2005年06月03日

誰と過ごすクリスマス

ここまでしてみても、龍二の真意はつかめないままだったが、
早々に手を出してこないというのは、きっと大事にしてくれているということ
だろう、と、強引にポジティブシンキングを貫いてみる。

そして龍二とは相変わらず、どっちつかずの軽い食事程度のデートが続いていた。

夏日の勇人との別れから、いつの間にか季節がながれ、
気が付けばもうすぐ、恋人達の一大イベントのクリスマスがやってくる。

私はそれほどイベントマニアというわけではないが、
今まで、受験の年を除いて、毎年勇人と2人で祝ってきた。

去年のクリスマスは、実は二股かけられ中のクリスマスだったことは
まったく知らなかったけど。

それでも今年は、もう、私の隣に勇人はいない。

勇人は去年と同様、その恋人とクリスマスを祝うのだろう。
2人で見る雪は暖かく見えるのだろうか。

その同じ空から降ってくる雪は、私にとっては凍えるほど冷たいに違いない。
さすがに、私1人でその時間を味わうのは嫌だった。


そんなことを考えているうちに、
先手を打つように、加藤君が私をクリスマスに誘ってきてしまった。
あれだけアプローチをかけてくれた加藤君としては、当然の成り行きだろう。

私に好意をもってくれていると分かっている加藤君には悪いが、
私自身の加藤君への気持ちは「嫌いではない」というレベル止まりだった。

どうしても、それ以上に私の恋愛レベルが上がっていかない。

もし今年、安全パイの加藤君の誘いに乗ってしまったら、
少なくとも、寂しくはないクリスマスを過ごせる。

しかし、その日以降は、
恋人未満の関係をズルズルと続けていくことを許されないだろう。

2005年05月31日

触ってv

金魚への手入れが終わり、
ようやく、私たちは布団のないコタツで一服。
出してくれたジュースを飲みながら、他愛のない話をする。
でも、私の頭の中は悶々としていた。

・・・1時間経過・・・。

ちっともちっとも、色っぽい話題に発展しない。
隣の部屋は寝室に使われているようで、畳まれた布団も見え隠れするのに。

かといって、私から直接的に誘うような会話に持っていくのも恥ずかしいし、
やっぱり男性のほうから手を出されて欲しい。

業を煮やした私は、少々姑息な手段に打って出た。

じゅうたんに直に置かれた金魚槽を、
コタツから寝そべって覗き込んでみる。

そのままの姿勢で、首をかしげて龍二を見上げた。

まるで、犬が「触ってv」と腹を上に向けるような行為だ。


・・・反応なし。

乗ってこない龍二からは、微塵の動揺さえうかがえない。

奥手なのか?私に魅力ないのか?
私は心の中で頭を抱えてしまった。

そんな私の葛藤をよそに、
結局まったく何もないまま、夕方になり、夕食をとりに行くことになった。
そして終始「和やかに」その日のデートは終了。

勇人にフラれて以来、回復しきれていない自尊心に、
さらに塩を擦りこむ結果となってしまった。

2005年05月26日

原田りゅうじ@金魚好き

そんなある日、
龍二が金魚が好きだというので、ホームセンターへ買いに行くことになった。

現在では私も、金魚すくいですくった金魚を飼っており、その可愛さはとても分かるが、
1人暮らしの男が金魚大好きというのは、当時の私にとっては少し不可解だった。

ともあれ、気になる男性の趣味ならば、多少のことは目を瞑ろう。
龍二は、それはそれは真剣に金魚を選び、金魚博士振りを私に披露してくれた。

購入した2、3匹の金魚を手に、いそいそと車に戻り、
私は助手席で大事にその袋を預かる。

実はこれ、1人暮らしの男の部屋に行く、口実なのだ。
その計画どおり、「飼ってる金魚見たいな」と、私は龍二のマンションに上がりこんだ。

普通なら、「俺、コーギー飼ってるんだど、見に来ない?」などと
男が女を家に誘うときの常套手段?だが、
私の場合は逆だった。

男の部屋に入るのだから、それなりに覚悟はしていたし、
体から始まる恋愛もアリだと思っていた。
肉体を乱用することはしないけれど、いざとなればsexもきっかけの一つになりうる。
パンツだってお気に入りを履いた。

