原節子主演

2018年04月02日

犬が登場する成瀬−『驟雨』

戌年の2018年に因んで。
犬が登場する成瀬映画と言えば、まず『驟雨』である。
結婚4年目の原節子&佐野周二夫婦。
佐野は都心にある化粧品会社に満員電車で通うサラリーマン。胃が弱い。
子供がいない独り居の多い寂しさからなのか、原は野良犬に餌をやって可愛がっている。
驟雨2(もうだいぶ前から、野良犬は全く見かけなくなったが、私が小さかった昭和30年代には野良犬がいた。
臆病な私は野良犬が怖く、道で出くわすと、正直なところ走ってその場から逃げたかった。
しかし、そうすると追いかけられて、かえって怖い思いをするので、素知らぬ振りを装ってそっと歩いたものだった。)


その野良犬「のら」は、近隣住民の靴や帽子をどこかに持って行ったり、子供の人形をめちゃくちゃにしたり、幼稚園で飼っているニワトリを襲ったりする。
靴を片方持って行かれた重役の奥さん(中北千枝子)が、原のところにやって来る。

中北:こういう靴なんですの。確かに揃えて置いといたはずなんですけど。
お宅のノラがくわえているところをご近所のお子さんが見たとおっしゃいますから、
もし、こちらに来ておりましたらと思いまして。
驟雨1原:はぁ、早速探してみますですけれど。。。
申し訳ございません。
中北:主人が一番履きなれている靴なもんでござんすから。
誂えでしてねぇ、これは。。。
原:はぁ、どうも。
中北:(略)あの犬、鑑札受けてないんざんしょ。
原:はぁ、まだ、うちで飼ってるという訳では。。。
中北:なら、殺したらいかがですか。
原:はぁ、なんとか。。。
中北:お子様がおありにならないからお分かりにならないでしょうけど、
子供の手でも噛まれた日には、親の身になったら、あなた、
狂犬病にでもなったら、それこそ取り返しがつきませんわ。
飼うおつもりなら飼うようにね。ちゃんと手続きをお踏みになって。
迷惑のかからないようにお願いしますわ。
原:どうもあいすいません。

この時の原節子の様子がとても可笑しい。
『驟雨』の原節子は面白くて、大好きである。
そして、昭和がぎっしりつまっているこの映画も、成瀬映画マイベスト1と言えるかもしれませぬ。

会社で希望退職者を募るとの発表があり、田舎に帰って畑仕事をしようと考える佐野周二。
一方、他の同僚たちは、皆で串カツ屋をやろうと盛り上がる。
「奥さんには給仕をしてもらって」と言う話になり、「面白そうだわ」と思う原とそれが気に入らず、あくまで田舎に引っ込むことしか頭にない佐野は言い争う。
原が佐野に言い放った最後の一言が見事である。

原:人が真面目に働こうって言ってるのに。封建的だわ。
あやちゃんが怒るはずよ。
(注:あやちゃんとは原&佐野の姪。つい先日、新婚旅行先での新郎の振舞いに腹をたてて、二人の家に相談にやって来たのである。そのことが思い出されての言であろう。)
田舎に行きさえすれば、ただお米がぶる下がってるかと思ってんのよ。
胃袋が弱ると気持ちまでたるむものかしら。




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2015年09月28日

小津安二郎監督の『麦秋』(1951年)

 
成瀬の『めし』での二本柳寛が好きになれなかったので、同年に撮られた小津安二郎の『麦秋』での彼はどうであっただろうかが気になり出し、『麦秋』を再観した。
『麦秋』の二本柳寛はOKだった。

特におもしろかったのは、原節子と三宅邦子と3人でケーキを食べるところである。
三宅邦子は原節子の義理の姉。
二本柳寛はご近所に住む昔からの知り合いで、原節子の兄・笠智衆と同じ職場で働いている。医者。
二本柳は妻を亡くしていて、幼い女の子供がある。

