キッチンで洗い物をしながら、
女が男に尋ねた。

「わたしのお友達が」
「あなたに会ってみたいって言うの」

「今度一緒に食事とかしない」

男は不機嫌な顔をして、



僕は見世物じゃないから
そういうのは好きじゃなんだ



そう言って、
読み掛けの本を閉じた。

いつにない男の冷たい態度に、
女は少し戸惑った。

「ごめんなさい」
「いつもお友達から彼氏自慢されていたから」
「わたしもしてみたかったの」

女は申し訳なさそうな表情で、
小さく返事をかえした。

男はうつむいたまま、
洗い物を続ける女の後ろに立ち、



ごめんよ。

怒ったんじゃないから、
気にしないで。

ただ僕は人見知りするから、
あまり知らない人との過ごし方を知らないんだ。

君が自慢したくても、
自慢できるような、
仕草も態度も取れないから。

だからその友達は、
僕らの結婚式に来てもらいな。



そう言って、
女を優しく抱き締めた。

「え?」

女は驚いたが、

静かに目を閉じ、
小さく何度もうなずいた。

自分を包み込む男の腕に身体を預けた。

女は男に尋ねた。

「お友達から映画に誘われたんだけど」
「午後から出掛けてもいい?」

男はソファで横になったまま、
開いた文庫本の頁に目を走らせながら、

「いいよ」
「遅くなるなら連絡ちょうだい」
「晩飯適当にとるから」

そう返事をした。

女はソファで横になる男の枕元に腰掛け、

「友達って女なの男なの」
「とか、あなたは全く詮索しないのね」

そう言って笑った。




男は女の膝に頭を移して、

「だって君は」
「男なら男友達とって正直に話すし」
「一対一で男と出掛けるなんて仕事以外ではしないから」

男は安心しきった様子でそう返事して、

「出掛けるまで」
「少しだけ休ませて」

と、読んでいた本を閉じた。



女は膝枕に寝る男の寝顔を
笑いながら眺めていた。

女が男に尋ねた。

「あそこで彼待ちしてる女の子」
「さっきからもう30分余りも待っているんだよ」

「彼は彼女を待たせ過ぎじゃない」

と。

駅前のカフェで、
窓の外を眺めて人間観察をしていたのだろうか。

男は女の問いかけに、



女が20分以上男を待っている場合、
その女は待っている男と既に身体の関係を持っている。

男が20分以上女を待っている場合、
その男と待っている女はまだ身体の関係を持っていない。

八割の確率で当たっているらしいよ。

それまで待たされていた分、
待たしちゃうんじゃないのかな。




男はくわえていた煙草を、
テーブルの灰皿の上で揉み消しながら、
そう返した。

「その判別方法、誰が考えたの?」

女は男の返事に小さく頷きながら聞き返した。

「三島由紀夫だよ」

男は、
コーヒーを口元に運びながら答えた。


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