2009年10月29日
2009年10月29日(木) 社説
朝日新聞 社説
谷垣自民党―新たな自画像を早く描け
斎藤郵政始動―説明なき逆流を憂える
産経新聞 主張
代表質問 閣内不統一を放置するな
護衛艦衝突 装備や人員は問題ないか
日経新聞 社説
信託の再編を金融活性化につなげよ
与野党が政策競う国会に
毎日新聞 社説
護衛艦衝突事故 「難所」安全策は万全か
国会論戦 民主党の質問も必要だ
読売新聞 社説
衆院代表質問 財源と安保で論議を深めよ
パキスタン情勢 テロ撲滅に重要な国際連携
谷垣自民党―新たな自画像を早く描け
斎藤郵政始動―説明なき逆流を憂える
産経新聞 主張
代表質問 閣内不統一を放置するな
護衛艦衝突 装備や人員は問題ないか
日経新聞 社説
信託の再編を金融活性化につなげよ
与野党が政策競う国会に
毎日新聞 社説
護衛艦衝突事故 「難所」安全策は万全か
国会論戦 民主党の質問も必要だ
読売新聞 社説
衆院代表質問 財源と安保で論議を深めよ
パキスタン情勢 テロ撲滅に重要な国際連携
朝日新聞 ; 谷垣自民党―新たな自画像を早く描け
自民党の谷垣禎一総裁が、野党として初めての衆院代表質問に臨んだ。かなり、やりにくかったに違いない。借金ばかりが膨らむ財政を健全化しようという姿勢がみられないと政府を批判すれば、鳩山由紀夫首相に「あなた方に言われたくない。こんな財政にしたのはだれか」と切り返される。沖縄の米軍普天間飛行場移設問題で閣僚の足並みの乱れを突けば、「いままで10年以上、結論を出さなかったのはどの政権か」と反論を浴びる。鳩山政権を批判すれば、そのままかつての自民党政権への批判となって跳ね返ってくる。自らの過去を総括し、捨て去るべきものと決別したうえで新たな足場を築かない限り、この悪循環からは抜け出せない。谷垣氏はそのことを痛感したのではないか。政府の政策の誤りや矛盾、あいまいさを指摘し、問題点を突くのは野党の大切な役割だ。そこに有権者の期待がある。ただ同時に、自民党が再び政権を握ればどうするのかも聞きたい。この点で、明確なメッセージが感じられないのだ。谷垣氏は、地元の理解を得ないまま八ツ場ダムの建設中止を表明した政府の手法を「政治主導という名の政治暴走」を感じると非難した。では、自民党なら従来通り巨費を投じて建設を継続するのかどうか。態度を決める必要がある。閣僚と副大臣、政務官の「政務三役」が予算編成などを仕切っている現状も批判した。だからといって、以前の官僚依存型に戻せと言うわけにもいくまい。自民党が選挙で敗れたのは、これまでの政治のやり方、ありようへの有権者の不満が臨界点を超えたということだろう。この民意に自民党は応え、新しい回答を用意しなければならない。かつての政治への逆戻りで活路が開けないことははっきりしている。長期政権時代への郷愁や惰性は、抜けにくいのだろう。政権奪還への道を探るために、谷垣氏をトップに創設した「政権構想会議」では、古参議員から「自民党は政策の失敗をしてきたのか」といった声があがった。現実の厳しさを直視するのは容易ではない。必要なのは、これまでのやり方を否定するところから議論を始めることではないのだろうか。それなしに新たな自画像を描くのは難しい。野党になって40日余り。その現実、重さが党内に浸透するにはまだ時間がかかるかもしれない。だが、自らに切り込む総括の作業を急がない限り、反転攻勢の足がかりはつかめない。立ち位置を定めないまま新政権をいくら批判しても、天につばするだけに終わりかねない。政権を目指す2大政党の一翼として再生するには、その覚悟がいる。
朝日新聞 ; 斎藤郵政始動―説明なき逆流を憂える
