Michel Portal / Bailador

Michel Portal(B-Cl, Ts, Ss)
Ambrose Akinmusire(Tp)
Bojan Z(P, Key)
Lionel Loueke(G)1, 2, 3, 4
Scott Colley(B)
Jack DeJohnette(Ds)
Rec. March 2010, NY
(Universal Music France 2753766)

決して嫌いではないけれど全面的には共感できないミッシェル・ポルタル。「ミネアポリス」の面々に加えて、トニー・マラビー、フランソワ・ムタン、アイアート・モレイラといったゲスト陣も参加していた前作「Michel Portal/Birdwatcher(08年、別頁あり)」から、本作はメンバーがガラリと変わっているのだが、大好きなスコット・コリーとジャック・ディジョネットがリズム隊なので、ポルタルがどうであれ非常にそそられる。
他のメンバーのアンブローズ・アーキンムシーレイは、最近メキメキと頭角を現してきたトランペッター。近作では「Walter Smith III/Live in Paris」「同/III」「Linda Oh Trio/Entry」(各別頁あり)でのプレイが素晴らしかった。リオーネル・ルエケはハービー・ハンコックの秘蔵っ子としてデビューしたギタリスト。以前は嫌いだったけど、ここ1~2年はグーンと好感度が増している。新作の「Lionel Loueke/Mwaliko(10年、別頁あり)」もなかなか良かったね。ピアニストのボヤンZ(ボヤン・ズルフィカルパシッチ、セルビア系フランス人)だけは馴染みが薄いのだが、ポルタルとはこれまでにも「Michel Portal/ Dockings(00年)」で共演している他に、リーダー作も何枚かリリースされているよう。本作はそのボヤンZがプロデュースを担当。また楽曲のアレンジもポルタルと共同で行っている。

ポルタル曲が6曲、ディジョネット曲が1曲、その他1曲で全8曲。
アンサンブル重視の演奏で、決してポルタルの一人舞台にはなっていないので、変に身構えることなく楽しめる。1曲目からディジョネットが大活躍しているので、早くもそのサウンドに引き込まれるね。一応ポルタルとアーキンムシーレイの2管編成ではあるけれど、16ビート基調の曲がメインとなっているので(中盤からはフリー的な曲や4ビート曲もあり)、一般的にイメージするようなハードバップ臭は皆無。まあ一癖も二癖もあるポルタルのことなので当然の話だけどね。そのサウンドは「ミネアポリス」とも共通しているのかもしれないが(聴き込んでいないのでよく分からない)、コリーとディジョネットがリズム隊ということで、さらにリズム面が強化されているような気がする。また曲によって楽器を替えながら最高のパフォーマンスを見せているポルタルに、真っ向勝負を挑んでいるアーキンムシーレイも大したもの。そのプレイはポルタル以上にインパクトがあって、なんかこれまでのどのアルバムよりも輝いているような印象を受けるね。そんなフロントの2人に決して負けていないのがボヤンZで、バッキングにおいてもアドリブにおいてもハンコック的なものに独自の個性を加味しながらのプレイが滅茶苦茶カッコいい。フリー部分でのアプローチもなかなかのもので、ボヤンZを聴くのは今回が初めてだけど、もう一発で気に入った。3曲目にはどことなく民族音楽臭を感じるのだが、それはもしかすると彼のカラーなのかな。一見スパニッシュ音階に聴こえる5曲目もそうなのかもしれない。4曲のみ参加のルエケは、他のメンバーとは違い曲中では一切アドリブを取っていないけど、それでも4曲目のポルタルとのデュオ曲では、自分の持ち味を醸し出しながらなかなかいい雰囲気で聴かせてくれる。彼の場合はあまり出しゃばりすぎると一人だけ浮いてしまう傾向があるので、役割としてはこれで充分だろう。そしてなんといってもコリーの重量感がありながらもフットワークの軽い、場面に応じながら敏感に反応しているベースと、キースのスタンダーズ・トリオのときとは比較にならないほどアグレッシブに叩きまくっているディジョネットのドラミングが素晴らしい。特にディジョネットは当たり前な4ビートはもちろんとして、フリージャズからファンクまで何でもありの人なので、ポルタルの音楽性にも最高にマッチしているね。この2人がリズム隊でなければ、おそらくこんなに魅力的なサウンドには仕上がっていなかっただろう。
演奏はどの曲も甲乙つけがたいほどに素晴らしいし(その中でもディジョネットがドラムソロを取っている4ビート~フリー基調の7曲目が最高に気に入った)、録音も各楽器が鮮明に録れていながら煩さは全く感じないのだから大したものだ。これまでのポルタルにはどことなく違和感を感じていただけに、私の好みにピッタリとフィットしている本作には大感激。これはもう文句なしの5つ星だね。

評価☆☆☆☆☆ (☆最悪!、☆☆悪い、☆☆☆普通、☆☆☆☆良い、☆☆☆☆☆最高!)