ある夜、銀座で買ってきた高いケーキを原と三宅で食べようとしているところへ、二本柳がふらっとやって来る。
笠智衆が今晩は泊まりで帰らない、ということを伝えに来たのだが、その情報はすでに電話で本人から家族へ知らされていた。
ここは、わざわざ知らせに来てくれたというよりも、ご機嫌伺いも兼ねたざっくばらんな訪問という感じである。
風通しの良い気持ちの良い人間関係がここにはある。
二本柳が来る前にケーキを切りながら、三宅と原は高いケーキをめぐって女同士のたわいのない楽しいやりとりをする。
義理の姉と妹という関係を保ちつつもふたりは仲が良い。
三人でケーキを囲む。「お宅ではちょいちょいこんなものを召し上がるんですか?」「高いんでしょ?」と聞く二本柳に、三宅と原は面白がりながら応対する。
実に気楽で楽しい雰囲気。
そんなところへ、三宅の小学生の長男が寝ぼけ眼をこすりながら起きてきたものだから、ケーキを見られては大変!と三人が皆いっせいにテーブルの下に隠してそしらぬ風を装うのがまた愉快。

成瀬の『驟雨』(1956年)で原の夫となった佐野周二が、ここでは原の上司(専務)になっている。
佐野専務はよくわからない。
原に見合い相手を紹介するのだが、どうも、自分が原に気があり、これまでにモーションをかけたことがあるような気配がある。
結婚が決まった原が最後の挨拶に来た時に、自分が独身でもっと若かったら俺と結婚したかい?などと聞いているから、その気配は図星だったかもしれない。(この時、原と話しながら、佐野はしきりに自分の腰を右手のげんこつでポンポンと叩いている。これは一体何を意味しているのだろう?気になった。)
そして、佐野は少しばかり下ネタをかすめたりもし、気持ち悪い笑い方をするのがイカン。
例えば、原の友だち・淡島千景を相手にこんな会話を繰り広げる。

佐野:(原節子に)あるのかい?色気。
淡島:専務さんご覧になってどう?
佐野:さぁ、あるような、ないような、おかしな奴だよ。昔からあんな奴かい?
淡島:そう。
佐野:誰かに惚れたことないのかい?
淡島:さぁ、ないでしょ、あの人。学校時分、ヘップバーンが好きで、ブロマイドこんなに集めてたけど。
佐野:なんだいヘップバーンって?
淡島:アメリカの女優よ。
佐野:じゃ、女じゃないか。
淡島:そうよ。
佐野:変態か?
淡島:まさかぁ!
佐野:いやぁ、そんなとこだよ。おかしな奴だよ。少し教えてやれよ。
淡島:なあに?
佐野:いろんなこと。
淡島:いろんなことって?
佐野:おとぼけでないよ。
淡島:何さ!バカにしてるわ!
佐野:ハッハッハハハ
淡島:失礼よ、専務さん!
佐野:どういたしまして。ハッハッハハハ

ここで、佐野は原のことを「おかしな奴だ」と言っている。それは当っているのだと思う。
「おかしな奴」だから、秋田に転勤となった二本柳の家に餞別の品を届けに行き、話の流れで二本柳の母・杉村春子が家に来てくれたらどんなにいいだろうと言ったのに対して、その場で二本柳と結婚することにOKするのだ。
誰にも相談せず急に一人で結婚を決めてしまった原に、両親と兄夫婦は憤慨し、呆然とし、肩を落とす。
原いわく「だけどあたし、小母さんにそう言われた時、すーっと素直にその気持ちになれたの。何だか急に幸福になれるような気がしたの。だから、いいんだと思ったの。」
原は「おかしな奴」不思議ちゃんだ。

『麦秋』には、後の『彼岸花』(1958年)『お早よう』(1959年)の要素が入っている。
原節子が皆の心配をよそに自分で勝手に結婚を決めてしまうところは、役者や事情・経過など異なるところはありつつも『彼岸花』。
笠智衆と三宅邦子夫妻の二人の幼い男の子と、彼らがおこられて暗くなっても帰ってこない出来事は『お早よう』。

『晩春』(1949年)と『東京物語』(1953年)で原の父である笠智衆が、この『麦秋』では原の兄となっていること、そして、『東京物語』で夫婦となる笠智衆と東山千栄子が親子になっていることから、以前観た時は馴染めなかった。居心地の悪いような気が依然としてしないでもないが、今回は楽しく鑑賞した。

思わず吹き出した会話はこれ!
二本柳を秋田に見送った母・杉村春子が原の会社まで駆けつける。
昨晩の結婚の話が夢物語でないことを確認しに来たのだ。間違いなしと答えた後、
原:でも謙吉さん、何と思ってらっしゃるか…
杉村:だれ?謙吉。もう大変!あの子だって、ゆうべはよく寝てやしませんよ。夜中にまた、一緒にご飯食べちゃったの。