日本郵政の新社長に斎藤次郎・元大蔵事務次官が就任した。取締役は西岡喬会長と奥田碩・トヨタ自動車相談役を除き一新された。副社長4人のうち元官僚が2人という「官依存」であり、説明なき逆流がさらにあらわになった。社外取締役には、作家の曽野綾子氏、元政府税調会長の石弘光氏のほか、元NTT東日本社長の井上秀一氏ら経済人、新潟県加茂市長の小池清彦氏や西陣織工業組合理事長の渡辺隆夫氏など地域に足場を置く人たちも選ばれた。まるで政府の審議会のような構成でもある。これで24万人の大所帯を漂流させずにきちんとかじ取りできるのだろうか。不安を禁じ得ない。経営論の大家ピーター・ドラッカーは、使命が明確でない組織は瓦解すると喝破した。日本郵政は今、そうした危機に直面しているといえよう。創設以来の本業である郵便は電子メールに押され、低落傾向が止まらない。物流事業もライバルがひしめく。収益の柱は金融だが、預金と国債の利ざやを取るだけに等しい。本業は何か。それを明確にしないまま、西川善文社長時代の日本郵政は金融偏重に走った。子会社のうち銀行と生保の上場が目標になったが、大半の社員が働く郵便や郵便局の事業は空回りしていた感がある。斎藤氏は就任会見で「政府の見直し方針を受け、どんなサービスがあり得るのか、どんな事業モデルがあり得るのか、徹底して考えたい」と述べた。問題は検討の結果、何をするかだ。政府は地域の行政サービスの拠点など、さまざまな役割を日本郵政に担わせようとしている。委託契約で手数料が入るかもしれない。だが、本業がしっかりしていないのに副業ばかり増やすと、組織は行き詰まる。鳩山政権は閣議で郵政改革の見直しを決めたが、民営化の何をどう変えるのか、明確ではない。このままでは国民の懸念はぬぐえない。来年の通常国会に郵政改革法案を提出するまでに、鳩山由紀夫首相も亀井静香郵政担当相も、郵政に関する新政策をきちんと説明しなくては無責任のそしりを免れない。むろん、経営陣も日本郵政が昔の「親方日の丸」的な組織に戻ることなく自立した経営として発展する道筋を語らねばならない。斎藤社長らは、国民に対する重い説明責任を負った。社員の力を引き出すことも大切だ。指揮官としての力量を示すと同時に、共感を得ていかねばならない。西川氏はこの点で失敗した。有能な辣腕(らつわん)バンカーも、孤立しがちで力を発揮できなかった。かつて剛腕で鳴らした斎藤新社長は、その轍(てつ)を踏んではならない。
産経新聞 ; 代表質問 閣内不統一を放置するな
鳩山由紀夫首相の所信表明演説に対する代表質問が衆院で始まり、初日は自民党の谷垣禎一総裁らが新政権の経済、雇用対策、日本郵政人事、首相の政治献金問題などを追及した。とくに在日米軍再編の焦点である普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)移設問題で、谷垣氏は「日本の外交に支障を来す」と懸念を表明した。これに対し、首相が決着に向けた判断を何も示さなかったのはきわめて遺憾である。この問題は米政府から11月のオバマ大統領訪日までに決着を求められ、もはや先延ばしは許されない。にもかかわらず首相、外相、防衛相の発言はばらばらに迷走中で、決着の時期も方向も統一されていない。日米同盟を破綻(はたん)の危機に直面させないために、首相は日米合意に基づく現行計画の履行を速やかに決断すべきだ。岡田克也外相が先週、「県外移設は事実上不可能」と米空軍嘉手納基地への統合案を浮上させたのに対し、北沢俊美防衛相は27日、現行計画容認を示唆して意見対立に拍車をかけた。さらに外相、防衛相が年内に方針決定を急ぐ姿勢に対し、首相は「時間をかけて結論を出す」と繰り返すだけだ。代表質問でもこうした閣内不統一を突かれ、「県民を不安に陥れている」と追及された。首相が明確な意思表示を避け続けたのは無責任としかいいようがない。米政府や米メディアでも「日米同盟が危機的状況にある」との懸念が高まりつつある。放置すれば同盟関係はもちろん、オバマ訪日すらも危険にさらされよう。岡田外相は嘉手納統合案を携えて緊急訪米も検討中というが、嘉手納統合には米政府だけでなく地元住民まで反対だ。成算もなしに訪米する以前に、まずは政権内の意思統一が先決ではないか。閣内の発言が混迷する中で、現状では北沢防衛相の判断が最も現実的だ。日本の安全と国益のかかった問題で決断を下す責任はあげて首相にある。鳩山氏はそのことを一刻も早く認識してほしい。一方、民主党は衆院で代表質問を見送った。「政府・与党は一元化し、質問は必要ない」という判断のようだ。予算委員会でも質問をしない方針というが、「国の唯一の立法機関」(憲法41条)の役割を自ら否定することにならないか。国権の最高機関にふさわしい与野党の真摯(しんし)で活発な論戦を国民は期待している。
