Namuraya Thinking Space

― 日々、考え続ける。 ―

「引き際が大事」というのはよく聞く言葉。名経営者と言われた人が、引き際を誤って晩節を汚すというのもよく聞く話。最近の例だと、ソフトバンクの孫社長が、引き際を延長したが、これが吉と出るか凶と出るか、今後の動きに注目していきたいところ。

さて、今日書きたかったのは経営者の引退の話ではない。「引き際」というのは、何も引退するかどうかだけではなく、役職の各ステップにも存在するのではないかということ。例えば係長から課長に昇格した際、その人は「係長から引退」しなければならない。

係長であったときは、係というチームを任されてはいたかもしれないが、まだまだ係長自身の個人能力が評価対象であり、プレイングマネージャーたることを求められているもの。しかしながら、課長という管理職になるとステージが変わってくるわけであり、いつまでもプレイングマネージャーでいてはいけないのだ。

これを履き違えて、係長の延長線上で仕事をしていると、一生懸命やっているのに、マネージャー本来の仕事をしているといえなくなり、気が付けば上司からも部下からも評価されていないということが起こりうる。この人は、「係長の引き際」を誤ったのだ。

この他、部門を異動したり、それこそ転職したりした際に、前の部門や会社のやり方をいつまでも引きずっていてもいけない。以前のやり方のほうが、明らかに優れており、それがよい方向に出ればよいのだが、得てしてそういった人は、どうでもよいことに固執しがち。前の部門や前の会社から引退できていないのだ。

自分で自分に壁や天井を作ってしまっており、知らぬ間に制約条件を課していないだろうか。自分は大丈夫、と思っている時が一番危ない。謙虚に振り返ってみよう。

PRESIDENT[2016.08.15]すぐやる人、グズな人

久しぶりの雑誌。会社の同僚が読んでいたのを借りたもの。この手の話はどこかで聞いたことがあるものが多いが、やはり一流経営者の方の話は参考になる。

■日本電産会長兼社長・永守重信

・意思決定を先延ばしにしてはいけない。なぜならビジネスが「時間軸」の戦いに入ったから。メーカーにとって品質がいいのは当たり前。残る戦いはコストと時間軸。コストは開発や生産のリードタイムを短くすれば安くなる、つまり、戦いの勝敗は時間軸によって決せられるようになっている。世界中で儲かっている会社は、みんな状況変化に対する反応が速い。競争に勝つには、意思決定のスピードを上げなければならない。

・大切なのは、社員に日々の具体的な仕事を通して理屈で納得させること。なぜ速さが勝負を決めるのか、一秒・一分の遅れがどれだけのコストアップにつながるのかを、繰り返し社員に説明する。近頃「時間軸」と口にしない日はないし、メールで一番多く打っている単語も「時間軸」

・組織のスピードを上げるには、トップが率先垂範して動くことも重要。例えば、メールは1日300件、内返信が必要なものは150件。読んだらすぐに返信する。すぐに返事が返ってくるから下も動かざるを得ない。

・毎日、手帳にやるべきことをすべて書き出した紙を挟み込み、そのすべてが終わるまで帰らないようにしている。書き出すのは前日の夜、帰宅中の車の中が多い。翌日出社すると、1つずつ片づけるが、順番にコツがある。最初に手をつけるのは重要度が高い仕事。それが終わったら次は簡単な仕事。仕事ができない人はここで難しい仕事に手をつけてしまう。そうするとすぐ終わる簡単な仕事まで積み残してしまい、成果が出せなくなる。

・1つの仕事をやり始めたら完了するまでやり抜かなければならない。目標の7〜8割までやって満足し、他の仕事に移って食い散らかす人が意外と多いが、70点、80点は0点と同じ。部下の仕事の食い散らかしは上司にも責任がある。上司は指示を出した後も、「あの件、どうなtった?」と部下を追い回さなければならない。このような部下に対する「御用聞き」は上司の大事な仕事の1つ。

・現在、働き方の大改革に取り組んでいる。以前は永守自身、長時間働くのが好きであり奨励していたが、いまでは長時間労働は女性社員に敬遠されてしまう。優勝な女性社員に管理職として頑張ってもらうため、長時間労働をやめることにした。しかしながら仕事を残して帰ったら戦いに負ける。よって、早く帰るにしても「出来るまでやる」はそのままにして、生産性を高めていく工夫が必要になってくる。

■マネックスグループ社長CEO・松本大

・不便でなければ仕事道具は変えない。しかしながら、仕事については、順調にいっていてもリスクを取って変える判断をしなければならないときがある。それを判断し、決断するのがマネジメント。

■SBIホールディングス社長・北尾吉孝

・すぐやる人とは、「すぐやることが習慣になっている人」のこと。習慣とはその人の「第二の天性」。徳性、技能、知性と並んで重要な、人間を構成する4要素の1つ。

・週末は、仕事が一段落したら頭の中を空っぽにして、思索にふける時間をもうける。落ち着いた雰囲気に浸り、遠大な境地に達する。

・仕事をすぐやるためには、知力・気力・体力が必要。すぐに決断する習慣は常に頭脳をフル回転させることで得られるので、精神面を整えることが重要。合わせて健康も重要であり、首や肩のコリをほぐしたり、サプリメントを愛飲している。


北尾社長が推薦していたネックマッサージ器「も〜む」がよさそう。買ってみようかな。。。



また、厚切りジェイソンが時間の使い方やツールについてコメントしていた。テレビを見ないのでお笑い芸人としての彼の活躍は知らないが、的を得たコメントだったのでブログを覗いてみた。日英併記となっているので、英語の勉強にもなりそう。

今まで、たくさんの経営者の方が書いた本を読んできたが、論旨がぶれず、参考になるなぁと感じたの方の代表が、稲盛和夫さんと出口治明さん。ふと思いついて、出口さんの著書をパラパラと読み返してみた。一度読んだ本なので、線を引いていたり、ページの端を折っていたりする箇所を中心に読み込んだのだが、一貫して次のようなことをおっしゃっている。

今日は自分なりに咀嚼するという意味を込めて、あえて要約や引用ではなく、私が読んで理解したままを書き連ねていきたい。なお、読み返したのは『「思考軸」をつくれ』(2010年7月)、 『百年たっても後悔しない仕事のやり方』(2011年3月)、『「働き方」の教科書』(2014年9月)の3冊である。

<直感>

・ものごとは直感で決める。直感は、ヤマ勘とは異なるものであり、ストックしてある知識を総動員して脳をフル回転させて行う思考作業の結果である。そのためにもインプットの集積が大事であり、人に会う、本を読む、旅をすることでインプットを増やしておく必要がある。

・リーダーになると、「分からないことを決める」必要が出てくる。このときに役立つのが「直感」である。

<人間ちょぼちょぼ>

・歴史を振り返ると、うまくいかない可能性が99%。だから、うまくいかなかっても落ち込む必要はない。一方で、うまくいかないだろうと諦めるのではなく、たとえ1%でも可能性があれば努力をすべき。この1%の努力の集積が人類を発展させてきたのだから。

・人間は動物である。よって、その根源には、食欲・性欲・睡眠欲があり、個々人同士や、国・地域のエゴがぶつかり合うもの。

・人間はそれほど賢くない。長い歴史を見ていると、賢い人と愚かな人の差はそれほど大きくないことが分かる。「どこにいっても人間は皆ちょぼちょぼや」

<トレードオフ>

・人生はイエス・ノーゲーム。たくさんの選択肢の中からイエスかノーかを選んでいくもの。「禍福は糾える縄の如し」というように、良かれと思ったことが不幸を呼び起こしたり、最悪の選択が思いもよらぬ幸運に結びつくことがある。

・すべてのものは「トレードオフ」 何かを選べば、結果としてなにかをあきらめなければならない。(日本人はトレードオフ思考が苦手)

<スピード>

・これからの時代、私たちに求められるのは、すべてをゼロから考え、新しい価値体系を再構築していくこと。そのためには、猛スピード、次々と試行錯誤を繰り返していかなければならない。

・「小さなことでもすぐにどうするかを決めて早く行動を起こせ」

・自分で決めてやり始めたことは、新鮮なうちに一気にやり切ってしまうのもスピードを上げるコツ。

・スピードは、その人の生産性を決定づける重要な要素。ニュートンの「力=質量x加速度」という方式をそのまま当てはめて、「インパクト=仕事量xスピード」となる。

<タテヨコ思考>

・失敗しないためには、何事もゼロから自分の頭で考えなければならない。

・自分の中に新たな座標軸をつくることで、判断ができるようになる。「森の姿をしっかりとらえなければ、木を育てることはできない」のだ。森の姿をとらえるためには、タテ思考=歴史から見ることと、ヨコ思考=ほかの国や地域から見ること。課題に直面したとき、「昔の人はどうやって乗り越えてきたのだろう」「ほかの国ではどうなっているのだろう」と考える。

<インプット>

・アイデアがひらめくというのは、自分の脳に格納されていて意識されていなかったものが、顕在化するだけのこと。そのためにはインプットの「絶対量」を増やすことが必要。

・「最初は自分で選ばず、とにかく大量に取り込む」「一番分厚い本から読む」

・「量」だけでなく、「幅」も重要。自分から未知の情報を積極的に集めること。

<リーダーシップ>

・「やりたいことをもっている」こと。ビジョン。

・「旅の仲間を集められる」こと。仲間を集める共感力。

・「旅の目的地までチームをまとめ、引っ張っていく」こと。メンバーのモティベーションを高い状態にし、計画通りにものごとを進めていくこと。

<数字とファクト>

・変化の激しいビジネスの世界に対応していくためには「数字とファクトでロジックを構築し、ビジネスプランを紡ぎ出すこと」

<思索する武器>

・分析力:木を見る眼と森を見る眼の2つの眼でものごとを見て、歴史の軸と場所の軸の2つの軸で考える。

・集中力:時間を集中して使う習慣を身につける。疑問点やわからない点は必ず調べる癖をつける。

・決断力:トレードオフを忘れるな(どちらかを、捨てる。いいとこ取りは百害あって一利なし)。整合性を忘れるな(首尾一貫して考え、行動する)。関係性を忘れるな(置かれた現実の中で、最適の決断をする)

<経営者>

・社員が朝目覚めて、行きたくなる会社をつくれ。

・わかりやすさ、透明性、正直さ、この3つの体質を維持すること。

・楽しい会社にしたいと願って行動せよ。

<上司>

・部下から報告を受ける際、「こういう点、こういう点、こういう点について、おまえはちゃんと考えたのか」。部下が思いつかない、一段高いところから指導・指摘する。

・部長になったら、自分の得意分野は課長に任せて、自分が知らない分野をしっかりと勉強する。

・一方で、分からない、知らないという不安を捨てないと、よき管理者にはなれない。個別具体的なことが分からないステージに進んだと考え、捨てることを覚えないと、全体が見えなくなっていく。

<世界経営計画のサブシステム>

・すべての人間は、自分の周囲の世界を経営して、自分が思うように世界を変えてみたいという世界経営計画を持っている。

・メインシステムを担うのは神様。人間にできるのは、自分なりの世界経営計画を考え、その計画を遂行するうえで自分が現在のポジションで何ができるかを不断に問い続けること。

・筆者のライフネット生命の企業も、若い人たちが保険料負担に苦しまず、安心して結婚して、赤ちゃんを産める世の中にしたいという、筆者自身の世界経営計画を遂行するためのもの。

・現在の世界は、歴史上に存在した無数の先達の、無数の「世界経営計画のサブシステム」が重なり合った結果できた産物。これから先に続いていく世界も、無数の人の無数の「世界経営計画のサブシステム」でつくられていくだろう。それぞれの人が、それぞれの世界経営計画を見つけ、そのサブシステムを一所懸命に担っていく。それが、次世代のために生きるという、人間本来の役割を担うことに他ならない。

<名言>

・リーダーシップの条件。(1)自分の為すべきことに明快なビジョンを持っていること。(2)そのビジョンをスタッフに論理的に説明し、納得させる説得力を持っていること。(3)そのビジョンの実現に向けて、スタッフ全員のやる気を引き出し、その気分を持続させ、最後まで引っ張っていく統率力を持っていること。(ドイツのDGバンク、ウーリッヒ・フラッハ副頭取)

・「人間は巨人の肩に乗っているから、遠くを見ることができる」(ベルナール)

・「ひたすら古典を読みなさい。数多の先達の洗礼、時代の洗礼を受けてきたものだから、内容に間違いがない。古典が分からなければ自分を無能だと思いなさい。現代人の著書を読んでわからなければ、著者が無能なので読む必要はありません」(大学時代の恩師・高坂正堯先生)

先日のPDCAに続いて、経理部における7Sを考えてみたい。こちらのほうが手こずりそうな予感。まずは、7Sの項目をおさらい。

・ハードのS:(1)戦略(Strategy) (2)組織(Structure) (3)社内の仕組み(Systems)

・ソフトのS:(4)人材(Staff) (5)社内のノウハウ(Skills) (6)経営スタイル(Style) (7)企業の価値観(Shared Value)

分かりやすいところから考えていこう。まずは(2)組織だが、これは経理部の組織体制をどうするかという話。例えば、制度会計担当と管理会計担当を分けるだとか、予算担当と実績担当を分けるだとか。他にも担当部門別(担当する営業部門、技術部門別など)や、連結と個別で組織を分けるなども考えられる。その会社の特性や、成長ステージに合わせて組織を構築する必要があるだろう。また、誰にどのような仕事を任せるかというアサインメントについても考慮すべき。

次に(4)人材。これは優秀な人材をいかに集めるかということであり、採用や他部門からの異動で対応していく。また、人材育成も重要な課題であり、(5)のスキルにも繋がっていく。育成については、OJT・Off-JTを使い分け、社内外で通用するスキルを身につけられるよう、教育体系を整えていく。

(3)の仕組みについては、マニュアルや規則・基準の整備がこれに該当するであろう。また、経理部内の定例会議なども仕組みの一種である。具体的には、属人化を排し、誰もが同じ水準の仕事ができるようになるためのマニュアル整備、社内外で発生するリスクを軽減するための規則整備、ルーチンやプロジェクト業務をフォローするための会議設定などである。

(6)のスタイルは、風土や文化と考えればよい。経理部にとって一番重要なのは、不正を許さない厳しい文化と、ミスを起こしてもミスの発生原因や仕組みを責めて、個々人を責めない(つまりミスを隠さない)文化の醸成ではなかろうか。

ここまで考えてみたが、(1)の戦略と(7)の価値観は、なかなか難しい。ともに全社の戦略、全社の価値観と強く結びつくので、経理部として独自に設定する必要はないのかもしれない。今の私の経験では、このあたりが限界である。戦略と価値観については、また日を改めて考えてみたい。

先日、PDCAに関する本を読んだが、そこで考えたのが、経理部におけるPDCAをいかに廻すかということ。その前に、経理部のような管理部門・間接部門で発生する業務をカテゴライズしておきたい。

(1)ルーチンワーク:決められた日程と手順で進めるもの。毎日の伝票チェックや、毎月の減価償却費の計算など。

(2)トラブル対応:問題やトラブルが発生した時の対応。

(3)プロジェクト:伝票削減プロジェクトのように自部門に関係するプロジェクトの推進や、全社横断プロジェクトの事務局など全体にかかるプロジェクトのサポート。

ルーチンワークについては、とある研修で「SDCA」という言葉を学んだことがある。これはPのPlanの代わりに、S(Standard)を持ってくるというもの。つまりは、標準的な作業手順を決めておき、それを愚直にDoする。その後、仕事の結果をCheckし、改善(=Act)するというもの。なるほどなぁと腹に落ちたのを覚えている。

SDCAは標準手順をきちんと実行し、その結果をチェックし、そこから「継続的改善」につなげるのが寛容であろう。あくまでも「改善ありき」の考え方である。

トラブル対応は臨機応変に対応するもの。重要度(金額的あるいは社会的なインパクトの大きさ)や緊急度によっては、上司を巻き込む必要がある場合もあれば、思い切って部下に任せてみるという方法もある。また、問題発生時には、応急処置、恒久対策、横展開、という3段階で手を打つのが常套手段である。

さて、本題はプロジェクト・マネジメントである。プロジェクトを予算通り、納期通りに仕上げる際に、PDCAが役に立つのではないか、というのが私の仮説だ。通常、PDCAを廻すためにはKPIの設定が重要になるが、ここで提案するKPIはずばり「完了したタスクの数」である。詳細は以下の通り。

[P] 会社全体や部全体で取り組んでいるような大きなテーマを、実行可能なタスクに細分化する。この際、できるだけ細かく分けるのがポイント。タスクはエクセルなどでリスト化し、実行責任者を個人名で記入、期限を日単位で明記する。このとき、担当者を複数名記入してしまうと、どちらかがやるだろうとお見合いになったり、2人とも同じ作業をして重複してしまったりということが起こりやすくなる。また、期限は8月上旬などではなく、明確に8月12日といった日付を記入していく。こうやって[P]を明確にしていく。

[D] Pで決めたタスクを愚直に実行する。

[C] 1週間に1回程度(繁忙期は頻度を下げてもよいし、切羽詰まってきたら頻度を上げた方がよい)、実行状況を確認する。
・実行済みであれば、次のタスクへ進む。
・実行したがうまくいかなかった場合は、その原因を会議メンバー皆で考える。どうしたらうまくいくかアイデアを出し合い、「次のアクション」につなげる。
・実行できなかった場合も、その原因を考える。時間不足なのか、力量不足なのか、タスクの細分化が甘いのか。時間不足であれば別メンバーがサポートする、力量不足であれば責任者を替えてみる、細分化が甘ければもっと細分化してタスクを複数名に再配分する、など「次のアクション」につなげる。

[A] Cの段階で出てきた「次のアクション」を実行する。

CとAの区分が若干曖昧であるが、Cを次のアクション=改善につなげているところがミソである。こうやって、終わったタスクの数をメンバーで競い合っていくのだ。

経理部でありがちなのが、ルーチンワークが忙しくてプロジェクトのタスクに手を付けられなかったという言い訳。しかしながら、タスクを細分化することによって、言い訳の道を塞いでしまうのだ。タスクはそれこそ、Bさんのアポイントを取る、といった単純なことでもよい。タスクをうまく細分化できた人ほど、完了数を稼ぐことができる。

この発想は、先日読了した『PDCAプロフェッショナル』に加えて、随分前に読んだ『「残業ゼロ」の仕事力』からもヒントを得た。あくまでも仮説の段階なので、機会があれば実務で試してみたい。

