◎1240 『仕事に効く教養としての「世界史」』 >出口治明/祥伝社

40歳を超えて、今更ながら世界史の勉強を始めている。高校の頃は日本史が専攻で、世界史はろくろく勉強しなかったのだが、もっと頭が柔らかいうちにきちんと勉強しておくべきだったと、少しだけ後悔。まぁ後悔していても何も始まらないので、少しずつ、基本的な書籍に取り組んでいるところ。本書は、出口さんの著書ということで、書店に並んですぐに購入したのだが、書かれている時代が時系列に並んでおらず、まずは通史を勉強してからの方がよいかなと思い、本棚にしまいこんでいたもの。

ところが、通史というのは、世界史のほとんどが忘却の彼方となってしまっている脳みそには厳しい。始めて出会うかのような人名だの王朝名だのが並んでいても、頭に入ってくる気がしない。そこで、気分転換のつもりで(すみません。。。)、出口さんの本なら読みやすいのではなかろうかと、手に取ってみたのだが。。。

これが、びっくりするような内容である。とにかく、細かな年代などはさておき、歴史の大きな流れが描かれているのだ。しかも、その因果関係が明確に描かれているため、分かり易い。たとえば「歴史がきちんと書かれるようになると、後世の歴史に名を残したいと思う人が出てくる。三国志の諸葛孔明なども、そんな中の一人。後世で高く評価されるような行動をとる」といった具合である。

世界史の初心者にとって、非常にとっつきやすく、また、世界史をよく知る人が読んでも遜色のない、そんな骨太な構成になっている。本書を読んで、歴史の大きな流れ、大木の幹となる部分をしっかりとつかんでから、枝葉の知識を増やしていけば、比較的すんなりと、世界史に取り組めるのではなかろうか。

本書を読んで感じたのは、私自身が、ヨーロッパ地域の歴史に弱いということ。中国史は、中国駐在中に何冊も本を読んだので、だいたい理解できるし、アラブ諸国については、イスラム教の本を読んでいると少しは理解できる。自分に決定的に書けているのがヨーロッパの歴史の知識だということが、よく分かった。自分の弱点が分かるというのは大きな収穫である。今後は、一度きちんと通史を学習し直し、後は興味を持った枝葉の部分を、少しずつ学んでいけばよいであろう。特に受験をするわけでもなし、全てを網羅的に暗記する必要もない。歴史を通じて、人間の物の考え方を学べれば十分過ぎる効果が得られよう。

一つだけ気になったのは、本書のタイトル。「仕事に効く」だとか、「教養としての」というのは、真の教養人である出口さんには似合わないように感じた。最後の方に「仕事をしていく上での具体的なノウハウを身に付けるためではなく、負け戦をニヤリと受け止められるような、骨太の知性を身に付けてほしいという思い」から付けた解説がなされてはいるが、ずっと読み継がれて欲しい本だからこそ、時代に左右されない普遍的なタイトルにしていただきたかった。



【目次】

はじめに なぜ歴史を学ぶのか

第1章 世界史から日本史だけを切り出せるだろうか
−ペリーが日本に来た本当の目的は何だろうか?
・いま求められている日本史の知識について
・奈良時代の女帝たちは「男性の中継ぎ」だったのか
・ポルトガル船が漂着したから、種子島に鉄砲が伝来したのか
・ペリーが日本にやってきた、本当の目的は何だったのか
・交易が、歴史の重要なキーワードである

第2章 歴史は、なぜ中国で発達したのか
−始皇帝が完成させた文書行政、孟子の革命思想
・文字が残る決め手は筆写材料にあった
・始皇帝が完成させた文書行政が歴史の発達を促進させた
・孟子の革命思想が、中国の歴史をさらに発達させた
・中国の神話に大洪水が出てくるのはなぜか
・歴史がきちんと残るのなら自分の名前を後世に残したい
・科挙という制度は、紙と印刷の存在で可能になった

第3章 神は、なぜ生まれたのか。なぜ宗教はできたのか
−キリスト教と仏教はいかにして誕生したのか
・本章でお話ししたいこと
・ドメスティケーションの最後が、神の誕生だった
・最後の審判という概念はどのようにして生まれたか
・直線の時間と、ぐるぐる回る時間がある
・善悪二元論が、生まれてきた理由
・キリスト教と仏教はいかにして生まれてきたのか
・ゾロアスター教の永遠の火

第4章 中国を理解する四つの鍵
−難解で大きな隣国を誤解なく知るために
・一つめの鍵は中華思想にある
・二つめの鍵は諸子百家にある
・三つめの鍵は、遊牧民と農耕民の対立と吸収の歴史
・最後の鍵は、始皇帝のグランドデザインにある

第5章 キリスト教とローマ教会、ローマ教皇について
−成り立ちと特徴を考えるとヨーロッパが見えてくる
・本章を設けた理由
・「カトリック」とは何を意味する言葉なのか
・キリスト教が、ローマ帝国の国教になるまで
・ローマ教会の、悪戦苦闘が始まる
・せめぎあいが続くドイツ王とローマ教皇
・叙任権闘争と贖宥状、聖年、宗教改革
・ローマ教会の持っている三つの大きな特徴

第6章 ドイツ、フランス、イングランド
−三国は一緒に考えるとよくわかる
・知っているようで知らない国々
・三つの主要国は、どのようにしてできたのか
・最初は強大だったドイツが、だんだん細分化されていくのはなぜか
・フランスと英国の成り立ちは一緒に考えると、わかりやすい
・英国に議会の伝統が生まれた理由
・百年戦争が英国とフランスをはっきり別の国にした
・ヴァイキングの人たちはもとは商人であった

第7章 交易の重要性
−地中海、ロンドン、ハンザ同盟、天才クビライ
・生態系と交易との関係
・交易の道は、東から西へ
・地中海の交易ルートを巡って栄えた都市、衰亡した都市
・ロンドンが海上交易の中心になっていく理由
・ハンザ同盟の技術革新、発展と盛衰
・東の交易圏
・ユーラシアの交易とシルクロード

第8章 中央ユーラシアを駆け抜けたトゥルクマン
−ヨーロッパが生まれる前の大活劇
・もう一つの遊牧民がいた
・ユーラシアの大草原に生まれた史上最強の遊牧民の話
・トゥルクマンとマムルーク
・トゥルクマンがつくった大王朝、セルジューク朝
・トゥルクマンの武力とペルシア人官僚の組み合わせがインドに大国をつくった
・騎馬軍団の前に歩兵と鉄砲が現われた
・ヨーロッパという概念は遊牧民の進出が止まって誕生した

第9章 アメリカとフランスの特異性
−人工国家と保守と革新
・初めに、日本人のアメリカ観について
・人間の当たり前の心情を断ち切って生まれた国がある
・アメリカを応援して影響を受けたフランス
・人工国家に対する反動として近代的保守主義が生まれた
・人工国家だから、思いがけないことが起きる
・特にアメリカの特異性について

第10章 アヘン戦争
−東洋の没落と西洋の勃興の分水嶺
・英国がインドに抱いた野望
・英国はインドにアヘンをつくらせて中国に密輸した
・アヘン戦争の始まりと終わり
・たとえばアヘン戦争をGDPの変化で眺めてみる
・アヘン戦争から、歴史は西洋史観中心になってしまった

終章 世界史の視点から日本を眺めてみよう
・国と国家について
・国も人もピークがあり寿命がある
・なぜ、戦後の高度成長は生まれたのか
・週に一度でもいいから英字紙を読む
・日本の社会常識を、世界史の視点で考え直してみる

4396614837