産経新聞 ; 護衛艦衝突 装備や人員は問題ないか
関門海峡で起きた海上自衛隊の護衛艦「くらま」と韓国船籍の貨物船の衝突事故は、鳩山政権に初の危機管理対応を問うだけでなく、日本の防衛の問題点も浮き彫りにした。鳩山由紀夫首相は衆院代表質問への答弁の冒頭で「国民の皆さま方にご心配とご迷惑をかけた」と陳謝し、原因究明に努めると強調した。数日前に観艦式の旗艦を務めたばかりの護衛艦が炎や白煙に包まれ、原形をとどめないほど船首を損傷している映像は、国民に大きな不安を与えただろう。護衛艦の事故が続いている。なぜ繰り返されるのか。原因究明に加え人員や装備面も含めた根本的な再発防止策に着手すべきだ。海上保安庁は業務上過失往来危険容疑で事故原因の究明にあたっている。衝突前にほかの船を追い越したという貨物船の行動に問題がなかったか、護衛艦の衝突回避措置が十分だったかなどが焦点になりそうだ。多数の船舶が航行する海峡の実態にも改めて目を向ける必要がある。27日午後8時前の事故発生から15分後に首相官邸の内閣情報集約センターに第一報が入り、平野博文官房長官経由で首相に伝えられた。北沢俊美防衛相も官邸とほぼ同時刻に第一報を受けた。昨年2月のイージス艦「あたご」と漁船の衝突事故では当時の石破茂防衛相への連絡が大幅に遅れた。その点はひとまず改善されたようだ。一方、根本的な問題への取り組みは遅れている。イージス艦の事故や相次ぐ不祥事を受けて海自の「抜本的改革委員会」が昨年末にまとめた「改革の指針」は、法令軽視や道徳欠如などに加え、装備と人員面の問題を挙げていた。具体的には「護衛艦乗組員の充足率を80%から90%程度に上げる」ことだ。乗組員の不足は見張り要員の不足や乗組員の負担増大につながる。自衛艦の安全な運航に支障を来すような人員面の問題は「5、6年かけて」ではなく、早急に手を打つべきだ。昭和56年就役の「くらま」は旧式の蒸気タービンを使っている。新式のガスタービンなら逆進による回避ができた可能性があるが、これは最新鋭艦にしかない。護衛艦の装備近代化は7年連続の防衛費削減で遅々として進んでおらず、こうした問題点も指摘しておきたい。
日経新聞 ; 信託の再編を金融活性化につなげよ
住友信託銀行と中央三井トラスト・グループが2011年春をメドに、経営を統合する方針を固めた。約120兆円の信託財産を持つ、業界首位の信託銀グループが誕生する。08年秋のリーマン・ショック後、厳しさを増す経営環境を、巨大化で乗り切ろうとするものだ。信託銀行の再編を日本の金融の活性化につなげるには、住友信託と中央三井が統合の成功例を示す必要がある。住友信託は82兆円の信託財産を持つ業界2位。36兆円で4位の中央三井と統合すれば、信託財産で三菱UFJ信託銀行を抜き1位になる。新たな信託銀グループは年金受託や不動産関連業務でも首位。住信はすでに傘下に大手運用会社の日興アセットマネジメントを抱えているだけに、総合金融業の様相も強まる。信託は装置産業の側面があるため、規模が大きくなればコストを下げられる。それを投資信託や年金など利用者に還元すれば、最終的には投資家や年金受給者など、金融サービスの利用者が恩恵を受ける。従来の合併ではシステム統合のコストがかさみ、規模の利益が掛け声倒れに終わったケースが少なくない。顧客を顧みない内向きの主導権争いで、時間を浪費しないよう望みたい。年金などの資産運用力にも磨きをかけてもらいたい。米欧の年金に比べ、日本勢は相場の方向に沿った受動的な運用が目立つが、それでは運用成績の向上は望めない。統合を機に運用体制の見直しも必要だ。高齢化時代を迎え、信託の仕組みを活用した金融商品へのニーズも強まっており、商品開発は大切な課題だ。良いサービスを提供するには経営の自立と安定が不可欠である。中央三井は10年前に経営危機に見舞われ、公的資金注入で生き延びた。いまなお約2000億円の公的資金を返済できずにおり、赤字決算で金融庁から業務改善命令を受けている。