女性生理について、東洋医学では古くから研鑽がなされてきました。それは婦人科疾患に対応するだけでなく、生命の根源・誕生・成長・老化にいたる哲学にまで言及する内容になっています。

これは東洋医学がもつ信念に基づくものです。対症療法ではなく、病気の意味を考え、真の原因を断つことこそが治療である、そういう信念です。命とは何か、生きるとはどういうことか、そういう哲学を踏むことなく、病気を治すことは不可能なのです。

よって本ブログでは、東洋医学における女性生理の基礎学にさかのぼって考察し、しかるのち各症候の原因と治療法を展開していきたいと思います。

まず、月経を東洋医学的に分かりやすく例えてみましょう。


求心力と遠心力によって解く女性生理
女性生理は周期ごとに訪れます。出血期と準備期に分けると、出血期は生命が拡散して遠心性に働き、準備期は生命が収束して求心性に働きます。ここでいう生命とは、具体的には血のことです。つまり、血が遠心力を持つと出血し、血が求心力を持つと出血しない、ということです。

ハンマー投げを連想してみましょう。ハンマー (砲丸・ワイヤー・グリップ) をグルグル回せば回すほど、砲丸にかかる遠心力 (陽) は増し、グリップにかかる求心力 (陰) も増します。握る力は求心力であり、回す力は遠心力です。この求心力をなくすと、ハンマー (血) は勢いよく飛び出します。しかし求心力の手綱を緩めなければ、ハンマー(血)は飛び出すことはありません。グリップを握って回す力を、東洋医学では「正気」と言います。

また、求心力の手綱を緩めたとしても、遠心力の行く手に障害物があれば、ハンマーは飛び出すことができません。この邪魔な障害物のことを東洋医学では「邪気」と言います。

正気 (生命力) は、遠心力と求心力をうまく調節します。遠心力とは生命活動 (静から動への変化) の動のことで、女性生理にスポットを当てると出血と言えます。遠心力と求心力が互いに協調し合うことによって、生命は保たれているとも言えるし、女性生理は正常に機能するとも言えます。この協調がうまくいかなければ、月経異常となります。

●グリップを回す力は普通でも、握る力が弱いと、ハンマーはでたらめに飛び出してしまいます。…衝任不固。
●グリップを回す力が強いと、握る力が相対的に弱くなり、ハンマーはでたらめに飛び出してしまいます。…熱傷衝任。
●グリップを握る力も回す力も弱いと、ハンマーは飛び出すことができません。…衝任血虚。
●障害物に囲まれていたらハンマーは飛び出せません。…衝任不暢。
一方向に障害物があるならば、ハンマーは飛び出せたり飛び出せなかったりします。
障害物がある場合は、ハンマーはそれに衝突し衝撃が生じます。これが生理痛です。

このようにして月経不順・出血過多・無月経・生理痛・子宮筋腫などが発症します。

この求心力と遠心力をキーワードとして、女性生理を解いていきたいと思います。

      〇

さて、それでは改めて基礎学から始めます。
まずは、
一つ目、子宮について。
二つ目、任脈・衝脈について。
三つ目、肝脾腎について。
これらについて考えます。すべて女性生理を分析するうえでの基本となるものです。


子宮について
まず、子宮です。東洋医学では子宮をどのように位置づけているのでしょうか。

子宮は奇恒の府に属します。奇恒の府は謎の概念です。

奇恒の府とは、子宮・脳・髄・骨・脈・胆の6つです。簡単に言うと、袋のような入れ物を指していると思われます。子宮や脈の中には血が入っているし、胆には胆汁が入っています。頭蓋骨 (脳) ・脊椎 (髄) ・大腿骨 (骨) なども袋状です。

東洋医学では、これらの袋の中には精が貯蔵されていると、ざっくりと考えます。これは私見ですが、人体をバウムクーヘンのようなもの…つまり口から肛門までの管がバウムクーヘンの穴です…と考えると、人体はバウムクーヘンの形をした大きな浮き輪のような袋と考えることができ、これが広義の奇恒の府であると考えています。奇恒の府とは、人体の肉体的側面を表す概念ではないかということです。つまり、子宮は物質である、ということです。

