所に行く時は看護・介護スタッフが付き添って歩き方を指導すると、病室内を一人で歩けるようになります。実用歩行は、歩いていく目的によって違います。箸の使い方や着替ええなども、実際の状況で練習を重ねていくとできるようになります」。「リハビリテーションで練習しても、それが限られた環境でしか行えないようなものだったら、実生活の場面では役に立ちません」。

 「日常生活では、意識しないで行えるようになる必要があります。『している活動』と『できる活動』の間にはがギャップがああるのです。『している活動』と『できる活動』を分けて、それぞれの活動の練習を連携して行います」。「生活の場が、リハビリテーションにふさわしい場です。『している活動』を向上させるのが介護です」。「これまで、リハビリテーションは、理学療法士・作業療法士・言語聴覚士のみがするものだという考えがありましたが、看護・介護職の役割も大きいのです」。

 「自宅に一泊しただけで、できないことが次々と見つかります。そこで、布団から家具につかまって立ち上がる、玄関の下駄箱につかまって上がり下がりする、和式トイレを使うなどの練習をします。こうして、住宅改修をせず、ベッドも入れずに自宅に帰ることができました」。「冬が来ると、トイレでの用足しや洗面所で立ってする洗面が難しくなってきました。動きにくくなったのは、厚着をしたからでした。冬の状況に合わせた活動向上訓練を訪問リハビリテーションで3回行い、再び自立した自宅生活に戻りました」。

 「はじめから、自宅生活に必要な活動は何か、どのようなやり方が必要かを考え、その活動向上訓練を十分に行います。将来の生活像が明確であることが必要になります。どういう順番で訓練を進めるかもリハビリテーションの結果を左右します」。

 「入院の早い時期に、自宅の見取り図や写真、自宅周辺の地図や写真、発病前の一日の暮らし方など書いたものを用意します。見取り図には寸法を書き入れ、段差や家具の位置なども正確に書きます。それをリハビリテーション担当者と一緒に見ながら、自宅に帰ってからの患者さんの生活のし方を相談します」。「自宅に手摺をつけ、ベッドを入れていたら、布団から立ち上がることも、手摺のない家には行けなくなります」。

 「短下肢装具を立った姿勢で装着できないために、行動範囲を限っている人が多くいます。和式トイレでしゃがめないので、様式トイレがあるとわかっている場所にしかいけない人もたくさん居ます。箸が必要な外での会食には行かない、服が自分で脱ぎ着できる限られたものしか着られないので外出範囲が限られてしまう、などの問題があります」。

 『する活動』の要点は、「1)将来の生活でどのような活動が必要かという範囲や種類」「2)どのようなやり方を選ぶかというバラエティ」です。

 「作られた歩行不能を生む車椅子偏重が問題になっています。それは、病院は・施設の設備も車椅子用にすることと関係しています」。「病院の車椅子用の設備は、必要な場所だけにとどめ、通常の設備が多様に備えられていることが大切です」。「歩けるはずに人を歩けないままに留めてしまう。訓練室で歩行が独立している人ならば、病棟で看護師や介護職の人がついて歩けば、ほとんどの人が歩けます」。

 「将来は歩くことが可能な患者さんなら、車椅子を漕ぐ動作を習得する必要はありません」。「手の動きは全身のバランスに影響し、片麻痺の人は意識的に学習しないと、手を動かしただけで体のバランスを崩して倒れてしまいます」。「歩いてきてそこにピタリと止まるのは難しいことです。患者さんは止まってからの足の位置を調整するのは難しいのです。歩行と目的行動は一連のものと捉えることが、歩行自立のための要です」。

 「内反尖足は、自分では力を入れるつもりがないのに、足首から先に筋肉の強い緊張が起こって、爪先が下を向いて床にぶつかるようになることです。内反尖足は、不安や緊張があると強くなります」。「両側支柱付きの短下肢装具をつけて内反尖足が起こらないようにすると、不安や緊張がとれて歩けるようになりました」。「患者さんは、膝を伸ばして体重を支える筋肉の働きが十分に回復していないため、立って麻痺した足に体重をかけようとすると、膝が折れて転びそうになることがあります。そういう場合には、長下肢装具を使い、膝が折れるのを防ぎます」。「装具や杖を使って歩行や活動を自立させることが大事です」。

 「炊事・洗濯・掃除などの家事ではしゃがむ姿勢が必要となることが多く、プラスチック製装具で足首を固定されていると、しゃがんだ時に不安定になってしまう。両側支柱付き装具では、しゃがんでも足の裏がしっかりと床につき安定します。この装具を作る費用は健康保険から出ます」。

 「半身麻痺の患者さんは、歩くことよりも、立って動作をすることの方が難しいのです。色々な動作に手を使うので、手を体を支えることには使えません。コツは、『もたれる』ことです。患者さんがもたれるのに丁度良い足の位置を指導することが、リハビリテーションの專門技術です」。

 「歯磨きをしている時に、歯ブラシを床に落としました。歯ブラシを洗面台に置く位置を適切に指導していなかった為です。また、床に物を落とした時に、どうすべきかをきちんと指導する必要もあります」。「自宅生活で実用歩行を自立するには、伝い歩きやもたれることは効果の高いやり方です。自宅に手摺を付けるのも、むしろ邪魔になる場合もああります」。「自宅内を杖をついて歩くことは、日本家屋では必要なく、安全な伝え歩きのために家具を配置換えする方が効果がああります」。

