スポーツ障害に鍼灸が有効であることは今や常識です。アスリートは競技だけでなく、ケガとも戦わなければならないのは宿命のようなもの。痛いところに鍼をして鎮痛するスポーツ鍼灸。その一方で、痛みとは一見関係なさそうな離れた場所に、一本の鍼を打つ東洋医学的鍼灸。どちらもスポーツ障害に非常に有効です。どんな違いがあるのでしょうか。

鍼の即効性
スポーツ鍼灸は、患部を中心に鍼灸を行い、痛みを取ります。場合によっては、驚くほどの即効性があり、即座に痛みが消えてしまうことも珍しくありません。一方、東洋医学的鍼灸は、全体の体調を整え免疫を高めると同時に、ケガをした箇所とうまくバランスをとるような形で、体をシーソーのように動かし、痛みを取ります。やはり即効性があります。そもそも、鍼には「循環させる力」があり、それをうまく運用できれば痛みが止まります。

痛みって何だろう
例えば、背中をぶつけて大きなケガをしたとします。骨折したと考えてもいいでしょう。もし、この人が痛みを感じなかったら?。痛みがないから楽ですよね。激しくスポーツすることもできます。でも、これでいいの? 痛みがないから本人は気にもしていない。どんな傷の大きさかも分からない。傷は、気にするから治りもしますが、気にしなければ、ぶつけてもお構いなし、化膿しても平気。痛みは必要なんです。これ以上の悪化を防ぐための抑止力・ブレーキです。

ケガ人? それとも病人?
例えば、疲労骨折と、高いところから落ちた骨折とは、まったく意味が違います。疲労骨折を起こすということは、その人の体がすでに不健康な状態。つまり病人です。一方、健康な人が落ちて骨折したのなら、病人とは言わず、ケガ人と言います。同じ個所を何度も捻挫するのは、ケガ人ではありません。ケガは偶然によるもの。必然ならば病人です。

「痛み止め」の落とし穴
肉離れ(筋断裂)で考えてみましょう。これにも病人とケガ人の区別があります。病人は、立ち上がっただけで肉離れを起こした人。ケガ人は、通常あり得ないほどの体勢を余儀なくされて肉離れを起こした人。「ケガ人」には痛む部分に鍼をして早く治しても、何の問題もなく有用です。一方、「病人」に同じことをやるとどうでしょう。痛みという抑止力がなくなれば、厳しい練習が待っています。病人の抱えた疲労は癒される間がありません。その疲労が元となって、また新たにケガをしたり、場合によっては、内臓の病気やメンタルの病気に移行することも考えられます。プロ野球の一流選手が覚せい剤に手をかけるなど、まさにこの落とし穴に気づかないために起こる悲劇…そういう可能性があります。

鍼だけでなく、マッサージ・痛み止めの薬・注射も、コルセット・テーピング・シップに至るまで、痛み止めという意味で用いられるものは、すべて同様です。単純な痛み止めを行う場合、「ケガ人」か「病人」かの見極めが大切で、これを抜きにしての痛み止めは、危険と言わざるを得ません。

これはスポーツマンに限ったことではなく、一般の痛みを抱える方々すべてに言えることです。その例として「あわや難病、原因はゲーム?」をご覧ください。足の痛みを痛み止めで消すと心臓の痛みが出た症例ですが、端的でハッキリしています。

※夜も寝られないような自発痛(じっとしていても取れない痛み)があれば、疲労が取れない。疲労が取れなければ免疫は働かない。身体を休めるための痛み止めは、適宜もちいるべきである。

知られざるメカニズム
痛みは抑止力であり、信号です。信号は邪魔かもしれませんが、必要ですよね? 体が信号を赤から青に、ゴーサインを出したとき、痛みは自ずと消失します。それを最大限にスピーディーにする鍼…それが東洋医学的鍼灸です。疲労を速やかに取り去り、炎症を治す免疫力を高める。そういう意図をもつ東洋医学的鍼灸は、痛む場所にはあえて鍼をしません。痛いところに鍼を打って治すと、その時は良いがすぐまた痛くなったり、場合によっては別の個所にもっと強い痛みが出ることを、東洋医学の専門家は良く知っています。痛みの原因である疲労を取る手段を考えず、痛みだけを取ろうとする…。近年のスポーツを学ぶ子供たちのケガの多さは、こういうメカニズムがあると考えられます。

時処位に応じて
痛み止めという意味でも、東洋医学的鍼灸は即効性があります。ただし、これは「ケガ人」に治療したときに言えること。説明したように、「病人」に治療しても、その場で痛みを取ることはできません。疲労が取れるためには、しばらく時間がかかるからです。ですから、どうしても短期の即効性を求めるなら、スポーツ鍼灸の方が優れているといえるでしょう。大切な試合の当日は、とりあえず痛みを止めたいですから。しかし、それはあくまでも体を犠牲にして試合に出るということを理解したうえで、ということが大切です。スポーツをするための体力・筋力・技術を高めるためには、長期に渡ってスポーツを続け、激しい練習に耐えられる体こそが求められます。そういう長期的視野で痛みと向き合うなら、東洋医学的鍼灸の方が優れています。適材適所で用いるべきでしょう。


「野球肩」 をご参考に。