2010年09月30日

そしてヒト!

 …というわけで、あんまり記事が長くなりすぎて、そのまま人間の話をするわけにいかなくなりそうだったので、記事分け。
前の記事の続きです。

 というわけで、人間のお話。
平均すると、人間のオスはメスの大体1〜2割増くらいの体重で、チンパンジーよりちょっと小さい。ゴリラとかとの差は言わずもがな。
で、人間のオスの精巣の大きさは、結構民族で差があるけど25〜50グラムくらいで、体重のうち0.04〜0.08%くらい。ゴリラよりは比重高いけど、チンパンジーには遠く及ばないね。
結果として、生物としての人間の配偶形態を考えた場合、「極端な一夫多妻制および乱婚制」はない、と言っちゃっていい感じ。

 ただ、完全な一夫一妻制って肉体的闘争は勿論精子間競争も弱い(ないとは言い切れないけど)んで、そう考えると人間は体格差も精巣も大きい方なのね。あと、社会的には一夫多妻を認めるところは多いって話はある。
…でも、実は人類の体格差は初期人類からどんどん縮小してきてるんだ。アウストラロピテクスだと、ゴリラに近いレベルだとかチンパンジー以上だとか。
人間の肉体的闘争は、元々強かったのが弱まってきたと考えられてる。
あ、現代社会では肉体的闘争は経済力に置き換わってると思うんだけど、現生人類だって発生したのは10万年くらい前だから、その頃は肉体的闘争してたと思うんでその辺のツッコミはおいといてね。
あと、一夫多妻については…8割超の社会が認めてるといっても、実際にそれをやってる男性がどれほどいるかって話はまた別で。実際に一夫多妻を実現している男性が2割以上になる社会ってのは、一夫多妻を認める社会のうちせいぜい1/3くらいなのね。
まあ、よっぽど性別のバランスが偏ってなければ誰も彼も一夫多妻なんて出来るわけないんで当然なんだけど。あと、人間の場合一夫多妻を可能にする条件ってのが動物とはちょっと違うから。
続きは格納。


 多くの一夫多妻制の配偶形態を持つ動物のオスは、子育てもメスへの援助もせず、同性間の肉体的闘争あるいはハーレムの維持のための防衛と交尾にエネルギーを割いている。でも、人間の場合はそうもいかないのね。

 二足歩行を始めたせいで産道が曲がり、その上進化の過程でどんどん脳が大きくなっていったから、人間のメスは動物と比較してとんでもなく難産になった。
しかも、人間のメスは子どもを未熟な状態で産むから、そこから子どもを一人立ちさせるまでにも、凄く手間と時間がかかる。結果として、人間のメスはどんどん一人での子育てが出来なくなっていった
子どもに手がかかる、それだけじゃなくて。自分の分と、子どもの分の食料を確保しなくちゃいけないからね。凄く手のかかる子どもを抱えてたら、食べる分を稼ぐための行動にも制限が出る。
「子どものために親が犠牲になって…」なんて美談もあるかもしれないけど、自分が死んだ後、子どもが頼れる人がいない親は死ぬわけにいかないんだよ。自分の命と引き換えに守りきったとして、その後の子どもが生き抜けそうになかったら意味ないんだ。

 人間の男女の体格差が縮んできたのは、恐らくこの経緯が関係しているんじゃないかと思う。確実に子どもを残すためには、交尾して終わり…じゃなくて、「自分が父親だ」と思える子どもと、その母親に援助する方がオスにとっても確実になっていったんじゃないかな。理屈上、子育ての手伝いや援助してくれる人は子どもの父親に限る必要はないんだけど。
とりあえず、人間社会で一夫多妻を実現している男性は、裕福な人が多い。多くの妻と、その子どもを援助することが前提になってるからね。
(この辺、イスラームは建前上凄く厳格。妻を全員きちんと保護・扶養し差を設けないこと…これを怠った場合には離婚・賠償ものだそうだ)

 で、武田氏のエッセイに戻ると…食い扶持に対しての言及ないんだよね。「一人で子育てする母親の孤独」はあるんだけど。
多分、武田氏は高度成長期及び安定成長期の日本における、「近代家族」としての核家族を想定しているんじゃないかと思う。
当時、日本の父親は育児に参加はしなかったかもしれないけど、自分の子どもの母親…妻に対しての援助はしっかりしてた。それを前提に、日本企業の給与体系が出来てたからね(「生活給説」って言ったりする)。
あと、「一人で子育ての孤独」に関しては、「そんなものだ」という感覚があったんだろう、って言われてるね。

 今はどうか。
企業は一人で家族を養うだけの給料を出さなくなった(そもそも「『生きがい』のためだけに働ける女がどれだけいるのか、基本は生活のためじゃないか」って話はあるよね)し、女性の生き方も多様化してきて、「あるかもしれなかった選択肢」のおかげで孤独感が煽られてる部分はある。
託児所っていうのは、生活や子育てその他様々な条件のすり合わせの中から出てきた答えの1つでしょう。勤務してる傍の、勤め先によって作られた託児所なんて、子どもとの距離を考えたら相当好条件じゃない?

