今回は、下痢についててす。東洋医学では下痢をどのように診立てて治療するのでしょうか。
舞台となるのは胃腸です。ですが、もう少し視野を広く考えてみましょう。

脾臓とは
『まず、飲食物が口から入ります。その後、胃腸にはいり、栄養分と水分がこしとられます。栄養分と水分は全身をめぐり、各細胞にエネルギー源として供給されます。各細胞はこのエネルギーを使って活動し、その結果として栄養分と水は消えてなくなります。また、栄養分と水をこしとられたカスは大便として排出されます。』

『』で区切った働きを、東洋医学では「脾臓」と呼びます。上の文章を何度も引用すると文章が煩雑になります。なので、上の機能をまとめて、「脾臓」と呼んで話を続けます。東洋医学の五臓六腑は物質ではありません。機能を指した言葉です。

この脾臓を、東洋医学では「土」に例えます。フワフワの森の土をイメージしてください。

制水とは
土は、落ち葉や動物の死骸・糞尿などを受け入れ、同時に雨を受け入れます。少々雨が降っても、水はあふれ出すことなく、土の中に保水されます。
これは、人間が食べたり飲んだりしたものを胃腸が受け入れる姿です。食べたり飲んだりしたものがすぐに糞尿として漏れ出すことはありません。これを制水機能と言います。

保水された水は、フワフワの土に抱かれ、少しづつ植物の根に供給され、草木を養います。雨が数日降らなくても枯れることはありませんし、水浸しになって根腐れすることもありません。
人間も、半日食事を摂らなくても栄養失調になることはありませんし、たくさん食べたからといって血糖値が上がりすぎることもありません。

泌別とは
土にはたくさんの微生物がいて、水で湿った落ち葉を分解し、土に張りめぐらされた草木の根は、細かく分解された栄養分+水を吸収します。
これは胃腸が、食べたり飲んだりしたものを消化酵素で分解したり、腸内細菌が分解したりして、細かくなった栄養分を、小腸の柔毛が吸収する姿です。飲食物から有用な栄養や水分のみを選択し吸収し、無用な大便を捨て去る働きを泌別機能と言います。

運化とは
地下水は泉として湧き出し、川の源泉になります。川は大地を網の目のように流れ、行く先々で命を養います。また地下水は土を隅々まで潤し、木々をはじめとした命を養います。少々雨が降らなくても、少し穴を掘ると湿った土が出てきますね。土にはジワジワと水を行き渡らせる力があります。
人体でも同じように、吸収された栄養分+水は小腸の柔毛の毛細血管に湧き出し、ここが肉体維持の源泉になります。この源泉から、各細胞に毛細血管を張り巡らせ行き渡らせます。これを運化機能といいます。
ちなみに心臓のポンプ作用=毛細血管の血流 ではありません。人体の血管をすべてつなぎ合わせると地球の2周半もの長さがあると言われます。これを心臓という小さなポンプで循環させるわけには行かないことは想像に難くありません。事実、木々が水を吸い上げる力はポンプなしの現象です。毛細管現象で吸い上げているとも考えられていますが、実際のところは生物学的にもよくわかっていないようです。そんな不思議な力を古代中国人はすでに知っていて、運化と名付けました。ポンプのような激しい水流ではなく、しみわたるような土の作用…毛細血管が機能するかしないかは脾臓がしっかりしているか否かによります。地上における命のある所すべてに共通するのは土が湿っていること。網の目のように遍く行き渡らせるのが運化機能です。

このように、土は脾臓とそっくりです。

ただし、上に述べたのは、健全な土の場合の話。また健全な脾臓の場合です。

不健康な脾臓の場合
では、不健康な脾臓ならどうでしょう。
これは不健康な土と対比するとイメージしやすくなります。健康的な土がフワフワの土なら、不健康な土はドロドロの土です。

ドロドロの土は、雨水がしみこまず、濁水となって流れるのみです。土の中で微生物は生きていけず、落ち葉や死骸は分解されないで、腐って異臭を放つでしょう。当然、木々は生い茂ることができず、雨が降れば、虚しく濁水が下に下にと流れるのみです。
人間が食べたり飲んだりしたものも、胃腸で保持されず、吸収して各細胞に送ることもできず、液状のまま肛門から下痢として流れ出ます。

これが下痢の基本病理ですが、もう少し東洋医学的に、機能的・総括的に掘り下げてみます。

湿邪とは
ドロドロの土は、土として機能しておらず、人体ではこれを脾臓の弱り…という意味で「脾虚」と言います。脾臓は飲食物の受け皿、土は雨の受け皿です。もともと水はけの悪い土=脾虚 と考えると分かりやすいでしょうか。具体的には脾虚とは、制水・泌別・運化の各機能が低下した状態です。

