原因不明の痛み、線維筋痛症。痛み方は様々ですが、一つ言えることは、痛みは体が発する信号だということ。赤信号をむやみに消すと、あとあと大変なことになる。それは法則です。鎮痛薬に頼るのは、よくありません。これは痛みを伴う疾患すべてに言えることです。



鎮痛剤に依存するのは極めて危険です。詳しくは
「スポーツ鍼灸と東洋医学的鍼灸…長所と短所ここが違う 」
をご参考に。



なら、どうしたらいいの? 東洋医学はその答えを、明確に示してくれています。切り口を変えれば、痛みの大きな原因が見えてきます。

不通則痛

東洋医学では、あらゆる痛みの原因を、「不通則痛」と端的に表現しています。

通じなければ、痛む

では、何が「通じない」というのでしょうか。

通じないのは、モノではありません。東洋医学は物質を基礎にせず、機能(=気)を基礎にする医学です。ですから、通じないのは、機能=ハタラキ=気です。古代中国では、機能という言葉がなかったので、それを「気」と表現しました。

ピンときませんね。機能は理解するのが難しい概念です。なぜなら、我々は小学校のころから、物質を基礎とする学問しか勉強していないからです。機能を考える発想力を教育されていません。

話をもどします。何が通じないのか。機能が通じないと説明しました。でも、それでは理解しにくいので、「栄養分を押し動かし、身体各所に送り届ける機能」が通じない、と考えてください。これが「気が通じない」ということです。
これが不通になると痛みが出る…というわけです。
気が通じないと、各組織は非常に困窮します。それで、なんとか通じさせようと、もがく結果として、気の通り道が緊張し、痛みが起こる。まずは、そう考えてください。これからもっと深い世界をご説明します。


陰陽と境界

この、気の通り道は、西洋医学でいうところの血管でも神経でもありません。血管や神経は物質。東洋医学は、物質的なものを常に度外視して生命を分析しようとします。その切り口が「機能」です。古代中国人は、機能科学のことを「陰陽」と表現しました。陰とは休息。陽とは活動。我々の身体は、この陰と陽を、絶え間なく繰り返して、営まれています。これが健康です。その陰と陽の境界(はざま)にあって、陰と陽を生み出すもの。それが、ここでいう気の通り道です。この道のことを、臓腑経絡といいます

陰陽? 境界? 分かりづらいですね。
上と下…という概念で考えてみましょう。上が陽、下が陰です。この陰陽をきめるには、何か基準が必要です。「上」の上には「上の上」があり、上の上から見たら、単なる上は下になるからです。この基準となるものが陰陽の「境界」です。この境界があって、はじめて上が存在し、下が存在します。境界が陰陽を生むのです。ちなみに、上も下も物質ではありません。こういう視点を東洋医学は重視します。


※「境界」という概念は、北辰会代表・藤本蓮風先生が達観による発案です。 詳細は、藤本蓮風著「東洋医学の宇宙」緑書房をご覧になってください。本ブログでの、「臓腑経絡そのものが境界」という考え方は、そのお考えをもとに創案したものです。
 

実体と実用

砂糖を例にしましょう。これを物質的側面からみると、白い粉。機能的側面から見ると、甘さ。これが物質と機能の関係です。

アマゾンで原始生活を営む部族に「白い粉」を説明するのは簡単です。現物(物質)を見せれば分かる。これが砂糖だよ、と。しかし、「甘さ」を物質で説明するのは難しい。これは、実際になめてみないと分かりません。これが実用(=機能)です。白い粉のことを実体(=物質)と言います。実体がなければ実用は存在せず、実用の無い実体は存在する意味を持ちません

「甘さ」は陰陽で説明できます。たとえば、お米が「甘い」という人がいます。お米なんか「甘くない」という人もいます。「甘い」を陽とするならば、「甘くない」が陰です。そして、陰(甘くない)と陽(甘い)を分ける基準(陰陽の境界)が必ずあります。先ほど説明した、上・下の関係とそっくりですね。このように甘さは、機能(陰陽)のものさしなら、うまくはかることができます。物質のものさしでは、はかることができません。