とにかく、せめて何か、2人の関係の進展への取っ掛かりが欲しかったのだ。

マンションは、私の家から電車で一駅のところだった。
立地はあまり良くなかったが、2LDKくらいの、1人暮らしには広いほうだ。

一歩中に入ると、真っ黄色の仕切カーテンが見えた。

プーさん柄!

あまりのエグさに一瞬フリーズする。
このプリント柄を選んだのは本人なのか?

気を取り直し、リビングに入る。
龍二は一目散に水槽に向かい、金魚に餌をやり始めた。
・・・やっぱり、なんとなく絵にならない。
これが、熱帯魚とかだったら違和感なかったのだろうか?

立ち尽くす私にお構いなく、
彼は買って来た金魚を水槽に放し、満足そうに水槽を見つめている。

ココでめげてはいけない。
私は我にかえり、「可愛いねー」と、笑顔で同調するフリをした。

金魚が可愛くないわけではないのだけど、
所詮、他人の飼い魚。
今日の私の関心は、人間の龍二の方にあるのだ。

2005年05月23日

原田りゅうじ@パフェ好き

それからというもの、すっかり味をしめた私は
友達の都合がついたときにお願いして、時々付いてきてもらった。

さすがに1人では寂しく、パーティでも浮いてしまうので、
そう頻繁には行けなかったけど、合計で数回行ったとおもう。

ねるとんで思ったことは、意外に可愛い女の子が多いのだ。
サクラなのだろうか?

逆に、(高望みはしてはいけないとは思うが)なかなか見目良い男はいなかった。
あの短時間で中身を見抜くのは難しく、どうしても外見に頼りがちになってしまう。

そんな中で、気になった男性や、カップルになったときには、
大体、その後そのまま食事か、後日改めて会う約束をする。

それでようやく、その人が本当にどんな人なのかが分かるという具合だ。
だから、実際に会ってよく見て、よく話してみると全然OUTだったりすることも多かった。

その中で、1人、1回以上のデートが続いた人がいた。
外見は、すこし原田龍二似かな、時代劇の時の彼ではなく、
前髪を下ろした素っぽい時に近い。(分かる人いるのだろうか?)

話してみても嫌味がない雰囲気が気に入った。

パフェが大好き(w)ということで、何度か食事デートしてみる。
そこそこ名の知れた会社の営業マン & 家が近い(1人暮らし)ということも好条件だった。

夏が過ぎ、秋になり、この間に知り合った男性は何人かいたが、
結局、継続的に会う男性は、先の「加藤君」(3月25日「真逆の人」)と、この「原田龍二」だった。

私的には、「龍二」を押したかった。
しかし、龍二とはご飯を食べたりのデートはするものの、進展がない。
気がないわけではないと思うのだけど、いまいちはっきりしない。

私は、遅々として進まない関係を打破するタイミングを、虎視眈々と狙っていた。

2005年05月19日

初めてのお見合いパーティ

彼女は昔、ねるとんの「サクラ」のバイトをしたことがあるそうだ。
この時は彼女には彼氏がいたが、私の為にねるとんについて来てくれた。

その友達のアドバイスはによると、「男性の参加費用が高すぎるところは、
それだけ無理をしないとモテない男が参加してる可能性が高い」
ので避けたほうが無難ということだった。

(医者弁護士限定パーティなどを除けば)納得できる話だったので、
普通の男性が気軽に参加できそうな会を選んだ。

私はもともとあまり初対面の人としゃべるのは得意ではない。
人の顔を覚えるのも苦手だ。

会社に入ったときだって、私の頭の中では社員が数ヶ月、
ほとんど全員へのへのもへじだった。

そんな私のテーブルを数分ごとに、次々と男性たちが交代で廻ってきた。
まるで高速で回る回転寿司のように、
ちょっとでもぼーっとしているとすぐに目の前から消えてゆく。