メモ1:
原節子が買ってきた高いケーキは、多分いちごのショートケーキ、1ホールで900円なり。6等分の一切れにすると150円。8等分でも112円。
成瀬の『娘・妻・母』(1960年)で原が買ってきた高いケーキは一切れが80円だったから、ケーキは『麦秋』の勝ち。

メモ2:
淡島千景と原節子は愉快な二人。ふたりの見事な秋田弁が聞ける。

メモ3:
紀子(原節子)には戦争で中国大陸に行き帰ってこない笠とは別の兄がいて、謙吉(二本柳)と友だちだった。窓からニコライ堂(か?)が見える喫茶店で、二人がその兄のことを話す時、原節子本人の長兄も戦争で大陸へ行き戻らなかったのだったということをありありと思い出した。

メモ4:
『麦秋』には、毎日映画コンクールにて大賞と女優演技賞(原節子)が、ブルーリボン賞では監督賞・主演女優賞(原節子)・助演女優賞(杉村春子)・助演男優賞(笠智衆)が、キネマ旬報賞では作品賞が、文部省芸術祭では芸術祭賞が与えられている。

メモ5:
成瀬映画でも脇でお馴染の宮口精二が笠智衆の友人(彼も医者)として登場。



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2015年09月14日

『めし』再観

『めし』(1951年)には成瀬巳喜男の映画にお馴染のキャストがたくさん出ていて、その中に田中春男滝花久子の名前があるのだが、以前観た時には気が付かなかった。久方ぶりに観て確認する。

田中春男は、原節子&上原謙夫婦が住む長屋の向いの住人である二号さんの旦那で株屋、

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滝花久子は、原節子のおじ・進藤英太郎の妻だった。

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原節子の従兄役で二本柳寛が出ている。(下の画像の右側、左は妹)

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彼は、『めし』と同年に撮られた小津安二郎の『麦秋』にも出ていて、原節子と結婚することになる。
『めし』でも原節子に好意を寄せていて、すきあらば気を引こうという気配を漂わせている。苦手なタイプだ。
彼は成瀬の『舞姫』(これも1951年)でも高峰三枝子を相手に、同じような役どころ、似通ったキャラで出ている。
この時は、高峰の夫・山村聡が余りにも変な奴だったので、高峰を救おうとする二本柳は嫌ではなかったが、『めし』では上原が嫌な奴ではないせいか、不快な存在に思われた。

以前、二本柳寛についてネット検索したことがある。
多分、川島雄三監督の『風船』を観て、そこに出ていた二本柳寛に興味を覚えたからだと思う。
『風船』での彼がどんなであったか、よく覚えていないが、『めし』『舞姫』のキャラとは全く異なる役どころで、なかなかいい印象を持ったのだと思う。
再度、検索すると、『風船』について書かれたブログ記事(メモ2)と「小津映画に登場する日活の悪役たち」をテーマにしたブログ記事(メモ3)にたどり着いた。
二本柳寛と言えば日活の悪役というイメージらしい。
なるほど、彼にはそちらの方が似合っているのだろう。

原節子のおじ・進藤英太郎は、上原謙を評して聞きなれない言葉を使う:神色自若
「神色(しんしょく)=心の状態のあらわれた顔色」という意味で、「神色自若:落ち着いていて顔色も変えない様子」となる。泰然自若とほぼ同じ意味といって良いかもしれない。
神色自若、最高の褒め言葉ではないだろうか。

hara_in_meshi続いて進藤英太郎は、東京の実家に行ってまだ戻らない原節子にちなんでこんなことを言う。
「いや、うちのばあさん(つまり滝花久子のこと)もな、若い時には、すぐに押入れに頭突っ込んで風呂敷包みばっかりこしらえてはりまんのや。暮れの質屋やないけど、何度出たり入ったりしたかしれまへん」
(左は同窓会で夫・上原謙との生活はどうなの?と聞かれて答える原節子。両脇くるくるの髪型が素敵。)


メモ1:原節子の従兄・二本柳寛の妹は『晩菊』の杉村春子家の女中さんだ!と思った。しかし、「映画読本成瀬巳喜男」の『めし』のページに『晩菊』の女中さんを演じた鏑木ハルナの名前は無かった。

メモ2:『風船』の森雅之が演じる主人公の名前は村上春樹

メモ3:悪役の印象がある役者として、成瀬映画でもお馴染の三島雅夫や小津映画でお馴染の菅井一郎と北竜二、『東京物語』に出ている阿部徹に大坂志郎や小沢栄太郎の名前が挙がっていた。参照したこのブログの主は、『めし』についても記していて、その記事の中で「成瀬は風景の撮影の仕方がうまい」と言っている。