これらの例から分かるように、陰陽には境界が必ず存在します。しかし、それは非常に流動的で、変幻自在なものです。物質のように固定されたものではありません。


異次元の通り道

東洋医学に関心のある方なら、経絡(けいらく)という言葉はご存知かもしれませんね。経絡の上に経穴(ツボ)が存在する、そう理解されていることでしょう。 実は、これが臓腑(五臓六腑)とつながり、渾然一体として陰陽を生み出す境界を形成する。そう考えると、ツボも経絡も臓腑さえも、物質ではない…ということが分かります。ツボを解剖学的に見つけようとしても、見つからないのは当然のことです。砂糖を視覚的に分析し、甘さを見つけようとするようなものです。

物質的アプローチで、ツボを探すのは不可能だし、本当に効く鍼を打つことも不可能です。機能的アプローチ。腕のいい鍼灸師は、そういう次元から患者さんを診ています。東洋医学、とくに鍼灸が、異次元の不思議な雰囲気があるのは、視点を注ぐ次元が異なるからです。 砂糖でお話したように、白い粉を見たり触ったりしているだけでは、その世界には入れません。なめてみないと味は分からないのです。

砂糖(病気)という同じものを見ていても、白い粉としてみる(西洋医学)か、甘さとしてみる(東洋医学)かで、次元が全く異なります。
肉体は物質です。生命は機能です。生命は、物質の物差しでは、はかることができません。
機能とは何か、気とは何かを理解することは、生命を癒すことに直結します。

気(=機能)の通り道…臓腑経絡。これは教科書をいくら勉強しても、理解できるものではないということが、お分かりいただけるでしょうか。真摯に東洋医学を求め、実践を積んだ人のみが味わえる世界です。それは、砂糖をなめたことのある人のみが、砂糖の味を知ることと同じです。そういう次元の通り道がある。それを通じさせると痛みが止まる。その事実は、砂糖に「甘さ」が存在するほどに、確実に存在する。



肝臓・脾臓・腎臓などの言葉は、東洋医学では意味が全く違います。なぜ? 詳しくはこちらをどうぞ。
「五臓六腑って何だろう」  


臓腑経絡の図
ここに臓腑経絡(=臓腑+経脈+絡脈+孫絡)の模式図を載せました。誤解してほしくないのは、この図は決して実体のあるものではない、ということです。この図は 実体ではなく、実用。人体の実体は、血管・神経・脳・心臓…などの解剖学的器官です。それらにそなわった実用を、あえて模式図化したものです。砂糖でいえば、白い粉を図にしたのではなく、「甘さ」を図にしたものです。かなり無理やりですね。


境界が陰陽を生む


図の青い部分は、すべて臓腑経絡のラインです。このラインすべてが、陰陽(生命の休息と活動)を分ける境界としての働きを示しています。血液が流れているわけでも、神経インパルスが検出されるわけでもありません。

このラインが通じるということは、陰陽の境界がハッキリするということですので、陰陽は本来の働きができます。陰陽の働きとは、よく活動し、よく眠る…ということ。活動と休息ですね。健康の必須条件です。

もし、このラインが通じないと、陰陽の境界があいまいになる。つまり、陰陽が働きづらくなる。眠りにくいし、動けない。どちらもできない中途半端さ。「痛苦」とは、そういうことです。鎮痛薬で痛みをとめても、陰陽は働きません。むしろ、別のところが痛くなったり、別の病気を引き起こしたりして、生命は陰陽の危機を、我々の意識にむかい、必死に訴えてきます。それが病苦です。