初めての時は、そんなシステムについていくのがやっとで、
誰がどんな人だったかなんて、ほとんどわからずじまいだった。

結局最初の収穫は、帰り間際の電話番号交換くらいだったが、
でも、正直、すっごく面白い。

まったく面識のない男女が、異性探しという共通の目的のみの為に
大量に一室に集まっている。
それは、不思議な空間だった。

一度に沢山の男性と出会う機会が持てる。
家と会社の往復の毎日では、なかなか得られない貴重な体験だった。

日常生活で、私は逆ナンをしたことがない。
いきなり見ず知らずの人に声をかける勇気がないからだ。

だけど、この空間ではそれが許されてしまう。
全員が「恋愛ドア」をオープン中。
そのドアをノックすることを躊躇う必要はまったくなかった。

2005年05月17日

恋の小休止

・・・否、終わるのものなのだろうか?


確かに「男女の付き合い」は終わってしまった。
彼は私の恋人ではなくなっている。

でも、はやり私の「恋」は終わっていない気がする。

終わらないのだろう。多分、一生。


今まで、私が恋をしたのは3人かも知れない。
1人は勇人。
今でも、図書館で彼の姿を見つけた瞬間を思い出すと、
あれは恋だったのだと確信できる。

もう1人は今の伴侶。
3人「かも」と言うのは、この旦那を純粋に「恋のみ」と言えるかどうかは
自分でもわからないのだ。

間違いなく、今のだんなの事は大好きだ。
結婚して3年以上たっているけど、まだ恋愛感情もあると思っている。

でも、どうしても結婚する相手として、打算が同時に生まれてしまう。
だから、結婚相手との関係が、純粋に恋なのかは微妙なところ。

私にとって、「結婚」=「幸せを求める」ことであって、
「一生一緒に生きていける」という気持ちがないとできない。

でも恋はそうとは限らない。
たとえ今一瞬だと分かっていても、
この想いを通わせたいという欲求が生まれた。

その代わり、その想いはその人が自分の傍らに居なくなってしまっても
心の中で永遠になった。

間違いなくもう1人、これは恋だといえる人がいる。
その人のことはまた機会があれば書きたいと思う。


話は戻って。
勇人と別れたこの時、私は24歳。
焦る程の歳でもなかったが、いずれ子供が欲しいという年齢から逆算すると、
チラチラと「結婚」という文字が頭をよぎる年齢でもあった。