メモ4:二本柳寛は、成瀬の『驟雨』『妻』などにも出ている伊豆肇とともに『やぐら太鼓』という相撲映画で力士に扮したらしい。
  



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2015年08月25日

『娘・妻・母』再観

 

先に読んだ2冊の本(『成瀬巳喜男 映画の面影』と『原節子 あるがままに生きて』)に出てきた『娘・妻・母』の原節子と仲代達矢のキスシーンが果たしてどんなものだったか、気になり、『娘・妻・母』を再び観る。
『娘・妻・母』はDVD化されており、レンタルもできるので御やすいご用である。

問題のキスシーン、(あくまで個人的感想であるが)今観ても仲代達矢が気持ち悪い!
仲代は原に3回もキスをするのだが、どれも仲代の後頭部側からの撮影で本当のところはわからないものの、中尾さなゑ(原の親友)さんのお願い通り、本当のキスはしていないように思われる。

映画は最後、原節子・森雅之・草笛光子・宝田明・団令子という5人の子供の母・三益愛子が、
1)再婚して京都に行く原と一緒に生活するか(原の希望)、
2)長男の森雅之・高峰秀子夫婦と生活するか(高峰の希望)、あるいは、
3)老人ホームに入るか(本人の考え)、
という三択から結局どれを選ぶのか、、、の結果を見ないうちに終わる。

三益愛子が、穏やかで理解があり、実によい母である。
彼女が還暦のお祝い時に着ていたちゃんちゃんこが赤ではなくだいだい色だったので、フィルムの色が結構褪せているのかもしれない。

メモ1:
レンタル用DVDの特典で観ることができる当時の予告は、「17大スターの競演!」と宣伝している。
その17大スターとは。。。
原節子(ウィ!)、高峰秀子(ウィ!)、草笛光子(ウィ)、淡路恵子(ウィ)、団令子(ウィ)、北あけみ(誰?)、中北千枝子(ウェ)、森雅之(ウィ!)、宝田明(ウィ!)、小泉博(ウィ)、太刀川寛(う〜ん)、仲代達矢(ウィ)、加東大介(ウェ)、上原謙(ウィ!)、笠智衆(ウィ)、杉村春子(ウィ!)、三益愛子(ウェ)

メモ2:
銀座で買った高いショートケーキ(一切れが大きい!)が80円。
三女の団令子が家に入れていたお金が月2500円。
それじゃあ、私は5000円ね、と出もどりの原は言う。



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2015年02月09日

古臭い感じの映画3本

昨年後半に観た昔の映画3本が、立て続けに古臭い感じのものばかりだった。

新しき土
16才の原節子とハリウッドで活躍したという早川雪洲出演の1937年の映画。
ドイツの巨匠アーノルド・ファンクと日本の伊丹万作(伊丹十三の父)による共同監督作で日本初の国際合作映画だそうである。

原節子と早川雪洲がカップルになるものと思って観ていた。
早川雪洲は背が低く、筋肉質の小太り。
顔は悪くないが、外人美人記者と原節子から慕われるもて男としてのキャスティングに首をかしげる。
観終わってわかったのだが、早川雪洲と思っていたのは、小杉勇という人で、早川雪洲は原節子の父親役の人だった。

小杉勇は「内田吐夢監督作品で強烈なヒーロー像を演じ人気のあった」人らしい。
小杉勇の立ち居振る舞いがどうにもキザで、「農業は素晴らしい!」とたんぼの泥を両手に掬って自分の顔になすりつけるのにはドン引き。

噴火する火山に登る原節子を小杉勇が追いかけるクライマックスも手に汗握るものの現実味がなく、いかにも古臭い感じがした。

『素晴らしき日曜日』
成瀬映画でお馴染みの中北千枝子主演の1947年黒澤明監督作品。
中北千枝子がまだ若くだいぶ太め。顔がまん丸で化粧が濃い。
薄いペラペラのレインコートがパンパン、ベルトで結んだウエストが太い。
一番いけないのが足元。足首が太く貧相な靴を履いている。
この中北千枝子が古臭く感じる一番の要因かもしれない。

相手役の沼崎勳は、初めて知る人だが主人公として違和感はない。
ウィキペディアによると『四つの恋の物語』の成瀬巳喜男が監督した第二話「別れも愉し」でも主演し、有名俳優となったが1953年に急逝。忘れられた俳優のひとりとなっているとある。