マッキンゼーの7Sについては、随分と前から、存在は知っていたのだが、今ひとつどのように使うべきなのかが分からず、腹落ちしていなかった。たまたま、現地法人の経営改革に携わった方の話を聞く機会があり、改革を実践するにあたって、7Sを相当意識したということを聞いた。具体的な事例を聞くとなるほどと思うもの。

私が現地法人で仕事をしていた時は、とにかく日常業務に抜け漏れがないようにと、管理部門の仕事を7つのカテゴリーに区分して考えるようにしていた。いわばオリジナルのフレームワークだ。この発想を延長して、7Sは「改革」を推進するにあたって、考慮・配慮すべき点に抜け漏れがないかをチェックするためのフレームワークだと理解した。

今まで読んできた本の中に、どれほどの記述があっただろうかと、検索してみたところ、3冊がヒットした。『実戦!問題解決法』大前研一、『MBA人材マネジメント』グロービス、『経営戦略・全史』三谷宏治、の3冊だ。残念ながら、どの記録も7Sの項目を列挙しているのみ。いかに表層的に読み飛ばしていたかが分かって恥ずかしい限り。

ただし、『MBA人材マネジメント』については、読んだ時期が駐在期間中だったこともあり、一丁前のことをコメントしている。こちらも今となっては赤面ものだが、引用しておこう。

 これを見て考えるのが、今の自分が置かれている立場について。当社の中国現地法人は、ここ数年で中国成長の時流にそれなりにうまく乗って急成長してきた。人員数や売上高といった事業規模も大きくなり、それに付随するように組織体制の見直しや、規則の整備などを行ってきた。つまりはハードの3Sの改革に力を注いできたと言えよう。

 そんな中に私が転勤してきたのだが、私のミッションは、まさにソフトの4Sを向上させること。従業員個々人のスキルアップを図るため、教育プログラムを考えたり、強い組織を作るためのスタイルや社風を築いたり。目立たない地味な仕事ではあるが、非常に重要だと考えている。社内のスタッフへのインタビューを行い、今の当社に何が必要かを洗い出し、それに対する具体策を期限を付けて策定していく。

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7Sの説明については、同書の出版元であるグロービスのサイト「知見録」に詳しい。ポイントを引用させていただく。

(1)戦略(Strategy)
マクロ環境(政治、経済、社会、技術)や、業界、市場、競合の変化を受け、あるいは変化を見越して、自社のとるべき戦略が変わる。この戦略変更が変革の起点となる。

(2)組織(Structure)
戦略変更に伴い、実行する際に求められる組織を変更する場合がある。例えば、組織を事業部制やカンパニー制、持ち株会社へ変更することなどが挙げられる。

(3)社内の仕組み(Systems)
戦略変更に伴い、経営システムを変更することも多い。例えば、人事・評価制度で成果主義やコンピテンシーによる評価や、管理会計としてBSC(バランスト・スコア・カード)を導入するなどである。

以上のStrategy、Structure、Systemsの3つのSは「ハードのS」と呼ばれ、経営陣の意思決定によって変更できる部分である。しかしその意思決定を行い、ハード面を変更・導入したとしても、その企業で働く社員はすぐには変わらない。そこで、以下の「ソフトのS」が重要になってくる。

(4)人材(Staff)
人材が持つ技能や知識は、そのビジネスで求められる人材像に基づき、採用や育成、業務での経験を通じて長期間にわたって培ったものである。現在自社が抱える人材は、過去数十年にわたる人材の採用・配置・評価・育成の取り組みの結果である。そのため環境変化に伴い、グローバル化への対応が求められることになったとしても、急に「グローバル人材」を増やすことはできない。

(5)社内のノウハウ(Skills)
人材の蓄積を通じた社内のノウハウも同様である。突出した企業には、自他ともに認める強みがある会社も多い。例えば「技術の日立」「営業力のリクルート」と聞いてピンとくる方も多いだろう。

(6)経営スタイル(Style)
その企業特有のビジネスの進め方である。トップダウン、上意下達で迅速に展開していくスタイル、現場からアイデアが出て自律的に動いていくボトムアップのスタイルが例として挙げられる。

(7)企業の価値観(Shared Value)
近年は、明文化された企業理念や「ウェイ」を持つ企業も多い。だがそれらが「額縁」に飾られているだけで、社員に浸透していなければ「共通価値観」とは呼べない。例えば、外資系ホテルチェーンのリッツカールトンが顧客サービスに、トヨタ自動車がカイゼンにかけている熱意のように、全社員に共通の価値観として浸透させていくことが重要である。

PDCAや7Sなどチーム主体のスキルのことをもう少し深堀りして学びたいと思っているのだが、近くに大型書店がなく、Webだけで最適な本を探すのは難しいなと思っていた。と言いつつ、他に手段もないのでWebを検索をしていたところ、「人材育成の基礎知識」というサイトに巡り合った。直接的にPDCAや7Sとは関係ないのだが、チームマネジメントとは突き詰めて考えると部下の育成につきる。参考になる点や新しい物の見方、気づきをいただける素晴らしい記事。なお、この記事は『人材育成の教科書』という本からの抜粋ということなので、こちらは是非とも購入してみたいと思った。

まずは気になった箇所を要約して引用。

・教育体系によって、人材育成の基本枠組みが整理されるが、そこでの教育の焦点は、|亮蔚軌蕁↓▲好ル教育、0媼蔚軌蕕裡海弔了訶世らも整理できる。

・知識教育は、知らない知識を習得させるための教育。知識といっても、商品知識やオーダーエントリー業務のやり方といった業務知識などのように、社内の人間として知っておかなければならない知識のほか、自己の専門領域の知識や担当している事業の革新を進めるための知識など、どちらかというと社外に流通している知識に力点があるものもある。

・スキルとは、いわゆる「できる」ようになる教育。野球には野球の理論がたくさんありるが、そのような理論を知っていても、本当に打てるのかとなると全く別のもの。知っていることとできることとは違う。また、スキル教育には、繰り返しトレーニングするという部分が必ず入っている。

・人材育成はOJTが基本であるが、Off-JTの形式をとったほうが育成効果が上がる場合もある。Off -JTのほうが育成効果が上がる場合とは、(1)その企業では全く経験のない(将来取り入れなければならない)業務を学ぼうとする場合、(2)職場で業務指導ができるものであっても、指導者のレベルにバラツキが大きく、彼らに任せると心配な場合、の2つ。

・底上げ教育とは、ある業務にかかわる全員の業務遂行レベルが上がるように、広く教育対象者を設定して教育をしていくタイプのもの。同じ等級の人材には全員同じ役割教育を施す階層別教育なども、底上げ教育のタイプに分類される。たとえば、係長としての役割認識が不ぞろいであると、第一線業務のレベルが低くなるという問題が生じるため、係長としての目線で役割を発揮し、全体が低くならないよう、底上げ教育を行うもの。

・選抜教育は、特に優れた人や強化したい人を選んで集中的に教育を施すタイプ。特に難しい企画業務や、高度な専門業務にかかわる教育の場合は、優れた人でないと理解できなかったり、活用できなかったりするため、必然的に選抜型の教育になっていく。

・底上げ教育にしても、選抜教育にしても、企業の行う教育とは、社員個人のために行うのではなく、あくまでも企業の業績確保や成長の実現のために行うもの。社員個人の出世のためでも、モチベーションアップのためでもない。今、企業が置かれた状況の中で、だれにどのような教育を行うのが最も効率的かつ効果的かを、いつも考えておくという意識を常に持っておくこと。

・「Aさんを外して教育を実施するのは、本人のモチベーションを損なうからやめてくれ」というのは、二次的な論点。Aさんを外す理由が経営的な意味から明確であれば、納得しないといけない。そのうえで、必要であれば管理者として、どうして教育の対象者になっていないかの説明を本人にして、モチベーションが下がらないようにケアをすること。

・職務充実(job enrichment)とは、部下の仕事の質を高め、高度化していくこと。簡単な作業に専門的・管理的仕事を加えたり、判断が必要な要素を加えたり、より自律的に仕事が進められるように権限を委譲したりすることが職務充実という概念。

・職務拡大(jobenlargement)とは、飽きさせずにたくさんの仕事を覚えているという実感を強くしてやる気を出させるために、担当業務の種類を増やすこと。

・職務充実や職務拡大とは、管理者がマネジメント現場で考えるもの。以上のような視点を常に持ちながら部署の業務を見てみれば、人材育成と生産性向上の同時進行の方法が必ず見付かるはずである。

・階層ごとに求めるものをその階層にいる全員に共通認識させるのが階層別教育であるのに対して、課題教育は、最も関心の深い希望者に教育をするもの。ちなみに選抜教育は、企業が選抜した人に教育をするものなので、課題教育の対象者とは選び方が異なる。選抜教育との対比でいえば、階層別教育は底上げ教育の一種だとみることもできる。

・教育は、いつも重点化の発想で取り組むべきものである。できるだけ少ないコストと手間で、最も大きな効果を上げるにはどうすればよいかを考えて行うのが、優れた教育企画の立て方である。人材育成は非常に難しいもの。行った教育手段が有効だったかどうかを判定することは困難であるため、人が育つには長い年月がかかるものだと割り切って、一つひとつの教育手段の有効性をあまり問わない風潮がある。しかし、経営資源を使って教育を行う以上、なんでもよいではないかというわけにはいかないわけで、本当に何が理由で人が育つのかは未知のものだとしても、仮説だけはしっかり立てて、できるだけ効率的・効果的に教育を進めるように努力するのがよいのではなかろうか。

・教育の目的が明確になると、それにふさわしい対象者を選ばなければならないが、その対象者をどう定義するかが問われる。大事なのは、できるだけ教育対象者を絞れということであり、少しでも候補者を少なくするにはどう考えるかということ。企画の段階では、教育対象者をできるだけ絞って、教育目的を達成するように考えてみるのがよい企画の条件。焦点となる教育対象者を絞れば、教育内容のレベルもそろってくる。

・人材育成手段の体系を考える場合、成長プロセス(段階)をしっかり踏ませることが大事であり、優秀だからといっても、どこかの段階を飛ばしていくことは勧められない。


底上げ教育と選抜教育の使い方、職務充実と職務拡大という概念など、非常に勉強になった。中でも特にそうかと膝を打ったのが、「企業の行う教育とは、社員個人のために行うのではなく、あくまでも企業の業績確保や成長の実現のために行うもの 」という当たり前の概念。何となく教育のことをフリンジベネフィットのようなとらえていたので、大きな間違いだと悟った。こんなに有益な情報を無料で掲載してよいのだろうかと思うほど。筆者への感謝のためにも、本は買わないとなぁ。

◇1481 『PDCAプロフェッショナル−結果を出すための「思考と技術」』 >稲田将人/東洋経済新報社

PDCAサイクルというのは、よく聞く言葉なのだが、特に私のような管理部門に所属していると、今ひとつピンとこないというのが現実。PDCAを回すためには、KPIが必要であり、KPIがなければそのPlanがきちんと実行(Do)されているかどうかが、分からない(=Checkできない)。ゆえに、KPIを設定することが難しい、経理部において、PDCAは無縁だと思っていた。

もちろん、業績数値を取り扱う部署なので、全社的な予算・実績管理など、PDCAを廻すための数値を提供するのは、経理部の重要な役割である。ここで私が言いたいのは、経理部自部門のPDCAの話。

何か参考になるよい本はないかと気にしていたところ、とある雑誌で紹介されていたのが本書。業績の良い社長が推薦していたので目に留まったのだが、よくよく見ると、著者が『戦略参謀』などの稲田さんではないか。これは間違いなかろうと、早速Amazonで購入した。

読み終えての率直な感想は、「私の疑問を解決してくれるものではなかった」というもの。PDCAがなぜ大切かということに、ページの約3分の2を費やしており、実際にどうやってPDCAを廻していくのかという具体例は後半部分のみ。企業によって廻すべきPDCAは千差万別であり、代表的な具体例を紹介するしかないのだろうが、どうやって実践していくかを求めていた私にとっては、少々物足りなかった。

とはいえ、有用な気づきをたくさんいただいたので、気になった箇所を要約して引用。

・仕事ができ、事業を引っ張ることができるのは、「精度と汎用性の高い経験則」を持った人。自身の経験から学んだことを、自ら法則化し、より高次のレベル、いわゆる「メタ知識(知識に関する知識)」として、経験則を積み上げていける人。ビジネスにおける学習とは、自らの経験を、汎用性をもたせて精度高く法則化すること。

→この部分は、大いに共感する。私自身がおぼろげに頭に描いていたことを、見事に言語化してくれている。この文章に出会えただけでも、本書を購入した価値あり。

・Plan:よく考えて企画を行う。正しいPの作法にのっとることで、Cが可能になる。PDCAを廻させる側は、目標を押しつけるのではなく、よく考えられた挑戦的なPを求め、立案の指導を行うべき。

・Do:精度高く実行する。精度高くやりきらないと、Cができなくなる。現場との連携体制、信頼関係がないと、実行精度は落ちる。

・Check:結果を検証する。成功/失敗の因果を明確にするため、Pのどこに読み違いがあったのかを明確にする。失敗は叱責の対象にはならない。ただし、理に適った説明がなされ、得られた「学習」と修正の方向性が明確になるまでは、Cは終わらない。結果を分析、検証して、次回のPの精度を高めるための「学び」の内容を明確にすること。米国ではCheckではなく、Studyという言葉を用いることもある。

・Action:やり方、方法論を見直し、進化させる。発表用資料、報告の仕方などを見直す。特にPDCAを廻し始めた初期の段階は、入念にやり方を見直す。業務の進め方そのものの見直し、新技術などへの挑戦も果敢に行う。やり方、方法論を「進化・改善」させることを意味する。帳票や会議の行い方など、PDCAの廻し方や、業務フローそのものの改善を行い、リードタイム、品質、コストを改善することも含まれる。

・PDCAは「理」をもって繰り返して廻す。

・右脳を動かすためには、まず左脳に情報を徹底的に叩き込む。

・改革の際、「川は2回に分けて飛べない」

・物事を成功まで導くことができるかどうかは、腰が引けることのない、粘り強い、修正・調整の力であり、これをけん引、ドライブするのが、想いの強さ「パッション(情熱)」であり、最初の起動トリガーとなるのは、ちょっとした「勇気」や「好奇心」、あるいはなんらかの「気づき」なのだろう。

・多くの場合、みなが成長に追われて忙しく、PDCAのCを、ついなおざりにしてしまう。CがなされていないPDCAサイクルでは、次のPの精度は間違いなく低下する。市場起点のPDCAのPの精度低下は致命的であり、これが企業の成長を鈍化させる。後から成長期後期の実態を追いかけてみると、この成長期後期の施策が大雑把になっていることがよくある。

・数値をベースにした「見える化」による管理が必須。

・一般的に、市場でのビジネスの難易度はかつてより高まっている。トップだけではなく、現場担当者も戦略を自分のものとして理解して、ハンドルを操作し、ブレーキ、アクセルをこまめに使い分け、進むべき道であるシナリオの修正も行いながら進めなければ、戦略の実践などできない。

・PDCAを廻すためには、的確に「見える化」された検証(C)のための帳票や制度の高い会議体の設計が必須になる。

・PDCAが廻らずに低迷状態に入った会社は、戦略を手にしても、PDCAを廻すために必要な術を知らないがために、成長軌道入りどころか、低迷を抜けることもできないことになる。

・同じ事業、同じ業態にもかかわらず、大きく育っている企業とそうではない企業の差が出るのは、トップが、PDCAが社内の各部門で廻っている状態、文化づくりに真剣に取り組んでいるか否かだといえる。

・PDCAを廻すということは、それぞれの業務における読み違いを明確にすること。成功した創業者は、企画(P)の読み違いなどは当然あるものとして受け入れるもの。担当者を一時的に叱責することはあっても、結局は「過ぎたことについては、それはそれ。で、どうするのか?」と考える。

・PDCAは読み違えた点について、その理由を追いかけて明確にし、組織の知恵として共有化するためのもの。これを表面的な検証(C)で終わらせたり、隠したり隠ぺいをすると、正しく言語化された因果の共有化への努力がなされなくなる。お金と手間をかけて起きた、せっかくの失敗が、学習につながらなくなる。

・組織としてPDCAを廻す際に必要な4つのこと。(1)その業務を的確にとらえた定義を行い、業務フローを明らかにする。(2)会議のようなPDCAが廻しやすい、管理ポイントが「見える化」された報告帳票の設計。(3)発表、報告の体制づくりと作法の徹底、習慣化。(4)そして「起動」時に、「はずみ車」を廻し始める際の入念な準備。

・PDCAを廻すマネジメントを行うということは、事業運営において、起きていることや、判断の理由をあからさまにできるよう、ファクト(事実)ベースで、言葉やビジュアルで理に適った説明をする状態をつくること。

・Pをまとめる際のステップ:現状把握→意味合いの抽出と解の方向性の明確化→施策の決定→実行計画の策定。

・現状把握:ファクトベースの「見える化」。業務、事業など、Pを行う過大領域において、「過去そして現状、事業や営業、費用対効果などの実態はどうなっているのか」「過去に行ったPの結果はどうだったのか」を見える化し、成功のために必要な因果を明確にしていくための最初のステップ。数字などの事実をもとに、良い結果、悪い結果に結びついたであろう原因となるものが見えてくるように、見える化の工夫を行う。

・意味合いの抽出と解の方向性の明確化:事実を見える化したが、そこ事実に基づいて、そこから何がいえるのかを明示していく。「どこに、どれだけのギャップが存在するのか」「さらに細分化して見てみると、その際の原因となっているのはなんなのか」などを明らかにする。それによって、どこに課題があるのかを特定し、解の方向性を明確にする。根本にある原因が明らかになれば、対処方法、すなわち「解の方向性」も明確になってくる。その事実や役割に精通しないと、的確な「意味合いの抽出」はできないものだが、PDCAを謙虚に廻すことによって、意味合いの抽出能力は上がってくる。

・施策の決定:解の方向性を明確にしたのち、次に具体的な打ち手はどれでいくべきかを評価して決定する。複数の案がでた場合は、それぞれのメリット、デメリットを評価し、どの案でいきたいかを明確にする。その後、トップあるいは責任者の決裁を受けて、施策の決定となる。

・実行計画の策定:決まった施策をガントチャートなどを使って計画に落とし込む。その際、ドライバーたるプロジェクトの責任者に、どのタイミングで進捗状況を報告するかを、必ず計画の中に描きこむ。