 「安定した四点杖やシルバーカーを使うことで、安全に歩けることがあります。とりあえず車椅子生活となったために、その状態に留まってしまう患者さんが少なくありません。専門家の言うことだからと、諦めてしまう患者さんも多いのです」。「車椅子では、介護者が前屈姿勢や患者さんを抱きかかる介護が多く、介護者の負担が大きくなります」。「病院や介護施設は『安全第一』。適切な活動向上訓練をすれば転倒などは防げます」。「介護の手が足りない場合、患者さんのご家族に『限られた期間を介護すれば歩けるようになるなら毎日来て介護します』と言ってくれることは多いのです」。

 「『廃用』とは、『使わない』ことです。体を使わないことによって脳を含めた全身の器官の働きが低下することです。病気の時の安静のとり過ぎや生活が不活性であることからも廃用症候群は起こります」。「日中の活動性を高め、昼間は横にならないようにし、朝起きたら布団をたたみます」。「お年寄りは足が弱くなる、ボケるのもし方ない、ことはありません。年だからし方ないと思うことが、廃用症候群の悪循環による可能性が大きいのです」。

 「立ち上がるとふらつくのは『起立性低血圧』。血圧の調整機能が落ちてきた為の立ちくらみです。血液には重さがある為、経てば足の方に溜まり、頭の方に行きにくいくなります。人間が立ったり歩いたりしていられるのは、自律神経の『姿勢血圧調整反応』で、立った姿勢では下半身の血管が収縮して血液を下半身に行きにくくし、上半身、特に頭に血液が行きやすいようにしている為です。自律神経の働きも、使っていないと弱くなります」。

 「ボケも廃用症候群です。寝ていることが多い為、感覚も認知も刺激が少なくなったことで、ボケたようなあ症状が起きたのです。欝状態になることもあり、それがボケのように見えることもあります」。

 「手足を動かさないでいると関節が固まって動かしにくくなります。歩く量が減ると骨への刺激が少なくなり、全身の骨が弱くなります」。「生活の不活発化は、『無理をしない』、動くことを控えることによっても起こります」。「趣味も友人も無い為に、何もすることが無くなり、外出しなくなると、廃用症候群の悪循環が始まります」。「リハビリテーションでは、『お大事に』は禁句。『お元気で』と言います」。

 「生活全般を活性化することは、心身の機能の全てを活発に使うことであり、通常はやり過ぎの害もありません。一人で買い物に出かけると、友人を訪ねることができるようになり、生活全体が活発化します。膝が悪い場合は、シルバーカーを用いた活動などによって、良循環に転換できます」。

 「病気や体の不自由があっても様々なことができます。体の不自由でも、生活と人生を輝かせることはできるし、そのお手伝いをするのがリハビリテーションなのです」。健康とは、楽しさ/幸せを感じることであり、それはQOLそのものです。

 「リハビリテーションでは、何のために訓練するか、患者さんの生活と人生に対する希望が大事です。『私はこうしたい』と自分の希望を言える患者さんはむしろ例外です。患者さんと話し合い、『これがしたい』という希望を患者さんと共に見つけるのがリハビリテーションの仕事なのです」。

 「脳卒中による手足の麻痺は完全に元の状態に戻ることは難しく、特に手の指は難しいのです。『麻痺さえ治れば色々なことができる筈だ』では、リハビリテーションは計画できません。ニーズを見極めるには、慎重でなければなりません。特に、『元の生活に戻る』は、『とにかく戻らなくっちゃ』と思い込んでいる可能性も高いので、本当にそうなのか注意しなければなりません」。ニーズは『要求』。デマンドは、『要求を満たす具体対象への表現された需要』です。この二つを分けて考えることが、リハビリテーションの基本です。

 「体の動きではなく、生きることの全体像を捉える必要があります。患者さんは、『自分の人生は自分で決める』自己決定権を持っています。麻痺が解決しなくても、目指す人生を生きることはできるのです」。「生活機能の意義は、プラスの面を重視することです。全体の中では障害の占める部分は小さいのです」。「活動向上訓練によって、心身機能が回復しないうちでも『活動』は回復できます」。

リハビリテーション

 「リハビリテーションは、『心の持ちよう』と関わります。意欲の有無ではなく、体の不自由を『どう受け止めるのか』です」。「絶望するのも無理はありません。深刻であるほど、弱みを見せまいと、明るく振舞ったりするのが人間です。一見穏やかに見えますが、諦めなければならないと、無理をしている場合が多いのです」。「心の悩みからの立ち直りのことを『障害の受容』と呼びます。障害による不自由をどうやって乗り換えていくかを、冷静に考えていける心の状態のことです」。「障害を受容するためには、障害に対する偏見『障害のある人は可哀想な人』と特別視する見方を克服することが必要です」。

 「障害者は、価値の無い人間になってしまった、ということに打撃を受けているのです」。「体に不自由がある人が障害を受容することと、周囲の人々が体の不自由のある人への特別視を取り除くことの間には、相関関係があります。体に不自由があるにもかかわらず、前向きに生きている人の姿に接することは、家族や友人の姿勢を強めるのに役立ちます」。「リハビリテーションは、患者さんの心の立ち直りも含む、人生の再建を手助けするものです」。