むやみに焦ることもないが、うかうか時間を無駄にもできない。

躍起になる私を、親友がねるとん(お見合い)パーティに誘ってくれた。

2005年05月13日

小さな駄々っ子

テールランプが角の向こうへと消えるまで見送り、
私は母の待つ家に帰った。


自分の部屋に入ると一気に力が抜けてしまって、どっと脱力感が襲ってきた。

そのままベッドに転がり、腑抜けのように枕に突っ伏す。
ぼんやりと目を開けると、見慣れたシーツが私の重みを受け止めて
緩やかな陰影を作っていた。

・・・そういえば数時間前には、このベッドに一緒にいたんだ。

勇人の背中の幻影が浮かび、心が冷える感覚が蘇りかける。
私は固く目を閉じた。
泣きそうになる自分をなだめて、そっと指で唇を撫でてみる。

情欲をそそるような熱さもなく、
吐息も感じないほど刹那的なキス。

しかしその瞬間だけは、何もかもがゼロで、真っ白だった。

求める救いに応えるかのように
触れた指先から、ふわりと暖かい気持ちが広がっていく。

これで全てが帳消しになるわけはないが、
少しだけ、ふたりの関係に体温が戻った気がした。

私の中の小さな駄々っ子が、なんとか報われたみたいだ。
今日という日は無駄ではなかったと、誰にでもなく感謝した。


・・・


しかし、

このまま、穏やかな気持ちでいたかったのだが、


寝る前鏡を見たら、青海苔が歯に付いていた。カッコ悪すぎ・・・凹んだ_| ̄|○
焼きうどんめ・・・。

あんな店さえ行かなければ。
自分の失態の恥ずかしさのあまり、心の中で勇人に散々八つ当たりする。
なんだか駄々っ子が息を吹き返してきてしまった。

思い返すと、最後のデートの当初の計画は大幅に狂ってしまったけど、
会ってくれただけでも、十分マシなことだと思う。

煮え切らない想いは、次の恋愛のためのバネにする事にしよう。

ありがちなセリフだと思うけど・・・「見てろよ、絶対幸せになってやる。」
と、糸ようじを手に、私は憎たらしくも愛しい勇人の顔を思い浮かべた。


本当の1人きりになった夜にゆっくりと包まれながら、
勇人との最後の1日を終える。


そうしてようやく 今、私のひとつの恋が終わった。

2005年05月10日

終わる瞬間

・・・3分・・・1分・・・


ゆっくりと車は最後のカーブを曲が終えると私の家の前に止まり、
静かに勇人がサイドブレーキを引く。

ああ、とうとうたどり着いてしまった。

もう、降りなければ。
でも、あともう少しだけ・・・少しだけこのまま・・・


名残惜しげに会話を引き伸ばしてはみたけど、

ぽとり、と訪れた沈黙に『別れ』が肩をたたいた。


「・・・それじゃあ。・・・元気でね」
「ん・・・」

気の利いた言葉も浮かばなくて
それ以上何も言えない。


仕方なく車から降りようと、身じろぎする。
その時、つと、視線が絡み、お互いの顔が寄せられた。


唇に、軽く触れるだけの kiss・・・。



あの花火の夜から何千回も何万回もした、ふたりのキス。
もう体が、無意識でも動作を覚えている。


そして今夜、最後の1回。


一瞬に万感の想いを込めて。






・・・バイバイ・・・






2005年05月06日

許すきっかけ

・・・10分・・・5分・・・


運転する勇人の横顔と、時計を視界の端に意識しながら
言おうか言うまいか、私は思い悩んでいる言葉があった。

『今までありがとう
勇人に出会えてよかった。』

これは本心のひとつではあったけど、
それを晒してしまうには、わだかまりが抜け切れずにいる。

他人の恋人になってしまった勇人へは、
悔しくて、結局その言葉は口には出せなかった。


勇人も後ろめたいのか、
今日は浮気のこと、彼女のことを一切しゃべろうとしない。

今回の2股が、一方的に勇人だけが、全て悪いとはいえないことだと分かっている。

浮気のきっかけや、今日の結果には、私にも非があったのだろう。
運命とか呼ばれるものや、
タイミングとかの不確定要素もあったと思う。

ただ、
修羅場の直後だったか、勇人が今回の浮気について、
「やっぱり、親父の『血』のせいなんかな」
と自嘲するように言った事がある。

この一言に対してだけは、
それは卑怯な責任転嫁だと非難したい気持ちが、今でも変わらず私の中にあった。