土の中のドロドロの部分を、人体では「湿邪」と言います。大量の雨が降っても土はドロドロになるし、もともと水はけの悪い土なら少量の雨でもドロドロになります。

脾虚は湿邪を生みます。
湿邪は脾虚を生みます。
脾虚と湿邪は、鶏と卵の関係です。

脾虚があると、栄養分+水が吸収できません。
これはつまり、飲食物は体内で、栄養分+水 と 大便 の2つに分かれることができないということ。
この、体内で2つに別れることのできないものが湿邪です。すなわち泥水です。



泄瀉の図






清と濁
泥水をグラスに入れて放置すると、沈殿物が下に、澄んだ水が上に…こういう分離の仕方をしますね。沈殿物は大便です。澄んだ水は栄養分+水です。澄んだものを「清」といい、濁った沈殿物を「濁」といいます。

自然界では、フワフワの土に泥水が浸み込むことによって、泥水は清と濁に分けられます。清は地下水として、濁は土の一部として。泥水は清と濁に分けられるべきものなのです。

人体でも同じです。飲食物が口から流れ込んでくると、脾臓に浸み込む形で清と濁に分けられます。清は有用なもの(栄養分+水)として取り入れられ、濁は無用なもの(大便)として捨てられます。脾臓とは、制水・泌別・運化などと説明しましたが、言葉を変えて言うと、飲食物を清と濁にわけ、清をめぐらせ濁をすてる働きといえるでしょう。

清濁に分かれることのできない濁水…これが湿邪です。制水できず、泌別できず、運化できぬままのもの…湿邪はそうまとめることができるでしょうか。この湿邪が肛門から流れ出る…これが下痢の基本病理です。

以上を踏まえたうえで、下痢のいくつかのパターンを見ていきましょう。
下痢には急性と慢性があります。

◎急性下痢
1.寒湿によるもの
寒湿とは寒邪+湿邪のことです。湿邪は脾虚の原因になることは上に述べたとおりです。寒湿には外感・内生の2種類があります。

冷たい雨で寒く湿気が多いのが続くと、寒湿が人体に影響し、下痢を起こします。ここでいう寒湿は。気候つまり外気の影響を指し、外感の寒湿といいます。
また、寒湿は冷たい飲食物の摂りすぎでも体内に生じます。この寒湿は飲食の影響で、内生の寒湿といいます。

土に豪雨が降り続くと考えて下さい。おまけに気温が低いので、水分が蒸発せず、土は水浸しになったままになります。いくら健康的な土でも、すべての水を吸収し保水するわけにはいかなくなり、土砂災害が起こってしまいます。
人体も、そういう雨が降り続くと脾虚を起こし、清濁を分けて清を行き渡らせ濁を排出することができず、清濁混淆のまま下痢として流れ出てしまいます。

症状
やや生臭い匂いがありますが湿熱下痢ほど強烈な匂いではありません。サラッとした下痢がでます。気温が低いと泥水は腐らないからです。
腹痛があります。寒湿により流通が滞るからです。
食欲がなくなります。寒湿が脾臓を弱らせるからです。

治法
芳香化湿・解表散寒…軽く気をめぐらしながら脾臓を助けて湿邪を清濁に分けます。同時に寒邪を散らします。

鍼灸
外関・列缺・足三里・申脈など。

漢方薬
藿香正気散など。

2.湿熱によるもの
湿熱とは湿邪+邪熱のことです。湿邪は脾虚の原因になることは上に述べたとおりです。湿熱には外感・内生の2種類があります。

高温多湿で蒸し暑く何日も雨が続くと、湿熱が人体に影響し、下痢を起こします。ここでいう湿熱は、気候つまり外気の影響を指し、外感の湿熱といいます。
また、湿熱は脂っこいもの・甘いもの・アルコールの摂りすぎでも体内に生じます。この湿熱は飲食の影響で、内生の湿熱といいます。

土に豪雨が降り続くと考えて下さい。おまけに気温が高いので、水浸しになった土は異臭を放つようになります。土はドロドロでくさい。降り続く雨は土に浸み込むことができず、表面を流れて土砂災害が起こってしまいます。
人体も、そういう雨が降り続くと脾臓が弱り、清濁を分けて清を行き渡らせ濁を排出することができず、清濁混淆のまま下痢として流れ出てしまいます。

症状
下痢はドロドロしていて臭い匂いを放ちます。上にご説明したとおりです。
腹痛があります。湿熱により流通が滞るからです。熱による滞りは、ときに激しい痛み方をします。
腹痛してすぐ下痢します。また激しい下痢になります。熱の特徴として活動的・急激性があります。
食欲はなくなるとは限りません。熱がそれなりに飲食物の摂取を促す場合があります。
排便時に肛門が熱い感じがします。熱の特徴です。
下痢の色は比較的鮮やかな黄褐色です。熱は陽なので、どちらかというとはっきりした色、また暖色を示しやすくなります。