女性の肉体を生殖能力のみにスポットを当てて考えると、人体生命は胎児を宿すための大きな袋…大きな奇恒の府…と考えることができ、それは精で満たされているのです。

         〇

さて、ここまで述べたところで、東洋医学の視点を明確にしておきたいと思います。そもそも、東洋医学とは「気の医学」です。気とは機能(実用)のことです。肉体は物質(実体)で、西洋医学は「物質の医学」です。機能と物質は持ちつ持たれつの関係にあり、この関係は、たとえは脳(物質)と心(機能)の関係、砂糖の白い粉(物質)と甘さ(機能)の関係を例に挙げると分かりやすいかもしれません。こういう例を挙げる必要があるほど、機能とは分かりにくい概念なのです。それでもなお、機能のために物質があるということ、機能が主で物質が従であることは明々白々たる真実です。肉体(物質)があっても生命(機能)がなければ用をなしません。また肉体は物質で健康は機能です。機能は実体のないものですが、その存在は疑う余地がありません。

さきに遠心力と求心力という例えを使って月経を説明しようしたのも、機能を説明するためです。機能は例えによってしか理解することができないからです。西洋医学は物質医学であり、東洋医学は機能医学と言えます。だから東洋医学は分かりづらい。

そういう東洋医学の考え方のなか、奇恒の府は異端ともいえる概念です。


任脈・衝脈について
任脈・衝脈は、中医学では婦人科疾患を語る時に必ず出てくる言葉です。
素問・上古天真論に以下の文言があります。
『二七而天癸至,任脈通,太衝脈盛、月事以時下。故有子。』
【訳】かぞえ14歳になると天癸が至る。任脈が達し、衝脈が盛んになり、月経が周期的に下る。だから子ができるのだ。
任脈・衝脈が月経異常を治すうえで重要視される濫觴です。

任脈・衝脈ともに奇経に属しています。奇経とは、任脈・督脈・衝脈・陰維脈・陽維脈・帯脈・陰蹻脈・陽蹻脈のことです。特に任脈・督脈・衝脈は一源三岐と呼ばれ、空間の原型です。任脈は前(陰)を支配し、督脈は後(陽)を支配し、衝脈は前後陰陽の境界です。

「東洋医学の空間って何だろう」に詳しく説明しましたので是非ご覧ください。奇経は空間の骨格であり、空間は物質と機能を兼ね備えた概念です。もっと明確に言うと、空間から物質と機能は生まれた。つまり空間は物質(陰)と機能(陽)の境界となるものです。人体生命を、物質と機能という相対概念のハザマから見たものが空間なのです。

任脈・衝脈は物質と機能の境界であり、後ほど詳しく展開しますが、これらは精と深く関わります


肝脾腎について
肝脾腎とは五臓六腑の一部です。五臓六腑とは、肝臓・脾臓・腎臓・心臓・肺臓・胆腑・胃腑・小腸腑・大腸腑・膀胱腑のことです。これらは機能を表す言葉で、もともと東洋医学の言葉です。ちなみに西洋医学ではこれらの名を物質(レバー・キッドニーなど)に対して名付けていますが、これは東洋医学の言葉を転用・誤用したものなので、誤解のないように願います。肝脾腎も、やはり女性生理と深く関わります。

肝臓とは蔵血機能のことを指し、蔵血機能とは血の出し入れを調節する機能です。蔵血機能 (求心力) を強めたり弱めたりすることで、疏泄(遠心力)を支配しています。蔵血機能の詳細は「出血…東洋医学から見た4つの原因と治療法」に説明しましたので、そちらをご覧ください。

脾臓とは統血機能のことを指し、統血機能とは血を蓄え保持する機能です。統血機能は制水機能と同じことです。脾臓は、生命を育てる豊かな土のようなもので、大量の地下水を抱擁しています。これも求心力です。詳細は「浮腫…東洋医学から見た5つの原因と治療法」にご説明しましたので、そちらをご覧ください。