それでも、そんな風に逃げたくなるくらい、
勇人だって、悩んで、苦しんだのだろう。
たぶん、今この瞬間も。

もし今日、今までのことをひっくるめて、「ごめん」と一言謝られてしまったら、
小心者の私はきっと、勇人の望む許しの言葉を与えてしまう。

でも、それで勇人の気持ちを晴れさせてしまう事を
器の小さい私は甘受できなかった。

だから、私はあえて2股の話題を避けていたのかもしれない。
勇人に「許す」きっかけを与えたくなかったがために。

たとえ、私のことを愛することができなくなっても、
勇人1人だけすっきりと楽になって、すべて忘れてしまうなんて、
まだやっぱり許せないよ、ごめんね。

「ありがとう」とも、「ごめん」とも言わせない。

今その胸にある罪悪感と共に、私のことをずっと忘れないで・・・。


最後の最後でも、こんな意地を張ってしまう私がいる。

いつか、素直にありがとうと、勇人に言える日が来てほしいと
本心から思っているのに。

2005年05月02日

フタリのセカイ

Z独特の排気音が唸りを上げる。
いつも、遠くからでも聞こえてくるこの車の低音が、
勇人が迎えに来る合図のようなものだった。

低いシート。重いドア。
この車で出かけた思い出が、よみがえっては消えていく。

そしてもう2度と、この助手席に座ることはなくなるんだ。


・・・25分・・・20分・・・15分・・・


他愛のない会話をしながら、私は家に近くなっていく景色を見つめた。

信号が「赤」になるとホッとし、
「青」に変わる度に小さく落胆する。

大人ぶった穏やかな談笑の裏で、本当はとても焦っている自分がいた。

話したかったことを話せているのか、
そもそも何を話したかったのか、もう分からない。

不慣れな初めてのデートのように、
ただ必死に浮かんでくる言葉をつむいでいく。

堰を切ったように止まらない会話の、内容はまったく覚えていない。

急かされるように、楽しい話題を持ち出しては
ふたりで笑いあった。

まるで、今日別れるのが嘘のように、
暗い話には触れず、もちろん『あの彼女』の存在なんて
この世のどこにもないかのように。

しかし現実には、残りの数分間しか私たち2人の世界はない。

後ろ向きで、もろく、柔らかな会話。

でも、これでいいと思った。

じんわりと締め付けられるような胸の痛みと共に
過去の私たちに祝福を、
そして未来に幸せを心から祈る。

生きる場所は別々だけど・・・。

2005年04月27日

30minutes

「俺、しょうが焼き定食ね。」
私は食欲はあまりなかったが、仕方なく焼きうどんを頼んだ。

「結構、ここ美味いだろ?」
「・・・うん そうだね」
勇人は無邪気に、運ばれたしょうが焼きに齧り付いていたが、
焼きうどんにウマイもマズイもないよ、と私は内心愚痴る。

気分的に味気ない食事を早々に終え、長居する雰囲気でもないので店をでた。

勇人はそのまま、私を家に送り返すのが当然のことのように
私に何も確認もせずに車を発進させる。

「ねぇねぇ」
私はあきらめきれずに、未練がましく再度勇人に言い募った。

「やっぱり夜景見たいよ。どうしてもだめ?」
「ごめん無理」
勇人は無情にも即答で断りの返事を投げてよこした。

・・・ちょっとくらい、検討してくれてもいいじゃない。
すねる私になんてお構いなしに、車はどんどん私の家の方角へ向かう。

夜景も諦めるしかなさそうだ。
そう割り切ってしまうと、急に残された時間が気になりだした。

帰宅までの走行時間は約30分。
なんて短い時間なんだろう。

不貞腐れてなんかいる場合じゃない。

2005年04月25日

最後の晩餐

消沈しながらも、勇人の横顔を見る。

本当に疲れきっているようにも見えたし、
本当に私のことなど、どうでもいいと思っているようにも見えた。

気をぬけば気分がどんどん萎えていく。
くやしいくて、
さみしい。

・・・でも、湿っぽい最後なんてイヤだ。
無理やり自分を奮い立たせる。

車内に蔓延しはじめた重い雰囲気に気づかないフリをしてか、
勇人が軽い口調で話題をもとに戻そうとする。

「メシさ、いつも俺がいく店なんだけど、そこでいい?」
そういって、連れて行ってくれた店は、
オヤジが1人でやっている昔ながらの定食屋で、
いかにもサラリーマンが仕事帰りに利用しそうなところだった。

