書籍紹介:「新大陸が生んだ食物」「アジアへの道」ー南アジア、東南アジア、オセアニアへ

2018年05月13日

「出アフリカ後の展開」

<地球セミナ120-1  篠田謙一著「DNAで語る日本人起源論」第3章><風鈴士>


<はじめに>

最新のDNA解析により人類の起源が唯一アフリカにあるとし、そのアフリカをい

つどのようにして出て世界中に広がっていったかを探る。古い遺跡から出土したホ

モ・サピエンスと現代人のDNAを比較、遺伝的変異の解析によって人類がたどった

道を考察する。古代ネアンデルタール人やデニソワ人との出会いについても言及し

ている。

<出アフリカ>

中東レバント地方のスフール遺跡とカフゼー遺跡から10万年余り前のホモ・サピ

エンスの化石が出土しているが、その後5万年前までの間の遺跡は見つかってい

ない。サハラを横断するルートがその後に閉ざされてしまったため、又は先行のネ

アンデルタール人によって滅ぼされてしまったため、最初の出アフリカ集団は絶滅

してしまった可能性がある。

アフリカ人のmtDNAの全塩基配列の系統解析によって、6万年前の出アフリカ

の時期までさかのぼると、およそ40の系統が判明する。その中から出アフリカを成

し遂げたのはたった2つの系統に絞り込まれている。このことから出アフリカを成し

遂げた人の数はせいぜい数百人から数千人だったと考えられている。また、核ゲノ

ムの分析からも出アフリカを成し遂げた人類はごくわずかであったことが示俊され

ている。出アフリカの人数の少なさは、それが大きな困難を伴う、多分に偶然性の

強いものだったといえる。偶然だったとしても、この6万年前の出アフリカは、ホモ・

サピエンスの歴史の中でもっとも偉大で重要な冒険だったとしている。

近年、次世代シークエンサーが普及したことで、親子の全ゲノム配列を直接比較

して、世代あたりの突然変異率を推定することができるようになった。この方法によ

ると突然変異率は従来のものより低く算定され、今までより年代が古くなる傾向が

指摘されている。このことからホモ・サピエンスの誕生を30万年前と見積もる研究

者も出てきている。



<世界の人びと、文化を見る視点>

現在、世界に広がる60億以上の我々人類は偶然に出アフリカを果たした同じ体

格と知能を持った人たちの子孫であり、世界中の様々な文化は同じ能力を持った

人たちによって創造されたということを意味する。文化の違いは、アフリカを出た後

の環境要因や歴史的な経緯がその基礎を作り、それぞれの集団による選択と方向

性の違いによって生み出されている。多様性はその集団が何を優先したか、周りに

どのように適応したかによっている。私たちが普遍的に持っている価値観はかなり

の部分で共通していることが解る。6万年前以降の歴史が文化の多様性を生み出

し、地球上の全ての文化が「人間とは何なのか」に対する答えである。(写真1.)

