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44歳。女性。

今朝、起きようとすると右側腹筋が痛い。
現在も動き始めが痛い。動き出すと数分でましになる。
どこが痛いかと聞くと、右腰の外側に手を当てている。
重い痛みだというが、寝がえりのたびに顔をしかめて「イタタ」。
筋肉を傷めるような原因は思い当たらない。ちなみに側腹筋は肋間神経の支配下。
台風の影響で、ここ1週間ほど雨続きだった。昨夜、台風が最接近した。また、10日前から気温が急低下し、29℃あった最高気温が15度まで低下した。

触診
患部に手を触れてみると、広い範囲ですこし腫れて膨隆している。ここが痛いかと聞くと、そうだと答える。しかし、邪実の反応としては弱い。熱感なく湿痰のような実体性もない。気滞のような動きもない。水邪と言われればそんな感じもする。
どこかに中心があるはずだと探ると、膨隆部位の左端である右脾兪に沈んだ邪実がある。この邪実は沈みすぎて直接取ることはできないが、この反応が緩めば痛みは取れるとみる。右脾兪ということは、湿気の影響を受けた可能性がある。雨が続くと湿気が体に影響することがある。
井穴診を行う。右厲兌・右至陰に少し反応があるが、ハッキリしない。
湿痰を疑い、豊隆を診るが反応なし。
水邪を疑い、陰陵泉を診ると、左に沈んだ実の反応。

よって水邪を取れば右脾兪の邪実が取れ、痛みが取れると判断する。

望診
表証なし。
取るべき邪実がある。正気を補えば結果として取れる邪実ではなく、純粋な瀉法が必要。

脈診
幅なし。瀉法で邪実をとることは不可能。たとえ平補平瀉でもよくない。純粋な補法が必要。

治療
右内関に00番の極細鍼で補法。置鍼はせず、すぐに抜く。その後20分休憩し治療を終える。

効果
治療直後、左陰陵泉・右脾兪の反応は消失。寝がえりの速度が速くなり、痛みは10から5に減少。その直後から小便に何度も行き、その度にたくさん出る。帰宅後、昼寝をして目覚めると、痛みは全くなくなっていた。昼寝から起きてからは小便は普通に戻った。
肋間神経痛の図

専門的考察
望診と脈診の診断が合わない。通常使用する十二経の枠組みでは対処が難しい。なぜそうなるかを力ずくで考察してみたい。

まず治療だが、正攻法では難しいと考えた。よって奇攻法を考えた。奇経の応用である。
一般に使う十二経は正経ともいわれ、それに対するのが奇経。本症例で用いた内関は、奇経の陰維脈を強く意識した。なので、内関で直接、水邪を取る気はまったくない。

そもそも、奇経とは何か。
よく言われるのが、ダムのような働き。正経に余りが出たとき、奇経に流入して蓄える。正経が不足になった時その蓄えを使う。大切なことは、正経(臓腑経絡)の気は一定不変に保たなければならない、ということ。そのために奇経があるともいえる。
陰維脈を補う必要があるということは、陰維脈というダムがなかったということで、これを造るということだ。

では奇経の中でも、なぜ陰維脈だけが機能していなかったのだろう。

一つ考えられることはこうだ。正経が余りを出すほどの力がなく、奇経そのものが、やや機能を低下させていた。そこに急激な季節の進み方で寒くなる。

その前にそもそも、陰維脈とは何だろう。陰維脈は陽維脈と対比して理解する必要のある機能だ。生命にはいろいろな機能的構造がある。その一つが表裏(外と内)という骨組みである。なぜこういう骨組みが必要かというと、陰陽気血は出入しなければならないからである。出入…例えば衛気であれば昼間は外に出て陽気(活動)を生み、夜は内に入って陰気により中和される。これが活動と睡眠を可能にしている。営気や血は外に出ることはないが、外を守るべき衛気を内から支えている。こうした陰陽気血の出入は表裏という骨組み(両維脈)が機能しているからできることである。

この表裏の骨組みで、表の大きさと裏の大きさは、季節によって違いがある。夏至を中心とした日の長い期間は表(陽)が大きく活動的となり、冬至を中心とした日の短い時期は裏(陰)が大きく安静的となる。

10月、夏から冬に向かう時期に、暑い気候から急激に寒くなると、日の短い時期に大きくなるべき裏のキャパが追い付かず足りなくなる。これが陰維脈が機能しなくなる原因であると考えた。そのうえ、急に寒くなったことで寒湿の邪がはびこる。もともと冷えがあり、いくらか水邪を持っていたところに以上のような条件が加わり、水邪がひどくなって気機を阻害している。

陰維脈を補うことで、奇経というダムが機能し、結果として正経は奇経という後ろ盾を得た。こう考えると奇経の後ろ盾がなかったから正経は弱っていたと逆算できる。

また、寒さ(陰)に見合う裏(陰)のキャパが得られたことで陽気が裏に充填され、水邪を排泄することができた。裏のキャパが少なく、表のキャパが多いままだと、裏を温める陽気が少なく、表に分散してしまう。こう考えると水邪の停滞は裏のキャパ不足が原因と言える。

本症例で、正経は正気を補うことも邪気を瀉すこともやりにくい状態だった。これがこうも簡単に解決したのは、目の付け所をうまく変えることができたからだと思う。

もちろん内関は手の厥陰心包経に属し、足の太陰脾経とは子午陰陽の関係にあるため、水邪を取ることができたとも考えられるし、脇は足の厥陰肝経に属し手の厥陰心包経が肝に作用したとみることもできる。しかし、水邪が非常に効率的に取れたのは陰維脈を動かした点が大きかったのではないかと見る。


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