腎臓とは封蔵機能があり、求心力の源です。肝・脾の求心力は腎臓の助けを得て機能しています。封蔵の目的は精を蔵することです。精は命を代々に渡って受け継ぐ機能であり、また精は血に変化し、血は生命力(気)の元になります。また、後述しますが、精は発育に深く関わり、月経を起こす原動力になります。

肝脾腎とは機能のことで、求心力のことです。求心力は精を保持するためのものです。


実体⇔空間⇔実用
以上、見てきたように、子宮・衝任・肝脾腎は、すべて子宮のことです。物質的にそれを見るのか、機能的にそれを見るのかで呼び名を変えているに過ぎません。ただし、物質と機能では次元が異なることは前述したとおりです。

子宮という実体ある物質は、物質のままでは名あって実なきものです。そこに血の出し入れ・妊娠・発育などの機能(実用)が備わり、はじめて用をなすのです。この実用が肝脾腎であり、肝脾腎を治療することが子宮の治療に直結します。治療の中心はあくまでも機能です。

ただし、子宮という物質の病変…たとえば出血が止まらない、あるいは月経が来ない…は、血という物質そのものが出るか出ないかに関わります。筋腫という物質にしてもそうです。これは機能的病変というよりも、物質的病変の意味合いが濃くなります。

このような物質的病変にアプローチする術が、衝・任という奇経の運用です。奇経は空間を支配し、実体と実用の橋渡しをする機構なのです。鍼が生理痛をはじめとする機能的疾患に効くばかりでなく、出血・筋腫などの物質的疾患にも効果があるのは、空間という概念が手中にあるからなのです。

女性生理の図

空間とは
では、空間とは何なのでしょうか。人の体には前後・上下・左右という概念が備わります。これが、ここでいうところの「空間」です。当たり前のことのように見えますが、そうではありません。たとえば、河原の石に前後や左右があるでしょうか。意味のないものに空間は備わりません。前があるということは正面があるということで、よほどの実用がない限りそのような概念は存在しません。実は、機能とは意味のことです。何かの役に立つのが機能です。そして役に立つという概念そのものが「意味」といえます。

このように、空間とは機能の概念であると言えます。その一方で、空間は物質の概念でもあります。前後・上下・左右はそれぞれ、その場所を示す概念です。場所とは物質です。空間は物質と機能の双方に通じる概念で、物質(陰)と機能(陽)の境界として、双方を牛耳る立場にあるのです。


精血同源
そういう観点から奇経を眺めてみましょう。奇経は五臓六腑が生み出すところの気血を貯蔵する役割があります。気は機能で、血は物質ですから、奇経が機能と物質の境界であるという考え方からは外れていません。もっと言えば、奇経が貯蔵するのは正気(精・陰・陽・気・血)であると考えられます。

女性生理では、精・陰・陽・気・血すべてが必要ですが、そのうち直接必要なのが精・血です。精は体を成熟させ月経を起こす働きがあり、血は月経の際に必要です。また精は妊娠のためにも必要で、血は胎児を大きくするために必要です。精とは動を生む直前の静のことで、究極の境界です。静とは物質、動とは機能です。求心力の目的は、精を散らさず保持することです。血は物質で気は機能のことですが、物質が機能を生むことは言わずと知れたことです。そういう意味で、血が気をうむのですから、気を生む寸前の血は精です。精血同源とはそういうことです。


衝脈とは
このことを踏まえたうえで、衝脈を解いてみましょう。衝脈は奇経の中の一つでした。奇経は空間であり、物質と機能の境界です。そのような重要な立ち位置にあり、しかも衝脈は、生命の機能的発生学である陰陽発生学の上から見ても、最初に現れる境界で、前(任脈)と後(督脈)を生み、それらを支配します。衝脈が「十二経脈之海」「五臓六腑之海」「血海」という別称があるのは、精と深くかかわるからです。この衝脈が次に述べる任脈を生むのです。

精という究極の境界が、初めて生み出した原始的な陰陽が任・督であり、この陰陽が成長拡大し複雑細分化して肉体組織 (陰=奇恒の府) と生命機能 (陽=肝脾腎) へと発達していきます。その原始的な陰陽である任督の境界が衝脈です。衝脈は精そのものと言っても過言ではありません。