公的資金の返済が、自由な立場で統合の戦略を議論する大前提となる。今回の経営統合は次の金融再編の呼び水になる、との見方も多い。独立志向の強かった住友信託は三井住友フィナンシャルグループにのみ込まれるのを嫌い距離を置いてきた。今回の統合で住友信託の経営基盤が強まれば、対等の協力関係を模索する素地が整う。世界の金融機関は総合化と巨大化を競うよりむしろ、不採算部門を整理しつつある。公的資金の注入を受けているオランダの大手金融INGは、保険と資産運用部門の売却に動く。まずもって経営の方向性を明確にすることが欠かせない。
日経新聞 ; 与野党が政策競う国会に
政権交代後初めての与野党論戦が国会でようやく始まった。鳩山由紀夫首相の所信表明演説への各党代表質問の初日は、自民党の谷垣禎一総裁らが質問に立った。日本が直面する経済や財政、外交などの課題をめぐって具体策を競い合う実のある論戦を期待したい。1番手で質問した谷垣氏はまず自民党の衆院選大敗への反省に言及し「国民にとって最良の選択肢を示すことによって期待に応えていく」と決意を語った。鳩山内閣の重点政策に関しては「随所に無理があり、日本の将来を託すことは非常に危険だ」として対決姿勢を鮮明にした。谷垣氏が民主党政権との対立軸として強調したのは、自助努力に関する考え方の違いだ。子ども手当などを念頭に「各家庭にまんべんなく巨額の支給をし、いきなり公助ありきの社会をつくろうとしている」と指摘し、高福祉・低負担では日本は存続できないと批判した。国民の所得を上げ、雇用を増やす経済成長戦略や財政健全化への視点が欠けているとの指摘には説得力があった。ただ首相は自民党は公共事業偏重の国造りを続けたとし、「人間のための経済を目指す。産業を転換して新しい雇用、成長を生み出す」と真っ向から反論した。谷垣氏は沖縄県の米軍普天間基地の移転問題やインド洋での給油活動停止にも時間を割き、「日米同盟の弱体化につながりかねない」と懸念を示した。首相は「真剣かつ慎重に検討していく」と強調したが、代案がないまま結論を先送りするような手法は外交上避けるべきだ。谷垣氏や公明党の井上義久幹事長は、首相の資金管理団体の虚偽記載問題について自ら説明するよう迫った。しかし首相は「捜査に協力している。全容が解明されることを祈念している」と繰り返した。同問題は判明した約2177万円にのぼる架空献金のほか、氏名の記載義務がない小口献金が突出して多いなどの疑問点がある。政治不信を増幅しかねず、首相は改めて説明責任を果たす必要がある。今国会は民主党の政権担当能力が一つの焦点となる。与野党ともに活発な政策論争を通じ、有権者の期待に応えてほしい。
毎日新聞 ; 護衛艦衝突事故 「難所」安全策は万全か
関門海峡で27日夜、西に向かっていた海上自衛隊の護衛艦「くらま」と、東進中の韓国船籍のコンテナ船「カリナスター」が衝突した。火柱が上がり、両船の船首部分が大破したが、くらまの6人の軽傷にとどまったのは不幸中の幸いだった。第7管区海上保安本部が現場検証しているが、政府と海保に求めたいのは、原因と回避行動の徹底究明、難所とされる海域の航行対策である。現場となった関門海峡の「早鞆(はやとも)の瀬戸」は、大きく湾曲して見通しが悪いうえ、可航幅が約500メートルしかなく潮流も強い、国内有数の「航海の難所」である。ここを1日約600隻もの船舶が往来し、年平均19・4隻が関係する事故が起きている。今回の事故では、互いに右側を航行するルールとなっている現場で、コンテナ船が前方の船を追い越そうとして左側にふくらみ、くらまの針路に進入した可能性が高い。左側の追い越しは、関門海峡を管轄する海保の管制室の助言だった。海保は、乗組員の聴取や、双方の船舶自動識別装置による航跡・速度の解析などによる究明のほか、管制内容が妥当だったかどうかも調査すべきだ。また、双方の回避措置が妥当であったかどうかも焦点だ。北沢俊美防衛相は、くらまは通常、夜間には総員の3分の1で見張りをするが、狭水道であることから全員配置とし、衝突の危険を察知した艦長が停止のための逆進をかけたが間に合わなかったと説明している。