1週間に1度だけ二人で過ごせる日曜日の恋人たち。
沼崎勲と中北千枝子の手持金はわずか。
これで何して過ごそうかとしばらくくすぶった後、『未完成交響曲』のコンサートへ行くことにする。
コンサート会場へ雨の降る中、二人で手をつなぎ、すごい勢いで走る、
走る、走る、ところは面白い。
そして、沼崎勲の下宿でしばらくくすぶった後、また外に出て、沼崎勲が公園でブランコをこぎながら、満月を見て歌う。
♪出た出た月が まあるい まあるい まんまるい 盆のような月が♪
ずいぶん久方ぶりに耳にするむか〜しの歌。でも、これは古臭くなく愉快。

あっ、そうそう、二人で開こうと夢ふくらませる喫茶店の名前が(多分、、、)『すずらん』(もしかしたらヒヤシンス?いい匂いのする花の名前だった)というのも微笑ましい。

成瀬映画で顔見知りの中村是好と渡辺篤が出演。
渡辺篤が出てくるダンスホールの地下の場面は古臭かった。

chiba_yasuki昨年12月、京橋のフィルムセンターで観た『東京の恋人』。
原節子と三船敏郎が主演の銀座を舞台とした1952年の映画。
千葉泰樹監督特集の中の1作品だった。

原と三船が主演で銀座が舞台となれば、誰でも心惹かれるところだが、終映後、ホールから出てきた年配の男性はこう言っていた。
「ひどい映画だったね。こんな映画に原節子が出てるなんてかわいそうだ。」

この映画には主演の二大スターの他、森繁久彌、清川虹子、十朱久雄、沢村貞子、杉葉子が出演している。
千葉泰樹はこの映画の4年後、森繁久彌主演の『へそくり社長』と『続・へそくり社長』(両方とも1956年)を監督している。
その前兆(?)なのか、原・三船・杉を軸として進められるお話の脇で、森繁・清川らがへそくり社長タッチの喜劇を展開し、どうもまとまりがない。
私の右の方に座っていた男性はしきりに笑っていたが、私はその笑い声を耳にすればするほど白けていた。

この映画の古臭要素その1は、原節子のファッション。パンタロンとベレー帽がペケ。
そして、やはり、『へそくり社長』的な構成とお決まりのストーリー展開がどうも古臭い。
お決まりのストーリー展開でも面白い場合もあると思うので、失敗作なのかもしれない。

ちなみに、森繁主演の社長シリーズは『へそくり社長』が第1作と言えるようだが、千葉監督作は第2作まで。
その後は主に松林宗恵と杉江敏男による。
また、最初の2作のみ森繁の妻役が越路吹雪で、以後は久慈あさみ だそう。

千葉泰樹監督特集の上映作品の中に笠智衆主演の『サラリーマン目白三平』と『続サラリーマン目白三平』(両方とも1955年)があったが観られず。
このシリーズ後半3本は鈴木英夫監督だそうで、それこそ観てみたい。

成瀬作品の中で古臭く思われたもの:
『浦島太郎の後裔』(1946年)
『白い野獣』(1950年)
『愉しき哉人生』(1944年)
『コタンの口笛』(1959年)



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2011年08月10日

今度は愛妻家

yukisada_isao行定勲監督の『今度は愛妻家』をDVDで観る。
カメラマンの夫・豊川悦史が朝食を終え、新聞を開くと、すでに記事が切り抜かれている。
妻・薬師丸ひろ子のいつもの仕業。。。「オイ!」と妻を呼び、切り抜いた記事を出させる。
これは、成瀬の『驟雨』の引用(というのか、オマージュというのか、、、)に違いない。
成瀬生誕百年時の記念番組で、行定監督は、成瀬の『浮雲』をいいですねえ、と語っていたように思う。
『今度は愛妻家』も『驟雨』も子供のいない倦怠気味の夫婦の話である。

行定勲監督の容姿は、髪型とサングラスと顔の形が、三木聡監督、みうらじゅんと似ている。

そういえば、三木聡監督の『転々』でオダギリジョーがコインロッカーに入っていたかばんを開けると、中からたくさんのダルマが出てくるというシーンがあった。
それを見た時、川島雄三監督『とんかつ大将』で坂本武がダルマをたくさん積んだリヤカーを引いていて、それに車がぶつかって、ダルマがごろごろと地面に転がり落ちるというシーンを私は思い出したのだが。。。
この二つに引用関係はあるのだろうか。。。