 勿論、「答えの1つ」だから、他にも色々考えようはあるんだけど…大事なのは、
仮にも自由と平等を重んじる社会だったら、誰かの自由を束縛したり、誰かを抑圧したりするのはまずいよね
ってこと。一応どれも「答えの1つ」なんだから、選択肢はないとね。

………というわけで、生物的な話を引きつつ、最終的にはジェンダー問題に着地したのでした。

nanae_ll at 20:27│Comments(13)TrackBack(0) ブログ | ジェンダー?

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この記事へのコメント

1. Posted by たんぽぽ   2010年09月30日 23:54
人間は、幸か不幸かいろんな意味で
難産かつ負担のかかる子育てになってますよね。

人間の赤ちゃんが未熟のうちに産まれるのも、
脳が大きくなって難産になったので、
早めに産んだほうが有利になったからでしょうね。

このエントリとは直接関係ないけど、
人間の大脳が発達したのは、うそをついたり
見破ったりするためだ、という説があるそうです。
興味がありましたらどうぞです。
http://plaza.rakuten.co.jp/tosana/diary/200711020000/
2. Posted by 七重   2010年10月01日 00:21
たんぽぽ様、こちらにもコメントありがとうございます。

>人間の出産

ゴリラとかチンパンジーの場合、出産で死ぬってケースは自然状態の人間に比べると大分少ないらしいですね。
会陰の切開とか裂傷とか聞くと、あうあうあー…ってなります;

>大脳の発達

哺乳類の、体重比で脳の大きい種に関しては、「社会脳仮説」といって、固定的なメンバーで一緒に暮らす中での、個体同士の利害などの知識を持っておくために脳が大きくなったという説があるみたいです。(「進化と人間行動」より)
その中に欺き行動の話があるのですが…それとはまた別なのでしょうか?
3. Posted by たんぽぽ   2010年10月01日 22:51
>その中に欺き行動の話があるのですが…それとはまた別なのでしょうか?

これは、わたしには、わからないです。
(ごめんなさいね。)

URLを紹介した「うそつき」のお話は、
リドレーの『赤の女王』という本から採っています。
『進化と人間行動』という本をお持ちでしたら、
当該箇所で『赤の女王』を参照しているかどうか
調べてみればわかるのでは?と思いますよ。
4. Posted by 七重   2010年10月02日 23:24
…すみません、『深化と人間行動』は図書館に返してきた後でしたorz
しばらくは出先からネットする感じになりそうなので、確認はもうしばしお待ち下さい(汗)

この本好きだし、経済的に余裕が出てきたらAmazonあたりで注文しちゃうのも手かなぁ…
5. Posted by たんぽぽ   2010年10月07日 06:24
>一夫多妻については…8割超の社会が認めてるといっても、
>実際にそれをやってる男性がどれほどいるかって話はまた別で

社会の8割というのは、ずいぶん多いんですね。
もっと「一部の社会」という印象でした。
現在では、経済力のために、実際に一夫多妻が
実行できる男性はすくない、というのは聞いているけど。

あと、一夫多妻ができる男性が出てくるところは、
単に裕福なのがいる、といういうだけでなく、
社会全体の貧富の格差が、
大きくなっているように思います。


>多分、武田氏は高度成長期及び安定成長期の日本における、
>「近代家族」としての核家族を想定しているんじゃないかと思う

この「近代家族」は、生物学的にも理にかなっていると
錯覚する人が後を絶たないですね。
ほんとうに、「なにからなにまでよかった」と
実感できる「古きよき時代」だったんでしょう。
6. Posted by 七重   2010年10月08日 21:51
>一夫多妻

人数はともかく、「文化・社会」を単位にするとそうなるのかな、と思います。
(Wikipedia情報なのでアレですが、アフリカだと、元々その慣習があった「部族」に限って認める、という話があるようなので)