・一連の手続きを踏まえたPであれば、検証(C)は楽に行える。(1)どういう事実に基づいた方向性なのか、(2)押さえどころは、どこか、(3)細部の決定事項の前提はなにか、の3点が明確であれば、実行中にどの部分を確認しながら進めればよいのかが明確であり、うまくいかなかった場合も、どこに戻ればよいのかが明瞭になる。しかしながら、通常業務の中で、「やっておいてくれ」と現場に丸投げするような依頼方法では、このような精緻なPは立案されない。結果として、口頭で回答という報告になり、検証もできず、感覚的・主観的な報告になってしまう。いかに精緻なPが重要かということ。

・D:制度の高い実施があってはじめてCが可能になる。そのためにも意図(P)通りの実施を徹底しなければならず、Why(理由)の共有が必須となる。精度の高いDを実現するため、現場社員の士気を高く保つことは必須条件となる。

・C:謙虚に、そして客観的に結果の検証を行う。ドライバー側は、Why(なぜ)の徹底、つまり、因果の不明瞭な部分は妥協せずに、徹底的に言語化や視覚化を促す質問を行わなければならない。報告側は、質問が想定される点については、すべて記述がなされている報告書のまとめを行い、一目で因果がわかり、ドライバーやギャラリーから質問がでない状態を目指すこと。

・PDCAが廻っている限り、失敗は叱責の対象ではない。本来、失敗はその要因を分析する対象であり、断じて隠ぺいすべきものではない。

・A:方法論を磨き、ビジネスプロセスを進化させる。PDCAのAはPの修正というよりも、事業運営やPDCAの廻し方などの方法論そのものを直して進化させていく改善行動を意味する。

・PDCAはプラン・ドゥ・シーに対して、次のPに入る前に、自分たちがとっているやり方、考え方、方法論をより良いものに見直して改善していくActionを行い、より良い次のPに入ろうという1ステップ進んだ考え方。この「進化・改善=Action」には、帳票の見直し、報告会の進め方、因果を解き明かすための見える化のための分析用システムの導入なども含まれる。

・定例会議がPDCAのキモ。定例会議の多くは、PDCAのCからPに連鎖させるブリッジ部分に相当する。ドライバーたる事業責任者のパッション、進行・準備役の参謀スタッフの熱意と知恵、機転があれば、見違えるように会議は進化(A)していく。逆に放置されれば、瞬く間に「人の性怠惰なる思惑」が蔓延する場になる。

・この会議での報告においては、うまくいかなかったときの、要因の深堀りと再対策の発表が真骨頂となる。




【目次】

第1章 PDCAは企業の「実践力」を高める
第2章 優良企業の実践力―成長・発展し続けるために
第3章 なぜあなたの会社のPDCAは廻らないのか?
第4章 PDCAを廻すために必要なこと―個人、マネジャー、そして経営層にとっての技術
第5章 P・D・C・A、それぞれの作法
第6章 PDCAの事例

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先日、経営知識の概観をまとめたが、「知識として知っていること」と「実践・実行できること」は異なる。3C分析だの4Pのマーケティング・ミックスだのといった知識は、経理部門にいると縁遠いもの。もちろん、事業計画を検証する立場となれば、3Cや4Pの視点も必要になるが、自分が使いこなすという感覚はない。では、経理部門においては、どのような手段が有効なのであろうか。

私は今まで様々な本を読んできており、経理知識の本や、一般的な仕事の進め方の本には出会ってきたが、「経理としての仕事の進め方」というのは、あまり見た記憶がない。このような分野は、OJTで教育されるものだからであろうか。

実務担当者に関しては、その会社独自の伝票起票の仕方、管理会計的な勘定科目の使い方など、一般論として語るのが難しい実務知識の習得が求められるであろう。よって、前述のようなOJTが威力を発揮する。しかしながら、係長・主任・課長代理といった役職一歩手前の、係を取り仕切るような立場になったり、もう1段上の経理課長になった際の仕事の進め方というのは、会社によって大きく変わらないのではなかろうか。

自分の頭の整理のために、経理部の係長や課長としての仕事の進め方をまとめてみよう。

・正確な決算実務を遂行するために、分かりやすい(=ミスを起こしにくい)経理規則・勘定科目体系・マニュアルの整備を行う。

・決算実務に抜け漏れが発生しないよう、網羅的なマニュアルの整備を行うとともに、チェックリストを作成し、部下をフォローする。(チェックリストには、賞与引当金の計上は完了したか、など毎月あるいは四半期毎に必要となる仕訳作業などを記載していく)

・効率的で使いやすい会計用のITシステムを構築する、または、継続的なシステムの改良を行っていく。ただし、一方ではパッケージソフトに自社の実務を合わせて標準化していくという視点も必要。

・試算表や、B/S、P/Lをもとに、異常値がないかをチェックする。異常値に関しては合理的な説明を部下に求めること。合理的な説明ができない異常値にはミスが潜んでいる。

・経営に資する資料を作成する。自社が抱える課題を常に意識しておき、その課題を浮き彫りにしたり、課題解決に役立つような統計資料・管理資料の作成をこころがける。時には、その資料を幹部や関係者に発表し、注意喚起する。

・ミスやトラブルが発生した際は、その重大さによってはハンズオンで対応に取り組む。その際、緊急対応(取り急ぎ、ミスをリカバリーする)、恒久対策(ミスの根本原因を突き止め、ミスが起こらないような仕組みを構築する)、横展開(似たようなミスが発生するリスクのある手順がほかにないか確認する)という3段階での対応が必要。

・決算業務以外にも、経理は何かとプロジェクトに巻き込まれることが多い。自らがプロジェクトリーダーになることもあるが、多いのは参謀役としてリーダーをサポートする立場。副リーダーとして、プロジェクトマネジメントを実行する。

・部下の育成とチーム作りを心がける。部下一人ひとりの成長を考えた、段階的な仕事のアサイン(OJT)とoff−JTの教育を実施する。また、係長を中心としたチーム作りを心がけ、互いに補完しあえるような関係、改善提案などが出てきやすい雰囲気、ミスの発生時には皆でリカバリーしようという文化などを醸成する。


工場経理を担当するにようになって、富に意識することが多くなったのが、プロジェクトマネジメントとチーム作り。どちらも自分だけでは完結できず、関係者や部下を巻き込んで実践していく必要があるもの。先日読了した『プロジェクトマネジメント−外資系コンサルが教える』でも、どこへ行っても通用するスキルが大切で、しかもロジカルシンキングやプレゼンテーションのように個人で完結するものではなく、プロマネなどチームで実践するスキルが重要になってくるというのを、改めて意識した。

さて、冒頭に、3Cだの4Pだのといったフレームワークについて、触れたが、上記のようなスキルに役立つのではないかと思っているのが、PDCAとマッキンゼーの7Sである。どちらも、頭では分かるのだが、どうやって使ってよいのか、今ひとつピンと来ないもの。しばらく、この2つのフレームワークを掘り下げて考えていきたい。

とある勉強会のテキスト。経営に関する理論が、ざっと概観してあり、頭の整理になった。細かな内容は書くのを差し控えておくが、一般的な内容であるし、 項目くらいは列挙しても問題なかろう。

■経営戦略

・経営理念(ミッション:社会に果たすべき使命、ビジョン:事業を通して実現したいことは何か?)

・事業ドメイン(事業の定義を明らかにすること。どのような顧客層の、どのようなニーズに向けて、どのような技術に基づく商品やサービスを展開するか)

・コアコンピタンス(木に例えると「根」の部分。コアコンピタンスはアウトソーシングしてはいけない)

・3C分析:顧客 Customer、競合 Competitor、自社 Company

・3Sの定石:選択・差別化・集中

・SWOT分析(環境分析):強味 Strengths、弱み Weaknesses、機会 Opportunities、脅威 Threats

・PPM(プロダクトポートフォリオ):スター、金のなる木、問題児、負け犬

・アンゾフの製品市場マトリックス:既存市場・新市場と既存製品・新製品のマトリックス管理

・ポーター競争優位の基本戦略:コストリーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略

・業界分析5つの力:競争業者、新規参入者、代替品、供給業者、買い手

・バリューチェーン(価値連鎖):購買物流→製造→出荷物流→マーケティング・販売→サービス。このほかに支援活動として、全般管理、人事労務管理、技術開発、調達活動など。

・コトラーの業界地位に応じた戦略:リーダー、チャレンジャー、ニッチャー、フォロワー

・STPマーケティング:セグメンテーション(購買特性が類似した市場の細分化)、ターゲティング(魅力ある市場・顧客にターゲットを決定)、ポジショニング(ターゲットにとって魅力的な企業になる)

・4P(マーケティング・ミックス):製品 Product、価格 Price、プロモーション Promotion、販売チャネル Place

・AIDMAモデル:Attention(注意)、Interest(興味)、Desire(欲求)、Memory(記憶)、Action(行動)

■論理思考

・演繹法と帰納法(演繹法はパラシュート、帰納法はレンガの積み上げ)

・ゼロベース思考(常識や固定概念、しがらみを断ち切って、白紙の状態から考える)

・MECE(Mutually Exclusive Collectively Exhaustive、漏れなくダブりなく)

・ロジックツリー(木と木の枝を利用して論理を展開。「So How?(だからどうする)」)

・プロセス思考:業務をプロセス(手順)で把握する。業務改革や業務効率化の際に必要な思考法。

・ピラミッドストラクチャー(ピラミッド構成で、結論をトップに置き、その結論にいたった理由を下部へ落とし込んでいく)

・オプション思考(1つだけの解決策を考えるのではなく、代替案を想定しながら思考すること)

積読本の整理については、何度か書いてきたが、ようやくゴールが見えてきた。以前、整理したのは次の4つのカテゴリー。(1)じっくり時間をかけて読むべき本、(2)鮮度が大事なので、飛ばし読みでもよいからすぐに読むべき本、(3)いつか読もう読もうと思いつつ、後回しになってきたもので、計画を立てて読むべき本、(4)今の自分には不要な本。

(2)は現時点ではすべて読了できた。(4)については、歴史関係の小説が約100冊と普通の小説が約50冊あるのだが、とりあえず今年中は封印することに。(1)と(3)については、改めて振り返るとなかなか区分が難しい。もう少し定義を明確にしてみると、自分の中では、次のような考え方になる。

(1)じっくり時間をかけて読むべき本 → 今の自分に必須であり、きちんと読み込むべき本。整理すると、実務書、論理学、歴史関係の本に絞ることができた。分厚い単行本が多いので、必要であればメモを取りながら、 きちんと机に向かって読み込みたい。こちらがあと25冊。

(3)いつか読もう読もうと思いつつ、後回しになってきたもので、計画を立てて読むべき本 → 今すぐ読む必要はないが、時間ができたら読むべき本。封印するまではないが、必須とまでは言えない本で、約50冊ある。こちらは、なぜか新書が多いので、出張の際などにでも持っていけばよかろう。

ということで、当面は目の前の25冊に集中する。冊数も限られてきたので、本棚ではなく机の上に移動して、自分にプレッシャーをかけている。今までは、書店に気軽に立ち寄って、興味がある本はすぐに購入し、興味の赴くまま「読み散らかして」きた。長年読書を続けてきたが、今回のように中期的に「読むべき本」をきちんと定めて、計画を立てたのは初めて。

週に1回は書店に立ち寄りたいところであるが、住んでいる立地から、これはなかなか難しい。しかし、よくよく考えてみると、書店が近くにあれば、「読むべき本」ではなく「読みたい本」に手を出してしまう。 怪我の功名ではないが、せっかくの隔離された状態を活かして、読むべき本に集中しよう。

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そんなことを考えつつ、週末、机に向かって、ようやく熟読すべき本の中から1冊取り上げてみたのだが、どうも速読する癖がついてしまっているようだ。目線はどんどん先に進んでいくのだが、内容が一向に頭に入ってきていない。これは大いに反省すべき事象。わかりやすく、頭に入りやすい本ばかり読んできた弊害である。

まじめに読書の方法をシフトしなければならない。ゆっくりと、必要ならば音読したり、逐一メモを取ったりしながら読み進めなければ。手ごわい本ばかりだが、これを乗り越えると、頭の中が一皮剥けた状態になるのではなかろうか。そんなことを期待して、読書に励みたい。少しペースは落ちるだろうが、むしろあえてペースを落とすくらいの気持ちで臨まなければならない。焦りは禁物。急がば回れ。

最後に、今後の計画をフォローアップするために、カテゴリーを再整理。

(A):従来の(1)で今(2016年末までに )読むべき本、25冊。
(B):従来の(3)で時間があるときに読む本、50冊。
(C):従来の(4)で2017年になるまでは封印する本、150冊。

◇1480 『ダンゼン得する 知りたいことがパッとわかる 会社設立のしかたがわかる本』 >鎌田幸子他/ソーテック社

ちょっと調べる機会があったので、備忘のために、メモだけ記録。

■会社登記に必要な書類
・登記申請書
・登録免許税納付用台紙
・CD-Rなどのデータ媒体またはオンラインでの提出
・定款(発起人の実印)
・発起人の決定書(発起人の実印)
・取締役の就任承諾書(個人の実印が望ましい)
・代表取締役の就任承諾書(個人実印)
・監査役の就任承諾書(個人の実印が望ましい)
・代表取締役の印鑑証明書
・代表取締役以外の役員の本人確認証明書
・資本金の払い込みを称する証明書(会社実印)
・取締役などの調査報告書(個人の実印が望ましい)
・資本金の額の計上に関する証明書(会社実印)
・印鑑届出書(会社実印・個人実印)
・印鑑コード交付申請書(会社実印)

■会社設立後の各種届出書類
・税務署へ
 法人設立届出書
 青色申告の承認申請書
 給与支払事務所等の開設届出書
 棚卸資産の評価方法の届出書
 減価償却資産の償却方法の届出書
・都道府県税事務所へ
 法人設立届出書
・市区町村の役所へ
 法人設立届出書


会社法に準拠した手続きを中心に、銀行口座の開設方法、資本金の払い込み方法など、会社設立に必要な手続きを、網羅的に解説している。コンパクトにまとまっており、非常に使いやすい本。文字も大きく見やすいし、実務が本当に分かっている人たちが、しっかりと考えて作りこんだ感じが伝わってくる。



【目次】

第1章 会社設立のポイントを知っておこう
1-1 会社設立のための基礎知識
1-2 タイムテーブルで見る会社設立までの流れ

第2章 1つひとつ順を追って決めていこう
2-1 株式会社をつくるにはいくらかかる?
2-2 会社の概要を決めよう
2-3 階社の名称(商号)を決めよう
2-4 お金を出す人と運営をする人を決めよう
2-5 資本金の決め方・資金の調達のしかた
2-6 会社の本店の所在場所を決めよう
2-7 印鑑の手配
2-8 事業目的を決めよう
2-9 決算期と公告のしかたを決めよう
2-10 そのほか決めておくとよいこと
2-11 そのほか確認しておくとよいこと

第3章 定款を作成しよう
3-1 定款は会社のルール
3-2 実際に定款を書いてみよう
3-3 公証役場の認証を受けよう

第4章 登記をしよう
4-1 登記って何?
4-2 資本金の払い込みをしよう
4-3 登記に必要な書類
4-4 登記の申請
4-5 登記完了後に取得する書類

第5章 銀行口座開設と諸官庁への届け出
5-1 銀行口座を開設する
5-2 会社設立後にしなくてはいけない届け出
5-3 資金の調達

第6章 個人事業者が法人成りしたらすること
6-1 法人成りをするとき・したあとにすること
6-2 法人成りをするとき
6-3 法人なりしたあと

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◇1479 『新しい文章力の教室−苦手を得意に変えるナタリー式トレーニング』 >唐木元/インプレス

慎泰俊さんがAmazonにレビューを書いているのを見て購入。Kindleの方が安かったので、電子書籍で購入したのだが、テキスト形式ではなくPDF形式だったので、iPhoneで読むのはつらい。久しぶりにiPadで読書。慎泰俊さんが推薦しているだけあり、文書を書く初心者の人にとっては、非常によい指南書になるであろう。しかしながら、雑文を10年近く書き続けてきた私にとって、特に後半部分は既知の内容ばかりであった。

前半部分の「構造シート」は勉強になった。確かに、このブログは「いきなり書き始めて」いる。本書では、文書はいきなり書くのではなく、必ず構造シートを作成してから書くようにと指導しているのだが、これは本書が記事を書くプロを対象にしているから。もちろん私の書いている読書感想文のようなものにも、きちんとした構造があった方がよいのだが、そこまで考えていると億劫になってしまう。慣れてくれば構造シートなどものの数分でできてしまうとのことなのだが。。。

仕事で文書を書くとき、例えば少し長めのメールを書くときや、企画書を作成するときには、本書で学んだことを参考にしてみよう。ブログはあくまでも趣味なので、もうしばらくは自由気ままに書いていきたい。

・「いきなり書き始めてはいけない」 書き始める前に、何について書くか決めてから書く。さらには何をどれから、どれくらい書くか、見当を付けてから書き始める。

・完読される文章が、よい文章。

・実用的な文章力をレベルアップしたければ、「事実」「ロジック」「言葉づかい」の順に積み上げていく。

・書き始める前に、主眼と骨子を立てること。

・主眼とはテーマのこと。その文章で何を言うのか。何を言うための文章なのかという目的のこと。

・骨子とは、主眼を達成するための骨組みのこと。文章における骨子は、「要素」「順番」「軽重」の3つから構成される。「何を」話すか、「どれから」話すか、「どれくらい」話すか。

・構造シート:手書きでつくること。
1.紙の上方に大きく線を引いて、テーマ(主眼)を核欄をつくる。この段階では空欄のまま。
2.箇条書きで、書こうとする話題を列挙していく。
3.並んだ話題を眺めながら、これから書く文章の主眼を見定め、テーマ欄に書き込む。
4.どの話題から切り出していくべきか、主眼に準じるように吟味し、項目の左横に順番を数字で書き込んでいく。
5.紙を替え、テーマ欄に主眼を書き込み、順番どおりに並べ直す。もししっくり来なければ、また順番を吟味して書き込み、紙を替えてやり直す。
6.アピールしたい優先度を、項目の右側にABCの3ランクで格付けしていく。

・「サビ頭」の構成。結論→問題提起→状況説明→付帯状況。

・言葉を感じで記すことを「閉じる」、かなで記すことを「開く」という。実質的な意味のない、本来の意味から離れてしまった名刺を形式名詞と呼び、ひらがなに開くのが一般的。「こと」「ところ」「とき」など。また同様に形式動詞というものもあり「ほしい」「いう」「いる」などが挙げられる。

