2007年07月23日

地球の気温変動

<2013年8月11日投稿の「地球5億年の気温変動」もご覧ください>   楢 水明子(06風4-04)

 地球温暖化の問題を考える場合、まず地球の気温がこれまでにどのように変動してきたかを見ておくことが必要だろう。ここでは数億年から100年の長さまでの様々なデータを紹介する。過去の気温の測定にはいろいろな方法があり、それについても簡単な説明をしておこう。
 
1.古生代からの気温変動
 地球の歴史46億年の中で、古生代は5億4千万年前にから始まる。そのような太古の時代の気温は海面の高さから見積もられている。極地の氷が多ければ、すなわち気温が低ければ海面が低く、気温が高ければ海面も高い。海生生物と陸上生物の化石の出土を調べると過去の海岸線すなわち海面の高さを知ることができる。それをプロットとしたのが図1である。十分な数の化石が見られるようになるのはカンブリア紀以降なのでそれ以前の推定は難しい。
 左図は古生代以降の海面変動のあらましである。先カンブリア時代には地球の全凍結が何回かあったようである。スノーボールアースと呼ばれる現象である。その時代から気温が上昇してきてカンブリア紀の生物の爆発と呼ばれる現象が起きる。この時代に現在につながる多くの種類の生物が生まれた。温度上昇はオルドビス紀、シルル紀あたりが最高で、石炭紀からジュラ紀はやや低くなり今と同じくらいの気温である。白亜紀に再び上昇した後、新生代に向けて寒冷化してきた。中図はその細部の変動を示したもので、二畳紀やジュラ紀には低温の時期があったことが読み取れる。右図は6500万年前に始まる新生代の海面変動を示したものである。新生代の前半は高温期、後半は寒冷期である。
 

図1 古生代からの海面変動[1]
左図は古生代以降の海面変動の概略図、中図はその細部、右図は新生代。海面の高さからそのときの温度が推定できる。新生代の前半は高温期、後半はかなりが氷河期になる。
海水面高度

2.最近60万年の気温変動
 鮮新世は530万年前に始まる人類の時代である。ヒトがチンパンジーなどから分岐したのはDNAの分析から490万年前といわれている。現生人類は20万年ほど前にアフリカで誕生したといわれている。
 南極やグリーンランドの氷をボーリングして酸素同位元素の比率を調べると図2のような気温変動が得られる。酸素原子には原子量が16、17、18の同位体がある。原子核の中性子の数が異なるものである。このような酸素の同位体を含む水分子は重さが違うので、蒸発するとき、極地で氷になるとき割合が変化することになる。この割合はそのときの気温に左右される。このためボーリングした氷の酸素同位体の比率の測定値はそのときの気温を反映することになる。
 図2は最近の60万年の酸素同位体比率の変化を示している。過去200万年間は同様のパターンが続く。おおむね氷河の時代である。およそ10万年ごとに間氷期と呼ばれる温暖な時期が現れる。図2の赤で示したところが温暖期である。農業文明から工業文明にいたる人類の大発展は右端の最後の間氷期の出来事である。

図2 最近60万年の気温変化[2]
鮮新世の100万年はおおむね氷河期で10万年ごとに間氷期が来る。
60万年












3.最近の6万年
 図3は最後の氷河期と間氷期の気温変動を示したものでグリーンランドの氷を分析して得られたグラフである。海面高度のデータにしろ、酸素同位体比率のグラフにしろ、実際の温度変化に換算するのは難しいことのようで、多くのデータには温度が示されていない。示されているものでも文献により値に大きなぶれがある。図3は実際にグリーンランドで氷の採取と分析を行った人の著書[3]からとっているので、これを基準に考えるとこの6万年の気温変化はおよそ摂氏20度である。日本の中部地方で万年雪が見られるのは標高3000mほどの高山である。高度100mあたり0.6度の低下と考えると、低地と3000mの高山の温度差は18度になる。図3の温度差はそれとほぼ同じくらいのものと考えることができる。
 同書によるとヤンガードライアス期と呼ばれる最終氷河期の気温変動は激烈なものだったという。図3からも10度前後の錐のようなパターンが随所に見られる。上部に0とある最後の立ち上がりでは10年以内に8.3度の急激な変動があったという。著者は、ほんとうは3年と書きたかったらしい。糸魚川あたりの平地の温度が数年で白馬の山頂の気温に変わったとしたら、あるいはその反対の変動があったとしたら、そこに住む人たちの暮らしはどうなるのだろうか。図の0から6までの縦線のところでハインリッヒ事象というものが観測されている。西大西洋周辺でそれらの地層のところに大量の岩屑が見られ、カナダの氷河の大崩壊と結びつけて考えられている。その現象の直後に温暖期がくる。
 最後の間氷期は12000年前から始まる。日本でいえば縄文時代の始まりである。今から5000年ほど前の縄文中期が最も温暖で縄文海進という海面の上昇が見られる。この頃、縄文文化は最盛期を迎え、日本各地に高度な土器や漆器の文化が花開いた。世界の4大文明が栄えたのもおよそその頃である。現代につながる人類文明興隆の時代である。図3に見られるようにこの12000年は稀に見る安定した気温の時代である。

