2010年05月05日

『帝王学−「貞観政要」の読み方』

○0869 『帝王学−「貞観政要」の読み方』 >山本七平/日経ビジネス人文庫

 何度も書いていることだが、読書のタイミングというのは本当に面白い。本書は随分前に購入していたのだが、本棚に眠ったままになっていたもの。ふと、目に留まったので出張の供に持っていったのだが、読み始める止まらなくなってしまった。

 というのも、これから自分が直面するであろう状況に酷似しているから。私が上海へ赴任することになったのは、先日エントリーした通り。恐らくソフト面の改善を担当することになるだろう、と。ハード面の改革を「草創」とするならば、ソフト面の改革はまさに「守文」 目立たないが非常に難しい仕事だと考えている。

 本書からもたらされる気付きは、「改革を進めるのはよいが、しっかりと皆の意見を聞き、方向性がおかしいと思ったら、すぐに改める謙虚さを持て」ということだと思う。トップはもちろん、部下を持った人にはぜひ読んでいただきたいお薦めの一冊。

 果たして自分は魏徴のように上司に諌言できるだろうか? 太宗のように部下の苦言に耳を傾けられるであろうか?

・「草創と守文といずれが難き」→「新しい王朝が起こるのは、必ず前代の失政による衰え・混乱の後をうけ、そのようにした愚鈍で狡猾なものを打倒します。すると、人びとは新しい支配者を推戴することを喜び、一応、天下がこれに従います。これが『天授け人を与う』であって、天からさずかり、人びとから与えられるのですから、それほど困難とは思われません。しかし、それを得てしまうと、驕りが出て志向が逸脱します。すると人びとが平和と安静を望んでいるのに課役がやまず、人びとが疲弊・困憊しているのに、支配者の無駄で贅沢な仕事は休止しません。国の衰退は、常にこれによって起こります。こう考えますと守文の方がむずかしいとおもいます」 太宗の問いに対して、魏徴の応え

・諌臣が遠慮なく皇帝に諌言する。諌議大夫などというそれが専門の職がある。

・太宗の美点は、自己の欠点をよく知り、諌臣の言葉をよく入れて、改めるべきことは速やかに改め、その直言を少しも怒らず、感情を害することもなく、逆に、直言してくれた者に必ず「特別ボーナス」を出した。

・「君の明らかなるは所以の者は兼聴すればなり。その暗き所以の者は偏信すればなり」

・「創業的体制」を「守成的体制」に切りかえねばならない。だが、これ自体すでに問題である。というのは、創業の能力者は必ずしも守成の能力者ではないから、功のあったものをそのまま横滑りさせてはならないからであり、ではその処遇をどうするのかという問題がでてくる。

・公は一を知って、二を知らない。この人(隋の文帝)は細かいことまで知りつくさないと納得できない性格だが、その心は明朗でなく暗い。心が暗いと、肝胆相照らすという形で相手と通ずることができず、それで細かいことまで糾明すると人を疑うことになる。(中略)群臣が心底では自分に服従していないのではないかと恐れ、部下を信用せず、権限を委譲せず、何事もすべて自分で決裁したからである。そこで心身ともに疲れ果てるほど酷使しても、すべてが理に合うようにいかないのである。そして部下たちは、信用していないという彼の心底を知っているから、進んで率直に意見を述べようとせず、従順に命令に従うだけになってしまう。

『十思』
・欲しいと思うものを見たら、足ることを知って自戒することを思い、
・大事業をしようとするときは、止まることを知って民の安楽を思い、
・高ころびしそうな危ないことを思うときには謙虚に自制することを思い、
・満ち溢れるような状態になりたいという願望が起これば、老子の『江海のよく百谷の王たる所以は、其の善く下るを以ってなり』で、満ち溢れる海はすべての川より低いことを思い、
・盤遊(遊び)したいと思うときは、必ず限度をわきまえ、狩りのとき『三駆以って度となす』すなわち一方に逃げ道を用意してやるのを限度とすることを思い、
・怠け心が起こりそうだと思えば、始めを慎重にして終わりをつつしむことを思い、
・自分の耳目を塞がれているのではないかと心配ならば、虚心、部下の言葉を聞くことを思い、
・中傷や讒言を恐れるなら、まず自ら身を正して悪をしりぞけることを思い、
・恩恵を与えるときは喜びによって賞を誤ることがないように思い、
・罰を加えようとするときは怒りによって重すぎる罰にならないように思う。