・文頭一語目に続く読点は、頭の悪そうな印象を与える。




【目次】

第1章 書く前に準備する
第2章 読み返して直す
第3章 もっと明快に
第4章 もっとスムーズに
第5章 読んでもらう工夫

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◇1478 『MBA財務会計(第2版)』 >金子智朗/日経BP社

酒井穣さんが、「題名は最低ですが、中身は最高だと感じました。理科系出身の著者による暗記を最小限とし「何故」を大切にしてファイナンスを追いかける本です」とお薦めされていた本。USCPAを取得しているので、今更財務会計もないだろうと思い、買ったまま放置していたのだが、久しぶりに経理関係の仕事についたので、手に取ってみた。

なるほど、非常にバランスのよいテキストである。私が所有しているのは2006年発行の第2版だが、ちょうど金融ビックバンが一段落したころであろうか。最新の会計理論が一通り網羅されている。しかしながら、かなり内容をそぎ落として書いているので、専門的に学びたい人にとっては物足りないであろう。MBAを取得する人が、学ぶべき教科のone of themとして学習するには手頃な感じであろうか。

第4部は分析編と題して、財務分析について述べられている。このあたりはよく知っている分野なので読み飛ばせばよいかなと思ってパラパラとページをめくっていると、本質的なことが書かれていてなかなか面白そう。結局、熟読してしまった。前半部分の財務会計に関する箇所も、何故を大切にしており読み応えはあるのだが、本書はむしろ、この第4部の方が面白いかもしれない。

という訳で、第4部を中心に引用を。

・ROAは総資本事業利益率のことであり、「事業利益/総資本」で求められる。これは「会社全体の平均的な儲ける力=まぐれを除いた真の実力」を見るための指標である。総資産とは会社全体の仕組みそのもの。事業利益とは、経常利益に支払利息を足し戻したもの、つまり支払利息の影響を除いた、資本調達方法に左右されない平均的な利益。つまり特別な場合を除いた、会社にとってのコンスタントな利益のこと。つまり、ROAとは概念的には調達資金が転化された事業そのものである総資産のパフォーマンスを見ようとするのもである。

・ROEは株主資本当期利益率であり、「税引後当期利益/株主資本」で求められる。。これは株主にとってのパフォーマンスだけに注目する指標である。株主にとってのパフォーマンスに注目するので、分母には株主資本を持ってくる。これに対して分子には株主の関心事である配当と株価上昇に関係の深い税引後の当期利益を持ってくる。

・税率を無視すれば、ROEは「ROAプラスアルファ」ということができる。プラスアルファ分は、負債/株主資本、すなわち負債比率が高いほど、大きくなることを意味している。つまり、負債をどんどん増やした方が株主資本のパフォーマンスであるROEは上昇するのだ。ただし、負債が増えすぎて負債利子室がROAを上回ってしまうと、プラスアルファではなくマイナスアルファになってしまうため、過大な負債は逆効果となる。

・安全とは企業のキャッシュ支払能力のことである。これを分析するには、ストックに注目して静態的な分析をする方法と、フローに注目して動態的に分析する方法がある。静態的な分析は財務諸表から読み取れるため簡易だが、入金よりも多額の出金が発生してキャッシュがショートしてしまう、というところまでは見えない。このような限界を克服するためには、実際のキャッシュの動きを見るしかない。フローに注目した動態的分析は資金管理の色彩が強くなる。

・財務分析において「付加価値」とは企業が新たに生み出した価値と定義される。実際に付加価値を計算する際は、付加価値の分配面に注目して計算するのが一般的。付加価値は経営資源の提供者に対してその対価として分配される。カネを提供した株主には純利益(=配当と将来の株価上昇の原資)、債権者に対しては金融費用、モノを提供した実物資産家に対しては賃借料と減価償却費、ヒトを提供した労働者には人件費、社会基盤を提供する国や地方自治体には税金という形で分配される。よって「付加価値=純利益+金融費用+賃借料+減価償却費+人件費+税金」と計算される。

・PERとは price earnings ratio(株価収益率)、PBRとは price book value ratio(株価純資産倍率)のことで、株価に関する指標である。PERは株価が一株当たり当期利益の何倍かを見る指標であり、分母・分子に発行済株式数を掛ければ時価総額が税引後当期利益の何倍かを見ることもできる。一方、PBRは株価が一株当たり純資産の何倍かを見る指標である。同じく分母・分子に発行済株式数を掛ければ、時価総額が簿価純資産の何倍かを見ることができる。

・PERとPBRは似ているが、その位置づけは相当異なる。PERは通常の状態にある企業の株価水準を見るときに使われるが、PBRは株価の危険水域を判断するのに使われる。これは、通常の状態にある企業の価値は収益性、すなわち利益水準によって決まるが、収益力を失った企業の価値は、企業をモノとして解体して、いくらで処分できるかという処分価値で決まるからである。

・ニワトリの値段はニワトリの使い道で決まる。ニワトリをバラして肉を売るのであれば処分価値、ニワトリが産むタマゴを売っていくのであれば利用価値を計算することになる。これと同様に、会社をバラして処分することが前提であれば、株主価値とは処分価値を意味し、企業が生むキャッシュフローを継続的に活かしていくのであれば、株主価値とは企業の利用価値を意味する。

・キャッシュフローの考え方。企業が資産を獲得するためのキャッシュアウト=投資であり、投資活動によるキャッシュフローとなる。その投資から得られるリターンが、営業活動によるキャッシュフローとなる。これら2つのキャッシュフローを合わせてフリーキャッシュフローと呼ぶが、これらは資産サイドのキャッシュの動きと考えてよい。一方、負債サイドは資金提供者から資金を調達し(株式発行、社債発行、借入実施など)、そのリターンとして配当や金利を支払う。この一連の活動が、財務活動によるキャッシュフローとなるのだ。

・日本の制度会計には「事業利益」という概念はない。事業利益の定義は営業利益に営業外収益を加えたものであるが、むしろ経常利益から遡って、「負債利息支払前、税金支払前、配当前の利益(EBIT:Earnings Before Interest and Tases)」というとらえ方の方が重要である。事業利益が負債利息支払前、税金支払前、配当前の利益ということは、事業利益はこれから債権者、政府、株主の3者に分配されるべき利益ということを意味する。

・株主価値は「事業価値+余剰資産−有利子負債」とし表すことができる。ここでいう余剰資産の典型はキャッシュである。企業活動においてフリーキャッシュフローを生み出すのは製品を作り出す設備などの事業資産であって、キャッシュそのものはフリーキャッシュフローを生み出さない。キャッシュは事業資産に投下されなければ意味がないのである。企業が過剰な余剰資金を持つことは、事業への再投資の仕方がわかっていない無能な経営者が経営していると言っているようなものなのである。このことは経営者を変えればその余剰資産をさらにうまく再投資して株主価値を高められる可能性があることを意味するので、M&Aのターゲットになりやすい。




【目次】

第1部 原則編
第2部 個別取引編
第3部 会計ビッグバン編
第4部 分析編

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今日は終戦記念日。昨日は『日本の一番長い日』の映画を視聴したので、その感想でも書こうかと思ったのだが、何となく気分が乗らない。そこで、最近、特に目まぐるしく動く世界情勢について、自分なりの観測記録を留めておきたいと考えた。理由は2つ。1つ目は、世界情勢について、どこかのタイミングで書きたいと思っていたのだが、書こう書こうと思う矢先に、新たな事件が勃発したりして、なかなか踏ん切りがつかなかった。そこで、8月15日という日を一つの区切りとしてはどうかと考えたため。もう1つの理由は、現在の世界情勢を見ていると、本当に戦争が起こりかねないのではないかという危機感を私自身が抱いているため。そこで、平和を願うべき今日という日にエントリーしたいと考えたのだ。

以下、項目ごとに私が気になっている点を列挙していく。込み入った世界情勢なので、私自身の勘違いなどが含まれているかもしれないが、そこはご容赦いただきたい。あくまでも個人的な備忘なので。

・最近は、組織的な影響力は少しずつ衰えてきているようにも感じるイスラム国。一方で、イスラム国に触発されたテロの頻発が気になるところ。組織・集団として固まってくれている方が、殲滅は容易なのであろうが、住民にまぎれ、散発的にテロ行為を繰り返されてしまうと、大国は太刀打ちできない。ベトナム戦争のゲリラ戦法を思い出すが、果たして解決策はあるのだろうか。私は貧困が大きな原因だと考えていたのだが、日本人も巻き込まれたバングラデシュのテロは、きちんとした教育を受けた富裕層の若者が巻き起こしている。貧困をなくすことも一つの手段だとは思うのだが、それだけでは足りないようだ。

・アメリカの大統領選挙の行く末が気になる。万が一、トランプ氏が米国大統領になったりしたら、本当に戦争の危機が芽生えるのではなかろうか。日本では沖縄の基地問題が取りざたされているが、そもそも米軍が引き揚げてしまうということにもなりかねない。そうなれば、中国からの圧力はさらに高まるであろう。また、トランプ氏の不用意な発言が、メキシコやイスラームの人々からの反発を受けており、このようなちょっとした反発が、将来的にはテロなどにつながっていく可能性があるのではないか。

・アメリカに関しては、黒人と白人の対立も気になるところ。これはアメリカが抱える根の深い問題であり、今まで表面的に取り繕ってきていたものが、一気に噴出している感がある。人間というものは、根本的には自分を優位に見せたい、自分が優位だと感じたい生き物であり、どこかに差別意識というものを隠し持っているように感じる。それを民度を上げて良識を養うことで払拭してきたのだが、先に述べたトランプ氏が民度を下げるような発言を繰り返していることもあり、本音を言っていいんだという風潮が高まってきているように感じる。

・イギリスのブレグジットの結果には驚いた。まさか本当にEUを離脱するとは思ってもみなかった。少し前に起こったスコットランドの離脱問題では、混沌とした時代に一体となる重要性を再確認したのではなかったか。このような重要事項をわざわざ国民投票を実施して決めてしまった功罪は大きいと思う。さらには、ブレグジットを後悔している国民が多いというのもお粗末。これは連合王国だけの問題ではなく、EU全体の連帯感の問題にもつながる大きな引き金だと感じた。

・中国の南シナ海問題も深刻。国際仲裁裁判所の決定が出たにも関わらず、示威的な行動を繰り返す中国。米国が世界の警察から降りようと弱気になっているところへ漬け込んだ軍事的な行動とも取れるし、南シナ海のエネルギー資源確保のためともとれる。いや、その両方であろうか。また、共産党が得意な国民の不満を外へ向けようという作戦の一環かもしれない。少し前までは日本を仮想敵国として反日感情をあおっていればよかったのだが、日本への観光客が増え、思っていたほど悪い国ではないということが分かってきた。そこで別のターゲットが必要になってきたということではないか。また、習近平は陸軍に対しての粛清を加速させるため、海軍を優遇しているという話も聞いたことがある。南シナ海問題は、その海軍に活躍の場を与えるものだという見方もあるらしい。

・シリア内戦は米露の代理戦争であり、そこにイスラエルやサウジアラビアといった親米派と、イランや中国といったロシア派がくっついており、事態を複雑化させている。アサド政権が弱体化していることが、イスラム国の台頭を許しているのは周知の事実であるし、結局、一番被害をうけているのはシリアの国民たち。しかしながら、大国が後ろに控えているだけに、落としどころが見えない。以前であれば、国を2つに割るという方法が取られたのかもしれないが、人為的な国の分離ほど、国民を不幸にすることはない。

・トルコのロシア機撃墜は、本当に驚いた。あわや戦争かとも思ってしまったが、トルコがロシアに謝罪したことで、一応の事態収束に至ったことは、久しぶりによいニュースだった気がする。オスマン帝国VSロシア帝国という、歴史的なしがらみもあり、表面的にだけ仲良くしている感はぬぐえないので、この2つの大国の行動には要注意である。特にトルコに関しては、失敗したとはいえクーデターが発生する不安定な状況。エルドアン大統領、プーチン大統領とも、ワンマンであるがゆえ、悪い方向への決断も速そうなところが不気味である。

・最近はあまり聞かれなくなったがサウジアラビアとイランの対立も根深いものがある。アメリカがシェール革命により産油国となり中東に対するコントロールを緩めていること、またオバマ大統領の在任中に歴史に名を残すようなことをしたいという自己顕示欲からイランとの雪解けを狙っていることも、サウジアラビアの不満を駆り立てているであろう。そのサウジアラビアは原油価格の下落で国家政策の見直しを迫られており、ムハンマド・ビン・サルマン(MbS)副皇太子が石油政策や経済政策に関する権限を集中させている。カリスマ的存在が登場すると、トルコやロシアのような過激な行動に出ないとも限らない。ちなみに、サウジアラビアはスンニ派、イランはシーア派であり、イスラームの派閥間の確執も忘れてはならないポイントである。

・BRICsと呼ばれた新興国の雄たちの経済低迷も気になるところ。ブラジルはなんとかオリンピックを成功させたものの、直接的な景気回復にはつながっていないような印象を受ける。また、中国も発表するたびに成長率が落ちているし、設備の過剰、人件費高騰など、以前は成長のドライブだったものが、反転して足を引っ張る要素に変わってきている。不良債権問題なども、表には出てこないがかなり深刻なのではなかろうか。ロシアも原油価格が戻らないと苦しいであろう。元気がよいのはインドくらい。複雑な税制を改めようという動きもあったりして、期待が持てる存在。リーマンショックの際に世界経済を中国が支えたように、今の先行き不透明な状況を、牽引してもらいたいものである。

・最後に一番怖いのが北朝鮮の存在。意味不明なミサイル発射は、国内の権力闘争の流れ弾なのであろうか。核開発がどこまで進んでいるのか不明だが、テロリストに核兵器を横流しするようなことも将来的には出てきそうで、危なっかしくてしかたがない。また、北朝鮮のミサイルを契機として、地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD=サード)の韓国への配備が決まり、これが中国と韓国との関係を悪化させている。

『外資系金融のExcel作成術−表の見せ方&財務モデルの組み方』 >慎泰俊/東洋経済新報社

4月から工場で原価計算の仕事を始めたのだが、実際の会計的な計算そのものは、大半がシステムが自動的に計算してくれる。人間が行わなければならないのは、原価計算というよりもむしろ原価管理。その最たるものが予算策定である。製品の販売数量予想、材料比率、配賦率などなど、さまざまなパラメーターが変化し、予算数値を構成していく。

この風景、どこかで見たことがあるなと思い出したのが、本書だ。エクセルを駆使した「財務モデル」を組み上げ、パラメーターを変えることで様々なシュミレーションを可能とするテクニック。外資系の金融業界では常識的に使われているようだが、筆者曰く、まだ一般的ではないとのこと。実は、本書を読んだ当初は、どちらかというと前半部分のエクセルのショートカットや、表のデザインを中心に読み込んでいて、財務モデルのほうは読み飛ばしていたのだ。

使用している関数は、SUMIFやVLOOKUPなど、実際に仕事で使用しておりなじみ深いものばかり。計算式そのものはさほど複雑ではないのだが、表のロジック、論理構成をしっかりと構築することで、様々なシュミレーションに耐えうるものに仕上がっている。興味深かったのは、世界共通のフォントカラーについてのルールで、インプット値は「青」、数式は「黒」、他からのリンクは「緑」とするらしい。こんなルールは本書で初めて知った。

1点だけ残念だったのが、表の数式についての詳しい説明がなかったこと。実際、本書を見ながらエクセルを入力し、モデルを組み上げていったのだが、途中でどうしても、テキストの数値が導き出せない箇所が出てきてしまった。ふたを開けてみれば、本書はモデルの組み方を教えているだけであり、その数式がたとえ間違っていようと、考え方さえ習得できればさほど大きな問題ではなかったのだが、何とかまったく同じ表を作ろうと思い、1時間以上も無駄にしてしまった。出版社のサイトからエクセルのスプレッドシートがダウンロードできるようになっているのだが、基礎データのみに限定されている。どうせなら数式入りの完成版もダウンロードできるようにしてもらいたかった。

最後に、良いモデルを作るための5つのポイントを引用しておきたい。

1)1行1計算ステップ。電卓片手にレビューできるモデルが望ましい。

2)字色のルールを守る。インプットは青字、数式は黒字、リンクは緑。

3)シンプルな数式を使う。慣れてきた中級者は数式を作りごみがち。計算ステップをきちんと分解して、誰もが使えるモデルを作ること。

4)数式の中にベタ打ちを入れない。誤って将来期間に渡ってコピー&ペーストしても気づきにくい。

5)必要以上にブレークダウンを作らない。モデルを作りこみ時間とインプットの妥当性を検証する時間配分を適正なものにすること。情報を付け足すのは時間があればできるが、要素を絞り込みためにはその事業に対する理解と抽象的な思考能力、ディテールにこだわりすぎない勇気が必要。




【目次】

第1部 基礎編
第1章 見やすいExcelの表を作る
第2章 Excelの作業スピードを3倍にする

第2部 モデル編
第3章 初級者のためのモデル作成入門
第4章 本格的に財務モデルを組む
第5章 財務モデルを使った分析
第6章 モデル上級者になるためのヒント

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◇1477 『松翁論語』 >松下幸之助/PHP

松下幸之助翁の言葉を、江口克彦氏がまとめたもの。本書は、さまざまなシーンにおける至言を集めたものだが、論語調に短い文書をまとめている形式。松下翁の言葉といえば、最近『道をひらく』を続編とともに読了したばかりだが、個人的には『道をひらく』の方が心に沁みるといおうか、噛みしめやすいと感じた。本書は、一つひとつが短いがゆえに、よほど注意して読まないと、大事な言葉であっても、するっとすり抜けていってしまうように感じるのだ。

これは私の読み方が悪いのだろうけれど、やはり言葉というのは前後の文脈があってこそ。世に名言集なるものがたくさん出ているが、個人的にあまり読む気にならないのは、大事な言葉はたくさんの本の中から自分で見つけ出してこそ価値があると思っているから。そういった意味で、松下翁の言葉を手軽に気軽に感じることができるのは本書だが、もっと深く噛みしめたいと思えば、他の著書を当たったほうがよいであろう。本書はむしろ、松下翁の言葉を十分に知り尽くした人が、座右の書として手元に置いておくという使い方がよいのであろう。

いくつか気になる言葉はあったのだが、上述のような感想なので、今日はあえて引用はしないでおこう。



【目次】

巻1 事にあたって
巻2 成功は運
巻3 自然の理法
巻4 真の経営
巻5 自分を見つめよ
巻6 何ごとも衆知
巻7 事業は人にある
巻8 一日一日が勉強
巻9 素直な心になれば
巻10 世の中というものは