任脈とは
任脈は前を支配します。子宮は前にあるので任脈とかかわる、と単純に理解してもいいでしょう。しかし、もう少し掘り下げてみます。

任脈は陰陽発生学上、純陰(☷)である母体 (後天の精) と臍の緒を通じて初めて出会う場所で、生命の前面です。「陰脈之海」という別称があり、すべての陰経を抱擁しています。腹部の流注を見てみると肝脾腎三経の真ん中に任脈が屹立している様が見て取れます。肝脾腎は生命が拡散してしまわないための求心力です。血 (物質) を土台として気 (機能) が生まれることを考えると、血が求心力であり、気は遠心力です。血 (求心力) を支配するのが任脈なのです。

前が求心力として生命を動かす様子をイメージしやすくしてみましょう。生命とは、静から動への変化ことです。

前出のハンマー投げの構図を、任脈・督脈・衝脈でも同じように当てはめてみます。
ハンマーのグリップは任脈です。つまり求心力です。
ハンマーの砲丸は督脈です。つまり遠心力です。
ハンマーのワイヤーは衝脈です。つまり、求心力(陰)と遠心力(陽)の間にある境界です。

任脈を軸にしてグルグル回る図を想像してみてください。バラエティーでやってますね。おでこに棒の先を当ててグルグル回って真っすぐ走れるか…みたいなやつです。さっきまで左だったところは右にと、変化しながら回転します。その残像は自転する地球のようです。地軸には飛び散らないようにする求心力が働き、求心力が最もかかる中心はコア  (腹部・臍) です。地球の表面はすべて督脈の残像で、遠心力が働いています。陰…つまり血・求心力がすべて任脈に集中する様子が分かります。遠心性にエネルギー (気) を放出するのと対照的に、求心性に血を保持しているのです。

任脈は血を蓄えるのです。その血は気を生むためのものなので、血は精とも言えます。精は動に変化する直前の静だからです。

子宮に関わる疾患を扱ううえで、空間としての衝脈・任脈を治療することが、いかに大切なことであるかが見て取れますね。精血が肝要なのです。この精血を、肉体~機能という2つの次元から分析し治療するのが東洋医学の婦人科です。子宮と衝任と肝脾腎の関係がイメージできたでしょうか。

遠心力・求心力の図
督脈・帯脈とは
督脈は「陽脈の海」として相火・命門の火・君火と関係し、任脈とともに陰陽の平衡を保っています。陰の幅だけの活動量となるために、督脈は任脈に負担をかけないような陽動を保っています。求心力と釣り合った遠心力が督脈なのです。

帯脈は衝脈・任脈・督脈がバラバラにならないように束ねています。また任脈にある求心力(精血)が流れ落ちないように、ギュッと制約を加えています。腎の持つ封蔵とよく似ています。


天癸について
東洋医学では、女性は7の倍数で節目を迎えると言われます。初潮は7×2で14歳、閉経は7×7で49歳などです。ただしこのころは数え年で年齢を言いますから、初潮は満になおすと13歳、閉経は48歳くらいになります。

東洋医学では「天癸」という言葉があります。天癸が任脈・衝脈を満たしたとき、月経が起こるというのです。天癸について、中医学で以下のように説明しています。
●天癸とは成長・性を促進させる元になり、竭きると老化する。
●天癸は先天の精のことである。
●天癸は物質と機能の統一体である。
以上からイメージできる天癸とは…
「先天の精の成熟おとなバージョン」と、まとめることができます。次世代を残すため、精がマックスの働きをしている状態なのです。ちなみに天癸をつくることができなくとも、短命とはなるでしょうが死ぬことはありません。初潮を迎えるのは精が成熟したからです。正常な生理は成熟した精が満ち足りている証しとなります。