前置きが非常に長くなりましたが、本題にもどります。
臓腑経絡が通じなければ痛む。では、臓腑経絡の中の何が通じないのか。
陰陽の境界ラインという概念では、機能の本質そのもの過ぎてイメージしにくいので、前述の「栄養分を押し動かし、身体各所に送り届ける機能」が通じない、という考え方で説明を進めます。栄養分は源であり、源が陰陽を動かすもとになるものです。「一源三岐」という言葉を彷彿とさせます。
その機能を阻害する原因を簡単に見ていきましょう。 
線維筋痛症のような痛みが起こるのは、臓腑経絡の内、主に経脈・絡脈・孫絡に以下の1~7の問題が出る場合です。
それら問題が、もし、臓腑そのものを戦場として引き起こされるならば、内臓疾患となります。
これを考えても、痛みは、重病を未然に防ぐ「赤信号」であるというカラクリが良く分かります
何度も言います。鎮痛剤に依存するのは危険だ、ということです。

1.気滞
2.邪熱
3.湿痰
4.瘀血
5.外邪
6.血虚
7.気虚

 1. 気滞
気が滞った状態を気滞と言います。不通則痛が起こる原因の大原則は、気滞の存在です。気滞が臓腑経絡のラインに存在すると、陰陽が動きにくくなります。

気滞の原因で一番多いのは、ストレス。次に運動不足。まれに運動のし過ぎで気滞をおこすものもあります。

気滞は緊張とも言えます。緊張は、精神的・肉体的、両方の緊張です。

純粋に気滞のみの痛みなら、重症度でいえば、比較的軽い段階のものと言えます。ですので、時に強く感じたり、時に何も感じなかったりします。ストレスで悪化したり、運動すると楽になったりします。

多くは突っ張るような痛みがあり、すこし揉んだりシャワーを当てたりすると楽になります。

気滞を取り去る調整法(瀉法)を行い、治療します。多くは肝臓と関連のあるツボを用います。肝兪・合谷・後渓・百会・行間など。


詳しくは下記をご参考に。



2. 湿痰
湿痰とは水(ここでいう水とは、栄養分を含んだ水分のことです)の滞りのこと。水はサラサラ流れているから水でいられますが、モタモタしだすと粘ったものに変化します。これを湿痰といいます。モタモタする原因は、過剰な水が体内にあるから。つまり、食べ過ぎ・飲み過ぎ+運動不足。これらが湿痰を形成します。

湿痰は、気(めぐらせる機能)を阻害し、結果として気滞を生じ、不通となり、痛みが起こります。この気滞は、湿痰を除かなければ取れないので、単なる気滞による痛みよりも、しつこくなります。湿痰は水で陰なので、動かない性質があります。だからしつこくなると考えます。

食べ物は、糖分・油脂分に注意。長い蓄積が湿痰を生みます。

患部は、もちのようなモッチャリ感があり、重だるいような痛みです。揉んでもらっている間は楽でも、揉むのを止めると、すぐに痛み出します。

湿痰を取り去る調整法(瀉法)を行い、治療します。多くは脾臓と関連のあるツボを用います。脾兪・胃兪・豊隆など。



詳しくは下記をご参考に。


3.邪熱
気滞が強くなると邪熱に変化します。気滞=緊張。緊張が長く続くと熱を生む。これは自然法則です。空気も圧縮すると熱くなります。地球の深部は引力で高圧・高温です。気は陽なので、熱化しやすいとも言えます。気滞の原因はストレスや運動不足でしたね。これが邪熱を生むわけです。

また、湿痰も邪熱のもとになります。湿痰があれば、流通が悪くなるので、結果的に気滞を生じます。その気滞が邪熱に変化し、湿痰と結びつきます。この状態を湿熱と言います。湿熱は邪熱の一形態です。湿痰は食べ過ぎが原因でしたね。これが邪熱を生むわけです。


つまり、邪熱の原因の元は、ストレスや食べ過ぎということです。 

気滞がこじれて邪熱が起こりますので、不通となるのは当然です。おまけに炎症が起こるので痛みは激烈です。炎症があるので、冷やすと気持ちよく感じます。逆に温めると悪化します。揉むと悪化します。

督脈(背骨に沿ったライン)上のツボを用いて、邪熱を取り去る調整法(瀉法)を行い、治療します。邪熱は、気滞や湿痰がこじれて生じたものであるため、難易度が高い調整法となります。



