東洋医学的手法(鍼灸・漢方薬)を使うなら、前提として大切なことがあります。
患者さんの体を治療する際、
解剖学というマナイタに乗せてはなりません。
陰陽論というマナイタに乗せるべきです。

なぜなら、東洋医学は、陰陽論から生まれたからです。

イチローにバットとボールを持たせればイチローらしさが出ます。能力を発揮します。
でも、サッカーボールを持たせたらどうなるでしょう?
おなじ観客を魅了する仕事でも、フィールドが違えば力を発揮できません。

おなじ体を治す目的でも、鍼灸という東洋医学の手法を最大限に活用するなら、東洋医学の診方で病気にスコープする必要があります。

解剖学は物質科学。西洋医学。
陰陽論は機能科学。東洋医学です。

病気に向かう時、我々は得てして西洋医学の眼鏡で診てしまいがちです。
なぜなら、私たちは小学生のころから、物質を基礎とした科学のみを学んできたからです。

我々は機能を考えるのは苦手なんです。そんなことはない、と思われるでしょうか?

機能を捉えるのがいかに難しいか、これは著名な解剖学者である養老孟司先生がおっしゃっているとおり、脳と心の関係に目を向ければ分かります。

脳を物質的に捉えたとき。子供でも子供なりの捉え方ができます。
脳って、どんなもの?…理科の好きな子は、絵にかいて示すでしょう。

脳を機能的に捉えたとき。脳の機能といえば、指令・感覚・こころ。イメージはできますね。
では、こころって、どんなもの?…説明となると、ノーベル賞クラスでも難しい。

機能は、物質という実体の持つ実用です。実体そのものではないので、「実体がなく抽象的」と感じてしまいがち。砂糖(実体)と甘さ(実用)の関係です。つながって、つながらない。 

「気」という言葉があります。もちろん東洋医学の言葉です。
これは陰陽論の核になる概念で、「気」を現代語訳すると「機能」です。
「機能」を基礎にして理論を組み立てるのが東洋医学です。
つまり、陰陽や気を理解したうえで、打つ鍼。出す漢方薬。これが本格的な東洋医学の治療といえます。
東洋医学が、西洋医学では治せないものを治すことができるのは、西洋医学とは基礎にしているものが違うからです。


※「気」については、「東洋医学の『気』って何だろう」をご参考に。


では、本題に入りましょう。一般的な鍼灸と比べ、東洋医学の鍼灸は、具体的に何が違うのでしょうか。たとえば「ここが痛い!」というところに、たくさん鍼を打ってもらったが治らなかった。ところが、関係のないところに一本打ってもらったら良くなった…ということが、よくあります。また、肩こり・腰痛・膝痛のような整形外科の治療しかしない鍼灸院が多い中、内臓疾患・アレルギー・風邪など内科疾患まで幅広く治療する鍼灸院もあります。これはなぜでしょう。西洋医学的な鍼なのか、東洋医学的な鍼なのか、その違いです。

当然、病気を診るとき、東洋医学の目で見ると、西洋医学とは切り口が違ってきます。
その具体例が、東洋医学的な問診・舌診・脈診・腹診・切経・望診です。
一般的な鍼灸院では、この診察を行いません。

1.問診
患者さんが治療してほしい症状について、詳しく聞く。これは一般的。東洋医学では、それ以外の症状も詳しく聞きます。たとえば、食事について。のどの渇き方・便通について・小便の出方・目鼻耳の状態・痰の有無・睡眠状況・冷え症かなど、患者さんが普段あまり気に留めていないことまで詳しく伺います。特に初診は時間をかけて、1時間で足りなければ、もっと時間をかけて、じっくり伺います。一見無意味に思えるような質問内容ですが、一つ一つの項目には何種類もの意味があり、こうして問診を行うことで、東洋医学的に、この患者さんがどういう原因で病んでいるかが見えてきます。すべてを「陰陽」というフルイにかけて分別・分析し、統合して体質を把握するためです。

2.舌診
東洋医学では、肩こりであろうが、癌であろうが、必ず舌診を行います。舌を見てわかることは、まず熱か冷えか。虚か実か。虚ならば、気虚か血虚か。湿痰は? 瘀血は? 注目して診ているのは、舌の力の入り具合・舌の赤さの程度・舌の苔の厚さの程度・苔の色・舌の動き方・舌の裏にある静脈の色や太さ…等です。これらから陰陽のバランスの状態を把握し、病気を分析します。舌診は病気の改善度や重症度が一目で分かる診察法です。

3.脈診 
脈診とは、手首の脈に触れて診察することです。東洋医学では、必ず脈診を行います。おそらく、最も熟練を必要とする技術です。脈診が教えてくれる最も大きなものは、治療前と治療後の脈の変化を追うことで、どの程度治療が効いているかを知ることです。脈診の技術は、東洋医学を専門にしている治療家でも、技術の差が大きく出ます。脈で何がどこまで分かるかは、その治療家の技術レベルに左右されます。 たとえば、脳梗塞を起こす前夜にそれを脈診で見破り、治療して回避する…なども可能です。

4.腹診 
腹診は、おなかを触って診断する方法です。虚か実か。つまり、弱りが中心か、病理的副産物が中心か。まず、それが診断できます。特に鍼灸では、虚や実が、体の上下・左右どの方向に偏っているかを診断します。こういう診断が、きめ細やかな治療方法・ダイナミックな効果に反映されます。熟練した治療家ほど、おなかの触り方がソフトです。あまり強く押さえたりせずとも、軽く触れるだけで、エコーのように深い部分まで触知します。ときには手をかざして異変を感じ取ります。


※虚・実に関して…「正気と邪気って何だろう」をご参考に。

5.切診
切診とは、手・足・背中のツボや、ツボとツボを結ぶライン(経絡)を触って診断することです。漢方薬を専門とする治療家は、あまりしません。切診では、ツボを診ることで、どの経絡が病んでいるかが診断でき、問診・舌診・脈診・腹診を参照・統合し、高いレベルの診断にしていきます。これも熟練が必要ですが、軽く触れるだけで、効くツボか効かないツボかが分かります。手をかざして診ることもあります。

6.望診
命にかかわる重症疾患や、急に体調を崩すときなど、顔色が全体的に悪くなりますね。専門家はもう少し細かいところまで診ます。顔面のなかでも、顔の中心部、つまり鼻を中心とした周囲が最も重要です。他の部分と比較して色が薄くなったり濃くなったりしているのが体調の悪さを示します。また、顔面だけでなく、全身の皮膚の色、つや、きめ、吹き出物の出ている部位、爪の色も診ます。



以上、代表的な診察法を6つあげました。東洋医学的な治療は、細かい部分に鋭い視線を注ぎます。こうして得られた情報を分析し、診断した「陰陽のひずみ」を、元に戻す目的をもって行いますので、安易な鍼は打ちません。一つ一つの診察法の精度を高める努力を惜しまない、それが本格的な東洋医学の治療法の最低条件といえます。これら診察法はどれもみな、体得するためには、長年の学識と経験が必要です。各診察を本当にやっているか、やっていないかは、治療を実際に受けてみれば、雰囲気で伝わってくると思います。