防衛省は、昨年2月のイージス艦「あたご」と漁船の衝突事故を受けて、報告・通報を含む見張り能力の向上、指揮の徹底をはじめとする再発防止策を打ち出した。防衛相への報告は、あたご事故で1時間半かかったが、鳩山政権発足後初の「有事」となった今回は14分後だった。この点では大幅に改善した。しかし、見張りの実態や、あたご事故で問題となった回避行動の実情については詳しい調査が必要である。さらに、難所での航行規則の見直しについて指摘しておきたい。「早鞆の瀬戸」では、04年12月、西向きの強い潮流を受けながら東進していた貨物船が、前を行く油送船を追い越そうとして衝突した事故が起きた。また、05年4月には、東向きの潮流のなかで西進していた貨物船が油送船に追い越しをかけた時、東進する船舶を避けようとして油送船に衝突する事故が発生している。関門海峡は、中国や韓国など東アジアの海の玄関口であり、外国船の航行も多い。航路拡幅などで安全性は向上しているとはいえ、海上交通の要衝が難所である実態は変わりない。「追い越し」を含め航行規則の再検討も必要ではないだろうか。
毎日新聞 ; 国会論戦 民主党の質問も必要だ
政権交代後、初の本格論戦となる各党代表質問が28日衆院本会議で始まった。総じていえば論点は出そろったものの、自民党の谷垣禎一総裁ら野党側の質問は迫力に欠け、鳩山由紀夫首相の答弁も質問を逆手に取ってかわす場面が多かった。議論が深まらなかったのは残念だ。自民党から批判される筋合いはない−−。この日、目立ったのはこんな首相の答弁だった。例えば来年度予算の概算要求が95兆円と膨れ、財政再建の道筋が見えないと谷垣氏に追及されると、首相は麻生前政権下では補正予算と合わせ105兆円になったと指摘して「あなた方に言われたくない」「こんな財政にしたのは誰なのか」と反論した。米軍普天間飛行場の移設問題でも首相は「最後の意思決定は私が行う」と語ったものの、方向性は示さず、「今まで10年以上結論を出さなかったのはどの政権だったのか」と切り返すだけだった。これまでの政権に大きな責任があるのは事実だ。だが、鳩山政権発足以来、既に40日以上。いつまでも前政権批判にとどまっているわけにはいかない。マニフェスト政策実現のための財源に関しても「一般会計と特別会計を含め予算を組み替え、財源は必ず確保する」と言い続けるだけでは、やはり限界がある。このほか首相自身の「故人」献金問題も、「捜査に全面協力する」と答えるだけで歯切れは悪かった。今後の質疑に期待するほかないが、国会のあり方についてもう一つ、見逃せない点がある。民主党は衆院代表質問で質問者を立てなかったのに加え、衆院予算委での質問も不要との声まで党内にあることだ。確かに小沢一郎幹事長が言うように「政府の太鼓たたきのような与党質問」は要らない。「政府・与党の一元化」という原則も理解はできる。しかし、与党側も国会論戦を通じて問題点を洗い出し、よりよい法案に修正していくのは立法府たる国会の当然の使命だ。法案を国会に提出する前に与党が可否を決めるという自民党政権で続いてきた事前審査方式を、民主党は廃止した。ならば、いっそう国会での審議が重要となるはずなのに、首相はこの日、政府に入っていない民主党議員も各省政策会議の場で意見を述べる機会はあると答弁した。これで済むとしたら、事前審査とさして変わらないのではないか。民主党は衆参予算委の日数も極力少なくしたい意向という。国会より予算編成作業を優先させたいとの理由のようだ。しかし、この日、「大いに議論しよう」と呼びかけたのは首相本人だ。求められているのは「議論する国会」である。
読売新聞 ; 衆院代表質問 財源と安保で論議を深めよ