治法
清熱利湿…湿熱を取り去ります。また、熱を取り去り水湿の邪を取り去ります。

鍼灸
上巨虚・後渓・霊台・陰陵泉・公孫など。

漢方薬
葛根黄芩黄連湯など。

3.消化不良によるもの
ものすごく食べ過ぎたり、腐ったものを食べて、消化できなくなった状態です。こうなると、脾臓の許容量をはるかに超えた飲食物が入ったことになります。これは、まさしく集中豪雨のようなもので、土は雨水を浸み込ませる許容量をすでに使い果たしたにもかかわらず、まだ豪雨が止まない状態。

症状
未消化なので、下痢は腐臭がし、未消化の食物が混入します、ゲップも腐臭あるいは酸っぱい匂いがします。
腹痛・腹の張りがあります。未消化の飲食物が腹中にあるので、滞りが生じるからです。なので下痢すると痛みが軽減します。

治法
消食導滞
未消化物の滞りを取り去ります。

鍼灸
脾兪・胃兪・中脘・内関・公孫など。

漢方薬
保和丸など。




◎慢性下痢
1.脾虚によるもの
脾虚があれば湿邪が生まれます。土が不健康なので、泥水を吸収し、清と濁に分けられないからです。少量の雨でも泥水があふれて流れます。

症状
脂っこいものを少し摂る・あるいはやや食べ過ぎると下痢するということを普段から繰り返している。下痢には未消化物が含まれている。
食欲がなく、食後胃のあたりが気持ち悪い。
疲れやすく、やる気が出ない。

治法
健脾益気・和胃滲湿

鍼灸
中脘・太白・足三里・滑肉門・天枢・大巨など。

漢方薬
参苓白朮散


2.腎陽虚によるもの
東洋医学では人体を上中下に分けて考えます。脾臓は中にあると考えます。対して腎臓は下にあり、中である脾臓を下から支えています。脾虚が長期にわたって続くと、それを支え世話してきた腎臓にも弱りが出ます。腎臓には、活動(ヒートアップ)の大本となる腎陽と、休息(クールダウン)の大本となる腎陰がありますが、このうちの腎陽が衰えてきます。この病態は脾虚単独よりも重傷で、たよりの腎陽までが弱ってしまった状態です。
土は地温を失い、木々が茂り微生物豊富なフワフワの土とは程遠いカチカチの不毛の土となります。命のもとである水が浸み込む余地はなく、虚しく流れ落ちます。

夜明け前に腹痛が起こり下痢します。大自然では夜明け前が最も気温が低くなります。人体もこれに感応するかのように、夜明け前に腎陽のレベルが低くなるので、食べ物に注意していても下痢が起こります。

下痢した後は力が奪われるような脱力感があります。余計なものを排出するとスッキリしますが、この場合は逆で、生命力が排出されているからです。

普段から、下腹が冷えてジクジク痛み、手足が冷えて寒がります。腎陽のものが弱いからです。

腰や膝に力が入りません。上中下の下が弱いからです。

治法
温補脾腎・固渋止瀉
腎陽を補い脾臓まで波及させます。同時に腎臓の固摂(求心力。下痢として散らばさずに腸内に収める力)を補います。

鍼灸
関元・腎兪・胞肓・百会・滑肉門・天枢・大巨など。

漢方薬
四神丸など。

3.肝鬱によるもの
怒り・悩みなどの感情が度を超すと、肝臓の伸びやかさが失われ、うっ滞します。この状態を肝気鬱結、略して肝鬱といいます。肝臓はもちろん東洋医学の言葉。視覚的にはとらえにくい、機能を表す言葉です。脾臓を土に例えるなら、肝臓は木に例えられます。

自然林は広葉樹や針葉樹の割合が適度で、フワフワの健康的な土となります。ところが人工林はスギ・ヒノキに完全に偏ってしまい、そういう森は砂っぽい土になり、保水性が乏しくなり、土砂は表面を流れます。

人間も、喜怒哀楽の感情はバランスが取れた割合であるべきで、それが健康的な感情です。こういう意識のもとでは、肝臓の伸びやかさは十分発揮され、心身ともに循環がスムーズで健全な状態です。ところが、怒り・悩みといった感情のみに偏ってしまうと、土である脾臓が不健康になってしまい、下痢が起こります。

随伴症状として、側胸部から側腹部にかけての違和感や痛みが見られます。人体を左右に分けたとき、肝臓がそれを支配します。なので体幹の左右に異常が見られます。

治法
疏肝理気・調中止瀉
肝臓を伸びやかにし緊張を解き、気分をスッキリさせ、脾臓を整えて下痢を止めます。

鍼灸
太衝・肝兪・陽陵泉・申脈・外関など。

漢方薬
痛瀉要方など。



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