天癸が衝任を満たすことを、「天癸至る」といいます。体が成長し大きくなる分、空間としての奇経も大きくなります。奇恒之腑 (物質=陰) ・奇経 (空間=境界) ・臓腑経絡 (機能=陽) という分け方をしたとき、奇経である衝任に天癸が至るということは、肉体と機能の境界に精が充満し月経が起こるということです。肉体・機能両面にわたり充足し、生命として円満具足の域に達したということになります。

だから、月経は健康のバロメーターとなり、男性ならば勃起や射精の状況で健康状態が分かるのです。奇経という境界に蓄えられた精は、陽としては臓腑経絡の機能として発芽し、陰としては肉体的物質を大きく保ちます。その精が余ってあふれる状態が、正常な月経であり射精なのです。


月経異常を起こす原因
月経異常を起こす原因には
◉肝・脾・腎の問題
◉正気としての気・血の問題
◉邪気としての気滞・寒邪・邪熱・湿痰・瘀血の問題
があり、これらの問題が衝脈・任脈に影響することで不調が発生します。以下にそれを列挙します。

1.衝任不固
食べ過ぎや無理のし過ぎで、脾臓・腎臓の求心力 (統血機能・封蔵機能) が弱ると、衝任の求心力も、子宮の求心力も弱ります。求心力が弱ると相対的に遠心力が強くなり出血します。血色は淡く、量はそう多くないのが特徴です。
月経過多・不正出血・頻発月経(生理周期が短い) ・月経周期が短かったり長かったりする・子宮下垂・切迫流産・不妊症・流産・妊娠期間中の出血・産後の悪露などは、すべて求心力の不足によって、遠心力が相対的に増すことによって起こります。

鍼灸治療…公孫・中脘・気海・関元など。

2.熱傷衝任
遠心力(陽)が強くなりすぎた状態です。遠心力が過度になると、従って求心力が弱ります。この遠心力を邪熱といい、求心力である陰を弱らせます。熱が起こるのは緊張があるからで、緊張は滞りから生じます。滞りはストレス(肝鬱化火)・食べ過ぎ(湿熱困脾)などが原因です。大量の鮮血が特徴です。
月経過多・不正出血・頻発月経(生理周期が短い) ・閉経後の出血・流産・産後発熱・産後の悪露などは、すべて遠心性の疏泄が過度となり、求心性の蔵血が弱ることが原因です。

鍼灸…百会・霊台・後渓・行間など。

3.衝任血虚
心労過多や虚弱体質などによって脾虚や腎精不足があったり、過度の出血があったりすると、血が弱った状態になります。求心力が弱りながらも、ハンマー自体を回す力も弱っている状態です。すなわち、求心力(陰・血)も遠心力(陽・気)も弱った状態で求心力の方が弱りがきつい…この状態を血虚といいますが、そうなると、砲丸が飛び出すことができず、出血できなくなります。
生理周期が長い・生理出血が少ない・無月経などまた求心力が弱いので不妊症・切迫流産・流産などが起こります。

鍼灸治療…三陰交・左心兪・公孫・中脘・関元など。

4.衝任失暢
滞りのことを気滞といいます。気滞は邪気の一つで、ハンマーの飛び出そうとする行く手を阻みます。気滞が邪魔して出血できません。気滞を形成する原因はいくつかあります。ストレスで肝臓の疏泄ができなくなることによるもの(肝気鬱結による気滞)、寒さや冷たい飲食物による体温変動によるもの(寒邪・寒湿邪による気滞)などが挙げられます。また、気滞が陳旧化すると瘀血を形成し、気滞をより強固なものにします。
生理周期が長い・生理痛・無月経・子宮筋腫・産後腹痛などが起こります。

鍼灸治療…①肝鬱気滞…百会・合谷・肝兪など。
     ②寒邪・寒湿邪…気海(灸)・関元(灸)・中脘・陽池・足三里など。


その他の婦人科疾患
その他の婦人科疾患も付記します。衝任と生命との関係が読み取れると思います。

衝脈気盛
妊娠すると、体は胎児を優先に舵を切ります。その結果、衝脈に気血が集まるのですが、もともと気血が不足する人が妊娠すると、ただでさえ少ない気血が衝脈に集まり、臓腑の気血が足りなくなります。肝気上逆(肝血不足)・胃気上逆(胃気不足)・痰飲内停(脾気不足)などが起こりやすくなります。
つわりによる嘔吐・吐き気が起こります。また妊娠による眩暈・癲癇が起こります。