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2010年12月10日

ビスタ

asagaya_jutaku昭和33年に南阿佐ヶ谷に建設された住宅公団の分譲集合住宅「阿佐ヶ谷住宅」は、理想の団地としてその世界の人々には知られていたらしい(現在、再開発計画中の模様)。
その計画に当たったのは、津端修一という人で、設計上のキーワードは「ロングビスタ(遠くの眺望)」であったという。
“そのころ、表参道に家を新築して住んだんですが、そこから窓の外に目をやると同潤会アパートの棟と棟の間から一高(現・東京大学教養学部)の時計塔がポツンと見えて、そのバックに富士山が薄く見えるんだ。それがとてもうれしくて毎日の楽しみだったから、そういうのを団地の人々にも味わってもらいたくて。”(『奇跡の団地 阿佐ヶ谷住宅』(王国社刊)より)
この一節が非常に印象的。

ロングビスタ、、、
ビスタといえば、、、『山の音』(1956年)の原節子。
映画のラスト、山村聡と新宿御苑で待ち合わせ、その時に口にする「ビスタに苦心してあって奥行きが深く見えるんですって」。
「字幕あり」で観るまでは、彼女が何と言ったのかわからなかったのだが「ビスタに苦心してあって奥行きが深く見えるんですって」と言っている。
それを受けて山村は「“ビスタ”ってなんだ?」と聞く。「見通し線って言うんですって」と原が答えて映画は終る。
なぜ、こんなところに“ビスタ”が出てくるのか不思議な気もする(多分、川端康成の原作にはない)が、ストーリーとはまったく関係のないこんな会話で終るのが何ともウマイという気もする。

『奇跡の団地 阿佐ヶ谷住宅』には、ロングビスタにからんで『山の音』は(当然)連想されていないが、若尾文子主演の『しとやかな獣』(昭和37年)と昭和52年の『男はつらいよ 寅次郎と殿様』が紹介されている。
なぜならば、この2本の映画に、東京で最初の公団賃貸団地となった青戸第一団地が映るからであり、青戸第一団地の設計に阿佐ヶ谷住宅の設計者・津端修一も携わったからである。
思いがけないところで、馴染みの映画が出てきて嬉しかった。
 



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2007年01月16日

『山の音』(1954年)

川端康成原作。
山村聰は、妻の長岡輝子、息子夫婦の上原謙&原節子と鎌倉に住んでいる。
嫁の節子は、舅、姑の両方から気に入られている。特に舅の山村は、節子に優しい気遣いをみせる。それは、息子の上原が浮気をしていて、家になかなか戻らず、節子に冷たいせいで、なおさらである。

上原は節子のことを子どもだ、と言って不満がっているが、節子と父が楽しそうに団欒しているのが、気に入らなくてひねくれてしまった、というところもあるかもしれない。臍を曲げて節子につらく当たる上原。そんな上原に心を痛め固くなり、舅の優しさを頼りにする節子。そうなると、上原は、ますます面白くなくなって、、、ということもあるかもしれない。
浮気をやめるようにとの父の忠告に、聞く耳もたぬ上原。山村が浮気相手の女性に会って話をつけようと動き始めた時に、節子がやっとできたお腹の子どもを、上原が浮気をしているからと、堕してしまう。そして、浮気相手の女性に会ってみると、彼女も妊娠中。彼女の方はといえば、絶対に生みます!と言い、それがもとで上原とは別れた、と言う。

ストーリーには”頽廃・倒錯”の気配が感じられるが、山村聰の上品で穏やかなキャラ、そして、何と言っても、その妻である長岡輝子のおおらかで開放的なキャラによって救われている(と、個人的には思う)。

長岡輝子in「山の音」

長岡輝子は『女の中にいる他人』(1966年)でも、この個性で、小林桂樹がずっとしかめっ面をしている中、風穴を開けていた。藤原釜足の女性版のよう。
この映画に藤原釜足は出ていないが、山村聰の友人役でチョッと出の十朱久雄にホッとする。山村との会話。
山村:「われ、ついに 富士に登らず 老いにけり」 どうだ。
十朱:うん、「われ、ついに 富士に登らず 老いにけり」 うーん。何かワイセツな意味か?
山村:バカ言え!
十朱:なんだ、、、まあ、富くじだからな。一生、つまらない女房を引き当てちゃって、生涯の幕を閉じるか、ねえ、君。