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◇1476 『外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント』 >山口周/大和書房

会社生活も長くなってくると、いろいろなプロジェクトに参画することが増えてくる。現在は、プロジェクト・マネージャーのサブのような仕事を1つ任されているのだが、何となく行き詰まりを感じて、本書を手にしてみた。どういうきっかけで購入したのかは忘れてしまったが、Amazonで中身も見ずに買ったにしては当たりであった。

一番印象的だったのは、次の記述。要約してみよう。

・「慕われるだけのリーダー」でも、「恐れられるだけのリーダー」でもダメであり、両者を高次元でバランスさせているリーダーこそ、良いリーダーである。リーダーシップとは「嫌われる」ことと表裏一体の関係にある。リーダーとして高いパフォーマンスをあげようとすれば、どこかで周囲から寄せられる「ネガティブな感情」について、受け入れるかどうかはともかく、少なくとも存在を認めた上で無視する一種の「鈍感力」が必要である。

・変革には必ず既得権や既成概念の破壊を伴うため、過去のシステムによって利益を享受していた人を敵に回すことになる。嫌われることを恐れていたら、変革の主導などできない。敵がいないリーダーなど有り得ないのだ。むしろ、非難されるということは、既得権益者の急所をついているということ。「スジのよさ」を賞賛されているようなものであり、しかも彼らはそれを暗示してしまっていることに気づいていない。この情報格差はぜひとも活用すべき。


組織に身を置いていると、嫌われたくないと思うのが心情である。それを「嫌われても仕方がない」でもなく、「嫌われて当然」とまで割り切れるかどうか。むしろ「嫌われなければ成就できない」とまで達観できるかどうか。

これ以外にも、いろいろと示唆に富む内容だったので、長くなってしまうが、ポイントを要約して引用。

・プロジェクトの成否の半分は「人選」できまる。「まず人選ありき(ファースト・フー)」。適材をバスに乗せ、適所に座らせ、「不適材」をバスから降ろす。そうすればおのずとバスの行き先は決まります。by ジェームズ・C・コリンズ

・プロジェクトの目標には、合理的計算型(数値目標など)、ビジョン型(人類を月に送り込むなど)、ランダム試行型(とにかく楽しもうなど)の3タイプに分かれるが、強い組織は3つのパターンをうまく組み合わせている。

・忙しいと言いつつ、大した成果を挙げられない人は、些末な事象に自分の時間を使いすぎている。

・東海道新幹線の開発は、安全性を高めるため、徹底して「枯れた技術」のみを用いた。プロジェクトデザインにおいて、排除できるリスクについてはできる限り排除する。

・リソースは100%ギリギリではなく、できれば70%くらいの稼働率で回る程度に確保できるのが理想的。

・遊軍も大事。仕事がない時もあるが、いずれやってくる修羅場のために、どうどうとのんびりしていればよい。

・初めてのメンバーとは面談する。これまでにどんな仕事をしてきたのかを一緒に棚卸し、「どんなタスクを楽しんでやれたか」「苦しかったのは何か」といった気持ちを語ってもらい、その人の「仕事への向き合い方を知る」。

・新しいメンバーには「試験的なタスクを任せる」という方法もある。

・優秀なメンバーとそれほどでもないメンバーのアサインメントについて。優秀なメンバーには「難しいワークモジュール」ではなく、「簡単なモジュール」をアサインする。優秀なメンバーに難しいモジュールをアサインすると、難しいものも簡単なものも、両方うまくいかないという二重衝突事故が発生する。簡単なモジュールは優秀なメンバーに任せてしまい、難しいモジュールにはプロジェクトマネージャー自らがハンズオンで入り込む。それほどでもないメンバーは難しいモジュールのサポートに添える。

・プロジェクトオーナーに対しては、「期間」「リソース」「成果」の3つの期待値をコントロールして(低めに)伝える。また「すべてのモジュールが成功することはない」ということを、あらかじめプロジェクトオーナーに伝えておく。

・初期段階で低めの期待値をプロジェクトオーナーに伝えると、高い期待値を要求される場合がある。しかし、低めから高めに「譲歩」することで、プロジェクトオーナーに「貸し」を作ることができる。人間には「返報性」という心理的な影響が働くため、このタイミングでのプロマネ側の譲歩が、将来的なオーナー側の譲歩につながるのだ。

・プロジェクト関係の裏マップを作っておく。プロジェクトに賛成の立場の人と反対の立場の人とを、そのポジションも含めて明確にしておく。若いメンバーの中には、こういった力学に無頓着な者がいるが、そういった若手に対して、世の中は世知辛く、「正しいことは皆から賛成されるわけではないのだ」ということを、学んでもらう。また、裏マップを作ることは、組織認識力というコンピテンシー(政治力学を見抜く力、利害関係者を整理する力)につながり、プロジェクトを効率よく進めるための力となる。

・最初のミーティングで、期待値としての進捗を上回ると、その後のプロジェクトを自分でコントロールできるようになる(任せてもらえる)。一方で、期待値を下回ると、マイクロマネジメントなどが始まってしまい、自己効力感が失われてしまう。だからこそ、低めの期待値を握っておくことが重要なのだ。

・「メンバーの判断能力が低い」「指示通りに動かない」などと、メンバーの力量不足を嘆くリーダーがいるが、その嘆きの半分以上はリーダーの力量の問題。判断能力が低いのは、判断の立脚点となるプロジェクトの目的や優先順位をリーダーが明確に伝えていないから。指示通りに動かないのは、最終目的がぼやけていて、個別の指示を文脈の中で意味づけることができないため。

・プロジェクトの目的をメンバーに浸透させるのは、プロジェクトの初期段階におけるもっとも重要なリーダーの仕事のひとつ。重要なのは、思考プロセスの中で、プロジェクトの目的に立ち返って考えるという行為を繰り返させることで、一種の判断基準になるように仕向けていくこと。部下から質問が来たとき、常にプロジェクトの目的に立ち返らせる質問を返すことで、メンバーは判断に迷う際にいつもプロジェクトの目的に立ち返るようになる。

・ある敏腕プロジェクトリーダーは、「プロジェクトの意義? 1日20回くらい語ってるかなぁ」とこともなげに言っていた。

・プロジェクトチームの士気を高めるための要素の1つが「期待役割の明確化」。「あなたにはこれをやって欲しい。これはとても大事な仕事だから頼むよ」と任せる。

・プロジェクトリーダーの最も重要な責務のひとつが「関係者の不安を解きほぐす」こと。不安を感じさせないための最大のポイントは、「不安を共有している」と相手が思っていること。プロジェクトオーナーは自分が不安に思っていることをストレートに言うことは少なく、報告の頻度を上げたり、マイクロマネジメントに走ったりするなど、別の行動に表すことが多い。オーナーなどに対して、「あなたが不安に感じていることを、私は知っていますよ」と伝えることが大切。

・チーム形成のプロセス(タックマンモデル):(1)フォーミング(形成期)メンバーが決まり、目標や課題を共有するがお互いのことはよくわからない。(2)ストーミング(混乱期)アプローチや役割を模索するが、メンバー間で価値観や優先順位の違いがぶつかり合う。(3)ノーミング(規範確立期)チームとしての行動規範や役割分担が形成される。(4)パフォーミング(活動期)チームとして機能し、成果が生み出される。

・ストーミング期を乗り切らないと、ノーミング期は生まれない。ストーミング期は、状況としては好ましくないが、ここを避けていると本当のチームは生まれない。ストーミング期を早期に乗り切るには、リーダーによるチーム憲章の宣言が有効。チーム憲章とは、そのチームにおける基本ルール集のこと。ここで、「何を言っても許される」ことを保証し、できるだけ短期間で、長く一緒に働いているような関係を作ってもらうことが重要になる。

・メンバー同士の「横のコミュニケーション」が活発化されると、チームの自律性はより高まる。情報流通をリーダーに頼っていると、メンバーの自律的な動きは阻害され、危機にスピーディに対応することができなくなる。

・リーダーがすべての意思決定を行う、というのは一種の幻想でしかない。そのような組織モデルは有効でも健全でもなく、美しくもない。危機に対して本当の意味で対応力のある、しなやかでしたたかで速いチームを作ろうとすれば、自律性は欠かすことができない要素。

・プロジェクトオーナーが複数いる場合、オーナー一人ひとりと個別に会うことはできるだけ避ける。複数のオーナーがいる場合、要件や仮説がそれぞれで異なることがしばしば起きるから。もしオーナー同士の利害関係に摩擦が生じてしまったら、リーダーがそれを調整するのは難しい。それぞれの意見を聞いて対立点をまとめた後、オーナーが一堂に会する場を設定する。そこでは、空気に流されてなあなあの結論を飲み込んではいけない。リーダーは融通の利かないコンピューターのように振る舞わなければ、調整コストをオーナー同士からリーダーに移すだけになってしまう。勝者の論が一つ残るまで待つ、お互いの矛盾をより高次元で解決する別の解に全員が納得するまで待つ。

・メンバーは、リーダーが考える以上に、自分の懸念や心配事をリーダーに相談することを忌避しようとする傾向を持っている。

・定例会議では、やったことではなく、「その時点での結論」を出す。また、「やったことから何がわかったか?」「その結果、アクションはどう変わりそうか」も報告する。

・組織における意思決定のクオリティは、その意思決定に関わる人たちからどれだけ反対意見や違うものの見方を引き出せるかによって大きく左右される。

・プロジェクトにおいて、何かおかしいという違和感を感じたときは、早めにメンバーと共有する。微妙な違和感は、何か大きな火種が起こっていることの前兆であることが多い。

・メンバーの表情をよく見る。ミーティングでは、資料ではなくメンバーの顔を見る。

・必要なときには、自らの考え方が誤っていたことを認め、変化を受け入れるのがひとかどの人物。メンバーはリーダーの仮説や方針、アプローチが誤っていたという事実そのものよりも、その状況に対して、どのように対応したかという事実によって、リーダーの「格」を見ている。真に強いプロジェクトマネージャーは、恥ずかしいといった思いに屈せず、常に事実を直視する。

・マネージャーの仕事をひとことで言うと「資源配分」。プロジェクトにおける意思決定には必ず「時間」「コスト」「品質」 という3要素のトレードオフがつきまとう。重要なのは状況が変わったとき、「トレードオフを即座に提案する」こと。例えば、スコープを拡大したいという要求を受けた際には「終了時期を2か月後倒しにしてください」「メンバーを2名追加してください。具体的にはxxさんとさんをください」など。オーナー側が、スコープ拡大という「引け目」を感じているときに、タイミングよく駆け引きするのが重要。

・メンバーへのフィードバックは「その場で」が基本。自分のやった行動と結果のフィードバックは時間軸が短ければ短いほどいい。常に自分の能力より少し上の課題を設定し、それに挑戦し、結果をチェックして次の課題を設定する。こういった流れを1万時間繰り返すことで、初めてプロとして食える水準の能力が鍛えられる。

・プロジェクトメンバーの力量を100%以上に引き出すためには、「動機付け」と「権限委譲」が必要になる。

・メンバーには「行動」ではなく「目的」を伝える。力量不足だと思われるメンバーには、目的と行動を一緒に伝える。

・プロジェクトマネジメントにおいては、スタート時とクロージング時が最も難しい。マイクロマネジメントは基本的に厳禁だが、クロージング時だけは、すべてのコントロールをメンバーから取り上げ、リーダー自らがハンズオンで取り組む。

・リーダーは「こうあるべき」というビーイングのフィードバックではなく、「次はこうするといいよ」という具体的な行動の提案を行うべき。具体的な行動についてのフィードバックができないということは、リーダーに「そもそも力量がない」か「力量があっても、それを人に伝えられるような形式知として言語化できない」ということ。

・フォロワーはリーダーに対して高いレベルの一貫性を求める。一貫性のタイプは次の3つに整理できる。(1)時間的一貫性:同じ人に対して、その時々で態度を変えない。(2)関係的一貫性:対人関係において一貫してフェアな姿勢を保つ。上司部下との垂直的関係と、同僚のAさんBさんなど水平的関係の2種類を意識する。(3)状況的一貫性:通常の状況と緊急事態やプレッシャーのきつい状況において、人との接し方や行動スタイルを変えない。

・「忙しい現代人に本当に必要なのは、知識やスキルを積み込むためのMBAやブート・キャンプではなく、自分を内省する経験だ」 by ヘンリー・ミンツバーグ

・リーダーの仕事は「目的を定めること」。その実現はできる限りメンバーに任せる。目的を決めることと手段を決めることを混同してはならない。

・米国の司法の仕組みは「犯人探し」よりも「原因究明」に軸足をおいている。人を責めるのではなく、なぜこのようなことが起こったのかを徹底的に究明する。

・トラブルが起こって思わずメンバーを叱責しそうになったとき「ああ、今まさに俺の脳は迂回プログラムに乗っ取られつつあるなあ」と自分を第三者の視点から客観視してみる。そうすることで、不思議と落ち着きを取り戻すことができる。迂回プログラムについては『EQこころの知能指数』ダニエル・ゴールドマンを参照。

・大きな失敗に直面したときのリーダーの言葉。「こんなときに一番大事なことって、なんだかわかるか? 笑顔だよ。笑顔を忘れるな。みんな、状況はこの通りだ。起きちゃったことは仕方がない。どうすればこの難局を一番鮮やかに解決できるか、皆で知恵を出して欲しい!」

・本当に自分を助けてくれるのは「どの業種であっても評価されるスキル」だけ。論理思考やファシリテーション、プレゼンテーションといったスキル。プロジェクトマネジメントもこのスキルに該当するが、前者と異なるのは、「個人として成果を出すためのスキル」ではなく、「組織として成果を出すためのスキル」であるという点。多くの人はキャリアのどこかの段階で、個人として成果を出す責任から組織として成果を出す責任へとシフトする。組織として成果を出す段階にきているにも関わらず、論理思考やプレゼンテーションといった個人技を見せたいがために、部下の仕事を取り上げていると、残念なマネージャーになってしまう。




【目次】

第1章 プロジェクトは始まる前にすべてが決まる
第2章 プロジェクト序盤に注意すべきこと
第3章 プロジェクトをうまく「着陸」させる
第4章 計画を成功に導くリーダーシップ

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◇1475 『NEW出口現代文講義の実況中継(3)』 >出口汪/語学春秋社

これまた深い内容。特に面白いと感じたのは最終章の日本が西洋化を進めていく過程。たまたま先日読んだ『ポスト資本主義社会』の記述とつながる部分があり、より一層興味深かった。日本が植民地化されなかったのは急激な西洋化のおかげである反面、今の日本が苦しんでいるのも、その副作用によるものだということであろうか。

・文章を読むときは線を引きながら読む。人間の目や頭は、線を引いておかないと活字が頭に残ってこない。重要だと思ったところに線を引くことによって、そこで目が止まる、頭が止まる。そうすると、その話が頭に残っていく。同時に、現代文では自分の頭を信用してはいけない。線を引き、証拠を残して読んでいくことで、回答に迷った時などは、線を引いた箇所を中心に読み返せばよい。

・近代を象徴するものとして「自我」がある。「近代的自我」という言葉を使うが、近代以前には、我々は常に集団の中で自分というものをとらえていた。集団と切り離して自己というものをとらえたことがなかった。例えば、家のため、主君のため、など。一人の人間というのは、家の一部であり、藩など一つの国の一部として埋没していた。だから家を残すためには個人が死んでも仕方がないという場合もあった。これが封建時代である。これに対して近代になると、家、国、藩といった集団から自分を切り離そうとした。そういうふうにして生じた一人の個人としての自分という意識を「自我」という。我々は当たり前と思っている自我という概念は、封建時代にはなかったもの。

・近代の大きな特色は、一つの普遍的な価値観ですべてのものをとらえていったこと。近代以前は、日本に武士道があり、西洋には騎士道があったご、これらは全く別個の価値観。このようにいろいろな国に、それぞれの価値観が存立していた。しかし次の時代は、「近代イコール西洋」となった。つまり西洋の価値観を武力侵攻とあいまって世界中に押し付けていったのが近代。このときの根本にある価値観が「生産性」 たくさんのものを生み出すことができたら、人々は貧困から解放され幸せになると考えた。よって、多くのものを生み出す国々を先進国と呼び、逆のほうを後進国と規定した。一つの物差しですべての国や価値を推し量っていたのだ。

・「すべてのクレタ島人は嘘つきだ、と或るクレタ島人が言った」 これは「自己矛盾」の例としてよく使われる。発話者のクレタ島人が嘘つきでないなら陳述は誤りとなり、逆に嘘つきなら陳述もまた嘘となり、いずれの場合にも矛盾するのだ。

・文化論では、日本文化と西洋文化の対比に注目する。文明論では、現代と過去の文明状況の相違・対比に注目する。

・日本では家の中全部を「うち」と呼ぶ。よって、いったん家に上がると、障子や襖など鍵のかからないもので部屋を仕切る。また、家の外と内とを、靴を脱ぐという行為によって截然区別する。一方、西洋では個々人の部屋に鍵がかかる。これは個人の部屋を出たらそこは公の場だということをも意味している。だから家の外と内で靴を脱いだり履いたりしないし、部屋の外でもきちんとした格好をする。日本の旅館では、旅館内は浴衣姿が許されるが、西洋のホテルのレストランでは正装が求められるのもこの違いからである。また、西洋では自分の個室が家、一歩出れば個人と個人の関係という概念が強いため、距てのある人間同士がうまくやっていこうという社交術や、外に対して論理的に説明する能力が発達した。逆に日本は、外に対して社交しないので、社交術は不要、身内のあうんの呼吸や感覚的な言語が発達した。

・大意=荒筋(骨をすべて拾い、全体をそのまま縮める)。要旨(主旨・論旨)=筆者の最終的な主張。要約をまとめよ=整理せよということ。該当箇所を集めてきていったんバラし、それを論理の順番に組み立てなおすこと。

・記述式の問題は、まず、「設問要求を正しくつかむ」。そのうえで、(1)文脈を正確につかみ、(2)文中に根拠を求め、(3)ポイントを押さえて表現する。何となく文章を読み、場当たり的に答えるのではなく、こまかさずに「文章を正確に分析する訓練」をきちんとやっていくこと。慣れないうちは辛いかもしれないが、それだけ今までいい加減にやってきたということ。ごく当たり前に、こういった手順を踏むことができるようになれば、びっくりするほどの成果があがる。

