ナイジェリアのイボ族は数百年前から「イボ徒弟制度(IAS)」という仕組みによって、経済活動を推進しています。
IASでは、成功した企業集団が他の企業集団を育成して資本を供給したり、徒弟制度によって次世代を育成したり、新しい企業集団に自社の顧客を譲ったりするなど、市場で自集団が絶対的な優位を確保することではなく、他集団の繁栄のためにどれだけ支援を提供したかが評価のモノサシとなります。
現代においては、株主資本主義に代わる“ステークホルダー資本主義”の先行事例として見られています。

ただ、新しい資本主義というよりも、集団(社会)を存続させていくにはどうするか、集団(社会)の活力を生み出すにはどうするかを模索する中でたどり着いた仕組みなのだと思われます。


◇ステークホルダー資本主義の実践法をイボ族の徒弟制度に学ぶ
<Harvard Business Review>より
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〜前略〜

 IASの中核にあるのは「繁栄を共有する」というビジネス哲学である。そこでは経済均衡を達成するために、参加者は競争相手と協力し合う。蓄積された市場の競争優位性は常に測定され、希釈化や市場シェアの引き渡しを通じて調整される。その結果、社会のレジリエンスや共生可能なコミュニティの形成が実現する。

 これが可能となるのは、主要参加者が競争相手に資金を提供するからだ。そこでは、成功は市場での絶対的な優位性ではなく、他者の繁栄のためにどれだけ支援を提供したかで測られる。

 イボ族の共同体は何百年もの間、この文化を存続させてきた。根底にあるのは、誰もが口を揃える「onye aghala nwanne ya」、つまりコミュニティにおいても市場においても「自分の仲間を取り残すべきではない」という教えである。

 IASで重視されるのは、あらゆる人にとっての機会を最大化して、貧困を防ぐことだ。イボ族は、生まれた子どもたちがコミュニティに所属すると考える。実際、イボ族は子どもたちを「Nwaoha」と呼ぶ。これは「コミュニティの子ども」という意味だ。

 両親は子どもたちをこの世に送り出し、コミュニティは子どもたちが確実に成功し、繁栄するようにサポートする。両親の身に何かが起きた場合、あるいは子育てができない場合には、コミュニティの誰かが保護者の役割を果たす。典型的には、徒弟制度によってその子どもは新たな家族と一緒に暮らすプロセスを体験し、やがてマスターの会社で働く段階へと移行する。

 さらに数年後、その子どもは独り立ちする。マスターはみずからの顧客を紹介し、将来の競争相手に対して資金も提供して、市場シェアを譲る。そうして弟子がベンチャーで成功するために必要な支援を行うが、弟子が設立した新会社の株をマスターが所有することはない。

〜中略〜

 世界が不平等について議論を交わし、ステークホルダー資本主義を推し進めている中、IASはもう何百年も平等な社会を維持してきた。IASという制度のおかげで、イボ族の共同体はナイジェリアでも比較的安定したコミュニティとなっている。

 ナイジェリアの平均識字率は62%だが、IASを持つほとんどの州では識字率が90%を超えている。加えて、IASは誰もが機会や支援を得られるようにできている。そうすることで、コミュニティ内で極端な貧困や不平等が生じるのを防いでいるのだ。つまり、おおかた平等なコミュニティが教育水準を高め、安定した社会を築いてきたといえる。

 純粋な株主中心資本主義の視点に立つと、IASは欠陥のある制度に見えるかもしれない。しかし、IASにおける株主とはコミュニティ全体であること、ほぼすべてのイボ族のコミュニティがこのモデルを通して共有の富を築いてきたことを知れば、その印象は変わるだろう。

〜中略〜

 IASは、業界に新たなプレーヤーが参入できるように促すことで競争を改善し、顧客はその恩恵を得る。価値創造に関する新たな考え方をもたらし、その影響は金銭面を超えて、コミュニティや家族の維持にまで及ぶ。さらに、あらゆる人々のために富を創出する。

 基本的に、イボ徒弟制度は「人間性の哲学」、すなわち、すべての人々を結びつける「共有」という普遍的なつながりに対する信念を実践したものである。これは、欧米のビジネスと経済の枠組みを基準にした場合には高く評価されないかもしれないが、イボ族や一部のアフリカ人にとって非常に優れた制度である。

〜後略〜
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(稲依小石丸)