◇1563 『経営幹部・仕事の哲学−世界最高リーダーシップ育成機関が教える』 >田口力/日本能率協会マネジメントセンター

タイトルの中の「仕事の哲学」という言葉に惹かれて買ったのだが、結果として、私にとっては既知の情報が多かった。それでも、さすがにGEで経営幹部の研修に携わっただけあり、その実績がにじみ出ている良書と言えるのではないだろうか。

いつものように、気になったページの端を折りながら読み進めたのだが、たくさんの箇所に折り目を付けてしまった。そして、いつものようにその部分を引用しようと思い、キーボードを打ち始めたのだが、打ち終わった後の原稿を見てみると、「自分が共感した箇所=すでに知っている知識」に対して、ページを折っていることに気づいた。

本書で初めて得た知識や考え方は何だろうか。そう突き詰めていくと、次の1点に集約されると思い至った。よって、今日はせっかく多くの文書を書き写したのだが、それはいったん削除し、1か所だけを引用することにしておきたい。

GEのCEOであるジェフ・イメルト氏は、「自分がCEOになって以来、自分が学んだ最も大切な事はコンテクスト(文脈)である。それは、企業がいかにして世界に適応し、そしてそれにどのように答えていくかということである」と述べている。

コンテクスチュアル・インテリジェンスは、コンピテンシー・モデルの違いによって全体像把握能力、パターン認識能力、あるいはシステム思考能力などといった言われ方をしている。コンテクスチュアル・インテリジェンスを身に付けることで、上級リーダーとして求められる経営構想力やそのベースとなる先見性や洞察力が磨かれることになる。

コンテクスチュアル・インテリジェンスとは、「既に存在する環境、あるいはこれから生じる環境を作り出す事情・状況や出来事から何かを学び取る高度に発達した能力」であり、「そうした事実(状況や出来事)を効果的に適応して、将来の展望を立てたり斬新な洞察を得たり、あるいは新しいアイディアを見出したりできる能力」のこと。

つまり、単に文脈を読み解くだけではなく、そこで得られた学びを適用して、例えば戦略的な仮説を立てるといった具体的なアクションに落とし込めるかどうかが肝要。そのための3つのスキルは以下の通り。

第1が文脈を感じること。文脈を掴み取ろうとする環境や一連の話について、自分の目に映る以上の何かが、その裏側には潜んでいるに違いないと思えるかどうかが鍵。

第2が文脈を図式化すること。文脈を形成していると思われる要因を特定し、その要因同士を結びつけてそれぞれの関係性を見える化できるかどうかがポイントになる。

第3が文脈をまとめ上げること。文脈を構成する要因を特定して、その相関関係を見える化できたら、次は周囲を巻き込む形で文脈についても読み上げるスキルが求められる。


本に書かれていることをそのまま要約して引用すると上述のようになるのだが、これでは少し分かりにくい。私なりに理解した内容を付記しておこう(間違っていたら申し訳なし)

まず「コンテクスト」とは、本書では文脈と訳されているが、もう少し深堀りすると、前後関係・背景などのことである。日本は「ハイ・コンテクスト」な社会と言われているが、これは「阿吽の呼吸」などと呼ばれる文化に通じる。つまり空気を読んだり、相手の気持ちを忖度することを前提としたコミュニケーションである。

多様性が重視される昨今、ハイ・コンテクストなコミュニケーションでは、誤解が生じる可能性があるため、明確に発言することが求められている。しかしながら一方で、「言葉では現わせない何ものか」も非常に重要であり、それをここでは「文脈」と呼んでいる。明確に言葉にしていく一方で、言葉にならない文脈をもきちんと捉え、意識していくことが、これからは重要になってくる。

日本企業はグローバル化に向けて、ハイ・コンテクストな状況から抜け出そうともがいているが、GEのようなグローバル企業は、コンテクスト重視に戻ろうとしているということであろうか。ただし、GEが目指しているコンテクスチュアル・インテリジェンスは、日本企業が座しているハイ・コンテクストな環境とは全く異なることを理解しておかなければならないだろう。

さて、この他にたくさんの箇所を書き写し、それを削除したと書いたが、全部削除するのはもったいないので、一部だけ記載しておくことにする。

・英語にすると組織文化は「コーポレート・カルチャー」、組織風土は「コーポレート・クライメイト」になる。クライメイトは風土と言うよりは「気候」である。気候は電気や温度、湿度、風速など数値化できるものである。

・ビジネスで起こっている物事は、そこに関わる要因の掛け算の結果であり、足し算の結果ではない。

・私が様々な業界の優れた人と接して思う事は、その人たちの影の部分を知ってもなお尊敬できる人が、真の人間力を持っているのではないかということだ。

・相手が言ったことを返すと言うのをリフレクションと言うが、これを行うためには相手の言っていることに全神経を集中すると言うことを習慣づけることが必要になる。




【目次】

第1章 日本企業の問題
第2章 優れた経営幹部になるには
第3章 組織開発の観点を持つ
第4章 組織文化を理解し、刷新する
第5章 エグゼクティブ・プレゼンスを備える
第6章 真の経営幹部になる要素
第7章 エグゼクティブ・リーダーシップを高める

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