詳しくは下記をご参考に。

4.  瘀血
気滞が長期間いすわると、めぐりの悪さが血を凝結させます。血がモタモタした状態を瘀血と言います。ストレスや運動不足は気滞を生み、その結果、瘀血を生み出すというわけです。瘀血が部分的に存在すると、その部分の流通は復活しません。瘀血が気滞を生み、気滞がまた瘀血を生むという悪循環に陥ります。気滞のみの痛みとは異なり、ましな時間帯がなくなってきます。

患部には赤や紫の糸状の血管が見られることがあります。瘀血の一部が皮膚にも現われます。血(物質)は気(機能=陽)に対して陰の性質をもっており、瘀血の痛みは、刺すような痛みが特徴。また、痛みが夜中(陰)に増悪するのが特徴です。これでは疲れが取れず、痛みも治りません。

血に関わる特殊なツボである三陰交や臨泣などを用いて、瘀血を取り去る調整法(瀉法)を行い、治療します。瘀血は、気滞がこじれて生じたものであるため、難易度が高い調整法となります。




1~4は、互いに関連性があります。「正気と邪気って何だろう(1)~(7)」で詳しくまとめてあります。


5. 外邪
昨日まで暖かかったのに急に寒くなった…。低気圧が近づいてきた…。連日の雨が降り続いている…。こういう外部環境の変化(外邪)で痛みが起こることがあります。外部環境(自然気象)は、内部環境(人体)と密接な繋がりがあります。人間という動物は、他の動植物と等しく自然の一部だからです。急激な冷えや湿気が気(循環機能)を阻害し、気滞を生じ、痛みが発生します。冷えも湿気も陰の性質を持ち、陽の性質を持つ気を押さえつけます。

気をめぐらして外邪を取り去る治療、湿痰を取り去って湿気の影響を受けなくする治療などがあります。また、外邪を受ける背景には、6.血虚 や 7.気虚 などの体力の弱りがあることがほとんどで、それらの体力を補う治療も必要です。 



詳しくは下記をご参考に。
「外邪って何だろう」


6. 血虚
東洋医学でいう「血」とは、栄養分の保管場所です。その場所が狭くなることを血虚といいます。血虚が起こると栄養分が足らず、流れるものが足りなければ通じませんので、不通と同じ状態が起こります。

血虚はなぜ起こるのでしょう。ストレスがひどく、気滞のレベルが強いと、気(陽)と血(陰)の平衡関係がくずれ、気を支えていた血が弱ります。気滞による痛みが慢性化し、それが体力を弱らせるほど長期化すると、体力の弱りが痛みの中心になり、血虚による痛みとなります。血虚は気滞を取れにくいものにし、慢性的に痛みがおこります。体力が弱る背景には血のソースである、消化・吸収・栄養作用…これらをまとめて脾臓と言います…の衰えがあります。

ストレス・運動不足・飲食の不摂生・消化器の弱りなど、複数面から体力を回復させる必要があります。

患部は筋張って血色がよくありません。

「血」という体力を補う調整法(補法)を行い、治療します。肝臓・脾臓に関連のあるツボを用います。肝兪・  脾兪・太衝・三陰交・血海・公孫など。



詳しくは下記をご参考に。



7. 気虚
気(押し動かす機能)が弱ると、栄養分を身体各所に届ける力が弱くなります。もし、ウィークポイントが体の一部にあれば、特にそこの流通が悪くなり、不通となり、痛みが出ます。だるく力が入らないような痛みです。

気が弱ると、全身的な機能低下が出ますので、体がだるく、しゃべるのがおっくうになり、食欲もなくなります。 

 治療は主に、気のソースである脾臓・腎臓を丈夫にすることを主眼とし、同時に気をめぐらす処置を加えます。脾兪・公孫・足三里・腎兪・陰谷・照海など。



詳しくは下記をご参考に。
「東洋医学の脾臓って何だろう」