図3 最近6万年のグリーンランドの気温変動[3]
氷の酸素同位体測定から。最後の氷期ヤンガー・ドライアスは激しい変動の時代。ハインリッヒ事象というのは北大西洋で見られる岩屑層を伴う現象。カナダの氷河の大量流出と考えられている。その直後に温暖期が来る。他の図とは左右反対で左端が現在。
6万年






















4.最近の1000年
 図4は最近1000年、日本でいえば平安中期からの時代は平均を見ればゆっくりとした寒冷化である。それが20世紀初頭から急激な上昇に転じる。見ての通りである。1960年代にもう1段の急な変化が見られる。この図では21世紀末に向けて1.5〜6度の温度上昇が予想されている。

図4 最近1000年の気温変動[4]
1000年


























***補追1***
 図4はIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の3次報告でとりあげられたものであるが、ホッケースティックというあだ名が付けられ、作為またはねつ造が疑われている。米国科学アカデミーは調査の結果データ処理が不適切だと判断した。
 ホッケースティックとそれに代わるグラフを比較したのが図4-2である。ホッケースティックでは16世紀から18世紀へかけての寒冷がまったく示されていない。この時代ヨーロッパでは、テームズ河が冬に凍ったとか、グリーンランド植民の撤退などが起きている。詳しくは「気候変動とエネルギー問題」深井有(中公新書、2011)、「地球温暖化スキャンダル」S.モシャー、T.フラー(日本評論社、2010)を参照のこと。

図4-2 ホッケースティック(マンら1998)とモーベリら(2005)のグラフの比較
気候変動−ホッケースティック2




***補追1終り***


5.最近の100年
 図5は今年IPCCから発表されたデータである。赤色が気温の実測値、空色が人類活動を考慮しない場合のシミュレーションの結果、オレンジが考慮した場合の結果である。1960年代半ばから゙空色とオレンジの解離が見られ、オレンジは実測値をかなりよく再現している。シミュレーションは天気予報の計算と原理的には同じものと考えられるが詳細はわからない。このシミュレーションでは図4の20世紀初頭の転換点は再現できていない。しかし1960年代の転換点は再現している。1960年代といえば日本が高度成長期に入ったところである。この転換の要因のかなりは日本由来だろう。IPCCはこのシミュレーションにより、気温上昇が人類由来であることに科学的観点からの自信を持ったようだ。

図5 最近100年の気温シミュレーション[2]
IPCCはこのシミュレーションから温暖化が人類によるものとの結論を出した。赤色が実測値、空色が人類活動を考慮しないシミュレーション、オレンジがそれを考慮した場合。1960年代半ばから空色とオレンジの解離が見られる。
100年



























***補追2***
 21世紀に入ってから図5-2のように平均気温は低下傾向にあることが報告されている。太陽の黒点数が減り太陽活動が低下したためではないかと考えられている。詳しくは「「地球温暖化」神話」渡辺正(丸善出版、2012)を参照のこと。

図5-2 世界地上平均気温トレンド2001〜2012年(イギリス気象庁など)
神話−気温下降2
















***補追2終り***


  Newtonの温暖化特集号[2]に大阪の海抜ゼロメートル地帯の図が載っている(図6(a))。黄緑は現在の海抜ゼロメートル地帯(満潮時の平均化水面より低いところ)、空色は海面が59cm上昇した場合の海抜ゼロメートル地帯、藍色は海面が59cm上昇した場合の満潮+高潮の海面より低くなる地帯で台風被害が予想されるところである。59cmというのは21世紀末の海面上昇の大きい方の値であるが、とても上限を示す値とは考えられない。藍色の外側のラインが縄文海進の海岸に相当するのだろうか。ともかく、台風が来るたびに大阪の人々は浸水の憂き目を見ることになる。ニューオーリアンズが人ごとでなくなるのである。図6(b)は上海付近のもので赤色地帯は図6(a)の藍色に相当するところである。59cmの代わりに50cmで見積もられている。揚子江下流の赤色地帯はメガデルタ地帯と呼ばれ韓国の面積に匹敵する。この赤色地帯に何千万の人々が住んでいるのだろうか。