気心の知れた仲だから連れてこれる店・・・といえば聞こえがいいのだけど。
今日で、私達最後なんだよね。
そんな私の微妙な気持ちなど、勇人には分からないようだった。

2005年04月22日

もう・・・

「・・・ごめん。疲れてるんだ。」
希望は脆くも崩れ去った。

しかし、落胆よりも困惑の方が先に沸きあがる。
実は私は、勇人に断られると思っていなかったのだ。

こんなに何年も付き合ったのに、今日で最後なのに、
さっきだってずっと待っていたのに。なんで・・・っ。

自分勝手な思いだけが頭の中を駆け巡って、思わずムキになってしまう。
困らせたいわけではないのだけれど・・・。

「近場で少しでいいんだけど、どうしてもだめ?」
「ゴメン。」
「最後なのに?」
極力、腰を低く『お願い』をしてみる。

「ほんとに疲れてるんだ。」
「・・・」

そうしてまざまざと現実を思い知らされた。

フラレた私に思い通りになることなんて、ほとんどなかったんだ。

そんなこと、当たり前だったのかもしれない。
思い上がっていたのかもしれない。

でも『まだ』今日までは勇人の彼女なのだと思いたかった。
ありえないと分かっていながら。

・・・『もう』彼女でもなんでもない。
それは、せめて明日からだと思いたかった。

2005年04月19日

闇に見えるもの見えないもの

そのうちとうとう、陽が暮れてしまった。
喫茶店の最後の客になり、居心地も悪い。

もうさすがに店主に追い出されるかと心配していると、
ようやく携帯が鳴り、勇人が遅くなったことを詫びながら
仕事の終わりを告げてきた。
ほっとしながら、会計を済ます。

駐車場に止めてある車に、勇人は待っていた。
「ごめん、ごめん。ご飯でも食べに行こか」
謝る勇人に、文句も言えない。

それより、お願いがあるのだ。
「うん、あのさ、最後になんか、夜景とか見れるところ行きたいんだけど・・・」
夜景とは、我ながら陳腐だと思ったけど、
何か少しでも綺麗な思い出にしたかった。

どんな汚れた街でも、夜景はそれを隠してなお、煌びやかだ。
まるで、今の私の願いのようだと思う。

見たくないものに目を瞑って、思い出を取り繕うとしている・・・。
それでも、私にとっては切実だった。

2005年04月14日

なにやってんだろう

電話は会社からのようだ。
勇人はしばらく応対すると電話を切った。
会社に急用が出来たようだった。
用事はすぐ終わるとのことなので、
付いていくことになった。

付き合っていた昔も、土日に仕事を片付けるために
私を会社に連れて行ったことが何度かある。
その時は休日で、他の社員もいないから、私も内緒で事務所に入れてくれた。
でも、今日は営業日なので一緒には中に入れない。