・夏目漱石はイギリスに留学し、西洋が理解できないとノイローゼになった。一方、森鴎外は「あらゆる思想をただ言葉だけつかむやり方」で西洋思想を取り入れていった。自分のとって都合のいい思想を言葉の次元でつかみ取るため。彼にとっては、その人の思想や人間性はどうでもよく、どんな思想家にも共鳴しなかった。これは鴎外の頭脳がコンピューターのようだったから。これは漱石が民間人であるのに対して、鴎外が官僚だったことも一因となっている。鴎外の頭の中では、国を背負っているという意識、植民地化されることへの危機意識が非常に強かった。自分個人よりも国が重要だった。鴎外というものすごいコンピューターのおかげで、日本は瞬く間に西洋を消化し、追いついていった。これにより我々は今、植民地化されずにこうしていられる。裏を返せば、我々の近代化がいかに表面的であったかということも言える。

・ヨーロッパの大学は古くから田舎にある。これは、過去の文化遺産を検討する場だから。これまで世界中がヨーロッパ文化で満たされていたから、ヨーロッパの国々は、どこか別の国の文化を学ぶ必要がなかった。よって、自分たちが築き上げた文化、過去の遺産を理解して、そこからさらに発展させればよかった。一方、日本の大学は都会にある。これはわれわれの大学の起源が、外国の思想や技術を翻訳して理解しすることを目的とした翻訳・外国語学校だったから。いかに自分の古い文化を捨てて、新しい西洋の文化を取り入れるかが緊急の課題である「後進型」だったから。

・日本のような翻訳を中心とした大学は世界中でも稀な存在。アフリカ、インド、中国といった国の大学は翻訳が中心ではなく、自国の言葉を捨てて英語で学ぶ。英語を学び、英語で西洋の思想を理解しようとする「完全後進型」。これに対して日本は、自分たちの言葉や文化を捨てなかった。西洋のものをいったん日本語に置き換えて、そして日本語で理解した。日本は、模倣はしたが、それは自分たちの衰えた文化を再構築し甦らせるためにやっていた。必要なところだけ、ヨーロッパのいいところだけを取り入れていった。

・日本人が英語を話せないのは、日本語で学ぶことができるから。完全後進型の国々では、まず英語を学習し、それから西洋を理解しなければならなかった。いやでも英語を学ばざるを得なかったのだ。しかしこれは、英語をマスターし、西洋を理解したのは一部の知識人だけであり、大多数の国民は置き去りにされてしまったということでもある。だから、西洋の列強にあっという間につぶされていき、植民地化されてしまった。

・日本では、当時の古文では西洋の新しい文化を表現できなかったため、日本語のほうを変えてしまった。なぜこのようなことができたのかというと、日本は昔から強靭な摂取能力を持っていたから。中国の漢字を平仮名や片仮名にしたり、中国語を返り点をつけて日本語化したり。また、西洋の抽象的な概念は、漢文がもつ表現能力を用いて補完していった。こうして、漢語を使い、あるいは片仮名を使って、西洋文化の内容を、全部日本語に取り入れてしまったのだ。このように、そのときどきで外国のいろいろな文化を日本が飲み込んで、自国の言葉にしていった。その痕跡が、今の日本語に残っており、これほど複雑な表記をもたらしているのだ。

・日本の大学とは、西洋の文化を翻訳する場だった。よって、大学の入試では「翻訳能力」を試せばよかった。つまり、小中学生や高校生が、英語教育の場で鍛えられてきたのは、翻訳能力だったのだ。また、小中学校や高校では、自分でものを考えることは教えてくれない。徹底して暗記の訓練を受ける。これは西洋が考え出したものをいかに早く覚えるかが重視された名残なのだ。しかしながら、模倣の時代は終わった。これからは自分の頭でものを考え、創造する人間が重視される。翻訳能力よりも会話能力のほうに比重が移っていく。古い自国文化を理解しながら、自分たちが新たな面を創造していくという時代に入っていく。


余談だが、本書をどのカテゴリーに入れようかと悩んだ。「教養」という項目でもあればよかったのだが。最初は日本語も語学の一種と考え「語学」のカテゴリーに入れようかと思ったのだが、本書はそんな域を超えていると感じた。結論として、適切かどうかは自身がないが「哲学」とした。それほど、私にとってはいろいろ考えさせられる本であったのだ。



【目次】

第13回 記述式問題の解法(1)
第14回 記述式問題の解法(2)
第15回 記述式問題の解法(3)
第16回 私大型記述問題
第17回 総合問題(1)
第18回 総合問題(2)

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◇1474 『NEW出口現代文講義の実況中継(2)』 >出口汪/語学春秋社

出口現代文講義の第二弾。三冊まとめて感想を書こうかと思ったのだが、1冊1冊の内容が濃いので、あえて分割。本書では、学問とはそもそも何ぞや、言語と文化の関係と抽象化・一般化のプロセスの違い、活字文化の危機など、非常に奥深い内容を取り扱っている。

若く柔軟な頭でこのような理論に触れることのできる今の高校生がうらやましい。しかしながら、意識して読まないと、こういった重要なことというのは頭を素通りしてしまうもの。果たして私自身が、高校生の頃にこんな話を聞いて、きちんと受け止めることができたであろうか??

・「在るがままに肯定する」 森鴎外の『舞姫』という作品を、あるがままにつかむためには、他の森鴎外の作品を全部読む。そして、他の作品と『舞姫』はどこが違うかを考える。こうしないと『舞姫』をあるがままにつかんだことにはならない。「あるがままにつかむ」というのは非常に大変な行為であり、他のものも全部きちんと知っていないと、その作品とどう違うのかが明瞭かできない。こうした一連の作業を行うのが「学問」である。

・学問をするためには、ある対象をまず在るがままの形でつかまえなくてはならない。そのためにはとりあえず、自分を捨てること。自分はこう思うというのはいったんおいておき、客観的にあるがままに文章をきちんとつかむ。まず、自分を捨てて客観的にものを見ないと、誤読につながる。そうして、在るがままにきちんと対象をつかんだうえで、それをどう評価するか、というのが「学問」である。本当の個性、本当の創造性というのは、ものを客観的にきちんとつかめて、その上に立って、自分の自由な考えを築く力である。

・入試問題というのは高校生が大学に入って、「学問」をきちんとできる能力があるかどうかを見るもの。よって、現代文だけ点数が低い人は、ものごとを客観的に見ずに、すぐに自分の考えを前面に出す人。現代文の成績が悪い人は、力はあるが、姿勢が間違っている。

・分からない箇所をどうやって推測するか、が根本的な国語力。分からない言葉を、知っているところから推測している力が「文脈力」であり、これを身につけていけば、国語力だけでなく、英語などの実力も底上げされていく。この力は意識的に努力していかないと身につかない。

・タスマニア島人には「ゴムの木」「垣の木」などに対する名称はあるが「木」にあたることばはない。アフリカのズールー族は「赤いウシ」「白いウシ」に対する名前はあるが「ウシ」ということばにあたることばがない。チェロキー族は洗う物の種類に応じて「洗う」ということばが別々にあるが「洗う」ということばはない。

→ われわれならば馬に対して「ウシ」という、目で見た形、あるいは性質でものを区別している。ところが、赤いウシ、白いウシと分けている民族は、色で物事を区別している。そういうものの考え方が、それぞれの民族の言葉に表れている。各国の言葉を分析すれば、その国の文化やものの考え方、感じ方がすべてそこに現れている。

・どんなに映像文化が盛んになっても、活字文化は消してはいけない。人間の深い感情や精神、内面、ものの考え方を表現するときには、言葉を用いざるを得ないから。映像というのは、既に出来上がったものを受動的に一方的に受け取っている。それに対して、活字を読むということは、登場人物の声や肉体まで、一人の人間を自由にイメージできる創造的な、あるいは非常に能動的な行為。

・西洋に追いついたこれからの日本は、自分たちでものを考えて、創り出さなければいけない時代。その時代に、日本の国民が全部、一方的な受動的な思考しかできなくなると大変なこと。映像というのは外面の表現であり、これに慣れてくると日本の文化は深い内面性を喪失した、みかけだけの文化になっていく。これに対しては危機感を持たなければいけない。なぜなら、文化というのはその時代を反映するから。今の時代はいかに速く、いかに簡単にモノや情報をつかめるかを第一に追及している。こうなると映像が便利なのは当然。映画や漫画などああ面白かったで速く簡単に終わるもののほうがもてはやされており、放っておいても映像文化は盛んになる。ところが、活字文化は我々が意図的に守っていかないと消えてしまう。じっくり深く物事を考える活字文化のようなものはどんどん消えていく。




【目次】

第6回 評論問題の解法(1)
第7回 マーク式問題の解法
第8回 評論問題の解法(2)
第9回 小説の読解法(応用篇)
第10回 融合問題の解法
第11回 明治擬古文の解法
第12回 「詩」を含む文章題の解法

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◇1473 『NEW出口現代文講義の実況中継(1)』 >出口汪/語学春秋社

以前、佐藤優さんが大絶賛していた大学受験の参考書。「すべての勉強の基礎になるのは読解力である」として、本書を推薦している。もう少し佐藤さんの紹介分を引用してみよう。「筆者が見るところ、日本語の読解が正解にできない、若手ビジネスパーソンが非常に多い。テキストから自分に都合がいい部分だけを拾う。あるいは理解できる部分と理解できない部分の仕分けをせずに、なんとなくわかったつもりになってしまう」「現代文に関する学習参考書を買い集め、研究してみたが、ほとんどの参考書はビジネスパーソンの仕事に直接役立つわけではなかった。しかし本書は別格だ。この参考書に真剣に取り組めば、仕事で使う文書の読解力が飛躍的に向上する」

私は受験生でもなく、読解力についてもそれなりに自信があったので、まぁ参考程度に読めばいいやと、気軽な気持ちで手に取ってみた。古本屋で、1冊500円という安価で販売されていたのも購入理由のひとつ。受験参考書というのは好みや合う・合わないの問題が大きいので、3冊セットで3000円以上の投資をするのはどうかなと躊躇していたのだ。

結果としては大当たり。「目からウロコ」というと月並みな表現になってしまうが、現代文という受験科目の範囲を超えて、文書に対する考え方を、ガラッと変えてくれるような著書であった。とはいえ、受験勉強をするわけではないので、本来の使い方とは異なるかもしれないが、自分で問題を解くことはせず、とにかく解説を読み込んでいった。

重要だと感じた箇所を下記のとおり、要約しておく。現代文のテキストというよりも、言語学の世界に足を踏み入れているような感じ。取り上げている、例題も言語学に関するものが多くて読み応えがあった。

・現代文は「論理」の強化。センス・感覚ではなく、一貫した論理的方法が必要。論理とは、物事の筋道のこと。読解とは、その筋道をありのまま理解すること。

・現代文によって、言語処理能力を鍛え、論理力を身につけていくことにより、頭脳自体が変化する。論理力は生涯の強力な武器となるのだ。

・われわれは文章を客観的に読んでいるつもりでも、実は読んでいない。光の部分だけを読んで、それをフワフワとしたイメージで何となく繋げて分かった気になっている。そして、そのイメージをもとにして答えてしまっている。

・筆者の言葉は筆者だけのもので、われわれの言葉とは違ったものだ。

・上下運動する球を、両端から糸で引っ張ると、球は止まる。同様に、文章の中で言葉は、無数の糸で引っ張られており、引っ張られて意味が決まる。その働きが、文脈の力というもの。

・読み手は不特定多数の誰か。その不特定多数の読み手は言葉も感覚も、全然違う。だから、自分の意見は、まず「相手には分かってもらえない」というのが評論の前提。自分だけの思いを自分だけの言葉を使って不特定多数の誰かに伝えようとするとき、方法は一つしかない。それが「論理」なのだ。


また、言語論のキモとでもいうべき言語の限界について、非常にわかりやすく説明している。こちらは、重要なので全文引用。

われわれが普段使っている言葉というのは、所詮すべてが「観念」にすぎません。ところが、われわれが伝えたい事柄は具体的なものなのです。だから、それ自体が「一般的・固定的」な観念であることばでもって、「純個別的」な事柄を正確に伝えようとすることは、そもそも不可能なわけです。つまり、「表現する」というそのことの中に、矛盾を含んでいるわけですね。それを筆者は「言葉と事柄との間には距離がある」という言い方をしています。

例をあげましょうか。いま一冊、僕が週刊誌を持っていたとする。「ポスト」でも「現代」でもなんでも結構です。そこでもし、「これはなんですか」と聞かれたとすれば、例えば「ああ、それは週刊なんとかですよ」と答えるでしょう。

実は、これではなにひとつ答えたことになっていないんです。というのは、いま問題にしているのは、僕が持っているその一冊限りの特定の週刊誌でしょう。単に「週刊ポスト」といったら、過去何十年もずっと発行され続けている「週刊ポスト」全部の総称になってしまうんです。かといって、「何月何日発行の第何十号の『週刊ポスト』だ」と言ってもダメなんだ。それでも、やっぱり何十万部と発行しているその号の雑誌全部の総称でしょう。

たった一冊限りのこれを示そうと思ったら、「この『週刊ポスト』」と言うしかないんです。「この」というのはそのもの自体を指しているんです。指をささなきゃダメだということは、結局、言葉ではものごとを示せないということ。これが「言葉の限界」です。こういったことは言語論の前提ですから、まず理解しておいてくださいね。

最後にもう1文を要約して引用。個人的な感想だが、筆者は、この部分が一番言いたかったのではあるまいか。

「愛」「自由」「正義」「祖国」「平和」といった言葉のために死ぬというのは人間だけ。よく「愛のために死ぬ」などというが、実際には愛という「言葉」に酔って死ぬのだ。革命のリーダーなどは、革命・正義といった言葉を使う。よく聞いてもわけが分からない。分からなくてもよく、立派な言葉を叫んでいればよいのだ。そうすると、そのうち、さも自分たちがすごいことをやっている気になる。実態のないものを、さも本当であるかのように幻想を抱かせる力が言葉にはある。人間はそういう言葉のために戦ってきた。そして、そういう言葉を操って、人を扇動して利益を得るのが権力者。権力者に踊らされるのは言葉をむやみに信じてしまう人。われわれは個々の言葉が本当に表しているのは何かということを、これまで以上に確かめなければならない。

追記)Amazonのリンクを貼ろうとしたところ、私が購入したCD付きのものは廃版になっていた。改訂版が出ているようなので、そちらのリンクも貼っておく。



【目次】

講義を始めるにあたって
第1回 入試現代文とは何か?
第2回 論理的読解法(1)
第3回 論理的読解法(2)
第4回 小説の読解法
第5回 随筆の読解法

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◇1472 『ポスト資本主義社会』 >P.F.ドラッカー/ダイヤモンド社

本書もドラッカーのエターナルコレクションの中の一冊。経営書というよりはむしろ、社会情勢を描いた著書である。タイトルからして資本主義社会という名が冠されているのだから、それも当然なのだが。どうも、ドラッカーというと経営学のイメージが強く、エターナルコレクションを読み始めたときは戸惑ってしまった。

ドラッカーの社会情勢に対する洞察が深いのは理解できるが、こちらはできるだけ最新の情報を得ておいた方がよいであろう。もちろん歴史に学ぶ意義は否定はしないが、ドラッカーの描く世界はまだ数十年前のことであり、歴史と呼ぶには新し過ぎる。そう考えると、本書は、私にとっては持て余してしまう存在になってしまった。

本書は、「社会」・「政治」・「知識」と3部構成になっている。社会と政治は他の著書に譲って、ドラッカーらしい「知識」に着目したい。なかなか社会・政治と知識を並列で書く著者はいないであろうから。

印象的だったのは、専門知識それぞれに精通する必要はないが、多様な専門知識を「理解する」能力は必要だという点。私自身、会計を中心に学習をしてきたが、ここからさらにもう一つ専門知識を身につけるのは辛いなぁと感じ始めている。怠けるわけではないが、ドラッカーのこの言葉を見て、救いを感じたのは確か。

また、勉強の仕方、続け方、学び方や、継続学習に必須の規律を伴う訓練に意欲をもつことの大切さを説いている点については、大いに共感した。特に、ピアニストが何か月も飽くことなく音階を練習するように、という比喩は、私自身、アスリートが日々のトレーニングを怠らないように、と例えているものと一致している。つまり、ビジネスパーソンにも日々の訓練が必要なのである。

それでは気になった箇所を要約して引用。

・物をつくったり運んだりする産業ではなく、知識や情報をつくったり運んだりする産業が、経済の中心となった。製薬業が生産しているのは、実は知識である。ピルや軟膏は知識の塊以外の何ものでもない。コンピュータ、半導体、ソフトウェアなど情報処理機器を生産する産業や、電気通信産業が生み出しているのもそうである。映画、テレビ、ビデオなど情報の生産者や流通業者が扱っているのも、そうである。

・いまやあらゆる産業において、労働、土地、資本という伝統的な資源によって生み出される利益は、ますます小さくなっている。富の唯一の、あるいは少なくともその主たる創造者は、情報と知識になっている。

・土地には、それぞれ収穫高の差がある。土地の価格はこの収穫の差によって決まる。しかし知識の経済活動への応用には3つの方法がある。第1に、生産工程、製品、サービスのたえざる向上への知識の応用である。これを最もよく行っている日本ではカイゼンと呼ばれているものである。第2に、知識の展開である。すなわち、まったく新しい異なる生産工程、製品、サービスへの既存の知識の応用である。第3にイノベーションである。

・日本は過去40年間、古い知識の製造業においうても、新しい知識を基盤とする産業においても、優れた業績をあげた。しかし実は、日本の彗星のような台頭は、知識の生産そのものに基盤を置いたものではなかった。むしろ日本の知識の大部分は、技術においても、マネジメントにおいても、日本以外の国、特にアメリカで生み出されたものだった。

・知識の生産性を上げるには。(1)目標を高く。(2)焦点を絞る。(3)変化の機会を体系的にとらえる。(4)長期と短期のバランスを図る。

・優位に立てるか否かは、誰もが手に入れられる知識からどれだけ多くのものを引き出せるかにかかっている。今後、国民経済においても国際経済においても、ますます重要な意味をもつことになる唯一のものが、知識の生産性を上げるためのマネジメントの仕事ぶりである。

・学校は、昔から社会の中心的な機関の一つだった。しかし、それは社会に付属する機関であって、社会を構成する機関ではなかった。学校が相手にしてきたのは、市民権をもたず、責任能力がなく、働いてもいない子供だった。ところが知識社会では、学校は、高等教育をすでに受けている成人のための機関となる。そして、自らの仕事ぶりと成果に責任を負う機関となる。