『九徳』
・寛にして栗(寛大だが、しまりがある)
・柔にして立(柔和だが、事が処理できる)
・愿にして恭(まじめだが、ていねいで、つっけんどんでない)
・礼にして敬(事を治める能力があるが、慎み深い)
・擾にして毅(おとなしいが、内が強い)
・直にして温(正直・率直だが、温和)
・簡にして廉(大まかだが、しっかりしている)
・剛にして塞(剛健だが、内も充実)
・彊(きょう)にして義(強勇だが、ただしい)

・ひたすら御機嫌をとり、ゴマをする人間は、内心で何を考えているかわからないが、御機嫌とりなど一切せずに自分に直言する者は、確かに信頼できる。

『六正』
・聖臣:きざしがまだ動かず、兆候もまた明確ではないのに、そこに明らかに存亡の危機を見て、それを未然に封じて、主人を、超然として尊栄の地位に立たせる。
・良臣:とらわれぬ、わだかまりなき心で、善い行いの道に精通し、主人に礼と議を勉めさせ、すぐれた計りごとを進言し、主人の美点をのばし、欠点を正しく救う。
・忠臣:朝は早く起き、夜は遅く寝て勤めに精励し、賢者の登用を進めることを怠らず、昔の立派な行いを説いて主人を励ます。
・智臣:事の成功・失敗を正確に予知し、早く危険を防いで救い、くいちがいを調整してその原因を除き、災いを転じて福として主人に心配させないようにする。
・貞臣:節度を守り、法を尊重し、高給は辞退し、賜物は人に譲り、生活は節倹を旨とする。
・直臣:国家が混乱したとき、諂(へつら)わずにあえて峻厳な主人の顔をおかし、面前でその過失を述べて諌める。

『六邪』
・見臣:官職に安住して高給をむさぼるだけで、公務に精励せずに世俗に無批判に順応し、ただただ周囲の情勢をうかがっている。
・諛臣(ゆしん):主人の言うことにはみな結構ですといい、その行いはすべてご立派ですといい、密かに主人の好きなことを突き止めてこれをすすめ、見るもの聞くものすべてよい気持ちにさせ、やたら迎合して主人とともにただ楽しんで後害を考えない。
・姦臣:本心は陰険邪悪なのに外面は小心で謹厳、口が上手で一見温和、善者や賢者をねたみ嫌い、自分が推挙したい者は長所を誇張して短所を隠し、失脚させたいと思う者は短所を誇張して、長所を隠し、賞罰が当たらず、命令が実行されないようにしてしまう。
・讒臣(ざんしん):その知恵は自分の非をごまかすに十分であり、その弁舌は自分の主張を通すに十分であり、家の中では骨肉を離間させ、朝廷ではもめごとをつくり出す。
・賊臣:権勢を思うがままにし、自分の都合のよいように基準を定め、自分中心の派閥をつくって自分を富ませ、勝手に主人の命を曲げ、それによって自分の地位や名誉を高める。
・亡国の臣:佞邪(ねいじゃ)をもって主人にへつらい、主人を不義に陥れ、仲間同士でぐるになって主人の目をくらまし、黒白を一緒にし、是非の区別をなくし、主人の悪を国中に広め、四方の国々まで聞こえさせる。

・政治の筋道を通す基本は、才能を厳格な審査で量って職を授け、つとめて役人の数をはぶくことにある。それゆえ『書経』に、『官に任ずるは惟だ賢才をせよ』と記されている。また、定員不足でその官が欠員であってもよい、その官にふさわしい人がいれば任ぜよ、と。

・「必需」は、居る場所は「膝を容るるに過ぎず」寝るは「一畳」、食は「胃袋の容量」、衣は「寒暖に対応する」で十分である。




【目次】
1 いま、なぜ『貞観政要』なのか
2 「兼聴」―情報を吸い上げる
3 「十思」「九徳」―身につけるべき心構え
4 「上書」―全能感を捨てる
5 「六正・六邪」―人材を見わける基本
6 「実需」―虚栄心を捨てる
7 「義」と「志」―忘れてはならぬ部下の心構え
8 「自制」―縁故・情実人事を排する
9 「仁孝」―後継者の条件
10 「徳行」―指導者に求められるもの

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