会社と勇人の部屋は車で10分程度のところなので、
私は部屋で待ちたいと、意地悪を言ってやろうかとも思った。

しかし、勇人を困らせてやりたい反面、
私自身が「『彼女』の話題に触れたくない」という気持ちに逆らえなかった。

仕方なく、おとなしく1人で事務所の向かいの喫茶店で時間をつぶすことにする。

しかし、予想以上に仕事は時間がかかっている様で、
待ちぼうけの私は喫茶店の雑誌も読みつくしてしまった。
もう、陽がかなり傾いてきている。

(あたしって、こんなとこでなにやってんだかなあ・・・)と腐れて自問する。
せっかく会社を休んでまで、無駄な時間を過ごしたくないのに。
今日はケジメの日なのに。

2005年04月12日

祈り

眠ってしまったのだろうか?
起きているなら、たぶん、困っているのだろう。

もう、すがりついたりしないから、
最後だけ、今だけ、昔みたいに優しくして欲しいのに。

さっきから、ずっと同じことを願っている。
最後だから・・・。

不意に涙がこぼれた。
泣かないつもりだったのに。
勇人のYシャツを濡らさないように、少しうつむいた。
自分を叱咤して、勇人に気づかれないうちに涙を拭う。

もどかしい気持ちのまま、時間だけが無常に過ぎていった。


突然、
静寂を打ち破って、勇人の携帯が鳴った。
お互い呪縛から解かれたように、身を起こした。

2005年04月07日

触れる背中

私は出来れば最後に抱いて欲しかった。

失ってしまったぬくもりを、もう一度思い出させて欲しい。
お互い好きだったあの気持ちが、嘘じゃなかったと確認したい。
それを心に、体に、刻み付けておきたい・・・。

そっと腕を絡ませてみる。
細い腰。
そっと、物言わぬ背中に頬を寄せてみる。
触れれば暖かいのに、その見慣れた背中は冷たく感じた。

お互い、身じろぎもせず、言葉もない。
心の中で、こちらを向いてほしいと祈った。
願いは通じない。
「よりを戻そうなんていわないから、最後の思い出に抱いてほしい」
と、いっそ口にしたかった。

でも、拒否されるのが怖くて、言い出せない。

体はこんなに近いのに、心は見えないくらい遠いことを痛感する。
それでも、離れがたくて、じっと勇人の肩越しに様子を伺った。

2005年04月05日

デートの行き先

「最近どう?」「仕事がむちゃくちゃ忙しくて疲れるよ」
勇人は苦笑しているが、本当に疲れているようだった。

「で、どうする?」
本当は、どこかドライブでも行きたかったのだが、
なんだか、とてもそんな元気はなさそうだ。

出端をくじかれてしまった。
勇人の様子では、このままファミレス程度で「はい、じゃあね」となりかねない。

少し考えて、私は自分の家に勇人を誘った。
「うちで休んで行きなよ。」

平日だったのが幸いして、私の親は仕事に出かけて、家には誰もいない。
勇人は躊躇したようだったが、行くあてがあるわけでもなく、
外に居て、ヘタに人の目に留まれば彼女にバレる危険性もある。
それを考えれば、断る理由もなかったのだろう。

勇人を部屋に入れ、ベッドで体を休めるように勧めた。
背広だけを脱いで勇人がごろりと横になる。

その向けられた背中に寄り添うように私は身を寄せた。

2005年04月01日

再会と最後の1日

そうして、勇人と再会する日が来た。
いつも以上に着る服や、メイクに気合が入ってしまう。

勇人に振られたくらいで、落ちぶれてしまった女だと思われたくない。
「こんないい女を振ってしまった」と惜しがらせてやりたい。
そして純粋に、好きな人には綺麗な自分を見て欲しい、という気持ちがまだあった。

準備万端にし、今日の最後のデートをあれこれとシュミレートしてみる。
どうか、いい気分で別れられますように・・・。

約束の時間にやや遅れて、見慣れた、でも久しい車が迎えに来た。
取り合えず車に乗り込むと、いつもの懐かしい勇人の姿があった。

2005年03月31日

平日の重みと、休日の重み

その時、「もしもし?」と電話が繋がってしまった。
「あ、勇人?ひさしぶり、元気?」
「おう」
勇人はいかにも昔と変わらない調子で電話に出た。
嬉しいような、拍子抜けのような変な気持ちになる。

でも、本当は昔と変わらないわけはないのだ。
そう、間違っちゃいけない。
昔と決別しないといけないのだから。

「あのさ、やっぱり、ちゃんと別れようよ。でも、電話じゃ寂しいから、
平日でも休日でもいいから、最後に1日会ってくれない?」
と私は打診した。
勇人は快く承知したが、やはり平日を指定してきた。

彼女との貴重な休日を、いまさら私の為なんかに使えるわけないんだなと思うと、
まだチクリと心が痛んだけれど、それはどうしようもないことだった。

こんにちは
恐れ多くも
このブログの過去分まとめ読み用を作ってみました。

総まとめ その1

総まとめ その2

あらためて見ると、ハズカシ〜
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