・西洋は、1500年から1650年の間に世界のリーダーシップを握った。その原因が、印刷本という新しい技術が学校を変えたことにあった。逆に中国やイスラム圏は、印刷本によって学校を変えなかったために衰退し、ついには西洋に屈するにいたった。中国やイスラム圏も印刷機を使った。中国にいたっては、活字印刷ではなかったものの、その何世紀も前から印刷機を使っていた。しかし中国やイスラム圏は、印刷本を学校に取り入れなかった。学ぶことと教えることの道具として印刷本を使うことを認めなかった。イスラムの聖職者たちは、暗記と復唱に固執した。印刷本は権威を脅かすものと見た。印刷本は、独力で読み書きできる能力を与えるものだった。中国の儒者も印刷本を退け、筆写を重視した。印刷本は、書に秀でることが指導的地位に立つ者に必須の要件であるとする中国古来の価値観と相容れなかった。

・まさしく文人の学校こそ、いまからおよそ100年前に、西洋以外で唯一日本だけが国民国家をつくり、経済、技術、政治、軍事などの面で近代化し、しかも完全に日本的でありつづけられるようにした原動力だった。

・印刷本という技術は、それがいかに重要で目立とうとも、教育や学校に関わる変化のうち、最も重要な変化ではなかた。最も重要なのは、教育の役割と機能の見直し、すなわち教育の内容、焦点、目的、価値の見直しだった。技術は重要である。しかしそれは、従来やってきたことをもっとうまくやれるようにしてくれるからではない。何か新しいことをせざるをえなくするからである。

・われわれは、教えを学ぶうえで印刷本を効果的な道具とするための技術、すなわち教科書の発明をコメニウスに負っている。だが、彼にとって教科書は道具にすぎなかった。彼はカリキュラムを一新した。彼のカリキュラムこそ、今日世界中の学校が一般に教育しているものである。彼の目的は、万人の読み書き能力の向上にあった。その動機は宗教的なものだった。カトリックによる弾圧のもとにあって、チェコの同胞たちが『聖書』を独力で読み、かつ学ぶことができるようにすることにあった。

・知識社会における学校は、ちょうどコメニウスが350年前につくった学校が、印刷された教科書を導入する前の学校とまったく違うものとなったように、現在の学校とはまったく違うものとなる。知識社会において、学校に求められる要件は次のとおりである。第1に、読み書きを超える高度の基礎教育を与える。第2に、学習の意欲、特に継続学習の習慣を与える。第3に、すでに高等教育を受けた者、および高等教育を受けられなかった者に門戸を開く。第4に、他の機関と競争し、かつコレボレーションする。企業、政府機関、NPOなどあらゆる組織が、学び教えるための機関とならなければならない。学校は、それらの組織とコラボレーションしなければならない。

・本来教師の果たすべき役割は教えることであって、動機づけし、指示し、激励することである。教師はリーダーとなり、相談相手となるべき者である。明日の学校では、学ぶことについては生徒自身が自らの教師となる。パソコンが道具となる。実際のところ、若いほどパソコンを好み、パソコンによって学ぶことができる。こうして、これまで完全に労働集約的だった小学校さえ、優れて資本集約的となる。

・アメリカの教育は、第一次世界大戦後、あるいは少なくとも第二次世界大戦末には、万人のための基礎教育を実現させたと思われた。そのため、アメリカの学校は優先順位を変えてしまった。学習ではなく社会的な目的が、学校の第一優先順位となった。おそらくそれは、その決定が行われた1950年代、60年代には当然のことだった。・・・われわれの直面していた人種問題の厳しさと広がりからすれば、学校をもって人種の融和の場にせざるをえなかった。黒人問題、さらには奴隷制に対する罪悪感は、150年も前からアメリカにとっての中心的な問題だった。おそらく、これからの50年、100年後においても、アメリカにとっては中心的な問題として残っていく。

・学校の目的は、社会の改革でもなければ社会の改善でもない。個々人の学習である。

・特に知識社会においては、継続学習の方法を身につけておかなければならない。内容そのものよりも継続学習の能力や意欲のほうが大切である。ポスト資本主義社会では、継続学習が欠かせない。学習の習慣が不可欠である。

・新しい技術のおかげで、教師は、型にはまった学習、矯正のための学習、反復的な学習に時間を投入しなくてすむようになる。もちろん教師は、それらの学習を指導する必要がなくなるわけではない。これまで教師は、その大部分の時間をフォローアップに使ってきた。自らの時間を教師としてではなく学習補助者として使ってきた。そのような役割はパソコンが十分こなすことができる。事実、人間よりもうまくこなす。こうして教師は学生一人ひとりの強みを把握し、そこに焦点を合わせさせ、自己実現させるよう指導するための時間をもてるようになる。真に教えるための時間をもつようになる。

・ポスト資本主義社会では、コンピュータ用語でいうところのランダム・アクセスが可能でなければならない。人は人生のどの段階にあろうとも、正規に教育を受け、知識労働への資格を得ることができなければならない。そして社会は、資格さえあれば、年齢に関わりなく、いかなる仕事にも人を受け入れるようにならなければならない。

・知識は通貨のような物的な存在ではない。知識は本やデータバンクやソフトウェアの中にはない。そこにあるのは情報にすぎない。知識は人の中にある。人が教え学ぶものである。人が正しく、あるいは間違って使うものである。それゆえに知識社会への移行とは、人が中心になることにほかならない。したがって知識社会への移行は、知識社会の代表者たる教養ある人間に対し、新しい挑戦、新しい問題、さらにはかつてない新しい課題を提起する。

・知識人は、組織を手段として見る。組織のおかげで、彼ら知識人は彼らのテクネー(技能)、すなわちその専門家された知識を応用することが可能となる。他方、経営管理者は知識を組織の目的を実現するための手段として見る。いずれも正しいが、両社は対照的である。対立的ではない。対極にある。互いが互いを必要とする。研究者は研究管理者を必要とし、研究管理者は研究者を必要とする。両社の均衡が崩れるならば、仕事は行われず、欲求不満が残る。

・テクネーが専門知識となった今日、それは一般知識として位置づけられなければならない。テクネーは教養ある人間たるべき条件の一つとならなければならない。(中略) われわれは多様な専門知識に精通した博学を必要としない。事実、そのような人間は存在しえない。逆に、われわれの知識はますます専門家していく。したがって、われわれが真に必要とするものは多様な専門知識を理解する能力である。そのような能力を持つものが、知識社会における教養ある人間である。

・われわれは専門知識のそれぞれについて精通する必要はないが、それが「何についてのものか」「何をしようとするものか」「中心的な関心事は何か」「中心的な理論は何か」「どのような新しい洞察を与えてくれるか」「それについて知られていないことは何か」「問題や課題は何か」をしらなければならない。

・ただ一つ予言できることがある。それは、これから起こる最大の変化は、知識における変化だということである。すなわち、知識の形態、内容、責任、そして教養ある人間たることの意味の変化である。




【目次】

序章 歴史の転換期
 われわれが経験しつつあるものは何か
 ポスト資本主義社会の姿
 知識社会への移行
 国民国家を超えて
 第三世界の行方
 ポスト資本主義社会における社会、政治、知識

第1部 社会

第1章 資本主義社会から知識社会へ
 何が産業革命をもたらしたか
 技術革新と文明
 知識の意味が変わった
 産業革命
 生産性革命
 テイラーの悲劇
 教育訓練が生産性を爆発的に向上させた
 マネジメント革命
 マネジメントとは何か
 一般知識から専門知識へ
第2章 組織社会の到来
 組織の機能
 企業も病院も組織
 組織の特性
 変革機関としての組織
 組織の論理
 従業員社会
第3章 資本と労働の未来
 資本と労働の役割の変化
 資本家なき資本主義
 コーポレート・ガバナンス
 マネジメントの責任
第4章 生産性
 知識労働とサービス労働の生産性
 チーム
 集中
 仕事の改善
 アウトソーシングの理由
第5章 組織の社会的責任
 ポスト資本主義社会の原則
 社会的責任とは何か
 組織と権力
 責任型組織

第2部 政治

第6章 国民国家からメガステイトへ
 国民国家の誕生
 福祉国家としてのメガステイト
 経済国家としてのメガステイト
 租税国家としてのメガステイト
 冷戦国家の登場
 メガステイトは機能したか
 ばらまき国家という民主主義の否定
 袋小路に入ったメガステイト
第7章 グローバリズム、リージョナリズム、トライバリズム
 ゆるぐ国民国家の基盤
 環境問題、テロ、軍備管理
 新しい現実としてのリージョナリズム
 トライバリズムへの回帰
第8章 政府の再建
 政党の基盤の消失
 反行政の流行
 軍事援助の不毛
 経済政策において廃棄すべきもの
 行うべきこと
第9章 社会セクターによる市民性の回復
 二つの社会的ニーズの高まり
 NPOによる市民性の回復
 コミュニティは欠かせない
 市民としてのボランティア

第3部 知識

第10章 知識の経済学
 知識が主役
 知識の経済学
 知識の生産性
 中央計画と集中化の失敗
 マネジメント上の処方
 結合せよ
第11章 教育の経済学
 一変する学び方と教え方
 高度の基礎教育を与える
 強みに焦点を合わせる
 学校へ戻る
 学校の責任
第12章 教養ある人間
 知識社会の中心は何か
 求心力となるべき存在
 知識社会と組織社会
 教養ある人間の条件
 専門知識を一般知識とする

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◇1471 『影響力の武器−なぜ、人は動かされるのか』 >ロバート・B・チャルディーニ/誠真書房

立ち寄ったコンビニで立ち読み。近所のコンビニは、週刊誌や漫画雑誌がメインなのだが、なぜか『PRESIDNT』が置いてある。ちょっと記憶があいまいなのだが、同誌のビジネス書特集で見かけた記事で紹介されていたのが本書『影響力の武器』である。

刺激的なタイトルに惹かれて購入。海外の著書によくある事例を積み上げていくパターンであり、細かな文字で300ページ超というボリューム。途中、何度か挫折しそうになったが、読書体力をつけなければと、何とか週末を利用して読了した。

せっかく頑張って読んだのだが、個人的には今一つ。その理由は下記のとおり。

・心理学に属する分野だと思うが、自分で積極的には使いたくない。本書の趣旨も、人間心理を悪用してくる人からどうやって自分を守るか、という視点で書かれていると思うのだが、本書を悪用する人が出てきそうであり、読んでいて気分が萎えてきた。

・事例が豊富で分かりやすく、比較的読みやすかったが、もう少しエッセンスを抽出してボリュームを減らしてもよかったのではないか。ただし、それぞれの章末に「まとめ」が付されており、これは読み返すのに便利だと感じた。

人間の心理を活用するためには、次の6つの項目を意識すればよい。逆に言えば、次の6つの項目を意識して身を守ればよい。章末のまとめを引用しようかとも思ったのだが、これもそれなりに長いので、私なりの理解をかなり簡略に要約しておく。

・「返報性」 人は何かをしてもらうと、それに対してお返しをしなければならないという気持ちになる。これを活用し、最初にこちらから簡単な(安価な)プレゼントを贈るなど、相手に恩義を感じさせるような行為を行い、その後、自分が本当にしてもらいたいことをお願いすると、うまくいく確率がアップする。最初に大きな要求を出し、それに対して譲歩するのも、この戦術のバリエーションの一つ。「譲歩」が相手に対するプレゼントに相当し、譲歩された方は、自分の何かしなければならないと感じてしまう。

・「コミットメントと一貫性」 人は、一度自分が決めたことがあると、それがささいなことであっても、一貫性を保とうとしてしまう。コミットメントを伴う決定は、それが間違っている時であっても、人はその決定に固執してしまう。例えば高価な車を値引きして購入の意思決定をさせておき、その後でサービス費用の提案をすると、車を買うという意思決定に固執し、金額的に大きくないサービス費用の提案を安易に受けてしまう傾向がある。

・「社会的証明」 人は意思決定を行うとき、他人はどうしているかを模倣する傾向を持っている。特に、自分が確信を持てないとき、他の人々の行動に注意を向け、それを正しいものとして受け入れようとする。また、自分と似た他者のリードに従う傾向がある。

・「好意」 人は自分が好意を持っている人に対してはイエスと言ってしまう傾向がある。好意を生む一つに身体的魅力があげられる。外見の美しさがハロー効果を生み、才能や知性など他の特性についての評価まで高めてしまう傾向がある。これにより、魅力的な人物からの要求を受け入れてしまう。また、類似性も好意を生み出す。人は自分に似た人を好む傾向がある。この他にも、称賛・お世辞、接触を繰り返すこと、連合・同じ団体に所属することなども好意を生む。

・「権威」 人は権威に対して短絡的に服従してしまう傾向を持つ。権威者に何かを言われると、思考を伴わない形で意思決定してしまう。また、権威は人そのものだけでなく、権威の単なるシンボルに反応してしまう傾向もある。例えば医者の白衣、警官の制服、やり手ビジネスパーソンの高級スーツなど。詐欺師の多くは、このような外見的特徴を作りこんで、人をだましていく。

・「希少性」 人は機会を失いかけると、その機会をより価値のあるものとみなす。この原理を利益のために利用する技術として「数量限定」や「本日限り」など、数量や時間に限りがあることをアピールする。手に入りにくくなるということは、自由を失うという感覚につながり、心理的リアクタンス理論によると、以前よりも自由を欲するという形で自由の喪失に対して反応する。また、従来は希少でなかったものが新たに希少になった場合や、他人と争って求めている場合、その希少性はより高まる傾向にある。ただし、希少性が高まっても、そのモノの持つ機能には何ら変わりがないことを忘れてはいけない。


第1章 影響力の武器
第2章 返報性―昔からある「ギブ・アンド・テイク」だが
第3章 コミットメントと一貫性―心に住む小鬼
第4章 社会的証明―真実は私たちに
第5章 好意―優しさうな顔をした泥棒
第6章 権威―導かれる服従
第7章 希少性―わずかなものについての法則
第8章 手っとり早い影響力―自動化された時代の原始的な承諾

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◇1470 『シンプルな戦略−戦い方のレベルを上げる実践アプローチ』 >山梨広一/東洋経済

『外資系金融のExcel作成術』などの著者としても有名な、慎泰俊氏。たまたま、彼がAmazonで書評を書いているのを見かけて、購入したのが本書。慎泰俊さんがべた褒めしており、久しぶりに何度も繰り返して読むべき本に出会ったとコメントされていた。躊躇なく、購入ボタンを押下。翌日には手元に届く。近くに本屋がないので、最近はもっぱらAmazonを活用。Amazonは以前から使ってはいたのだが、引っ越してからその便利さを痛感・実感している。

さて、さっそく取り出すと、薄いグリーンのきれいな装丁。興奮気味で買った本は、すぐに読み始めるに限る。300ページ程度の本であり、約2日で読了。論理構成がわかりやすく、読みやすかった。

しかしながら、読みやすい本というのは、既知の情報が多い証左でもある。本書も7割は知っている内容、残り3割が初めて知るような内容、といった配分だったように思う。ビジネス書については、たくさん読んできたので、だいたいいつもこのような感覚。最近は、歴史関係の本など、知らない分野の本を多く読むよう意識しているが、未知の内容が5割を超えると、読書は急につらくなる。進みにくくなる。

話があちこちに飛んでしまった。。。肝心の本書の感想だが、慎泰俊さんが絶賛する通り、本書を押さえておけば戦略の基本的な知識は身につけることはできるであろう。網羅的かつ基礎的という意味では素晴らしい。また経営戦略のフレームワークとしては基本中の基本である3C分析などにも、きちんと力を入れて解説しており、基礎をおろそかにしてはいけないという筆者のポリシーを感じる。

私自身にとっては、「境界条件」というのが新しい概念であり、多くの気づきをいただいた。以下、境界条件に関する箇所を中心に、要約して引用。

・境界条件とは、もともと数学や物理の用語だが、コンサルタント業界では、「問題解決の前提条件や許容される解決策の範囲」という意味合いで用いられている。

・戦略策定にあたっては「境界条件を再定義」する必要がある。ここで「再定義」といっているのは、戦略構築に際して必ず満たすべき前提条件を再確認するという意味。戦略構築にあたって、ある境界条件に無意識的に縛られていたり、従来の慣習を踏襲しているだけというケースが少なくない。往々にして、境界条件は戦略の自由度を狭めるように働く。

・第一歩としては、フレームワークを用いて、すべての境界条件を網羅的に書き出してみることが効果的である。

・境界条件抽出のためのフレームワーク
(1)価値観:企業理念、社是、不文律、経営者の意志
(2)より上位の戦略的方向性:長期ビジョン、グループ戦略、全社戦略、中期経営計画
(3)事業モデル:自社が直接行う機能、Buy or Make、取引先、チャネル、事業所立地
(4)事業領域・市場:業種・業態、参入市場、対象顧客
(5)経営資源:資本・資金、人材、事業インフラ、IT、物流等
(6)ビジネスプラクティス:組織体制、役割分担、オペレーション慣行、社内制度、ルール、手続き

・境界条件を変えることで効果的な新しい戦略が生まれることが多い。こうした境界条件は一度明らかにした上で、可能な限り除外すること。人間はどうしても、意識的、無意識的に既存の境界条件に縛られてしまう。だからこそ、努めて境界条件を外すことが必要。

・事例:営業マンはいなくていいと、証券会社の境界条件を変えた松井証券。売り切れがでてもいいと、サプライチェーン戦略の中で割り切りを行ったZARA。


また、最終章の「シンプルな戦略で成功するために求められること」が興味深かったので、こちらはタイトルだけを抜粋。

1.シンプルな戦略に求められる思考
 1-1.論理力、構造化:単なるロジカルを越えて
 1-2.分析力:より深い問題を浮き彫りにする分析力が重要
  分析的に考えるにはWhyとHowを繰り返す
  同じファクトをいかに多面的に見るか
 1-3.洞察力:ユニークな洞察こそがユニークな戦略を生む
  洞察には何よりユニークさが大切
  ヒエラルキーにとらわれない議論が洞察を深める
  さらにユニークな将来を展望するフォアサイトを生み出せれば素晴らしい
 1-4.アイデア総出力:アイデア創出はマインドセットから

2.シンプルな戦略に求められるディシプリン
 2-1.ファクトに、最新情報に、顧客に謙虚であること:
  謙虚さがなければユニークさは独りよがりになってしまう
 2-2.徹する、考え抜くこと:
  粘り強くぶれない思考を徹底する
 2-3.軸、体系化、フレームワーク:
  活用する道具は、正しく徹底的に活用すべき
 2-4.意思決定:決めきる覚悟、強さ、潔さが必要
  意思決定とは、絞り込む、捨てる、賭けること
  境界条件をいかに捨てることができるか
 2-5.無理難題、ストレッチゴール
  戦略が目指す目標は非常に高いものでなければならない
  戦略目標は無理難題かつ具体的であれ
 2-6.実行責任、結果責任:
  誰が、いつまでに、どうやって成果をだすのか

3.シンプルな戦略に求められるリーダーシップ
 3-1.ハンズオンのオーナーシップ:実行までトップが直接第一当事者となる
  戦略は経営者自らが作り、実行するべきもの
  プロ巣の最初にトップが何を言えるか
  戦略の実行責任も結果責任もトップが負う
 3-2.ビジョナリー、プロヴォカティブであること:戦略に自らの思いを込める
 3-3.意思決定、捨てるべきことを決める:
  リスクテイキングと悪役テイキングから逃げてはいけない
 3-4.コミットメント、コミュニケーション、コミュニティ:
  組織をリードする上で「CO」が鍵となる
  「私がこうしたい」から戦略は始まる
  エキサイトメント、わくわく・どきどき感




【目次】

1 今、なぜシンプルな戦略が必要なのか
2 戦略構築の基本:そもそも戦略とは何か
3 シンプルな戦略の三つのパターン
4 シンプルな戦略で成功するために求められるもの

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◇1469 『タックスヘイブン』 >幻冬舎文庫/橘玲

背表紙あらすじ:東南アジアでもっとも成功した金融マネージャー北川が、シンガポールのホテルで転落死した。自殺か他殺か。同時に名門スイス銀行の山之辺が失踪、1000億円が消えた。金融洗浄、ODA、原発輸出、仕手株集団、暗躍する政治家とヤクザ…。名門銀行が絶対に知られたくない秘密、そしてすべてを操る男の存在とは?国際金融情報小説の傑作!