嵐の中、山村と上原の帰りを鎌倉の家で待つ原節子が、クラシックのピアノ曲(耳になじみのある旋律であるが、曲名知らず)のレコードをかけて、怖さを紛れさせる、というのがかわいい。

成瀬自身のコメント(1960年『キネマ旬報』12月増刊号「自作を語る」から)
川端さんの原作を読んで気に入って、どうだろうと会社に企画を出し、撮りました。川端さんの特徴がよく出た話で、シナリオも親と嫁の関係をよく出したものができました。僕好みの題材といえるでしょうね。山村聡さんの父親がよい演技をしてくれました。川端さんのお宅のあたりにロケ・ハンに行って、セットは川端さんのお宅に似せて作ったんです。



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2006年11月16日

『驟雨』(1956年)

ご近所の集会での原節子とお隣の小林桂樹原節子と化粧品の営業マンで胃弱の佐野周二は結婚4年目。子どもはない。
日曜日、新婚旅行中の香川京子が二人の家にやってくる。夫に幻滅して帰っきた、と言う。佐野は、京子の夫になり代わって弁明。節子は、京子の夫を非難しているうちに、佐野への非難になっていく。京子は「大変参考になりました」と言って帰っていく。
次の日曜日、お隣に引っ越してきた小林桂樹&根岸明美夫婦と一緒に映画を見に行く約束をした佐野。節子は他の人とは出かけたくない、と言い出し、佐野はお隣の奥さん・明美と出かけて行く。買い物に出た節子は、物売りの人だかりの中でお財布を取られてしまう。
翌日、佐野の会社では、リストラのため希望退職者を募る、との発表がある。佐野は希望退職して田舎に戻ろう、と考える。一方、加東大介ら同僚3人は、佐野を含めた4人の退職金を合わせて、串かつ屋を共同経営しよう、という計画を持ってくる。しかし、節子が給仕をして働く、というのが、何と言っても気に入らない佐野は、面白そうだわ、と思った節子と、またまた意見が合わず、大喧嘩。
翌朝、子どもたちが遊んでいた紙風船が庭に飛んできた。佐野は、返そうとして紙風船を放り投げたが、うまく飛ばず、いつのまにか、むきになって節子に紙風船を投げ返しているのだった。

『映画読本 成瀬巳喜男』の解説:劇作家岸田国士が大正末期に発表した一幕物戯曲群を、水木洋子が綴り合わせて一篇のシナリオに構成した。『驟雨』『紙風船』『ぶらんこ』『屋上庭園』『隣の花』『こゝに弟あり』『かんしゃく玉』『村一番の栗の木』『犬は鎖につなぐべからず』などが織り込まれ、(中略)安サラリーマンの“夫婦もの”として筋を通している。小市民生活のエピソード集の観を呈し、過去の“夫婦もの”の如き執拗な粘着力を持たず、夫婦の危機はエピソードの上を浮遊、、、(中略)同時代の評はさほど芳しいものではなかったが、隣家の存在が下町的通行に代る風通しのよい空間となって、成瀬にとっても観客にとっても、憩いの場となった。

私が初めて観た成瀬の映画が、この『驟雨』と『流れる』であり、「過去の“夫婦もの”の如き執拗な粘着力を持たず」、「隣家の存在が下町的通行に代る風通しのよい空間となって」いたために、まさに私の心の「憩いの場となった」。
呼び出しの電話、そば屋の出前、ざあます言葉、野良犬、自転車の豆腐屋、紙風船など、昭和の懐かしモノ満載。

何といっても原節子が面白い。
餌をやって可愛がっていた野良犬のノラが、靴をくわえてどこかへやったり、鶏を殺したりして、苦情が出る。そこでお隣ご近所の集会が開かれる。野良犬をどうするかが、一番の案件であったのが、みなが鳥や子供や肥しのことなどを言い出す。
小林桂樹も負けずに発言。「うちの家内の洋装をですね、人差し指に帽子をかぶせたようだ、なんて言われた方、どなたでしょうか?家内がそれを非常に気にいたしまして、今夜も僕が出るはめになったんですが。」
続いて原節子。「あのー、私も、道で会っても先にお辞儀をしないって、おっしゃるそうですけど、いつも考えごとをして下を向いて歩く癖だもんですから。」

以前から気になっている村上冬樹。この『驟雨』にも、今年(2006年)の東京国際映画祭で観た市川箟監督の『足にさわった女』にも、出演しているのだが、気をつけて観たにもかかわらず未だに特定できず。
メモ:塩沢ときがちらりと出ているが、この人!と言われても、にわかには信じられない。(佐野周二が原節子と待ち合わせたデパートの屋上で、偶然に出会った男友達の細君役)



naruse2005 at 11:31|Permalinkclip!