写真1.ベトナムマンバック遺跡

幼くなくして亡くなり母親と埋葬された姿(わが子をいつまでもいたわる姿)
      ベトナムマンバック遺跡

日本の高等学校の教科書には、アフリカで誕生した人類が世界に拡散する経緯

についての説明がない。人類の文化や文明の発展はそもそもそれを成し遂げた

人々が何者であったかを明らかにすることが重要で、その意味から、6万年前にア

フリカから出て1万年前までに起こった人類の初期拡散の様子は教科書に取り上

げるべき重要な事柄である。

<「親戚たち」とのお遭遇>

原生人類が出アフリカを成し遂げ、世界に展開するとき、100万年以上前にアフ

リカを出て世界各地に進出した私たちの親戚にあたる人類が存在していた。ヨーロ

ッパにはネアンデルタール人が、アジアにはジャワ原人や北京原人の子孫たちが

暮らしていた。ホモ・サピエンスはこれらの「先住民」と遭遇したはずだが、果たして

その様子はどうだったのであろうか。

世界の数万人のmtDNAとy染色体DNAを調べられ、2000年の初めころまで

は現生人類と他の先行人類との交雑はなかったとされていた。しかし、2010年に

なって相次いで混血についての新しい研究結果が発表されだした。

<混血の照明>

次世代シーケンサーのメーカーである454ライフサイエンシズの創立者ジョナサ

ン・ロスバーグがネアンデルタール人のゲノム解析を古遺伝学の創始者のひとりと

されているペーボと共同で手掛けた。その結果、2010年にネアンデルタール人は

アフリカ人よりも、中国人やフランス人とSNPを共有していると発表し、出アフリカを

成し遂げた集団が中東のどこかでネアンデルタール人と交雑したことを裏付けた。

混血の程度を2〜5%と見積もり、ネアンデルタール人が単純に絶滅したのではな

いことを解き明かした。

シーケンサーとはDNAのシーケンス(配列)、つまりA(アデニン)T(チミン)、G

(グアニン)、C(シトシン)の塩基配列を調べる機器で、2003年国際ヒトゲノム計画

で使われ、人間の全DNA塩基配列を約10年がかりで解読した。2005年「454ラ

イフサイエンシズ」社は次世代型シーケンサー(NGS)を使って、従来の数十倍の速

さが実現できた。ヒトのゲノム解析には10年、30億ドルかかっていたのに対し、「4

54」を使うと2か月、100万ドルで解読できるようになった。現在、NGSはますます

正確で早く・安くできる機械が開発されており、進化の新たな事実を判明することが

できるとしている。

<デニソワ人の登場>

2010年ペーボはシベリアのデニソワ洞窟の5万〜3万年前の地層から見つか

った人骨の臼歯と指の骨のDNAを分析し、未発見のヒト族のものであるとし、デニ

ソワ人と名付けた。核ゲノムの解析でデニソワ人とネアンデルタール人の祖先が約

80万4000年前に現生人類と分岐し、その後64万年前にネアンデルタール人と

デニソワ人が分岐したことを明らかにしている。現生人類との交雑も調べられ、不

思議なことに東アジアやヨーロッパの集団との交雑は見られず、メラネシア人のゲノ

ムの4〜6%がデニソワ人固有のものと一致することが示された(図3−1)。その

後の東南アジア集団の詳細な解析で、デニソワ人のゲノムがこの地域の広範な集

団に共有されていることが解ってきた。このことよりデニソワ人がシベリアから東南

アジア一帯の広い地域に分布していたと考えられた。

図3−1交雑で広がる人類

























<交雑する人類>

現生人類と先行人類のあいだの交雑が普遍的なものであれば、我々の核ゲノム

の中に、それぞれ先行人類の遺伝子が受け継がれていることになる。世界中の人

種ごとのDNAと先行人類のDNAを詳細に分析することで交雑割合を判明できる、

現在までにネアンデルタール人、デニソワ人以外にも未知の原人が現生人類と交

雑したことも判明している(図3−2)。また、サハラ以南のアフリカ人にも未知の原

人のDNAが2%伝わっていること、ネアンデルタール人のゲノムが現代のヨーロッ

パ人、アジア人のDNAの1.5〜2.1%、さらに、メラネシア人にはデニソワ人のゲ

ノムが7.5%を占めていることなどが解っている。今後、新たな遺跡から出てくる人

骨のDNA分析が進めば、新たな交雑も解明されるであろう。

図3−2ホモ・サピエンス混血の様子



























<ゲノムからホモ・サピエンスを理解する>

ネアンデルタール人のゲノム解析の最大の目的は我々との分岐後にDNAにど

のような変化が広がったのかを特定することにあり、それが、まさに我々現生人類

を生み出したDNAの変化であり、私たちが何者であるかを示す証拠となる。2014

年デニソワ洞窟から出土したネアンデルタール人の骨から高精度のゲノム配列を

得ることができ、ヨーロッパ人及び東アジア人のゲノムと比較した研究結果が、「サ

イエンス」や「ネーチャー」誌に相次いで報告されている。報告によるとネアンデルタ

ール人との混血がホモ・サピエンス集団に有利に働いた遺伝子と不利になる遺伝

子を識別することができ、遺伝子の優劣を見分けることで、我々の本質に迫ること

が可能になってきたとしている。

<ホモ・サピエンスを決める遺伝子>

解析の結果、ネアンデルタール人からホモ・サピエンスが受け継いだ遺伝子とし

て、寒冷な土地での適応力を高める遺伝子や免疫力を高めるヒト白血球型抗原の

一部の遺伝子などが解っている。

ネアンデルタール人の失われた遺伝子の中にはX染色体上にあって精巣で発現

するものがあり、この遺伝子を受け継いだ個体は子孫を残すことが難しく、歴史の

中で排除されてきたと考えられた。このことから生殖能力の差がネアンデルタール

とホモ・サピエンスとの大きさの違いを生み、結果、ネアンデルタール人が消滅した

のではないかと考えられている。

アフリカ人以外の現代人全てがネアンデルタール人の遺伝子を1.5〜2.1%有

しており、それぞれが個々に違った遺伝子を受け継いでいる。各個人が有するネア

ンデルタール人の遺伝子を集めるとネアンデルタール人ゲノムの35〜70%を再

構築できるようで、これを利用してネアンデルタール人ゲノムを明らかにし、それぞ

れのゲノムが我々にどのような影響をもたらしているかを調べることができるとして

いる。

<ネアンデルタールゲノム解析の将来>

2012年ペーボたちはホモ・サピエンスの脳神経発達に関与する八つの遺伝子

が、現生人類ではデニソワ人やネアンデルタール人と異なっていることを見出した。

さらに、メチル化の研究では、ネアンデルタール人やデニソワ人では精神障害に関

わる遺伝子がメチル化で発現が完全に停止しているのに対し、ホモ・サピエンスで

は働いていることを突き止めた。精神障害に関わる遺伝子は有害な側面を持って

いるが、この遺伝子が働くことによってホモ・サピエンスの脳がネアンデルタール人

と比べて飛躍的な発展をしたのではないかと仮定している。今後、ネアンデルター

ル人と原生人の遺伝子の違いやメチル化の程度の違いの研究が進めば、ホモ・サ

ピエンスのもつ特性の基礎がより明らかになるとしている。

 

参考文献

「日本人の源流」  斎藤成也著 河出書房新社

「ネアンデルタール人は私たちと交配した」  スヴァンテ・ベーポ著 文芸春秋社

「次世代シーケンサー」  https://www.mrjob.jp/



belldeer66 at 10:10│Comments(0) 観察と学習 

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