鳩山政権が早急に対応すべきは、予算の財源問題と安全保障政策で直面する課題に答えを用意することだろう。鳩山首相の所信表明演説に対する衆院代表質問がスタートした。野党党首として登壇した自民党の谷垣総裁は、鳩山政権が無駄を排除するとしながら、来年度予算概算要求が95兆円超に膨れ上がったことなどを挙げ、総選挙の政権公約(マニフェスト)との「言行不一致」を批判した。首相は「マニフェストは国民との契約だ」と強調した。しかし、具体的には、事業の洗い出しなどで財源を確保し、マニフェストで掲げた工程表に従って実行すると述べるにとどまった。谷垣総裁は、「マニフェスト通りと言い募るだけでは、国会審議は事実上無意味になる」と指摘した。その通りだろう。欧米諸国をみても、政権交代後に、現実にそぐわなくなった野党時代の主張を見直すことは、珍しいことではない。首相は、今後の論戦を通じ、政権公約にこだわることなく、修正すべきは修正する姿勢を持つことが必要だ。谷垣総裁は、米軍普天間飛行場の移設やインド洋での給油活動の問題で、首相や関係閣僚の発言が「多々食い違い」を見せていることが、日本の対外的な信用を失墜させていると批判した。首相は「最後の意思決定は私が行う」と答えたが、閣内不一致の様相をみせているのは、首相が指導力を発揮せず、明確な指針を示さないからではないか。早期に閣内調整を図るべきだ。子ども手当の制度設計などについても、首相は明確な答弁を避けた。これからの代表質問や衆院予算委員会などの場で、論点をさらに掘り下げてほしい。首相と谷垣総裁による党首討論も、早期に開催すべきだろう。民主党の小沢幹事長は、代表質問に立たないという。衆院予算委員会でも、民主党議員は質問しない方針だ。小沢氏は記者会見で、「議会制民主主義の下では、国会は政府と野党の論戦の場であるべきだ」と述べている。だからといって、与党の立場から政府の見解をただすことは、排除するべきではない。参院代表質問では民主党が質問に立つのも、方針として一貫していない。事は立法府のあり方にもかかわる。小沢氏が意欲をみせる国会改革全体の中で、与野党でじっくり議論する必要がある。
読売新聞 ; パキスタン情勢 テロ撲滅に重要な国際連携
パキスタン軍が国内のイスラム武装勢力によるテロを封じ込めるため、今月中旬から、大規模な地上掃討作戦に乗り出している。隣国アフガニスタンとの国境沿いに広がる山岳地帯に潜伏するとみられる国際テロ組織アル・カーイダと関係がある、武装勢力撲滅を狙った作戦だ。アフガンで、旧支配勢力タリバンに対し、米軍や国際治安支援部隊が展開する軍事行動に呼応した作戦でもある。両国に浸透する武装勢力は必ずしも同一の指揮系統にはないが、共闘している可能性が強い。この点でも国際的に連携した作戦が重要となる。米国などは、武装勢力によるテロで混乱が拡大し、パキスタンの核兵器がテロリストの手に渡る事態を懸念している。核兵器の流出は防がなければならない。約3万人を動員したパキスタン軍は、中央政府の支配が及ばない国境沿いの部族地域・南ワジリスタン地区に展開している。今月前半、立て続けに発生した自爆テロ事件の一部に犯行声明を出したイスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動(TTP)」の本拠地がある地区だ。政府軍は主要勢力であるTTPの指導部解体を狙っている。首都近郊にある国軍総司令部がTTPの武装グループに襲われたのは初の出来事だった。犯行集団は約20時間後に取り押さえられたが、事件は内外を震撼(しんかん)させた。今年8月の米軍無人機による攻撃で、TTPの司令官が殺害された。テロ頻発の原因は、後を継いだ新司令官が、報復テロに乗り出したためと見られている。政府軍の攻勢に対し、武装勢力による学校襲撃や市場でのテロが始まった。現地は間もなく冬を迎え、長期戦の公算が大きい。米国は、パキスタン国内の道路や学校の建設、医療などの支援策として、今後5年間に75億ドルの拠出を決めた。軍事作戦だけではテロ撲滅は実現できないと考えたからだろう。今年4月に東京で開催されたパキスタンの国際支援国会合では、31か国が総額50億ドル以上の拠出を誓約した。日本は2年間で10億ドルの供与を表明、医療分野での支援を検討中だ。米同時テロ後、日本は経済援助の規模を拡大し、債務を繰り延べるなどしてパキスタン支援を続けて来た。今後も実効性のある援助を続け、パキスタンを民生面から支えて行くべきだろう。
nao_2006 at 22:00│
│社説