『マネーロンダリング』が面白かったので、ずっと読みたいと思っていた橘さんの小説。古本屋などでもなかなか見かけず、Amazonの中古本を検索していたところ、Kindleの方が安いことを発見。久しぶりに電子書籍を購入した。スマートフォンに入れて持ち歩き、隙間時間に読もうと思っていたのだが、ストーリーの面白さに魅せられて、一気に読了してしまった。さすがである。

さて、本書も筆者の金融の知識が如何なく発揮されており、楽しめる読み物。また舞台も『マネーロンダリング』の香港から、もう一つの金融立国・シンガポールへと移っている。扱う金額の桁も増えており、スケールが一層増した感じ。

しかしながら、前作に比べると本書の方がミステリー色が濃く、犯人捜し的なストーリー展開。個人的にはもっと金融の裏テクニックなどを駆使して、主人公が活躍する物語の方が面白かったのに、と少し残念であった。また、金融に強い主人公、少し頼りないサブキャラクター、被害者か加害者か分からない絶世の美女、という三角関係は、前作の焼き直しのようで、こちらも今一つ。

読んでいておやっと思ったのは、比較的最近の北朝鮮をはじめとする世界情勢が散りばめられているところ。随分前から読みたいと思っていた作品だったので、結構古いと思っていたのだが、2014年4月の刊行だった。

最近はグローバル化の加速とそれに伴う世界情勢の変化が目まぐるしく、少し時間が立つだけで、世の中の常識と言おうか、小説の前提条件となる舞台のようなものがガラッと変わってしまう。星新一が目指したような、いつまでたっても色あせない普遍的な物語を書くのは難しい時代になってきた。

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日経ビジネス[2016.01.11]一億総無責任社会・日本が危ない「経営者は心の岩盤崩せ」小林喜光

経済同友会代表幹事で、東京電力、東芝の社外取締役でもある小林喜光氏のインタビュー記事。まずは、ポイントを抜粋。

・日本は官民合わせて研究開発に二十数兆円使っています。これはGDPの4%に相当する。海外でのM&Aは十数兆円規模。決して経営者がサボっているわけではありません。一方で、国内のM&Aはたったの3兆円。原発を手掛ける企業は3社、自動車は8社。化学に至っては2万社もあります。新陳代謝が進んでいないのは事実でしょう。先端技術は欧米に先んじられ、汎用品では中国に追い立てられています。両方から挟み撃ちに遭っている中、たまたま一時的な円安でうまくいっているだけ。企業はその現実を謙虚に受け止めないといけません。

・重要なのは日本の強みである技術を手放さず、いかにサービスと組み合わせるか。企業は今、仕込みづくりに時間をかけないといけない時期です。

・企業だけで閉じた研究開発はもう古い。強い部分は閉じ、弱い部分はみんなで協力して早く進める「オープン&クローズ戦略」が必要です。業態も超えて、製造業とIT、サービス企業などが一緒に取り組まないとビジネスにならない時代になっています。

・研究開発で足りない部分を補うという意味ではM&Aが重要になる。

・研究開発は未来への投資、M&Aは現在あるものを手に入れるための投資。経営者はより確実性の高いM&Aに走ってしまうのだよ。

・東芝は社長の任期が4年だが、辞めた後が長い。相談役などの名誉職で残るから。ああいうのはよくないね。社長、会長の任期が終わったら、とっとと会社を去るべきです。欧米と比べて社長の給料がそれほど高くないから、ダラダラと会社に居座るのかな。

・(これからの時代に必要な経営者は)効率を重んじながら長期的戦略と社会性を持っている人です。

・最近、大企業で子会社の社長をトップに据えるケースが増えてきました。修羅場を経験している点を重視しているのでしょう。昔も今も経営者の能力はそれほど変わりません。けれど、地獄を見たかどうかで変わるんですよ、経営者の強さは。

・僕は「z=a+bi」の複素数で時代を捉えています。アトム(a)という現実世界に、ビット(b)とイマジナリー(i)を掛け合わせたものを加える。米グーグルが自動運転に参入したように、単なるモノ作りだけではなく、ネットとの複合で新しい価値が生まれます。現実と仮想。その行き来の中で勝負が決まる。よほどしたたかでないと、これからの経営者は務まりませんよ。


最後の数式「z=a+bi」は、別の記事でも見かけたことがあったが、グーグルの自動運転の例でようやく理解できた。今まで関係ないと思っていたような分野も、IoTによって、どんどんネットと融合していくであろう時代。自社の事業のどの部分が、ネットや仮想との親和性が高いかをよく見据えてかからなければならない。

日経ビジネス[2016.01.11]一億総無責任社会・日本が危ない「サラリーマンに非ず・株価を6倍にした男」手代木功

この記事を読むまで、知らなかった人物。大変興味深い実績である。2ページほどの記事なので、逐次要約してみよう。

・製薬業界に、国内外の投資家から高く評価される経営者がいる。塩野義製薬社長の手代木功(56歳)。外部から招かれた、いわゆる「プロ経営者」ではない。創業家である塩野家から経営を引き継いだ、一介のサラリーマンにすぎない。

・ただし、その経営手腕は、日本ではまれに見る、本物のプロ。すでにある持ち駒を巧みに使い、過去4年で株価を6倍に引き上げた。

・手代木が就任した2008年4月、塩野義は余命8年と宣告を受けたも同然の状況。中核商品である高コレステロール血症治療薬「クレストール」の特許が、世界各地で一斉に切れる「パテントクリフ(特許の崖)」が迫っており、8年後には600億円もの収入が吹き飛ぶと予測されていた。

・再編が繰り広げられる世界の製薬業界の中で、連結売上高が4000億円規模(99年度)の塩野義は、いつ買収されてもおかしくない存在。営業利益率は90年代を通して5〜6%と、競合より劣っていた。創薬のための資金やノウハウは不足し、クレストールも特許取得翌年の98年に、英アストラゼネカに全世界の開発・製造・販売権を丸投げしたほどだった。

・「身売りも地獄、改革も地獄。どうせ苦しむなら、自分たちで手を下そう」と、手代木と塩野は既存の事業モデルと決別する覚悟を固めた。まず取り組んだのは自社の存在意義を問い直すこと。それが、「営業の塩野義」から医療用医薬品に特化した「創薬型製薬企業」への転換だった。営業力を核に成長してきた過去を断ち切り、「患者が必要とする薬を作る」という、製薬会社としての使命に原点回帰することに決めたのだ。

・新薬開発は成功確率が3万分の1とも言われ、開発費用が1000億円になるケースもある。にもかかわらず塩野義は身の丈に合わない多角化を進め、自ら死の淵へ向かいつつあった。

・そこで手代木はまず、医療用医薬品の開発に特化するために、動物薬や植物薬、医薬品の卸売業などの非中核事業を2004年までに売却する計画を作成。一部の一般医薬品を残したものの、4000億円以上あった連結売上高をわずか4年で2000億程度に減らす荒療治を断行した。

・事業売却が完了した2004年、手代木は塩野から医薬研究開発本部長を命ぜられる。研究開発部門にメスを入れ、開発テーマを感染症、疼痛、代謝性疾患の3つに絞り込んだ。

・2008年4月に手代木は社長に就任するが、約1500億円を投じた米国の製薬会社サイエル・ファーマの買収で、大失敗。買収合意の2週間後にリーマンショックが起こり、さらにサイエルを通じて販売しようとしていた2つの新薬の開発が最終段階で頓挫。米社の経営状態は急速に悪化し、塩野義の株価は2011年11月に社長就任時の半分以下へ下落してしまった。

・しかしながら手代木は、米社の買収失敗で業績が低迷した時でも株主と密に対話し続けた。失敗を率直見認めつつ、自らの考えを伝え続けた。手代木は企業価値を上げるために必要なことを、投資家との対話から学んでいった。それは、経営の安定性と持続的な成長ストーリーを明示することの大切さだ。

・その視点がクレストールのパテントクリフの克服につながった。まず、クレストール以外の商品の収益拡大を試みた。2012年、抗HIV薬「テビケイ」の開発パートナーである英ヴィーブとの合弁会社を手放す代わりに、ロイヤルティー収入の増大を勝ち取る。そして2013年、クレストールのパテントクリフそのものを「消滅」させた。アストラゼネカから2014〜16年に得る予定だったロイヤルティー収入を減額する代わりに、受取期間を2023年まで延長。短期を収益を犠牲にし、中長期の収益基盤の安定化を図る。「こんな契約変更、見たことがなかった」とは証券会社の弁。

・塩野義の事例は製薬業界の特殊な話だけではない。学ぶべきは、危機をできるだけ早く察知し、「死」が訪れる前に周到に会社を作り変えることの大切さだ。必要なのは変わる覚悟だけだ。


サラリーマン社長は、いろいろなしがらみに縛られて思い切った施策を取れないことが多いのが現実だと思う。今回は、創業家である塩野家を味方につけ、思う存分力を発揮できたところも大きいのではなかろうか。プロパーの中の辣腕経営者とそれを温かく見守る創業家や前任社長などのOB。この両輪が回ってこそ、旧来型の日本企業が変わることができるのだと思う。

自分の会社が将来どうなるかは分からないし、危機に陥ったとき、自分がどのような立場にいるかも分からない。しかしながら、常に「変わる覚悟」を以って仕事に臨み、危機意識を抱き続けることが肝要であろう。

日経ビジネス[2016.01.11]一億総無責任社会・日本が危ない「サラリーマンには託せない」永守重信

・企業のトップほど、本当になりたいと思う人がならないとあかん職業はない。僕は小さい時からずっと考えとったけど、「社長になりたい」と1000回言っても足りないぐらいで、野心は絶対に必要やね。その上で、給料の少ない日本企業の場合、カネではなく犠牲と奉仕の精神で働かないとダメです。

・トップに必要な資質は3つある。1つ目は社員を動かすため、自分の考えていることを伝える「訴える力」。2つ目は白か黒か、右か左かを決める「決断力」。3つ目は「絶対に逃げない」こと。どんなに優秀でも逃げるやつはあかん。これらの資質は全部経験して、失敗してみないことには身に付きません。

・これからの日本企業の最大のライバルは中国企業ですわ。創業者はみな若くて、とにかく一生懸命に働く。米国企業のトップもそう。日本はもっと若い人に早くから、小さい会社の経営をやらせて、力を付けさせることが大事です。失敗したっていい。経営者を育成するプロセスがなかったら、経営のプロなんて絶対に育ちませんわ。

・僕がすぐに手を離すことはないけど、いずれ名誉会長とかになっても、時々は「おまえ、何しとんねん」というぐらいの警告は会社に対して発していきます。松下幸之助さんもそうやけど、何か問題があったら創業者が車椅子かなんかでやってきて、きちんと指摘をする。それは創業者だけができる役割やと思うからね。

・そのためには創業者は長生きして、実戦からは離れているんだけど、少なくとも3代目か4代目ぐらいまでは経営者を見続けないといけない。そういうことも含め、僕はこの会社を世界的な企業として残したいと言ってるんです。


相変わらずの永守節炸裂。「逃げない」というのは、自分なりに意識していることではあるが、常に逃げないというのは、かなりの覚悟がいるもの。精神的にタフであるよりも、しなやかさが必要かもしれない。

日経ビジネス[2016.01.11]一億総無責任社会・日本が危ない「レガシーを全部壊そう」柳井正

4月から日経ビジネスの購読をやめてしまったのだが、付箋を貼ってそのうちブログにアップしようと思い忘れていた記事を発見。改めて読み返してみても、やはり重要だと思うので、4回に分けてエントリーしておきたい。

・政府も製造業を中心にインフラ関連企業ばかりを優先する。インフラ輸出を成長のけん引役にしたい考えなのでしょうが、現実に今の日本を支えているのは中小企業だし、我々みたいな小売りやサービス業がほとんどですよ。だから、内需振興をもっと考えないといけない。企業のバイタリティーは新陳代謝を活性化する政策からしか出てこない。輸出型の大企業ばかりに頼る時代は、日本ではもうとっくに終わったでしょう。中国だった、内需型の成長モデルに移行している時代です。

・経団連はあった方がいい。グローバルで戦うには、時として政府と企業が密に協力する意義はあるでしょう。ただ中身を変える必要がある。経団連は暗黙の序列みたいなものを全部やめて、どんな企業でも対等に活動できる場にすべきです。企業が自由に活動できない状態にすることは、決してあってはならない。でも、何となく今はそういう雰囲気ですよね。そのためにも、レガシーは全て取り去るべきです。

・サラリーマン経営者でも創業者のように、「この会社は何のためにあるのか」を突き詰めて考えるべきではないでしょうか。業績を株主に報告する仕事を、サラリーマン的にバトンタッチしていくという感覚では、会社はおかしくなる。ガバナンスについても、経営者自身が考えを改めずに、社外取締役を入れたり委員会設置会社に移行したりしても、ダメですよ。

・会社を変えようと思ったら、本気でサラリーマン的なメンタリティーを捨てないと。日立製作所の川村さんのように、もう自分が最後の人だという覚悟で仕事をすること。そして、もっと若い人をトップにして、任期を4年、6年ではなく、10年くらいにすることが必要だと思う。そうしないと、会社は変わらない。

・外から突然、誰かが入ってきて社長になることはあり得ません。しっかり、創業者のDNA、経営の思想や文化を引き継いでくれる人でなければうまくいかないでしょう。

・世の中はもう危機だらけで、危機を楽しみながらどうやって、世界を変えていくかを考えないといけない。危機と言っても、殺されるわけではない。強制的にでも海外に行けば、変わるんですよ、人は。だから僕は「日本初の外資になる」と言うんです。進出した先で、立派な「外資」として認められる会社。日本人と外国人が共存して、新しい日本の会社を作れるかどうかの戦いが始まっているんです。欧米だけではなく、アジアの企業と、どこが一番優れた「外資」と認められるかの戦争なんですよ。

・日本を絶対視する一国主義ではなく、多様な価値観を受け入れる寛容な社会になる必要があります。東京に住む人の3分の1が外国人というくらいが一番いいんじゃないでしょうか。訪日外国人が増えていますが、短期的な滞在ではなく、日本で働きたいと思ってもらえる国になるべきです。そのためにも、企業、そして経営者は、大きな責任があります。グロオーバルとか口で言っているだけで、脱皮することができなければ、それこそ日本は死んでしまいますよ。


本気で変えようと思う。これは、なかなかに難しい。目の前にやらなければならない仕事を抱えつつ、会社全体のことも真剣に考える。ついつい、自分一人くらいが変わっても、と思ってしまう。そうではなく、少なくとも自分一人くらいは変わらなければ、自分一人からでも変わらなければ。

自宅で使っていたノートパソコンが壊れてしまった。電源を入れて起動しても、立ち上がらない。ここ数か月、随分と動作が遅くなってきているなと、気にはなっていたのだが、完全に動かなくなるとは思っていなかった。とはいえ、嫌な予感がしていたので、データは外付けハードディスクにバックアップ済み。それにしても、バックアップを取った3日後に壊れるとは、不幸中の幸いである。

まぁ、最近作成したファイルはほとんどなく、重要なのはブログのバックアップデータと、iTunesに転送している語学の音源ぐらい。テキストデータなどは、Evernoteで管理しているので、パソコンが壊れても関係ない。便利な反面、外部記憶しているストレージが壊れたらと思うと怖いので、やはりウイルスなどからも隔離されたバックアップは必要だろう。

さて、新しく購入したのは富士通のLIFEBOOK AH50/Xという機種。CPUはインテルのCore i7、ハードディスクは1テラバイト、メモリは4G。量販店で12万円程度だから、まずまずリーズナブルなところ。メモリだけは少し物足りなかったので、こちらを4000円程度で購入。→Transcend ノートPC用メモリ PC4-17000(DDR4-2133) 8GB 1.2V 260pin SO-DIMM TS1GSH64V1H

 

メモリはアマゾンで土曜日に注文して日曜日には到着。裏蓋をドライバーで開けて、メモリーをパチンとはめ込むだけ。もともとの4Gに8Gを増設して12Gとなった。まぁゲームをするわけでもなく、文書作成のみであれば、十二分なスペックである。

前のパソコンは、中国駐在時に購入したレノボ製のThink Pad。もう5年も使用しているから、寿命といえば寿命。今回は、できるだけ余計なデータやソフトは入れないでおこうと思い、ブログとデジカメ撮影した写真データのバックアップと、iTunesに転送している語学の音源のみを外付けHDDからコピー。アプリケーションも、Google Chrome、iTunes、Evernote、Acrobat Reader、ウイルス対策ソフトに限定してダウンロード。

何を新しいパソコンに入れようか、もっと言うと、どうやって厳選しようかとあれこれ悩んでいたら、半日程度かかってしまった。妻からは新しいオモチャだね、と言われつつも、やはり新しいガジェットというのはうれしいもの。さて、道具はそろったので、ブログの中身を充実させないと!

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