これは月経時も起こるパターンで、衝脈に血が集まり、もともと肝血不足で気逆以降にある人は、肝血がますます不足し、気逆が激しくなって鼻血を出すことがあります。生理期間に起こる鼻血です。

衝脈虚寒
もともと腎陽虚があると不妊となります。腎臓は求心力の源なので、腎臓の弱りがあると受精卵が飛び散ってしまうからです。この状態でもし妊娠すると、衝脈に気が集めるよう舵を切りはしますが、それでもなお衝脈を温めるための陽気が足りません。そのため妊娠後も流産・早産・切迫流産・逆子となります。

また、月経時に衝脈に気血が集まると、もともと腎陽・脾陽の不足気味の場合、ますます陽気が衰えて下痢を起こすこともあります。生理期間中に起こる下痢です。


湿濁・湿熱下注衝任
脾臓の運化不足・腎臓の気化不足があると、滞った体液が生じます。サラサラのものもあれば粘質のものもあります。これを湿痰と言い、熱化すると湿熱となります。どこにでも移動するのが特徴で、これが衝任に行くと、衝任がヌルヌルになり、帯脈が衝任を約束(しばること)できなくなります。任脈に蓄えてある精とともに湿痰が流れ落ちるとオリモノが常にあったり、多量になったり、白濁したり、湿熱の場合は黄色くなったりします。
オリモノは生理前後、排卵期に適量あるのが正常で、常にあるのは異変を示します。生卵のシロミ程度の粘度と色、また無臭であることが健康であることを反映します。


まとめと展開
実体としての子宮…物質。
実用としての肝脾腎…機能。
実体(陰)と実用(陽)の境界として屹立する衝任。

三位一体の存在の中にあるのは精です。

精は静。ただし、静から動に変化する寸前の静。

この精がハンマーの遠心力と求心力を生みます。

ハンマーの重量は、天癸が至るとともに、最も重くなります。年齢を重ねるごとにハンマーの重量は少しずつ散っていき、最終的にハンマーを回すことができないほど重量が減ったときが寿命となります。つまり、生命は、精を少しずつ散らして生きているのです。精が枯渇するまでの限られた期間、それが人の一生です。

しかし、精は消えてなくなるわけではなく、次世代に異性の精と合体する形で存続していきます。

人の一生のなかで、精は様々な動(活動力)を生みますが、精神活動はその最も重要なものです。つまり、精が生む神(こころ)のことです。「精神」という言葉はここからきています。

神は一生成長し続けるもので、精がだんだん衰えていくことと対照的です。神の成熟(人徳)は精の衰えを補います。高齢者には高齢者なりの健康があります。確かに若い人ほど活発に動けなくはなりますか、成熟した神の、他の人々に波及する影響力…つまり世の中を動かす力は若い人の比ではありません。若い人から頼りにされる高齢者をイメージできるでしょうか。

その神は精と同じように次世代に受け継がれ、世の中はより良くなっていく…それが我々の歩む方向です。その方向性の中に、健康というものはおのずと備わるのです。それにしても、病院にあふれかえる老人、学ぶべき高齢者が少ない世情を我々はどうとらえたらいいのでしょう。

成熟した神は無欲恬淡、世事万端において腹八分であり、温容柔和で苦労をうまく消化吸収して心の糧に変え、ストレスをためません。身体は弱くはなるが、病因そのものがなくなります。だから年をとっても健康でいられるのです。そのような優れた神をバトンタッチする重要なツールが言葉と文字です。動物にはないものですね。「精  神」はこの瞬間も受け継がれ、人類は歴史とともに成長しつつあるのです。

精を散らすのが人生の目的ではありません。神を向上させることが人生の目的です。この価値観なしに健康は振り向いてはくれません。病気を克服した人は、みな成長できた人です。これは婦人科に限らず、病気を治すために是非とも知っておくべきことです。