図6 大阪と上海の海抜ゼロメートル地帯[2]
(a)大阪付近。黄緑は現在の海抜ゼロメートル地帯(満潮時の平均水面より低いところ)、空色は海面が59cm上昇した場合の海抜ゼロメートル地帯、藍色は海面が59cm上昇した場合の満潮+高潮の海面より低くなる地帯で台風被害が予想されるところ。
(b)上海付近。赤色は海面が50cm上昇した場合の満潮+高潮の海面より低くなる地帯。
                (a)                          (b)
大阪上海



















 現在の間氷期における気温上昇の先については何があるかわからないというのが正直なところだろう。図3のように急激な上昇の先には急激な寒冷化がくるのかもしれないし、白亜紀末のような超高温期になるのかもしれない。数年前に日本が世界に誇る地球シミュレータというスーパーコンピュータを開発したが、この程度の計算機ではまだ全地球の大局的なシミュレーションを行うのは無理だろう。大気循環、海流、生物効果、宇宙とのエネルギー収支などを取り入れて未来を予測できるような計算はしばらく困難だろう。それができるようになれば、例えば温暖化ガスなどを使って地球気温の制御ができるようになる可能性も出てくる。それまでは、予測できない未来に対しては保守的になるのが賢明である。


参考文献
[1] W.J.バローズ,「気候変動」,Spriger(2003)
[2] 「地球温暖化」,Newton,8(2007)
[3] R.B.アレイ,「氷に刻まれた地球11万年の記憶−温暖化は氷河期を招く」, 
  ソニー・マガジンズ(2004)
[4] 東京大学地球惑星システム化学講座,「進化する地球惑星システム」,
  東京大学出版会(2004)

nara_suimeishi at 22:02│Comments(3)TrackBack(0)自然百科 

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この記事へのコメント

3. Posted by 千里川 三歩   2007年07月27日 17:36
括りの「予測できない未来に対しては保守的になるのが賢明である」よろしいな!
全ての数値が私の頭の構造を飛び越えた数値です。まして最先端のテクノロジーを駆使しても天気予報さえままならないのです。また京都議定書にしてもUSA&BRICs抜きで達成してもね?自然のことは自然に聞かなければと言われますが、応えてくれません。気にしないことだと結論しました。水明子さん素晴しい論文大変勉強になりました。


2. Posted by puchibu (06風4-16)   2007年07月26日 18:25
さすが水明子どの。文献を猟渉してのすばらしい論文に脱帽です。温暖化云々の喧しい議論を見聞きし、私がなんとなく不安に思い疑問に思っていた項目に、見事に答えてもらいました。結論としては、さらなる研究と技術の進歩を待たざるをえない。ということでしたが、「予測できない未来に対しては保守的になるのが賢明である」という締めの文章は、これまた簡にして要を得た文豪のような表現で、美しい日本語にほれ込んでしまいました。
次はどの範疇の論文が掲載されるか楽しみです。
1. Posted by poco a poco   2007年07月25日 16:00
 地球気温変動について、古生代からの推移を学ばせて
いただきました。ありがとうございます。
 この中にあります「地球温暖化」について、この記事を
核としまして、|狼經超(大気)のシニア講座を今年の2月に
受講したことを思い出し資料とノートを見てみました。
△修旅嶌造脳匆陲気譴泙靴IPCC第4次評価報告書(AR4)
を環境省のWebサイトでながめてみました。
B膾紊隆超H.Pで身近に出来る10の取り組みを見て
できていることを継続し、これからやることを始める
スタートとしました。
やりつづけること(例):[簔繁爾魘卜六箸錣覆き∧發と
自転車を使い、車はできるだけ使わない
ご参考Webサイト
http://www.epcc.pref.osaka.jp/ondanka/
http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th/wg1_gaiyo.pdf

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