2006年03月07日

『娘・妻・母』(1960年、カラー)

三益愛子を母に、長男夫婦・森雅之&高峰秀子、長女・原節子、次男夫婦・宝田明&淡路恵子、次女夫婦・草笛光子&小泉博、三女・団令子の家族。
杉村春子が草笛の姑、そして、上原謙、笠智衆、加東大介が顔を出すという、豪華キャスティング。

気配で原節子に迫る仲代達也原節子は日本橋の老舗に嫁いだが、そこになじめないまま、夫がバスの事故で亡くなり、母・兄夫婦・妹の令子が暮す実家に戻ってくる。勤めに出るか、再婚するか。
これが全財産という夫の保険金百万があることが知れると、兄の森、そして妹の草笛から貸してほしいと頼まれる。ここは『稲妻』の光子を想起させる。

次男の宝田、三女・玲子と遊ぶうち、節子はワインを作っている仲代達也と知り合い、楽しい時を過ごす。年下で独身の仲代は節子に惹かれる。この仲代がいけない。どうも好きになれない。顔と低い声が苦手である。宝田のアパートで、二人きり、仲代が節子に気配で迫ってゆくシーンは、だから、なおさら、こわい、見ていられない。

会社勤めなどとても出来ない節子に、女友達が京都に住む上原謙との縁談を持ってくる。
もう、結婚はこりごり、と言っていた節子であるが、そして、仲代とそれなりに付き合っていた節子であるが、実家の家を売らなければならないことになり、再婚することにする。ここらへんが、大人というか、結構したたかである。

意地悪なお母さんという印象があった三益愛子は、成瀬の映画ではいい人である。ここでも、子供たちが、自分の世話を互いに押し付けあう様を見て、ただ静かに悲しむ。『夜の流れ』で見せた、おばあさんを表す、あの仕草は全くない。
子供たちが親の世話を押し付けあう、と言えば、小津の『東京物語』を思い出すではないか。そこで、原節子が優しさを見せるところも似ている、といえば似ている。

ラスト、散歩がてらの買い物途中の公園で、1日70円で人の子の子守をする笠智衆の姿を見て、三益愛子は一体何を思ったのだろうか。



naruse2005 at 13:02|Permalinkclip!

2005年11月08日

『めし』(1951年)

初之輔と三千代結婚5年目、大阪に来て3年目、倦怠期の初之輔(上原謙)と三千代(原節子)。
初之輔の姪・里子(島崎雪子)が東京から家出して来る。
里子が何とはなしに初之輔に色目を使い、初之輔も彼女に対して優しいので、毎日の生活に疲れていた三千代は、本当に嫌になって東京の実家に帰ってしまう。
東京出張のついでに会いに来た初之輔を避けるように町に出た三千代は、通りで銭湯帰りの夫に出くわしてしまう。
その足で近くの店でビールを飲む二人。
初之輔が三千代にビールを注ぐ。
三千代(一口飲んで):にがい。(間) あなた、私がすぐ戻って来るとお思いになって?
初之輔:ああ、だから手紙書かなかった。
三千代:私ね、あなたに手紙書いたのよ。でも、出さなかった。(間) 私ね、東京に来て二千五百円も使っちゃった。
『山の音』では、原節子に冷酷な夫、上原謙であるが、ここではひょうひょうといい感じ。

里子里子(島崎雪子)が、また家出して、今度は三千代の実家にやって来る。
三千代の義理の弟、信三(小林佳樹)はハッキリもの申して気持ちいい。
「感情をべたつかせて人に迷惑をかけるのは嫌いだな」
「泊まるんなら、布団は自分で敷きなさい!おかあさんも、昼間働いて疲れているんだ!」
そう言われても、少しもへこまない里子。困った娘だ。

『驟雨』の原節子「 里子が来たから、皆で観光バスにでも乗ろう」と初之輔が切符を3枚買ったのに、当日になって「行かない」と言う三千代。この皆と一緒に楽しめない性格は、佐野周二と夫婦になった『驟雨』の原節子と同じだ!

みなが選ぶ成瀬映画ベストテン入りにて、DVDあり。
『稲妻』『あにいもうと』(二つとも大映作品)で主人公の母親となった浦辺粂子が大阪長家のお隣さんとして登場。




naruse2005 at 12:19|Permalinkclip!