あと、人数自体はやっぱり昔も多くなかったのだと思いますよ。
封建社会なら封建社会で、権力者層に集中していたろうと思います。
確か、
「一夫多妻が出来るところは『男性間の』格差が大きい」
という話は『オスとメス=性の不思議』にもありましたよね。

>「近代家族」

本当に一時期…なんですよね。浸透したの。今社会の舵取りを一番やっているだろう世代にとって「当たり前」ではあるのでしょうけれど。

「」で括っていますしたんぽぽ様に言うことでもないのでしょうが、「なにからなにまでよかった」は、『誰にとってそうだったか』という視点を忘れてはいけないと思います。

…あ、前コメで「進化と人間行動」のタイトルを誤字ってますね。
「深化」だとまた別の言葉になっちゃう(^^;
7. Posted by たんぽぽ   2010年10月11日 17:46
>『誰にとってそうだったか』

こちらで話題にしたかたも、
「なにからなにまでよかった」と
思っているのかもしれないです。
http://taraxacum.seesaa.net/article/165004676.html

しかもそういうかたは、
「他人も『よかった』と思っている」と、
思っているみたいです。
8. Posted by たんぽぽ   2010年10月12日 07:37
>「一夫多妻が出来るところは『男性間の』格差が大きい」
>という話は『オスとメス=性の不思議』にもありましたよね。

あった、あった、確認しました。
9章の199-204ページのあたりですね。
9. Posted by 七重   2010年10月15日 01:23
返事、また遅くなってしまってすみません…!orz

>『誰にとってそうだったか』

ああ、この件は…orz
歴史問題でも自民党ほどではないとはいえトンデモいますしねぇ…そんなもんなんだろうなぁ(−−;
(昔は今みたいに右系政党の数がなかったからアレだけど、高校時代、政経の資料を見て
「性に関してはまあ「自民よりはまし」、くらい」
とか思ってたし)

「女性は家庭に入るのに向いているから昔の方が幸せだった」とかのたまう御仁がいそーですが、マッチポンプ分について少々問い詰めてみたいです。

>一夫多妻と男性間の格差

今の日本でも一部で吹き上がっておられる「ミソジニー系非モテ」の皆さんに関してもですね、直面している一番重要な論点ってここだと思うんですよ。何故か皆さん女性に責任転嫁しやがりますが。

…この辺も、書けてないストック記事に関わってくる話だなぁ(−−;
10. Posted by たんぽぽ   2010年10月17日 10:25
>ああ、この件は…orz

物議をかもしましたよね。

>歴史問題でも自民党ほどではないとはいえトンデモいますしねぇ…

所帯が大きいですし、国政の全部を
カバーしなければならないので、
分野によってはトンデモもないのが出てくるのも、
ある程度はやむをえないのかもしれないです。


>「ミソジニー系非モテ」の皆さんに関してもですね

むかし、非もては圧倒的に男性が多い、
ということを書いたことがあるんだけど、
このあたりともつながってくるのかしら?
http://taraxacum.seesaa.net/article/106126094.html
11. Posted by 七重   2010年10月21日 23:33
>この件

何で「経済屋さん」として評価が高い人って、ジェンダー周りではトンデモな人が多いんでしょうねー…情念、大事だと思うんだけどなぁ。

>「非もて」

んー…
「他人の気持ちはどうにも出来ない」
こともですけど、それ以上に
「そのことに対する不満の矛先がどこに行くのか」
だと思ってるんです、少し前から。

…だからストック消化しなくちゃいけないんですけど、書けてないっていうorz
12. Posted by たんぽぽ   2010年10月23日 09:23
>何で「経済屋さん」として評価が高い人って、
>ジェンダー周りではトンデモな人が多いんでしょうねー

こういう調査をやっているところも
「世界経済フォーラム」という、
経済のシンクタンクなんですよね。
http://taraxacum.seesaa.net/article/166530348.html

きょうびは、経済屋もジェンダーのことが
わからないと、やっていけないと思うんだけど。
13. Posted by 七重   2010年10月25日 21:40
>きょうびは、経済屋もジェンダーのことが
>わからないと、やっていけないと思うんだけど。

あたしもそうだと思うんですけど、日本の(比較的)大きい党の「経済屋」さん達はまだ「現代」仕様の「経済屋」さんになれてないみたいです。
…色々な政策の方向を見ると、まだ「現代」仕様になってない弊害が他のところにも現れてる節がありそうですが。。。

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